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第109回:International CES特別編
携帯やiPodにプロジェクタが内蔵される時代が来る!?
~超小型などプロジェクタ最新事情編~


■ 民生向けDLPの主軸は超小型プロジェクタに?

 今年のCESでは、DLPの強力サポーターであるはずのSamsungやLG電子がほとんどDLP関連の展示を行なわなかったこともあり、DLP方式のリアプロテレビの“斜陽の時代”を感じさせる。DLP方式の生みの親で、コア映像パネルの独占製造元のテキサス・インスツルメンツ(TI)も毎年セントラル・ホールのロビー近くに陣取っていたブースを撤退させ、プライベートのミーティングルームのみの出展となった。

 従来のDLPプロジェクションは今後、業務用DLPシアター、そしてDLP画質を好むハイエンドDLPユーザーのための製品として位置づけられていくことになりそうだ。

 だが、一方で活性化しているDLPプロジェクタの分野がある。2008年末から本格製品投入が開始されている、超小型の携帯型プロジェクタのプラットフォーム「DLP Pico」だ。超小型の0.17型DMDチップ「DLP Picoチップ」を中核に、光源としてRGB LEDを採用しているのが特徴だ。

 第1号機として市場投入されたOptomaの「PK101」に続き、CESの会場には様々な小型プロジェクタが展示されている。


■ SamsungはメディアプレイヤーにDLPプロジェクタを内蔵

Samsungでは「携帯電話のアクセサリー」という位置付けで紹介している

 小型プロジェクタと見るべきか、iPodやウォークマンのような携帯型メディアプレイヤーにプロジェクタを内蔵させたものとして捉えるべきか、なんともユニークな製品がSamsungより発表された。それが「MBP200」である。

 コアはDLP Picoで、解像度は480×320ドット。表示アスペクト比は4:3だが、画素比率は3:2になるので、各画素は縦方向が12%ほど長い縦長画素になる。光源はRGB LEDで公称スペックは8ルーメン。決して明るくはないが、完全暗室であれば50インチまでの拡大投射が可能。

 ここまではOptomaの「PK101」と同様だが、後発らしいアイディアを詰め込まれており、MBP200自体がスタンドアローンでメディアプレイヤーの機能を持っている。そのため、プロジェクタ以外に2.2型320×240ドットの液晶ディスプレイも備えている。

 再生可能なメディアは静止画はJPEG、GIF、アニメーションGIF、BMP。動画はDivX、Xvid、WMV9 Simple Profile、MPEG-2、MPEG-4に対応。音声はMP3、WMA、OGG、AAC、WAVをサポートしている。本体にモノラルスピーカーも内蔵しているので、単体で音声付き映像が楽しめる。さらに、PDFやパワーポイント、Word、Excel、テキストといったオフィス&文書ファイルの表示にも対応しているのがユニークなところ。普段は液晶ディスプレイを見る多機能なメディアプレーヤー、コンテンツを皆に見せたいという時はプロジェクタ、そしてビジネスのプレゼンテーションにも活用できるというわけだ。

2.2型液晶付きメディアプレイヤーでもある「MBP200」 スライドカバーを開けると投写レンズが露出する 20型くらいの投写サイズならば周りが明るくても全然見られる

 ストレージはmicroSDカードで、最大16GBにまで対応。USB接続によりPCや携帯機器とコンテンツファイルのやりとりも可能。バッテリ満充電状態で2時間45分の投写が可能だという。LED光源は交換不可だが、バッテリは交換可能。音声は前述の内蔵スピーカーのほか、ステレオミニの音声出力やヘッドフォン端子も備えている。気になるサイズは48.8×107.3×19mm(縦×横×厚さ)。重さは160gと、誇張なしに衣服のポケットに収納できる。

 投写映像を見たが、スペックを考えれば納得のいくのレベル。例えば、とっておきの画像や動画を学校や職場等で見せるといった場合にはちょうど良いだろう。ビジネスプレゼンテーションにも使えなくはないが、明るさを考えると、まだまだという感じはする。オフィス文書はプレゼン向けというよりは、印刷しないで自分の閲覧用に持ち歩く……といった向きの方が適していると感じる。

 発売は2009年内を予定。価格は未定だが、競合他社機が500ドル前後なのでこの辺りの価格レンジになると予想される。いずれにせよ、超小型プロジェクタという目新しさにとらわれず、メディアプレイヤーの方を主軸にした機能設計には感心するばかり。今後の展開や後継機にも期待したい。

紙スクリーンを使えば画質もそれなりに 製品にはスクリーン収納型スタンドが付属する予定


■ 3Mは超小型プロジェクタにFLCOSを採用

3Mブース

 3Mも超小型プロジェクタ製品を開発しているが、映像パネルにはDLP Picoではなく、LCOSを採用しているのが特徴だ。すでに11月より日本でも発売が開始されており、「MPro110」が第一号製品だ。

 MPro110のLCOSには、台湾Himaxの640×480パネルが採用されており、光源を白色LEDとしていたことから、各ピクセルはRGBカラーフィルタを貼り付けたサブピクセル表現方式になっている。いわゆる液晶ディスプレイなどと同じ方式だ。だが、白色LEDの光スペクトラムにクセがあること、RGBカラーフィルタを介すること、RGBサブピクセル方式で開口率が下がることで、光の利用効率に若干の難点がある。そこで3Mは、第二世代の超小型プロジェクタエンジン「MM200」の開発に乗り出し、今回のCESで発表を行なった。

 MM200でもパネルにはLCOSを採用しているが、ビデオカメラやデジカメなどのビューファインダ向けのマイクロディスプレイメーカーとして知られるDisplayTECHの強誘電型FLCOS(Ferroelectric LCOS)を採用している。FLCOSは自発的に高速に整列する特性をもった液晶分子を採用した反射型液晶パネルで、応答速度が非常に高速なのが特徴だ。MM200でも解像度は640×480ドットで、MPro110から据え置かれるが、カラーフィルタを用いたサブピクセル方式にはしない。

左端がMPro110の投射エンジン部。その右隣がFLCOSタイプの投射エンジン「MM200」だ MM200の重さは14g FLCOSパネルは0.38型で、DLP Picoの0.17型よりも大きい

 光源にRGB LEDを採用し、R、G、BのそれぞれのLEDからの光をそのまま時分割でFLCOSパネルへと照射。DLP的な時分割式のフルカラー表現を行なう。1ピクセルが時間積分式ながらもフルカラーを表現するのでサブピクセル式よりも光利用効率が高い。また、カラーフィルタを使わず、色特性の良いLED光をそのまま利用するので発色特性も良好だ。

FLCOS方式(左)とカラーフィルタ&サブピクセル方式(右)。開口率と光利用効率の違いが画質に現れる 使用パネルは1枚。フルカラーは時分割方式に実現する

RGBの各フィールドは2フィールドからなる

 表示フレームレートは60Hzに対応。時分割カラーは360Hz(=60Hz×RGB×2)。つまり、RGBの各プレーンを2フィールドで表現する方式になる。DLPと違ってFLCOSは液晶なのでサブフィールドはアナログ階調で生成できる。

 イメージ的には、DLP方式のアイディアをFLCOSパネルで応用実現したものと言える。RGBの各サブフィールドは時分割生成されて合成されるので、DLP同様の色割れ(カラーブレーキング)が知覚される危険性はある。しかし、先代のMPro110エンジン部と比較して小型化に成功しており、厚みを12mmから10mmへと薄型化。色再現性も向上し、NTSC色域カバー率は100%を達成したとしている。消費電力と発光効率の関係はMPro110のエンジン部が1ワットあたり5ルーメンだったのに対し、MM200では1ワットあたり7~8ルーメンへと向上したという。

MM200搭載試作機の大きさはほぼMpro110と同じ バッテリ駆動は約1時間前後

 実際にMM200を搭載した試作機で投写映像を見させてもらったが、DLP Pico方式よりも解像感が圧倒的に高いのが印象的。DLP Pico方式ではパネルが480×320ドットの長方画素であり、表示の際には640×480ドットからの解像度変換も行なわれるため、文字が見にくくなりがちであった。しかし、MM200の640×480ドットではパソコン上の表示そのままの感じで投写できる。これならば、写真だけでなく、図版や文字情報の閲覧も不満なく行なえそうだ。また、明るさもMPro110よりもだいぶ改善されていると感じた。発色はLEDの純色を最大限に活用するため、先代からはかなり進化している。

 気になる発売時期だが、具体的なスケジュールは明言を避け「2009年度内」という言い方がなされた。価格は未定だが、MPro110とほぼ同等の価格レンジになるとみられる。

投写映像。文字の表示品質は高い。ちなみに、ワイド解像度のWVGA版も開発中なのだとか。RGB LEDバックライトの恩恵もあって発色の品質も良好


■ LG電子はDLP Pico採用。図らずも3Mとの直接対決!?

 LG電子もDLP Picoを使った超小型プロジェクタを開発中。暗室コーナーに試作機が展示されていたが、輝度10ルーメン、解像度480×320ドット、エンジンサイズ45×22×10mm、消費電力1W、冷却ファンなし、という簡単な基本情報しか公開されていなかった。

LG電子のDLP Picoプロジェクタの筐体はモックアップ。しかし、Samsungと同じような「メディアプレイヤー+プロジェクタ」というアプローチの製品を想定していると思われるデザインだ 公称輝度10ルーメン。結構明るい

 しかし、たまたまLG電子を取材中に、3Mのプロジェクタのパネルを提供しているDisplayTECHの技術者が来訪。FLCOS採用のMM200試作機との比較シュートアウトが実現したので両者の許可を得て、撮影させてもらった。

 見比べた感じでは、解像感はMM200の方がスペック通りで、LG電子のDLP Pico試作機よりも上だ。発色については、両方とも彩度の高いLEDらしい色遣いでほぼ同等という印象。輝度は、ぱっと見た感じでは同等だが、若干LG電子の方が明るいようだ。

左が3MのMM200、右がLG電子DLP Pico方式試作機の映像


■ MicrovisionはレーザーMEMSで超小型のプロジェクタを実現

 米Microvisionは液晶でもDLPでもない、光源にもLEDを用いずに小型プロジェクタを実現している。光源にレーザー光を用いているのが特徴で、その生成には超小型のマイクロ半導体レーザー発信器を使っている。RGBレーザーは、赤は642nm、青は442nm、緑は532nmの波長を持っている。

 面発光レーザーという新技術も開発されつつあるが、一般にレーザー光といえば位相の揃った光のビームであり、照射しても点にしかならない。Microvisionの方式でも用いるのは照射しても点にしかならないレーザービームだ。それを使って面の映像を描き出すのに用いるのがMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)。いわゆるナノマシン的な電磁メカの仕組みだ。

Microvisionブース 半導体レーザーモジュール。RGB各色で発光する半導体レーザーモジュールを総計3つ用いる ウエハ上のMEMSミラーデバイス

MEMSミラーデバイス

 勘のいい人なら「DLPもMEMSではないか」と指摘しそうだが、全くその通り。DLPのパネルは1画素1画素がMEMSで駆動される微細ミラー(Micromirror)である。MicrovisionのMEMSもミラーを電磁メカで駆動するものだが、鏡自体は単一で、反射したレーザー光を走査するような駆動を行なう。つまり、映像を描き出すのに、ブラウン管のように走査をするわけだ。

 ブラウン管では、管面のRGBサブピクセル蛍光体に電子ビームをぶつけてフルカラー発光させるが、Microvision方式ではだいぶ異なっている。まず、RGBの各原色レーザー光の出力を変え、これをプリズムで合成してフルカラーの1ピクセルのレーザー光を生成する。このフルカラーレーザー光をMEMSミラーに反射させてある画面座標に照写。次から次へとフルカラーのレーザーピクセルを生成してはMEMSミラーの傾きを変えて次の座標に照写するというのを、画面の上から下まで行なうことで1面分を描画するわけだ。

レーザー光をMEMSミラーで走査することで影像を描き出す 各ピクセルはRGBレーザーの出力を調整してフルカラーのレーザー光としてプリズムで合成し、これで画面を走査表示する。走査表示という意味ではブラウン管とよく似ている

 1枚当たりの走査期間は1/60秒。すなわちリフレッシュレートにして60Hz。なのでシャッタースピードを1/60以下で撮影すると、映像が描ききらない未完成のフレーム写真が撮られてしまう。ブラウン管と同じだ。ただ、レーザー光は短残光であり、映像全体としてはブラウン管と同等のインパルス表示となるため、動画の残像は知覚されにくい。これは他方式に対して大きなメリットとなる。

 またフルカラー表現が、DLPとは違って時間積分方式にならないために階調表現がとても豊かになる。小型プロジェクタではカラーフィルタと白色LEDを組み合わせた液晶方式もあるが、Microvision方式は原色レーザー光を用いるので色純度が高く、また発光効率も高い。

レーザー光という特性上、投写レンズが必要ない

 さらに、投写レンズがないためフォーカスを合わせる必要がない。レーザーポインターがどんな投射距離でも点として照射されるのと同じで、各ピクセルは投射距離に関係なくフォーカスして照写されるのだ。ただし、投写レンズがないため投射映像の拡大は投射距離に完全に依存してしまう。つまり大きい画面を映し出したければ投射距離を長くするしかない。理論上はMEMSミラーの振り幅を変えれば拡大率は変えられるはずだが、ボディデザインやレーザー出力との兼ね合いもあり、現状はそうしたモディファイには対応していない。

 Microvisionは、このレーザーMEMSミラー方式の小型プロジェクタ製品そのものの販売も計画中だが、同時にプロジェクションエンジンパーツを「PicoP」と命名し、携帯機器メーカーに販売していく予定だという。小型プロジェクタ製品としては400~500ドルを想定しており、早ければ6月に発売を開始する。

本体サイズは118×60×14mm(縦×横×厚さ)。重さは122g サイズは非常コンパクト。バッテリ駆動で2時間の投射が可能 レーザーMEMSミラー方式の投写モジュール。大きさは60×68×10mm(縦×横×厚さ)。重量65g

 投写映像を見せてもらったが、小型プロジェクタとしては最も発色が良く、そしてなにより動画の映りのキレが素晴らしかった。実質上、自発光画素になるため、コントラスト比はネイティブで公称値5,000:1。表現色域はRGB純色レーザー光のおかげで驚きのNTSC比200%だ。

とにかく動画表示が美しい。右端のように投写距離が近ければ明るく表示できる

 試作機の解像度は848×480ドット。DVD映像を間引かずにリアル投影できるレベルだ。レーザー光は、レーザーポインター以下のクラス2出力となるため、公称輝度はあえて10ルーメン程度に抑えてある。ただし、レーザー光のような位相の揃った光(色)を見ると、約1.5倍程度までの強い明るさに知覚されるという「ヘルムホルツ=コールラウシュ効果」(Helmholtz kohlrausch Effect)があるため、体感輝度は、他方式よりも圧倒的に明るく感じる。そのため担当者は「体感輝度は15ルーメンだ」という説明をしていた。携帯型プロジェクタとしての未来を感じると共に、全く新しい投写型映像デバイスとしての進化も期待したくなる技術だ。

女性の背中を借りて投写。コンパクトながら非常に明るいのでこんな使い方も可能 右が最初の試作機。左が今回初公開となった第二世代試作機。こちらが市販モデルに一番近い形となる


■ その他のプロジェクタ最新モデル

 リアプロテレビのOEMメーカーだった中国ButterflyTechnologyは、近年のリアプロテレビ不調に対応するため、超小型プロジェクタ製品の開発に注力。今回はブースの全域を使って超小型プロジェクタを展示していた。

 中でも注目を集めていたのは超小型プロジェクタとしては破格に明るい30ルーメンの「H11」。解像度も800×600ドットと高解像度だ。採用パネルはLCOS。OEM製品となるため価格は未定。

様々なモデルが置かれたButterflyTechnologyのブース 携帯型のデータプロジェクタという位置づけの製品 大画面投影しても投射映像はかなり明るい

 三菱はホームシアター向けとしては破格の明るさ「5,000ルーメン」を誇る「HD8000」を同社ブースに展示。映像パネルに1.1型、1,920×1,080ドット、ソニー製透過型液晶パネルを採用。ランプは一灯式の275W。北米では発売済みで、価格は20,000ドル。日本での投入予定はないという。

三菱「HD8000」

 オプトマは単板DLP方式のホームシアタープロジェクタ「HD8200」を発表。ベースは既発売の「HD808」で、映像パネルを最新世代の0.65型、DarkChip3世代のフルHDパネルに変更している。同一ランプ、同一消費電力ながら、輝度は1,200ルーメンから1,300ルーメンへ、ネイティブコントラストは600:1から680:1へと向上している。2月の発売予定で価格は5,000ドルを予定。HD808の3,500ドルと価格差が結構大きい。

オプトマ「HD8200」

□2009 International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
【2009 International CESレポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2009ces.htm

(2009年1月11日)

[Reported by トライゼット西川善司]


西川善司 大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。

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AV Watch編集部

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