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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第399回:大幅に「普通」になったPanasonic「HDC-HS300」
~ 「おまかせ」が一番面白いハイビジョンカメラ ~



■ 今年の春モデルはPanasonicもすごい

 昨年の秋モデルとして発売された「HDC-HS100」を始めとするラインナップで、単板ではなく3MOSという方式を打ち出してきたPanasonic。たぶんそう来るだろうなとは思っていたが、出てきた絵がなんだか油絵みたいな色味で、驚いた記憶がある。他社ビデオカメラ事業部でも当然比較テストを行なっているわけだが、どこの技術者の皆さんに聞いても「なんでこんなになっちゃうんですかねぇ?」と首をかしげるばかりであった。

 今回のPanasonicの新作「HDC-HS300」(以下HS300)は、他社と同じく新開発の光学系、撮像素子、画像処理エンジンを搭載したステップアップモデルである。また自動顔認識に続いて、被写体をロックして追いかけることができるという「追っかけフォーカス」を搭載した点もユニークだ。

 デザイン的には前作に近いが、中身的には大きく進化している。ラインナップとしての注目株は、内蔵メモリを搭載し、価格も安いTM300かもしれないが、記録系以外は同スペックなので、絵の参考にはなるだろう。店頭予想価格は16万円前後となっているが、ネットではすでに9万円台前半にまで下がってきており、値頃感もいい。

 ではさっそく注目の春モデルを検証してみよう。



■ バランスが良くなったボディ

 HS300にはシルバーとブラックの2カラーがあるが、今回は前回同様、ブラックをお借りしている。デザイン的な印象は、同じHDDモデルでマニュアルリング搭載といった共通項から前作HS100に似ているが、前作はボディの割にはレンズが小さくて、なんだか先がすぼまったような形だった。

 今回は鏡筒部がやや太くなって、見た目のバランスは良くなっている。またスイッチの意味づけなど細かい点で、改善が進んでいる。

ボディにずんぐり感がなくなってすっきりした 若干狭くなった新レンズ。左下のライトは静止画用AFの補助光

 レンズはお馴染みライカ・ディコマーで、光学12倍ズームレンズ。フィルタ径は43mmと、少し大きくなっている。画角は35mm換算で、動画44.9~539mm(16:9)と、前作より若干狭くなっているのが残念だ。静止画は画面比率で3タイプあり、40.8mm~490mm(16:9)/41.3mm~496mm(3:2)/45.0mm~540mm(4:3)となっている。今回は有効画素数で最大となる3:2で撮影を行なった。


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
44.9mm

539mm
静止画(3:2)
42.1mm

505mm


 鏡筒部のマニュアルリングは、標準はズームに割り当てられているが、脇のボタンでマニュアルフォーカスへの切り替えが可能。またその下のFUNCTIONボタンでは、ホワイトバランス、シャッタースピード、絞りがマニュアルで変更できる。

 大きく変わったのが撮像素子で、前作では1/6型、総画素数61万×3だったものが、1/4.1 型、総画素305万×3と大幅にスペックアップしている。各撮像素子がすでにHD解像度を超えているが、さらに画素ずらしも行なって、最高3,984×2,656ドット、約102万画素の静止画が撮影できる。

 液晶モニターは、「追っかけフォーカス」機能の関係もあってタッチスクリーン式になっている。ただソニー機のように全面的にタッチスクリーンに依存するわけでもなく、メニューの呼び出しなどは別途ハードウェアのボタンが用意されている。

FUNCTIONボタンでマニュアルへの切り替えもスムーズになった 液晶モニタはタッチスクリーン式に

 これにより操作性も若干変更され、従来の設定メニューのほか、解像度など撮影に関する設定は「Q.MENU」に、逆光補正やコントラスト補正といった補助機能は画面上の「F」ボタンをタッチして呼び出すようになった。以前のように十字キーであっちこっちに移動する手間がなく、操作性はかなり合理的になっている。

解像度の変更などは「Q.MENU」に 撮影中に使う機能は、画面内の「F」ボタンから呼び出す

 内蔵HDDは120GBで、別途SDHCカードスロットも備える。映像および写真記録は、HDDかSDカードかをまとめて選択するようになっており、動画と静止画でメディアを分けることができない点は従来通りだ。


動画サンプル
モード ビットレート 解像度 記録時間
(120GB HDD)
記録時間
(32GB SDHC)
サンプル
HA 17Mbps 1,920×1,080 約15時間50分 約4時間
ez00040.mts (24.5MB)
HG 13Mbps 約20時間20分 約5時間20分
ez00041.mts (18.9MB)
HX 9Mbps 約31時間 約8時間
ez00042.mts (13.2MB)
HE 6Mbps 1,440×1,080 約50時間 約12時間
ez00043.mts (8.9MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


 液晶パネル内側には、手ぶれ補正切り替えボタンがある。現在手ぶれ補正のハードウェアスイッチを設けているのはPanasonicのみで、頻繁に三脚に乗せたり降ろしたりする人には便利である。また接続端子の類も、ほとんどここに集約している。SDカードスロットのフタは下向きに開くので、三脚使用時には一旦シューを外さないと、メモリー交換ができない。

ほとんどの端子が液晶内側部分に集中している イヤホンと外部マイク入力のみレンズ脇に

 背面に回ってみよう。ビューファインダがあるのは前回同様だが、液晶モニターとの切り替えスイッチがなくなり、ファインダを引っ張り出すことでONになるよう変更されている。ただし液晶モニターと両方同時には使用できないので、追っかけフォーカスなどを使うときには、ちょっと面倒だ。

 ACアダプタの差し込み口は相変わらずバッテリを外した奥にあり、AC駆動とバッテリ充電が同時に行なえないという仕様も変わらず。前作ではUSBポートもバッテリを外した奥にあり、物理的にバッテリ駆動でのUSB接続は無理だったのだが、今回はUSBポートが液晶モニター内側にあるので、バッテリ駆動状態でUSBケーブルを接続してのPCへの画像取り込みなどができるようになっている。唯一できないのが、カメラ本体のメモリーカードへの書き込みだけだが、もともとリムーバブルカードなのでそれほど問題にはならないだろう。

ファインダ切り替えスイッチが廃止され、引き出すとONになるよう変更された 上部にアクセサリーシュー



■ カラーバランスが向上、追っかけフォーカスも面白い

 ではさっそく撮影してみよう。今回はあいにくの曇天となったが、そういう意味では前回HS100と条件は似たようなものである。ただ季節は冬で光量はかなり減ってはいるが、色味もしっかりでている。曇天でこの程度ならば、まず問題ないだろう。

 翌日いくつか晴天でのカットも撮ったが、発色やカラーバランスは前作からは別物と言っていいぐらい改善されており、かなり満足できるカメラに仕上がっている。

曇天だが発色はしっかりしている 光量があればかなりの解像感が期待できる
カラーバランスもナチュラル フェイストーンも自然だ


focus.mpg (62.2MB)
顔認識のみの追従だが、問題なくフォローできる
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 フォーカスに関しては顔認識がかなり優秀で、顔が写っている限りは外すことはない。また横顔も、最初から横顔では難しいが、正面から横になる課程ではかなり粘って認識するようになっている。手前に向かってくるショットも、顔認識のみと追っかけフォーカスと両方で撮影したが、どちらも同様に追従できる。

 さて肝心の「追っかけフォーカス」だが、画面上の「AFAE」をタッチしたのち、画面上のターゲットを指定するだけで使える。フォーカスだけでなく、AEも同時に追従するようだ。人間だけでなく、動物などでも認識できるので、ペット撮りとしては最強だろう。また動き回る子供でも、服の色などにロックできるので、かなり自由度が高いオート撮影が可能だ。

画面上でターゲットにタッチしてロックさせる ネコにもばっちりロックオン

モード 顔認識再開直前 顔認識直後 動画サンプル
顔認識
のみ

face_o.mpg (53.8MB)
追っかけ
フォーカス
併用

afae.mpg (57MB)
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


 ターゲットがフレームアウトした場合は、どちら方向にいなくなったのかを表示してくれる。すぐにフレーム内に捉えれば引き続きロックするが、0.5秒程度フレーム外にあると、見失ってしまうようだ。

 ただ、AFの補助機能として使う場合は、若干弱いようだ。というのも、フォーカスが合っていなくてもターゲットとしては認識できるようなので、フォーカスを指定するつもりでターゲットにタッチしても、なかなかフォーカスを合わせてくれないことがあった。もう少しAF重視のバランスでもよかっただろう。

 マニュアルフォーカスに関しては、フォーカス補助として中央に拡大画面が出ることと、マニュアルリングで操作することで、輪郭強調のような機能がなくても特に問題はない。

 液晶に関しては、今回からタッチスクリーンとなったことで、格段に画面上を触る機会が増えた。したがって順光時には、指紋の汚れが反射して画面が見えづらいことがあった。このあたりはソニー機と同じく、コーティングなどの改善が必要だろう。

 AEに関しては、以前からかなり優秀だった「おまかせiA」は、相変わらず使える機能だ。マニュアル撮影時も、「コントラスト視覚補正」が便利である。逆光補正においても、本来の逆光補正よりコントラスト視覚補正のほうがいい絵だ。これがあれば、もう背景を完全に飛ばしてしまう逆光補正モードは必要ないだろう。

ノーマル コントラスト視覚補正 逆光補正

 手ぶれ補正領域が3倍に拡大したということだが、どうやらこれはテレ端での領域のようである。ワイド端で歩きのシーンを撮影してみたが、ソニーXR520Vほどのスタビライズ効果はないようだ。

 解像感に関しては、前モデルからは大幅に改善されているが、猫の毛並みなどものすごく細かいディテールに関しては、毛の一本一本を再現しようとするのは諦めて、模様単位でまとめてしまうような傾向がある。これはH.264エンコーダのチューニングの特性だろう。

 目新しい機能ではないが、インターバル記録を改めて導入したのも面白い試みだ。SD時代はDVカメラでインターバル記録を搭載したハイエンドモデルはあったが、そういえばHD時代になってあまり見かけなくなった機能の一つである。テストで少し撮ってみたが、インターバル記録中は電源が落ちないので、結局のところ実時間ではバッテリの持ち時間分しか撮れないというのが現実である。


sample.mpg (391MB)

room.mpg (129MB)
動画サンプル 室内サンプル
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


stab.mpg (57.2MB)

ez00062.mts (15.7MB)
手ぶれ補正はワイド端では従来機とそれほど変わらず 1秒でのインターバル録画
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ まだ荒さが目立つ静止画機能

 撮像素子の画素拡大と画素ずらしにより、動画同時撮影の静止画に関しては、同時撮影でも3,840×2,160ドットの写真が撮れるようになった。また前モデルは画素数の不足により静止画専用モードがなくなっていたが、今回は復活している。

 ただ双方とも、画素数は結構あるものの、画素ずらし特有の、全体的に解像感の甘さが気になる絵となっている。等倍で見るとかなりS/Nが悪く、輪郭もボロボロではっきりしない。やはりこの静止画を見ると、画素ずらしというのは撮像素子のピクセル数が十分ではなかった時代に動画で使うもので、等倍ピクセルで出力できる静止画向きの技術とは思えない。

静止画モードで撮影。発色はいいがもう少し解像感が欲しい 動画同時撮影の静止画 本体機能を使って動画から静止画切り出ししたもの

 ただ世の中にはまだ画素数の多さで画質の善し悪しを判断する層も多いのは事実で、他社と遜色ない画素数の静止画が撮れるというだけで購入の決め手となるケースは少なくないのだろう。個人的には、これだけの画素数があるのならば、画素ずらしではない絵が見たかったところだ。

タイムラグが大きく、狙ったタイミングで写真が撮れないのが難点

 また静止画モードでは、シャッターを押して実際に撮影されるまでのタイムラグがものすごくある。AF動作が合うまで時間がかかるということ、HDDに向かって記録することもあるだろうが、マニュアルフォーカスでもかなりタイミングを外すので、いい表情を捉えて写真を撮るということがほとんど不可能である。

 どれぐらい外すかというと、右の風車の写真は、実際にシャッターを押したのは4つの羽根が、水平垂直になった瞬間である。しかし実際に撮れるまでのタイムラグで、結果的には45度傾くまでシャッターが降りなかった。羽根の回転速度は動画サンプルの中で確認していただくとして、このタイムラグと解像感では、静止画撮影機能はそれほど魅力的なものではない。



■ こちらも再生時のハイライト機能を搭載

 液晶モニターがタッチパネルになったことで、再生機能の画面も結構GUIが変わっている。まずメディアと動画・静止画の切り替えだが、画面左のプレイモード選択アイコンで選ぶようになった。ビデオ、写真それぞれのモードでメディアを選択するスタイルだ。

 映像のサムネイルは、ズームレバーで20個、9個、1個、シーン内検索画面に変更できる。日付のボタンをタッチすれば、日付ごとの選択もできる。

撮影メディアと動画静止画をマトリックス選択 日付別の選択も可能

 昨今のカメラのトレンドは、いかに再生時に格好良く見せるかということに注力しており、各社ともこのあたりは似たような機能を搭載してきている。かく言うHS300も、ハイライト機能を搭載している。

 画面左の「再生モード選択」ボタンをタッチすると、「通常再生」、「オートスキップ再生」、「ハイライト再生」の三択が出てくる。ハイライト再生を選んで、「シーン設定」、「再生時間設定」、「音楽設定」の3つを設定する。

 シーン選択では、日付を選択できるほか、撮影した個別のシーンも選択できる。再生時間は「1分半」、「3分」、「おまかせ」の3つから選択、「おまかせ」は最大約5分だそうである。音楽は4曲がプリセットされており、ユーザーが別のものに入れ替えることはできないようだ。

ハイライト再生機能を装備 音楽は4種類から選択

 これらを設定して「再生開始」をクリックすると、再生待機状態になる。画面下の再生ボタンを押すと、ハイライト再生がスタートする。ピックアップされるのは、顔が写っているところ、追っかけフォーカスが機能したか、映像が安定しているか、ズーム使用後のFIX画面、シーンチェンジの順で優先度が決まっている。



■ 総論

 今回もっとも安堵したのは、やはり絵が大幅に普通の色味になったことである。これが前回と同じで、これからのPanasonicのカラーはこれだとか言われたらどうやってレビューしようかと心配した。できれば映像で3板の特徴がもう少しはっきり出ると、他社との差別化になっただろうが、絵としては他社にようやく追いついたという格好だ。

 本機はハイエンド機ということでマニュアル撮影機能もあるが、いろいろなオートモードを切り替えてシーンを作っていくというのが面白いカメラだ。「おまかせiA」を基本としながらも、マニュアルモードでも「コントラスト視覚補正」でかなりいい感じの絵が期待できる。

 期待の追っかけフォーカスは、人物撮影では顔認識も結構効くのであまり威力を発揮しないが、動物や車など人間以外の動くものをロックできるので、面白い使い方ができそうだ。今後の応用・発展にも期待したい技術である。

 一方で、再登場した静止画機能は、ちょっと期待はずれだった。静止画モードに切り替えて使う手間と得られる画質を考えたら、むしろ動画同時撮影や動画からの切り出し機能の方が使い出があるかもしれない。

 多少ボディが大きいのが難ではあるが、価格が早くもこなれていることもあって、内蔵メモリ機のTM300、SDカード記録モデルSD200ともに結構売れるのではないかと思われる。


□パナソニックのホームページ
http://panasonic.co.jp/index3.html
□製品情報
http://panasonic.jp/dvc/
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(2009年2月18日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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