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第371回:メモリ記録の正統派CXシリーズ新モデル「HDR-CX12」
~ 解像度アップに顔検出、色々新しい今度のCX ~



■ あのCXがリニューアル

 今年4月に発売された「HDR-TG1」のインパクトが大きかったせいか、ソニーのメモリ型ハイビジョンカムコーダと言えば、あの形であの操作形態というイメージが強い。しかしよく考えてみれば、「ソニーもついにメモリ記録へ!」として颯爽とデビューしたのは、ほぼ1年前に登場した「HDR-CX7」であった。

 メディアはメモリのみというシンプルな構成で、Panasonicへの対抗という見方もあったが、その後キヤノンもメモリに参入するなどして、情勢は一気にメモリに傾いていった。そんな中、一年ぶりにこの夏商戦で登場したのが、CX7の後継モデルとなる「HDR-CX12」(以下CX12)だ。実はソニーのメモリ記録の正当継承者は、TG1ではなくCXシリーズであったのだと思い直した次第である。

 CX7登場時のコンセプトは、ファミリーユースというよりもかっこいいモノが欲しいという人に向けた製品であり、機能・スペックよりもその軽快さに重きが置かれていた。しかしカムコーダもこの1年で大幅に技術革新が進み、特に機能を絞らなくても小型化には支障がない程度になってきた。

 そんな中、メモリ記録のスタンダードCXシリーズは、どのような進化を遂げたのだろうか。早速試してみよう。


■ デザインはほぼ同じだが細かい改善点が

サイズは同じだが、コンパクトな感じはしなくなった

 前作のCX7は黒だったが、今回のCX12はシルバーを基調としている。サイズ的にはCX7と変わらないはずだが、色の関係でCX12は若干大きく見える。ただシルバーになったことで、「とんがった」印象が薄まり、スタンダードモデルという雰囲気を感じさせる。メモリはもはやスペシャルではないというメッセージだろうか。キヤノンがシルバーから黒に移行したのと逆なのは、それぞれの思惑が感じられて興味深い。

 では細かくスペックを見ていこう。まず光学系だが、レンズはF1.8~3.1の光学12倍ズームレンズで、CX7の10倍からやや寄れるようになった。画角は16:9の35mm換算で40~480mm、4:3静止画で37~444mmと、ワイド端はそのままでテレ端が延びた。フィルタ径は37mmで、最近のハイビジョンカムコーダにはよくある径となっている。

 撮像素子は1/3.13型クリアビッドCMOSセンサーで、総画素数は566万画素。CX7より若干小さくなり、画素数が増えている。動画撮影時の有効画素数は381万画素で、静止画は画素補間により最高1,020万画素相当の3,680×2,760ドット。スペックからすると、レンズから撮像素子は春モデル「HDR-SR12」に搭載されたものと同等だ。

 今回は前面にマニュアルダイヤルを装備した。操作性は以前から搭載されているものと同じで、センターボタンの長押しで機能割り当て、ダイヤルでパラメータ操作だ。これがあるとオートで行けない部分の操作性が良くなるので、自分で設定をいじれる人にはありがたい追加だ。


光学系はHDR-SR12と同スペック 新たにマニュアルダイヤルを装備

 記録メディアは、CX7は付属していなかったが、CX12はメモリースティックPRO Duoの8GBが付属する。録画モードは、15MbpsのXPモードがなくなり、代わりに16MbpsのFHモードになっている。解像度はFHモードのみ1,920×1,080で、それ以外は1,440×1,080。このあたりもSR12と同スペックだ。


動画サンプル
モード ビットレート 動画記録時間 サンプル
HD画質
FH 16Mbps 約55分
ez_fh.m2ts (22.5MB)
HQ 9Mbps 約1時間55分
ez_hq.m2ts (18.3MB)
SP 7Mbps 約2時間20分
ez_sp.m2ts (13.7MB)
LP 5Mbps 約3時間
ez_lp.m2ts (9.75MB)
SD画質
HQ 9Mbps 約1時間55分
ez_shq.mpg (13.6MB)
SP 6Mbps 約2時間50分
ez_ssp.mpg (10.0MB)
LP 3Mbps 約5時間25分
ez_slp.mpg (5.75MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

ボタン類は若干コストダウン?

 液晶脇のボタンは、数や形は同じだが、金属から樹脂製になっている。液晶内側のボタン類もほぼ同じだが、EASYボタンはLEDではなく、塗装で中心がブルーに塗られている。目立たないところでコストダウンしたのかもしれない。

 一方改善点としては、背面の端子カバーが単なるゴムラバーがブラブラするタイプから、ヒンジで開くタイプになった。下の電源端子も同じだ。接続のしやすさを考えたら、こちらのほうが断然いい。また上部のアクセサリーシューのカバーも、スライドして本体内に格納される。全体的にかなりしっかりした作りだ。


ヒンジが付いた端子カバー アクセサリーシューのカバーもスライドする

 またハードウェア的な新機能として、背面にQUICK ONボタンが付けられた。これを押すことで省電力のスタンバイモードになり、もう一度押すと復帰する。

 TG1では液晶の開閉でスタンバイモードに移行したが、CX12では液晶の開閉は無関係だ。したがってスタンバイからの復帰も、液晶を開くだけではダメで、改めてQUICKボタンを押さなければらならない。この操作性ではおそらく、QUICKボタンの存在は忘れ去られるだろう。ビューファインダがない以上、やはり普通の人には液晶の開閉と連動した方が使いやすいように思う。

 また本機にも、クレードルも付属する。HDMI端子はないが、電源、USB、アナログAVの接続が可能だ。


スタンバイモードに移行するQUICK ONボタン 標準でクレードルが付属



■ 人物に強い動画撮影

動画サンプル

sample.mpg (386MB)

room.mpg (121MB)
屋外撮影サンプル 室内サンプル
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2 50Mbpsで出力しました。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ではさっそく撮影してみよう。最近の関東地方は梅雨上げしたというのに天候不順で、この日も晴れていたかと思ったら夕暮れを思わせるほどの厚い雲が立ちこめ、時には雨もパラつくという過酷な天候であった。先週のキヤノンHF11よりも、さらに条件が悪い。

 CXシリーズとして見れば、1年ぶりの刷新でスペックはアップしているが、光学系や撮像素子などは基本的にSR12と同じである。基本的な絵の方向性は同じであると考えられる。ホワイトバランスはオートでも非常にニュートラルで、発色に無理がない。

 CX7の時代は、やや明るめに撮れすぎて白が飛び気味の傾向があったが、この春モデル以降その傾向はなくなっている。一カ所「おや?」と思うシーンがあったので、少し絞ったものも撮ってみたが、単に液晶モニタ上ではディテールが見えなかっただけで、自宅のテレビではちゃんとディテールが出ていた。

 フォーカスに関しては相変わらず、自然画では狙いを外すことも多い。だがマニュアルリングが付いたことや液晶モニタの解像感が高いことで、特にフォーカスアシストなどなくてもマニュアルフォーカスを使うことができた。タッチスクリーンながら、液晶の解像感と発色は今のところ一番だろう。

 解像感は、今の時代からすれば全体的に低調だ。まあ今回は光量が少なかったこともあって、常時こんな具合と判断するのは早計かもしれない。ただ低照度時にはこれぐらいの解像感になるということは、一つの情報である。


曇天でホワイトバランスはオートだが、ナチュラルな色味 モニタ上では飛んで見えたが、実際にはちゃんと写っていた 遠景の解像感はやや低調

 圧縮に関しては、背景のボケの部分に雨のような圧縮ノイズを感じるところがあった。ボケ部分に分配されるビットレートは、もう少し見直した方がいいかもしれない。

オレンジ方向はx.v.Colorといえど、もう一歩

 今回はx.v.Color ONで撮影しているが、それでもキバナコスモスの強烈なオレンジ色は、飽和して上手く撮れていない。RGB純色以外の方面に色域を延ばすのは結構難しい話なのだが、ソニーのリードでそういうところも少しずつ改善を期待したいところだ。

 顔認識に関しては、SR12でも搭載されていたが、今回はモデルさんを使って撮影実験することができた。写真ではなく動画での顔認識は、撮る瞬間ではなく、ずっとフォローしなければならない点で難しさがある。

 顔認識も初期の頃は、ちょっと口が隠れただけで認識が外れたりしたものだが、CX12では顔の半分ぐらいが隠れても認識する。横顔もかなり認識精度が上がっており、人物の撮影には相当強い。

 ただ顔認識のフレームは、液晶モニタを対面にしたときには表示されない。まあなんらかの理由があって表示しないのだろうが、ユーザーが自分で認知精度を実験してみるということができない。



ez_face.m2ts (11.5MB)

顔認識されたのち補正されてゆく過程がわかる
再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

これぐらい顔が隠れても認識する



■ 静止画も機能強化

 静止画機能としては、デジカメでおなじみのスマイルシャッターが搭載された。顔認識の延長線上にある機能で、笑顔を自動認識して写真を撮る機能である。

 設定としては、「動画録画中のみ」、「常時」、「切」がある。また検出感度として、「高」、「中」、「低」の3段階がある。笑顔認識では、口が開いているかどうかが重要な要素であるらしく、「高」では笑顔ではなくても歯が見えればシャッターが切れるほどだ。


動作モードとしては「録画中」か「常時」のみ 検出感度は3段階 子供か大人かを優先できる

 したがって「常時」にしておくと、被写体が笑顔の場合は際限なく写真が撮られてしまうので、普通は「動画録画中のみ」に設定するべきだろう。しかしそれでは、静止画モードにしたときに全く働かなくなる。この設定は動画・静止画モード共通だが、それぞれ個別に設定できた方が便利だったろう。


感度低ではこれぐらいでシャッターが降りる 感度中でこれぐらい 感度高でこれぐらい。笑顔判定とフォーカス追従は別なのが難点か

 静止画に関しては、動画同時撮影の静止画も460万画素から760万画素にアップした。しかしそれだけ大きな映像を動画と同時に同じメディアに保存するわけだから、動画撮影を止めてもしばらく同時撮影静止画の記録が完了するまで待たされるという現象が起きる。

 CX7の時も待たされたが、1年経ってプロセッサ処理速度もそれなりに上がっているはずだ。しかし同時に書き込みファイルサイズも大きくなって、結局同じような使い勝手に均衡したということだろう。

 静止画の書き込みが終わらないと何が不便かというと、その間静止画モードに切り替えることができないのである。動画を止めたあと、高解像度の静止画も撮っておく、というのは良くあることだと思うのだが、それが現時点ではレスポンスが悪い。もっとも動画撮影中には静止画を撮らないという方法もあるのだが、それはそれで本末転倒であろう。

 静止画撮影では、キヤノン機のように絞りの調整ができないので成り行きに任せるしかないが、今回のような曇天ではうまく絞りが開いて、綺麗なボケができた。特にテレマクロでは、先週のキヤノン機と遜色ない雰囲気の絵になっている。多少乱暴だが、晴天時には1/8~1/16ぐらいのNDフィルタを付けて撮影するぐらいでちょうどいいかもしれない。


テレマクロでは雰囲気のある静止画が撮れる ボケがもう少し綺麗なら言うことない



■ 総論

 ソニーの顔認識技術は、付属の映像管理ソフト「Picture Motion Browser」にも組み込まれている。あいにく今回はソフトウェアをお借りすることができなかったが、画像を分析して類似画像を抽出できるようだ。

 デジタルデータを分析して類似性を見つけるという技術は、ソニーのPC「VAIO」シリーズにも組み込まれている。これからは時系列でフォルダごとに分類したり、あるいはメディアごとにフォルダを分けるといったこと、あるいはどのマシン、どのHDDに入っているのかといったことも、重要ではなくなるのかもしれない。

 さてそれはそれとして今回のCX12だが、CX7が持っていた先鋭的な位置づけをTG1に譲り、メモリのみのモデルも一般的なハンディカムのラインナップに降ろしてきたという印象を持った。マニュアルリングも搭載し、オートで少し足りない部分を適宜補正できるのは便利だ。

 顔認識に関しては、人物撮りには威力を発揮する。だがそれはCX12だからというわけではなく、この春モデル以降のソニーハンディカム全体に言えることだ。違うのはメディアとサイズと値段だけ、という状況はわかりやすくもあるが、コンパクトデジカメが市場崩壊を起こした状況に似ている。

 顔認識は面白い技術だが、それに依存しすぎると、カメラとしての本質が見えなくなってしまう。そのあたりは、求める側もきちんと機能の意味を把握しておく必要があるだろう。

 1,920×1,080のいわゆるフルHDが最高画質しかないのは、それ以下のモードではビットレートと画質全体のバランスを考えると、無理にフルHDにする必要はないという現実的な判断だろう。キヤノンはそこを上に逃げていったわけだが、ソニーは次のモデルで高画質モードをどう料理していくのだろうか。

 今コンシューマエレクトロニクスは、リソースを節約する時代ではない。むしろニセハイビジョンではなく、本当のハイビジョンの実力ってなに? ということを求めている。BRAVIAやBlu-rayはそれが功を奏してきたわけだが、カムコーダでもその答えを出せるだろうか。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200806/08-0619/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/PRODUCTS/HDR-CX12/index.html
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(2008年7月30日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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