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スピルバーグ新作『ディスクロージャー・デイ』。UFO映画の巨匠が描いた“古くて新しい”エイリアン

映画『ディスクロージャー・デイ』本予告映像<10月1日(木)全国公開!>

巨匠スティーブン・スピルバーグは、これまで17歳で手掛けた初長編SF映画『ファイアライト』(1964)に始まり、『未知との遭遇』(1977)、『E.T.』(1982)、『宇宙戦争』(2005)、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)など、エイリアンが登場する映画を繰り返し監督してきた。

また製作や製作総指揮まで加えれば、『メン・イン・ブラック』シリーズ(1997/2002/2012/2019)、『SUPER 8/スーパーエイト』(2011)、『カウボーイ&エイリアン』(2011)、さらにテレビシリーズ『TAKEN』(2002)や、『フォーリング スカイズ』(2011~15)など、異星生命を扱う作品にも長年関わっている。

今回の『ディスクロージャー・デイ』は、最近アメリカ政府が行なっている、現実のUFO/UAP情報開示を受けて企画された、非常にタイムリーな作品である。

そこで今回は、物語のベースとなった衝撃的な出来事や、現在科学者たちの間で議論されているUFO/UAP問題の解釈と合わせ、本作に対する率直な感想を述べたい。

※作品のストーリーや展開に関する内容に触れています。未鑑賞の方はご注意ください。

ストーリー

舞台は現代。サイバーセキュリティ専門家のダニエル・ケルナー(ジョシュ・オコナー)は、自身が勤めていたアメリカ政府の秘密契約企業ワーデックス社から、“謎の装置”を盗み出した。そして、恋人のジェーン・ブランケンシップ(イヴ・ヒューソン)と共に、ある組織へと運び出す。それに気付いた、ワーデックス社のCEOノア・スキャンロン(コリン・ファース)は、部下たちと共に二人を追い詰めるが、“謎の装置”の力で逃げられてしまう。

映画『ディスクロージャー・デイ』
10月1日(木)全国公開
(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

一方カンザスシティでは、地方テレビ局の気象予報士マーガレット・フェアチャイルド(エミリー・ブラント)が、いつものように自宅で出勤準備をしていた。すると、窓から一羽の赤い鳥が飛び込んで来て、しばらく彼女を観察し、やがて飛び去る。この奇妙な出来事をきっかけに、マーガレットの中で潜在的な“能力”が覚醒した。彼女は、他人の思考や感情を直感的に読み取り、学んだことのない外国語も話せるようになってしまう。

しかしマーガレットは、生放送の天気予報中、意味不明な“未知の言語”で話し始め、この映像はワーデックス社の目にも留まる。彼女は病院で検査を受けるが、FBIを装った謎の男たちに狙われていることを察知し、隙を見て逃亡する。

(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

そのころダニエルは潜伏先で、ジェーンにワーデックス社から盗み出した映像ファイルを見せる。そこには、これまで米政府が捕獲したエイリアンを使って生体実験を行ない、またそのテクノロジーをリバースエンジニアリングしてきた証拠が写っていた。

彼の目的は、この映像アーカイブをテレビで世界に公開し、政府と企業による長年の隠蔽を暴くことだった…。

(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

映画のベースとなった出来事

この『ディスクロージャー・デイ』は、基本的にフィクションであり、ワーデックス社や“謎の装置”は完全に創作である。しかし物語の根幹にある「政府・軍需企業による情報の秘匿」「内部告発者の存在」「メディアによる暴露」は、実際の出来事や人物をモデルにしている。

まず米空軍が、1952年にUFO情報の収集、分析、記録を行なう部署を設置した。これが、ドラマなどでも有名な「プロジェクト・ブルーブック」である。しかし、1968年のコンドン委員会報告で「科学的価値なし」と結論付けられ、米国政府は1969年末でUFOの調査中止を公式発表した。

だが2008年になり、国防総省(DoD)の国防次官補(情報担当)室将校ルイス・エリゾンドの所へ、二人の人物が訪れる。エリゾンドは、かつて米陸軍でイスラム国(ISIS)、アルカイダ、ヒズボラに対する対テロ作戦を指揮していた人物で、その調査能力を買われての訪問だった。

二人は、DoDが秘密裏に運用していた、UFO調査プログラムAATIP(先端航空宇宙脅威特定計画)のメンバーだと名乗る。このAATIPは、当時の上院多数党院内総務ハリー・リードが、裏資金で設立・運用していた組織で、UFO事件の情報を集めていた。

エリゾンドは、とりあえずプロジェクトに参画し、かつてアフガニスタンなどで行っていたように、軍人たちからの報告を集めていく。そして2010年からAATIPの最高責任者(※1)となり、米軍パイロットが遭遇したUFO事件の聞き取り調査や、映像・データの収集を行った。その結果はどれも驚くべきものばかりで、この情報を開示する必要性を痛感した。

そしてエリゾンドは、国防長官に直接報告しようとしたが認められず、組織内からも様々な妨害を受ける。結果として彼は、「国家安全保障上の脅威になり得るにも関わらず、DoDは過剰な秘密主義で隠蔽している」と強く抗議し、2017年に辞職してしまった。

一方20年以上に渡り、UFOを“科学・国家安全保障の問題”として扱ってきた米国の調査ジャーナリストに、レスリー・キーンという人物がいた。彼女は2010年に、『UFOs 世界の軍・政府関係者たちの証言録』という書籍を出版する。

これはベルギー空軍、チリ空軍、イラン空軍、フランスGEIPAN(※2)、英国レンデルシャムの森事件など、世界各国の“公式記録”を集めたものだ。

書籍『UFOs 世界の軍・政府関係者たちの証言録』
レスリー・キーン(著)/原澤亮(訳)
2,310円 二見書房 ISBN/雑誌コード:9784576220826

また、FAA事故調査部門のジョン・キャラハンによる証言も含まれており、これは1986年の日航機JAL1628便事件と密接に関係する。つまり本書は、民間のうわさ話ではなく、政府・軍・航空当局が実際に扱ったケースだけを集めた、極めて信頼性の高い資料集だったが、大きな話題にはならなかった。

だが2017年に、政府関係者からの紹介でエリゾンドと出会い、実際に米海軍パイロットが撮影したUFO映像を見せられる。そして、この事実を公表しなければならないという、強い動機を持った。

"UFO" videos captured by US Navy Jets Declassified

キーンは、それまで付き合いのなかったニューヨーク・タイムズ(NYT)に飛び込みで入り、「この情報を記事にしてくれ」と要求した。NYTの支局長は具体的な裏付けを取るため、国家安全保障専門記者で、軍やホワイトハウスにも太いパイプを持つ、ヘリーン・クーパーに担当させる。

彼女は直接ハリー・リード議員から、AATIPに裏金として資金援助した情報を聞き出すことに成功する。そして2017年12月16日に、クーパー、キーン、さらにNYTの記者ラルフ・ブリュメンタールの三人で、UFOの動画付き記事“Glowing Auras and 'Black Money': The Pentagon's Mysterious U.F.O. Program”(光り輝くオーラと「ブラックマネー」:ペンタゴンの謎に包まれたUFOプログラム)としてネット版で公開し、さらに新聞一面にも掲載した。これは世界中で大騒ぎとなり、米国政府もその存在を認めざるを得なくなる。

その後、海軍情報局内にUAPタスクフォースが設置される。UAP(未確認異常現象)とは、UFO(未確認飛行物体)に替わり、「正体不明の空中物体」「空中・海中・宇宙をまたぐトランスメディア物体」「水中の正体不明物体」などを包括した、異常な現象全般を扱う用語として考案されたものだ。

そしてUAPタスクフォースを発展させる形で、2022年7月にAARO(全領域異常解決室)が、DoDの国防長官室内に設けられた。ここは、軍、情報機関、政府職員、民間パイロットたちから、UAPに関する報告を受付け、標準化、科学的分析、国家安全保障上の脅威評価、歴史的記録の再調査などを行なう組織である。

※1
「第1次トランプ政権時の2017~18年に、DoDの首席報道官を務めたダナ・ホワイト(Dana W. White)は、AATIPは存在しており、エリゾンドが運営していたと認めた」と 政治専門メディア「ポリティコ(Politico)」が、2017年12月に報じている。しかし彼女は、自身の職権乱用や不正行為に関する内部調査を受け、2018年12月31日に辞任した。エリゾンドがAATIPの最高責任者だったという証言は、彼女の発言のみで、他の人物からは確認されない。

https://theintercept.com/2019/06/01/ufo-unidentified-history-channel-luis-elizondo-pentagon/

※2
GEIPANとは、米国のNASAに相当する、フランスの国立宇宙研究センター(CNES)内に設立された、未確認飛行物体研究所のこと。ここは2007年に、OVNI(米国で言うUFOやUAPのこと)の情報を、CNESのウェブサイト上で公開した。

https://cnes.fr/projets/geipan

衝撃的な展開へ

そして2023年7月26日には、共和党・民主党の垣根を越えた超党派の場として、「Unidentified Anomalous Phenomena: Implications on National Security, Public Safety, and Government Transparency」(未確認異常現象: 国家安全保障・公共の安全・政府の透明性への影響)と題した公聴会が、ワシントンD.C.のレイバーン下院議員会館で開催される。これには、世界中から多くの聴衆が集まり、入場を求めて大行列を作るほどだった。

ここで証言を行なったのは、元海軍パイロットのライアン・グレイブスと、デヴィッド・フレイバー、そしてデヴィッド・グラッシュの三名である。中でもグラッシュは、元NRO(国家偵察局)の将校として、米国の偵察衛星情報をUAPタスクフォースに提供し、元NGA(国家地理空間情報局)におけるGS-15(大佐相当)の上級分析官でもあった人物だ。

グラッシュは宣誓の上で、「米政府は数十年に渡り、非人間起源のクラフトを回収してきた」「非人間起源の技術を、リバースエンジニアリングしている」「非人間の生体由来物質が回収されている」「これらのプログラムは、議会に対して違法に秘匿されている」などと証言した。ただし彼は、「あくまでも複数の一次証言者からの情報であり、自分がクラフトや生体由来物質を直接見た訳ではない」とも付け加えている。

つまりキーンによるAATIPの暴露から、内部告発者グラッシュの爆弾発言が、『ディスクロージャー・デイ』の企画を動かすきっかけとなり、そして米政府や軍需企業による長年の隠蔽は、映画のワーデックス社のモデルになった。

さらにトランプ政権は、戦時省(War Department)名義で、UAP関連の歴史資料・映像・文書を整理し公開するための新設プログラム「PURSUE」(Presidential Unsealing and Reporting System for UAP Encounters: UAP遭遇に関する大統領令による封印解除および報告システム)を設けた。

このPURSUEでは、2026年5月8日の第1弾以降、政府機関が保有していたUAP関連資料が段階的に公開されており、現段階では第6弾まで実施されている。これまで公開された資料の総数は、動画136本、画像30点にも上り、他に文書や音声データもある。このことは、『ディスクロージャー・デイ』の信憑性を高める裏付けにもなっている。

映画『ディスクロージャー・デイ』
10月1日(木)全国公開
(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

科学者からの批判

こういった情報が公開されると、科学者などが反発(※3)した。

特に激しい批判を行なったのが、ニューヨークのアメリカ自然史博物館ハイデン・プラネタリウム館長で、リメイク版『コスモス: 時空と宇宙』(2014)、および続編『コスモス: いくつもの世界』(2020)の司会者を務めた、天体物理学者のニール・ドグラース・タイソンだった。

コスモス:いくつもの世界 - 予告編 | ナショジオ

タイソンはUFO/UAP問題に対して、「ピンぼけ映像ばかりで、証拠が不十分」「科学は再現性が必要。UFOは再現できないから科学ではない」「映像はセンサーの誤作動に過ぎず、またパイロットも誤認する」「エイリアンが来ているなら、もっと明白な証拠があるはず」などと批判を繰り返した。

しかし政府や議会が問題にしているのは、「科学的かどうか」ではなく「国家安全保障上の危機かどうか」である。UFO/UAPに関する論点は、「情報の秘匿はあったのか」「軍の監督権限は欠如していたのか」「軍や航空の安全は保たれているのか」などであり、科学的再現性の有無ではない。

それに軍事センサーは、望遠鏡ではないため、画質はさほど重視されない。むしろ、高速かつ不規則に動く物体を、常に画面センターに捉え続ける、トラッキングの精度が重要視される。

また公開された映像は、機密処理のため、解像度が著しく落とされている。だからタイソンが言うように、「ピンぼけ映像しかない」という主張は、軍の制度を理解していない証拠だ。科学者が求める条件を満たすような画像は、そもそも公開できない仕組みになっている。

※3
しかし、すべての科学者がタイソンのような否定的立場ではない。理論物理学者のミチオ・カクや、ハーバード大学地球外テクノロジー研究プロジェクト代表で、政府のUAP科学諮問委員会議長もあるアヴィ・ローブは、UAPを「科学的に調査すべき現象」として真剣に扱っている。

エイリアンの文明が10万年進歩していたら?

さらに天文学者は、「エイリアンは100%いるだろうが、地球にはけっして来ない。なぜならば、恒星間の距離が絶望的に離れているからだ」という反論をよく口にする。だが「距離が遠いから来ない」という主張は、現代人の技術レベルを宇宙文明の上限に規定する、典型的な“人間中心主義”だ。

例えば、「量子もつれ」(※4)による非局所性は、すでに「距離の概念」を破壊している。これは、数十億光年離れたクエーサーの光を使った、2018年の「Cosmic Bell Test」でも成立することが観測されており、理論的には無限に離れた距離でも、時間遅延なしで相関する。つまり、光速による制限をまったく受けないのだ。

現代人は、量子もつれを観測することしかできないが、仮にエイリアンの文明が10万年先行していたら、一体どうなるだろうか?

その場合、「量子もつれを利用した情報伝達」「負のエネルギーや真空エネルギーの利用」「空間の折り畳みや高次元空間の操作」「量子場や量子重力領域の工学的利用」「非線形時間の操作」などが、具体的な“テクノロジー”として成立している可能性も高い。つまり距離が絶望的なのは、あくまでも「現代の人類の技術」であって、「宇宙文明の技術」とは限らないのだ。

※4
量子もつれとは、“特別なペア”となった2つの粒子が、どれだけ離れていても瞬間的に同時反応すること。距離は一切関係なく、例え宇宙の端と端同士でも成立する。ただしこれは「情報が光速を超えて伝わる」という意味ではなく、あくまで量子特有の“相関が瞬間的に成立する”という現象である。

超長寿命生命体の可能性

また、別の考え方も可能だろう。「距離が絶望的」という主張は、人間の脳の時間感覚に縛られている。

例えば、「ブリッスルコーンパイン」や「パタゴニアヒバ(アレルセ)」のような巨木、あるいは二枚の葉だけを延々と伸ばし続ける、ナミブ砂漠の「キソウテンガイ」(奇想天外: Welwitschia mirabilis)といった植物は、寿命が数千年単位である。

このような超長寿命の植物に、知性があったらどうだろうか。地下にニューロンのように張り巡らされた根があり、化学物質を用いてゆっくりと情報を送り、菌類などとも連携して森全体が“生体コンピューター”のような一つの思考体を形成していたら、光速の遅さは、我々が感じるほどの障害にはならないだろう。

つまり「距離が絶望的」という主張は、人類の寿命に依存したローカルな常識に過ぎないのだ。

さらに、大気中の酸素を作り出したシアノバクテリアが、層状の堆積構造(ストロマトライト)を基盤として、半導体的な三次元回路を形成し、太陽電池や光コンピューターに近い仕組みを、数十億年という進化の時間スケールで獲得したような惑星があるかもしれない。こういった世界では、意識の時間スケールがまったく桁違いとなる。

UFOにエイリアンは乗っているのか?

また天文学者は、エイリアンが実際に移動することを前提にしているが、これもまた人類の技術観に縛られた発想だ。なぜなら高度な文明は、具体的に生命を運ぶよりも、情報を運ぶ方が圧倒的に効率的と考えるだろう。つまり、何らかの存在が地球に来ているとすれば、エイリアンの乗り物本体ではなく、“情報プローブ”である可能性が高い。

つまり、自律型で自己複製可能な無人観測機を使うのが、高度文明の常識だろうと思われる。エイリアンの目的は、「知的生命体が生息する惑星の観測」「銀河系における生命の分布調査」「量子場の変動観測」「時空間の研究」などが考えられるが、本当の動機は人類の理解を超えたものかもしれない。

いずれにしても、非効率で危険な有人機よりも、情報収集に徹した無人機を使うだろう。またこれならば、自ら動けない超長寿命生命体でも、異星の観測が可能だ。

そう言ったことからも、グラッシュの報告は鵜呑みにできない。高度文明が作ったはずのUFO/UAPは、何で頻繁に墜落事故を起こすのか。さらに、そこから「非人間の生体由来物質が回収されている」→「生きた(もしくは死体の)エイリアンが回収されている」という話になると、「何でわざわざ乗って来るのか? 観光目的なのか?」と理解に苦しむことになる。

また一番疑わしいのが、リバースエンジニアリングについてだ。例えるなら、18世紀の時計職人がスマートフォンを分解しても、通信装置として認識できないはずである。同様に、現代人が量子場推進装置を分解しても、物理法則そのものの理解が追い付かないと思われる。

つまり、技術を吸収することは不可能で、ただ観察するだけになってしまうだろう。それが証拠に、人類は月より先に行けておらず、核融合発電もまだ実現できていない。

そもそもグラッシュ自身も「一次証言者から聞いただけで、自分はクラフトや生体由来物質を直接見ていない」としか明言していないのだ。

『未知との遭遇』の影響

ここからはネタバレしているので、鑑賞後に読んで欲しい。

この映画を観た人なら、誰もが気付くように、スピルバーグは『ディスクロージャー・デイ』で、『未知との遭遇』の自己リメイクを試みている。

UHD BD『未知との遭遇』
6,380円 ソニー・ピクチャーズ UHB-26501

『未知との遭遇』は『ジョーズ』(1975)と並び、スピルバーグの初期代表作であることは間違いないだろう。しかしよく考えてみると、そのストーリーは破綻している。主人公ロイ・ニアリー(リチャード・ドレイファス)が、なぜエイリアンに選ばれたのか説明されないし、彼が家族を捨てる動機も弱い。またこれは仕方がないことではあるが、エイリアンたちの目的が曖昧で、バリー(ケイリー・ガフィー)をアブダクションした動機も不明のままである。コンタクト時に、人間側がシンセサイザーや大型ディスプレイを、予め準備していた理由も曖昧だ。

しかし、何となく感動させられてしまうのは、ジョン・ウィリアムズの音楽による高揚感が影響している。そして何と言っても、視覚効果の力が圧倒的なのだ。

映画のラストに登場するマザーシップは、『スター・ウォーズ』(1977)も手掛けたラルフ・マクウォリーが、コンセプト・デザインを担当しているが、それを光り輝くイメージとして表現したのは、ダグラス・トランブルである。極論すれば、『未知との遭遇』の魅力は、半分以上トランブルの力だったとも言えるだろう。

トランブルは、『2001年宇宙の旅』(1968)の仕事を終えてイギリスから帰国し、自身のプロダクション「トランブル・フィルム・エフェクツ」を設立する。しかしハリウッドからは、ほとんど無視され続け、失望した彼は新しい映像システムの開発に活路を見出した。

UHD BD『2001年宇宙の旅』
6,589円 ワーナー・ブラザース 品番:1000742677

それが、撮影・映写速度を従来の24fps(毎秒24フレーム)から60fpsに上げ、フィルムサイズも70mm 5P(パーフォレーション)にした「SHOWSCAN」(ショースキャン)であり、もう一つは座席全体を映像に合わせて油圧式アクチュエーターで揺らす、「シネライド」というシステムだった。

そのため、他人の監督作品の視覚効果だけを手掛けるという仕事は、(『スター・ウォーズ』を含め)全て断っていた。そんな中で、唯一例外的に引き受けたのが、『未知との遭遇』なのである(※5)。

トランブルが、この企画に積極的だった理由については明確に語っていないが、彼は1969年にカリフォルニア州ジャイアントロックで開催された、「フライングソーサー・コンベンション」(※6)に参加した経験を持っている。

つまり、彼はそもそも熱心なUFO信者であり、最晩年は莫大な私財を投じ、高速旋回可能な電動架台に設置した超望遠レンズ付き4K・120fpsのビデオカメラ、ステレオ撮影による距離・高度・移動速度の計測装置、スペクトロメーターによる物体の組成分析装置、近赤外線や紫外線領域までカバーするセンサー群、レーダーなどの電子計測機器をびっしりと搭載した軍用車両ハンヴィーで、「UFOTOG」(UFO + Photographyの造語)と名付けた、UFOハンティングを行なっていた。

※5
その後は『スター・トレック』(1979)や『ブレードランナー』(1982)、『ツリー・オブ・ライフ』(2011)などの依頼も引き受けている。

※6
「フライングソーサー・コンベンション」は、「宇宙人からテレパシーでメッセージを受けた」と主張する、典型的なコンタクティーのジョージ・ヴァン・タッセルが、1954~77年に主催した、スピリチュアリズム系のイベントだった(出典)。

トランブルは、「UFOは映画の未来に関わる。科学と映像技術の境界にあるテーマだ」と語っており、こういった関心が『未知との遭遇』に参加した動機だったと考えられる。

視覚的イメージの弱さ

しかしそのトランブルも、2022年に亡くなってしまった。そのためなのか、『未知との遭遇』のクライマックスにおける、宗教的な“光の降臨”を超えるビジュアルが、『ディスクロージャー・デイ』にはない。代わりに登場するのは、並んだテレビモニター内の、小さなUFOやエイリアンの映像の列である。

筆者が本作に期待していたのは、『未知との遭遇・特別編』(1980)で描かれるも、後に削除されてしまったマザーシップ内部描写の続きや、その先に無限に拡がる銀河間ネットワークの壮大なイメージを、世界中のコンセプト・アーティストを雇ってでも視覚化してくれることだった。

だから、エイリアンに「戦争は止めて仲良くしなさい」などという、陳腐なメッセージを語らせるなど(実際は具体的に言ってない)、やって欲しくなかった。それよりも観客を、「人間世界など何とちっぽけなのだ」と、ビジュアルで圧倒させてしまう方が、絶対に正しい映像表現ではないだろうか。

映画『ディスクロージャー・デイ』
10月1日(木)全国公開
(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

たとえば、小さなアリが巨大なデータセンターを見ても、それを情報処理装置として理解することはできないだろう。冷却設備も光ファイバー網も電力供給もアリには知覚できず、ただの“巨大な地形”としてしか認識できない。

同じように、人類がもし恒星系規模の巨大構造物──惑星軌道を再設計した巨大リング、恒星を丸ごと包むダイソン球、ブラックホール近傍の量子重力領域を利用した人工構造物、あるいは銀河腕そのものを利用した超巨大インフラ──を目撃したとしても、それを人工物として理解することはできないと思われる。人類には、上位文明の人工物と自然現象の区別すらつかない。

こうした圧倒的なスケールの前では、国家間の諍いなど本当にどうでもよくなる。人類が自らの小ささを悟るために必要なのは、道徳的な説教ではなく、視覚的な“認知の破壊”なのだ。

エイリアンのイメージ

本作で描かれるエイリアンは、お馴染みの「リトルグレイ」、もしくは単に「グレイ」と呼ばれるタイプだ。これには原型があり、1961年にアメリカのニューハンプシャー州で発生した、ベティ&バーニー・ヒル夫妻によるアブダクション体験を起源としている。

事件後、夫妻は悪夢や深刻なPTSD症状に悩まされるようになる。そこで1964年2月22日に、精神科医のベンジャミン・サイモン博士による、逆行催眠(催眠療法)治療を受けた。そしてこの時語られたのが、後に「グレイ」と呼ばれる大きくて黒い杏仁型の目、灰色の肌、大きな頭部を持つ人型生物、UFO内部の描写、人体実験、テレパシーによる会話などである。

この事件は、1966年に「宇宙誘拐―ヒル夫妻の“中断された旅”」といった書籍にもなり、プロジェクト・ブルーブックにも報告された。

さらに、このブルーブックのケースファイルを、直接ストーリーに入れ込んだ『未知との遭遇』によって、「グレイ」というエイリアン像は、一般大衆に強く刷り込まれてしまう。そして『X-ファイル』(1993~2018)など、多くのメディアに登場し、文化的テンプレートとして固定化された。

しかし、ヒル夫妻が催眠療法を受けるわずか12日前の1964年2月10日には、テレビシリーズ『アウターリミッツ』(1963~65)のシーズン1・第20話「宇宙へのかけ橋」(The Bellero Shield)が放送されていた。そして「これに登場したエイリアンの記憶が影響した」という説が有名である。

だが実際に観てみると、むしろ翌週の2月17日に放送された第21話「宇宙人の落とし子」(The Children of Spider County)の方が近いかもしれない。(※7)

いずれにしても、ヒル夫妻に端を発した「グレイ像」は、メディアによって急速に拡散していく。そして、それまで主流だった「友好的で人間的な宇宙人」というコンタクティー文化のイメージを上書きしていった。

これは、1950年代にジョージ・アダムスキーが広めた、“金髪碧眼で白人そっくりの金星人オーソン”や、“ドームと底部に丸い突起を持った円盤”というクラシカルな宇宙人像とはまったく異なる。

※7
なお、エイリアンによるアブダクションの研究には、ハーバード大学医学部教授ジョン・E・マックのように、体験者の証言を精神医学的に検証した人物もいる。

そしてアブダクション体験の多くに、「何らかの処理を受けた後、元の場所に戻される」という奇妙な共通性を見出した。これは、野生動物の捕獲・検査・放獣のプロセスに近い構造を持っており、単なる夢や妄想、メディアによる文化的影響だけでは説明できない側面があると主張する。

特にアブダクション体験者には、「性的な処置を受けた」と語る人が少なくない。しかしこれらの証言の多くは、実際には医療的・生物学的な検査として解釈できる可能性がある。体験者が「性的」と感じた行為が、単に直腸検温や組織採取などの生物学的操作だったという可能性は、マック教授も指摘している。

70年代で止まっているスピルバーグのエイリアン像

だが非常に残念だったのが、『ディスクロージャー・デイ』でも「グレイ像」のイメージを更新できていなかったことだ。基本的に人型で、1Gの重力、地球の大気や紫外線、気温に順応しており、思考速度も人類と同じらしい。

これは、エイリアンを想像しているようでいて、実際には“人類の身体のコピー”を投影しているだけである。つまり、スピルバーグのエイリアン像は、70年代に形成された「人間中心主義的な宇宙人像」から一歩も進んでいない。

なぜ自ら『未知との遭遇』で表現したエイリアン像を、完全に払拭させるほどの、大胆かつ説得力ある想像ができなかったのか。

例えば、『メッセージ』(2016)で描かれたヘプタポッドのように、“人類の身体構造や時間認識とは、まったく異なる知性”を提示することは可能だったはずだ。

UHD BD『メッセージ』
7,480円 ソニー・ピクチャーズ UHB-81116

それから、エイリアンの技術をリバースエンジニアリングしたという、“謎の装置”の機能が……『ハリー・ポッター』じゃないんだからさぁ……。高度文明のテクノロジーが、なぜ魔法ファンタジーの延長線上にあるのか。

さらに言えば、エイリアンの行動も論理的に意味不明で、その能力設定とストーリーの整合性が弱いと言わざるを得ない。具体的に言えば、動物に変身できるほど高度な能力まで持つ存在が、わざわざ人間に昔の部屋を再現させているのは、どうしても演出上の都合が透けて見えてしまった。

映画『ディスクロージャー・デイ』
10月1日(木)全国公開
(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

スピルバーグの古いメディア観

さらに、ワーデックス社から盗み出したストレージが、普通のテレビ局でそのまま再生できる、民生用のデジタル動画フォーマットで記録されており、端子もUSBらしい。軍事機密のはずの映像アーカイブが、家庭用PCと同じ規格で扱えるという時点で、すでにリアリティが破綻している。

そして最終的な情報の暴露が、地方のテレビ局というのもね。いや、最近の若い人は、そもそもテレビを観ていないし、そこにエイリアンやUFOの鮮明な映像が映っていたとしても、「どうせ生成AIでしょ」としか思われないはずだ。つまりスピルバーグは、メディアの進化も理解しておらず、意識が70〜80年代のケーブルテレビ時代のまま止まっているのではないか。

映画『ディスクロージャー・デイ』
10月1日(木)全国公開
(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

現代の情報流通は、SNS、暗号化通信、リークサイト、分散型ネットワーク、AIによる自動真偽解析など、複雑な多層構造を持っている。だがスピルバーグは、情報の暴露を“テレビの生放送”という、70年代的なメディア装置に閉じ込めてしまったのは残念だ。

UHD BD『マイノリティ・レポート』
7,590円 ウォルト・ディズニー WDUF-1185

かつてスピルバーグは、『マイノリティ・リポート』(2002)において、ジェスチャーUI、透明ディスプレイ、パーソナライズ広告、予測警察、都市交通の自動運転化など、当時としては驚異的な未来像を提示していたのに、今回はどうしてしまったのだろう。

折角のタイムリーな題材だっただけに、若手のコンサルタントや、デヴィッド・コープではない脚本家を入れて、2026年らしいエイリアン像を表現して欲しかった。

それでも古びないスピルバーグのアクション演出

映画『ディスクロージャー・デイ』
10月1日(木)全国公開
(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

そうは言っても、スピルバーグらしい場面もあった。

例えば、貨物列車を用いたアクションシーンで、巨大なものが迫ってくる緊迫感の演出は、『激突!』(1971)や『ジョーズ』、『ジュラシック・パーク』(1993)など以来、一貫してその手腕を錆びさせることなく保っている。

また特筆すべきなのは音楽だ。担当したジョン・ウィリアムズは、映画音楽からの引退を公言して久しい。その彼が引き受けたのは、スピルバーグ作品だったからで、それもこれが最後になるかもしれない。従ってその一点だけでも、本作は見逃すべきではないと言えよう。

映画『ディスクロージャー・デイ』特別映像(ジョン・ウィリアムズ編)<10月1日(木)全国公開!>
大口孝之

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、機関誌「映画テレビ技術」、WEBマガジン「CINEMORE」、劇場パンフなどに寄稿。東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。