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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
エントリー領域に付加価値を持ち込む新BRAVIAの勝算とは
-“社会と家計に貢献するエコ”で一歩踏み出すソニー



 ソニーは、BRAVIAシリーズの新製品として、「BRAVIA V5」シリーズおよび「BRAVIA J5」シリーズを2月20日から順次発売する。

新製品の「KDL-46V5」と、ソニーマーケティングディスプレイマーケティング部・粂川滋統括部長

 40インチ以上のエントリーモデルに位置づけられるVシリーズ、19インチから32インチまでの中小型画面モデルを対象とするJシリーズというローエンドモデルが一新されたというわけだ。

 今回の新製品の特徴は、「エコ」を前面に打ち出した点にある。

 V5シリーズでは、世界で初めてテレビに熱陰極管(HCFL)バックライトを採用することで、従来のCCFL管搭載テレビと比較して、約40%の消費電力削減を達成。さらに、人感センサーを搭載することで、人がいないと認識した場合には自動的に消画状態になり、消費電力を抑えるほか、本体右横に設置された「省エネスイッチ」を利用することで、待機電力をほぼ0Wまで削減できる。

 J5シリーズでも、従来モデルと同等の輝度を維持しながら大幅な低消費電力化を実現した「エコパネル」の採用などにより、低消費電力化を達成しているのだ。

消費電力の違い。左が新製品のKDL-40V5。右端が2001年に発売された36インチブラウン管テレビのKD-36HD800 V5シリーズに新たに搭載した人感センサー。省エネに威力を発揮する 省エネスイッチは待機電力をほぼ0Wまで削減できる



■ JE1の成果が新製品につながる

 エントリーモデルにおける「エコ」機能の全面採用は、2008年6月に発売したKDL-32JE1の成果がある。

 J1シリーズの32インチモデルをベースにし、省エネ基準達成率232%、ダイミックモードで年間消費電力86kWh/年という省エネを実現した同モデルは、「100W電球1個よりも、低い消費電力」という点を訴求し、省エネを強く意識するユーザー層の獲得に成功した。

V5シリーズの戦略について語る粂川氏

 ソニーマーケティングディスプレイマーケティング部・粂川滋統括部長は、「BRAVIAの購入層は30~40代が中心。それに対して、JE1は、50代以上の購入者が半数以上を占めた。省電力という観点からテレビを選択する顧客層が確実に存在することを確認できた」と語る。

 ソニーの調べによると、AV先進層は、高画質と、4倍速による動画応答性を同等の価値として捉えているが、フォロワー層は、高画質と低消費電力を、同等か、それ以上の価値として捉えている結果が出ている。

 「日本には、まだ5,000万台のブラウン管テレビがあり、これまでの先進AVユーザー層に加えて、フォロワー層と呼ばれるユーザーが、ブラウン管テレビから買い替えする時期に本格化に突入することになる。高画質は欠かせない要素としても、付加される価値の評価は、ユーザーによって多様化してくるだろう。ソニーは中長期的にエコを訴求していく考えであり、今回の製品によって、節約層といわれるユーザーにも、大画面テレビを訴求することができるようになる」。

 年末商戦では、「最X」をキーワードに、最薄、最高画質、最速といった観点から高機能重視の訴求を展開したソニーだが、今回のエントリーモデルでは、それとは一線を画す新たな提案に、同社が本格的に踏み出したといっていい。

 「JE1は、1機種だけの展開。そのため、店頭における省エネ訴求にも限界があったが、2シリーズ6モデルに広げたことで、より戦略的な訴求が可能になる」(粂川統括部長)として、新製品によって、「エコ」をイメージした展開を一気に加速する考えだ。



■ 早く買い替えないと「もったいない」理由とは

 店頭では、矢沢永吉さんを起用したPOPを用意。「早くブラビアに買い替えないともったいない!」をコミュニケーションキーワードとして、省エネの観点からBRAVIAの購入メリットを訴求する。

矢沢永吉さんを起用したPOPを用意し、「早くブラビアに買い替えないともったいない!」を訴求

 「JE1の際には、消費電力の少なさを数値にしたPOPを作っていたが、新製品では、もっと具体的な数字を示すことになる。例えば、1年間でどれぐらいの電気代金を安くすることができるのかといった数字をPOPに盛り込む」

 1997年に発売した同社の32インチブラウン管テレビ「KW-32HDF9」では、年間消費電力が338kWh/年であったのに対して、今回の32インチ液晶テレビ「KDL-32J5」では76kWh/年。年間電気代は、7,436円から1,672円に減少し、5,764円も節約できる。これを2011年7月までの2年半に換算すれば、1万4,410円も得になるという計算。いずれにしろ、2011年に、現在のブラウン管テレビを薄型テレビに買い換えるのならば、電気料金の観点から、いまのうちに買い替えた方が得である、という訴求なのだ。

 矢沢永吉さんの「早くブラビアに買い替えないともったいない!」というメッセージの意味は、ここにある。

 ソニーは、エコを「社会に対する貢献」と「家計に対する貢献」という2つの観点で捉える。JE1での訴求が「社会に対する貢献」を前面に打ち出したものに対して、新製品では、「家計に対する貢献」ということになる。

 だが、電気料金のメリットを訴求する手法は、まさに、冷蔵庫をはじめとする白物家電の手法。白物家電を持たないソニーにとっては、いわば「ソニーらしくない」訴求となる。

J5シリーズの店頭展示イメージ

 「BRAVIAのイメージカラーは赤。ここに、環境をイメージするグリーンと白のカラーを持ち込んで売り場を演出することになる。電力メーターや、省エネ5つの星といった販促展示も用意するが、ソニーのイメージを壊さない形で演出したい」と粂川統括部長は語る。

 用意するPOPそのものも再生可能な素材を利用するなど、エコに配慮したものにしているという。

 2月20日からの発売に先駆け、2月上旬から主要店舗での展示を開始。2月下旬には、全国約3,000店舗で展示されることになる。



■ エントリーモデルに付加価値を搭載するデメリットは

 ソニーがエントリーモデルにおいて、エコを切り口に訴求するには大きな決断があったはずだ。それは、価格で勝負する領域に、付加価値を持ち込むことになるからだ。

 省エネを追求したJE1は、ベースとなったJ1に対して、「付加価値モデル」と位置づけられ、約1万円高い実売価格となっていた。

 新製品では、40インチモデルの「KDL-40V5」の店頭予想価格が21万円前後となっており、既存モデルであるKDL-40V1の発売時の予想価格26万円前後と比べると大幅に低価格化されているが、今後競合メーカーから発売される製品との比較の上では、付加価値を持ちながらも、どれだけ価格競争力が発揮されるかが注目される。

 従来のCCFLに比べて高価となるHCFLをバックライトに採用したこと、人感センサーを採用したことによるコスト上昇をどう吸収できるのかもポイントだろう。

 粂川統括部長は、「HCFLの1本あたりのコストは、確かに上昇するが、発光効率が高いことから、搭載する本数をCCFLに比べて減らすことができる。極端にコストが上昇するということはない。また、人感センサーについても、全世界に展開するという『数のメリット』を活用できることから、コスト上昇には直結しない」と説明する。

中央がソニーがV5シリーズに採用したHCFL カットモデルからもわかるようにHCFLの搭載本数は多くはない フィラメントは米粒より小さい

 エントリーモデルに省エネという付加価値を追加することで、新たな需要層に広げていくというのが、BRAVIAの戦略となる。「景気が不透明ななかで、家計に優しい省エネは、新たな価値として訴求しやすい。2011年に向けて、ブラウン管を置き換えていくための切り札として、エコを位置づけたい」としている。

 ソニーでは、エコによる付加価値戦略に、勝算ありと見ている。さらに、競合他社が追随すれば、先駆者としてのイメージづくりも可能になるだろう。実際、その傾向が出始めているのは事実だ。

 エントリーモデルを「エコモデル」としたことで、ソニーの液晶テレビにおけるエコモデル構成比は一気に上昇する。この新製品によって、どこまで「ソニー=エコ」を定着させることができるかが、同社の薄型テレビ戦略の次の一手を左右することになるだろう。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース(概要)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200901/09-006/index.html
□ニュースリリース(V5シリーズ)
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200901/09-0119/
□BRAVIAのホームページ
http://www.sony.jp/bravia/
□関連記事
【1月20日】ソニー、「省エネBRAVIA」の機能と狙いを解説
-電気代削減を訴求。買い替えないと“もったいない”
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20090120/sony.htm
【1月19日】ソニー、熱陰極管採用の省エネ液晶テレビ「BRAVIA V5」
-従来比4割の消費電力削減。ベーシック機「J5」も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20090119/sony1.htm

(2009年1月27日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など

[Reported by 大河原克行]


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