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早いもので2011年7月24日の地上デジタル完全移行まで3年を切り、10月27日にはちょうど1,000日前となる。単体チューナの価格も下がり、1万円台も珍しくなくなってきたが、薄型大画面テレビの値段も下がっているので「チューナが安くなるのを待っていたけど、思わずテレビごと買っちゃった」という人も多いだろう。今年の年末商戦は価格面で今まで以上に期待できそうなので、そんな人はさらに増えるかもしれない。 しかし、新しいテレビを買ったからといって、捨てたり売ったりしない限り、古いテレビが無くなるわけではない。家に複数台テレビがある家庭だって珍しくない。リビングに薄型大画面テレビを入れてデジタル放送を楽しんでいるが、個人部屋のテレビはアナログCRTのままという家も多いだろう。全部小型の液晶テレビに入れ替えればスッキリするだろうが、そうそう何台もテレビを買うのは大変だし、なによりまだ映るのに勿体ない。 そこで単体デジタルチューナの出番。私の家も似たような状況なのだが、これがなかななおっくうで、重い腰が上がらない。理由を考えてみると、価格の問題と言うより“買っても利点が少ない”ことが挙げられる。例え導入しても、見られる放送内容はアナログ時代と同じだし、画質は向上するかもしれないが、小さなブラウン管ではハイビジョンの恩恵はあまり受けられないだろう。 3波チューナの場合はBS/CSデジタル放送も受信できるようになるという利点もあるが、各部屋にBS/CSの信号が行き渡っていなければ意味がない。EPGやデータ放送は便利だが、小さな画面では見づらいという問題もある。こうしたことを考えると、「いつかは使わなくなるブラウン管の延命」という“現状維持”への投資に、あまり魅力を感じなくなるわけだ。
そんな中、「これならば!」と思わせてくれる魅力を持ったチューナがバッファローから発売された。3波対応チューナ「LT-H90DTV」だ。一見するとHDMI端子を備えた普通の3波対応チューナだが、最大の特徴は同社のネットワークプレーヤー「LinkTheater」の「LT-H90」シリーズの機能を内蔵していること。つまり、古いブラウン管テレビが、DLNAサーバーや、PCの共有フォルダに保存した動画/音楽/静止画ファイルをネットワーク経由で再生するネットワークプレーヤーとしても利用できるようになるのだ。 価格は27,720円と1万円台の低価格モデルと比べると割高だが、「LinkTheater」の有線LANモデル「LT-H90LAN」が21,000円であることを考えれば、プラス約6,000円でチューナ機能が使えるので格安とも言える。
さらに、今後のアップデートにより地上デジタル放送の録画機能も追加予定。HDDは搭載していないのだが、USB端子を備えており、接続したUSB HDDの中に録画できるという。将来的にはNASへの録画も検討しているというから注目度が高い。古いテレビが一気に最新テレビの機能に追いつく。“現状維持への投資”から“最新機能への投資”への切り替えとなるか? さっそくその使い勝手を試してみよう。
■ アップデートするたび高速化
基本は地上/BS/110度CSデジタルチューナを各1基搭載した単体チューナ。外形寸法は210×215×55mm(幅×奥行き×高さ)と小型で、BDレコーダなどと比べると横幅は半分程度。重量は1.25kg。 黒を基調としたシンプルなデザインで、フロントパネルを開けると右側にUSB端子、中央にB-CASカードスロット、イヤフォン端子などを備えている。インジケーターに「PLAY/REC」の文字があり、将来的に録画機能を実装した時の事も考えられている。
裏側にはHDMI、D4、コンポジット出力端子を各1系統。音声は光デジタルとアナログ音声(RCA)を各1系統備えている。D4とHDMIを両方備えているのは嬉しいポイントだが、S端子が無いのは残念だ。そのほかには、背面にもUSB端子があり、Ethernetも1系統用意している。
付属のリモコンはBDレコーダなどを彷彿とさせるデザインで、データ放送用ボタンやEPGボタンを中央に、上部にチャンネルボタンを、下部にメディアプレーヤーとしての再生/停止ボタンなどを配置している。メーカーに合わせたコードを選ぶことで、接続した他社製テレビのチャンネル/音量/電源/入力切り替えといった基本操作がこのリモコンから可能。中央にあるチャンネルや音量ボタンは、チューナ側の同機能を操作するためのものだ。
単体チューナの特性上、テレビ側の入力切り替え機能を良く利用することになるが、全入力が順繰りに変わる「入力切り替え」ボタンだけでなく、「コンポーネント/D端子」や「HDMI」の入力に直接切り替えるためのボタンも欲しいところだ。チューナとしての機能はデータ放送やEPG表示、字幕表示に対応。EPGは1週間分の表示をサポートしている。
【お詫びと訂正/2008年10月25日記載】
まずは36インチのCRTテレビにD4端子で接続。チューナとしての使い勝手を見てみよう。起動して出画するまでの所要時間は約6秒と高速。だが、チャンネル切り替えの所要時間も地上波とBS/CSデジタルの両方で6秒弱かかる。最新の薄型テレビと比較すると遅く、使っていて若干ストレスがたまる。 だが、この製品は発売後から頻繁にファームウェアのアップデートが行なわれており、この秒数はバージョン「DTV_1.12_20081001_1944」の時のもの。後日「20081008_1416」にアップデートすると、地上波で5秒、BS/CSデジタルでは4秒強に高速化した。22日に公開された「20081008_1416_1」では変化がなかったが、この調子でどんどんファームアップを期待したいところだ。
また、面白い機能としてLinkStationのPC連動電源機能に対応している。NASのLinkStationには、PCの電源ON/OFFに合わせて、LinkStation自身の電源をON/OFFする機能があるが、この環境においてPCと同じような役割をする。つまり、PCやLinkStationが存在するネットワークに「LT-H90DTV」を接続し、PCと「LT-H90DTV」の両方を電源OFFにすると、LinkStationの電源も自動的にOFFになるといった感じだ。 CRTで確認すると画質はナチュラルだと感じるが、液晶テレビにHDMIで繋げてみると若干白浮きを感じる。BDレコーダ(DIGA DMR-BW200)の内蔵チューナと比べると解像感は高いが、サッカー番組などを見ると選手の輪郭や観客席などで、若干ギラついた描写と感じる部分もあった。画質調整項目は無いが、ズーム表示機能を用意。D1/D2映像表示時に、4:3テレビにワイド映像を表示して上下に黒帯が出る場合に左右を切って全画面表示するなどの使い方が可能だ。
データ放送のレスポンスは早く、EPG表示も高速。ただ、データ/EPG表示時にズームアップ機能は使えない。小型画面テレビと接続すると文字が見にくいのでズームアップできると便利だったろう。 設定は充実しており、D1~D4までの映像出力モードの切り替えや、テレビ視聴中に表示されるメニューの表示位置、スクリーンセーバー、本体LEDの輝度など、様々な機能が本体のGUIで設定できる。
■ チューナ/LinkTheater機能の切り替えには約20秒 目玉のLinkTheater機能をテストしようと考えたが、ここで1点驚かされた。LinkTheaterへの切り替えは、リモコンから「トップ」ボタンを押し、トップメニューへアクセス。3つ並んだアイコンから「LinkTheater」を選択するのだが、その際に「LinkTheaterへの切り替えには約20秒かりますが、よろしいでしょうか」というアラートが表示されるのだ。20秒と聞いて思わず「いいえ」を選びたくなってしまう。 実際に選んでみると、約21秒かかる。処理を見ているとチューナが終了した真っ暗な画面になり、しばらくしてリンクシアターの起動画面が表示され、ようやくLinkTheater側のトップメニューが表示されるという動作だ。ここから「チューナに戻る」と選択すると、今度はなんと「1分かかる」という表示が出る。恐る恐る選んでみると、実測19秒でチューナに戻れた。
1分と表示されて19秒で戻れるので速いように錯覚してしまうが、チューナ/LinkTheaterの機能を行き来するだけで片道20秒かかるというのは“遅い”と言っていいだろう。チューナとLinkTheaterの2つの機能を合わせた製品だが、挙動を見ている限り、2つの機能は完全に別々に内蔵されており、使う際にはどちらかを終了させ、どちらかを起動させているといった印象だ。
切り替え時間の遅さは、利用中の心理にかなり影響を与える。「面白いテレビが無いので、PC内の動画でも見ようかな」と思った際、20秒かかるわけだが、「PCにも面白い動画が無いのでテレビに戻ろう」となった場合、合計40秒必要になる。各機能のみを利用している際には問題が無いが、相互機能をザッピングする感覚はまったくなく、「時間がかかるからテレビで我慢するか」と、機能を気軽に利用しようという気が無くなってしまう。
また、チューナのメニュー構成と、LinkTheaterのメニュー構成がまったく異なる点も気になる。相互の機能を切り替える手順を例に挙げると、チューナでは前述の通りリモコンの「トップ」からトップメニューに移動し、横に並んだアイコンから「LinkTheater」を選択。LinkTheater側ではリモコンの「メニュー」を押し、文字で書かれている「デジタル放送」を選ぶと戻る。もっとも、リモコンに「機能切り替え」ボタンが用意されており、それを押せば各切り替え画面にショートカットできるのだが、その画面やトップ画面くらいは共通化して欲しかった。
■ LinkTheater機能は単体モデルと同等 LinkTheater機能は単体モデルとほぼ同じだ。リモコンの「トップ」を押すと表示されるメインメニューには、DLNAサーバーを選択するものと、共有フォルダを選ぶもの、それらの中からお気に入りに登録したものを表示するもの、設定メニューがアイコンと共に縦方向に並んでいる。チューナ側は横方向にアイコンが並んでいたのでメニュー構成の違いに若干戸惑う。
今回のテストではPCの共有フォルダや、NASの共有フォルダから再生を行なった。有線LANだけでなく、無線LAN(11g)でも2秒程度のバッファリングで動画再生が可能。HDVカメラで撮影した1,440×1,080ドットのMPEG-2動画や、AVCHDカムで撮影した1,920×1,080ドットのAVC動画ファイルも快適に再生できる。再生中には2/4/8/16/32/64倍速再生も可能で、30秒スキップボタンもリモコンに用意している。試しに対応していない解像度のファイルや、DivXファイルなどを読み込ませるとハングアップしたようになりリモコンが効かなくなる場面もあったが、リモコンの電源ボタンの長押しで再起動することは可能だった。
対応ファイルは下表の通り。MP3ファイルや静止画表示にも対応している。5.1ch音声は2chにダウンサンプリングして再生される。なお、所有しているファイルが対応していなかった場合に備え、入力したファイルをMPEG-2に変換してくれるPC用トランスコードツールが付属している。また、DLNAサーバーソフトの「Buffalo Media Server」も同梱。DLNAサーバー機能を持ったNASが無く、PCサーバーがある場合などは、このソフトをインストールすればDLANサーバーとして動作してくれる。いずれも対応OSはWindows 2000/XP/Vistaで、Mac OSには対応していないので注意が必要だ。
また、DTCP-IPにも対応しているため、デジタル放送を録画したBD/HDDレコーダがDLNAサーバー機能に対応していれば、それらのコンテンツをネットワーク経由で再生することも可能だ。バッファローによれば、現時点でソニーの「BDZ-X90、BDZ-L70、BDZ-A70」、東芝の「RD-A600、RD-A300、RD-A301」、NECのホームサーバーPC Lui「SX700/1G、SX500/1G」に対応しているという。リビングにこれらの製品があれば、離れた部屋のブラウン管テレビでも録画済み番組が視聴できるのは非常に便利だ。なお、11月にはパナソニックの「DMR-BW930」、「DMR-BW830」、「DMR-BW730」にも対応予定という。 ネットワークやNASが存在しない場合でも、前面と背面に備えたUSB端子を使い、USBメモリやUSB HDD内に保存したコンテンツが再生可能。AVCHDカムで録画したSDカードを、カードリーダ経由で再生することも可能だった。USBストレージモードに対応したカメラであれば、ビデオカメラを直接USB接続して内部の動画も再生できる。
さらに、ビデオカメラのバックアップ機能も用意。接続したビデオカメラ内の動画を、もう1つのUSB端子に接続したUSB HDD、もしくはLAN経由で接続しているNASに保存できる。全てのファイルをバックアップする以外に、任意のファイルだけを選んでバックアップすることも可能。撮影/再生/コンテンツのバックアップという作業がPCレスで実現できるため、テレビと親和性の高いビデオカメラでは重宝しそうな機能だ。
■ 録画機能はβ版として11月末に提供予定 「LT-H90DTV」は7月に発表された当初、7月下旬の発売をアナウンスしていた。しかし、「製品品質向上のため」としてその後8月末に延期。さらに、同様の理由で9月下旬へと2回発売が延期されている。このことから開発には様々な苦労があったと想像できるが、実際の製品を触っていても2度ほどハングアップを経験。起動中に新ファームが無いのに、一瞬ファームアップデートの表示が出て消えるなど、首をかしげる動作をすることがあった。 しかし、そんな不安を払拭するように、ファームウェアのアップデートはかなり頻繁に行なわれている。発売から2~3週間しか経過していないわけだが、10月3日に「1.02」、10月10日に「1.03」、10月22日には「1.04」と3度も更新。前述の通り動作の高速化や、各種不具合の対策が行なわれている。現時点で各機能は普通に使えているので大きな不満は無いが、完成度の順調な向上は素直に歓迎したい。 チューナとしての欲しい機能は網羅されており、LinkTheater機能も単品と同等のものが利用できる。しかも省スペースで低価格と、価格/機能の両面で魅力的な製品だ。気になるのが地上デジタルの録画機能の実装。7月の発表時には「2008年秋」とアナウンスされていたが、バッファローに問い合わせたところ「11月末のアップデートで、ベータ版として盛り込まれる予定」だという。録画機能が実現すればさらに魅力がアップするのは間違いない。 一方で、メニューまわりの改善にも期待したい。LinkTheaterとチューナの2つの機能を内蔵した製品だが、切り替え所要時間やメニュー構成の違いなど、実際に使っている感覚としては「筐体は同じだけれど、別の機械を触っている」という印象だ。機能切り替えの高速化に期待したいが、欲を言えばチューナでテレビを視聴中に、オーバーレイ表示でネットワークフォルダの中身を見たり、ネットワークフォルダの中を物色中に、小画面でテレビを表示したり……というように、両機能をシームレスに使ってみたかった。 チューナ側と比べ、LinkTheaterメニューの複雑さも気になる。チューナ側は比較的大きなアイコンで家電ライクな“簡単さ”を感じさせるが、LinkTheaterのメニューは“PC周辺機器そのまま”だ。例えばお気に入りに登録したフォルダのみを、大きなアイコンで並べる「簡単メニュー」風のものがトップに表示されてもよかっただろう。
PCを使い慣れたユーザーなら「この機能はDLNAサーバーを探すもの」、「こっちは共有フォルダを検索するもの」と、見れば違いがわかる。しかし、PCに詳しくない人にその違いを理解してもらうのは難しい。家族の誰もが使うテレビに接続するものだからこそ、“誰にでもわかるメニュー作り”が重要になる。古いテレビを復活させるための「LT-H90DTV」には、むしろ最新のテレビよりも“わかりやすいUI”が求められるだろう。
(2008年10月24日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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