【VIERA Station】テレビから「ライフプラススクリーン」へ
暗部表現を大幅に向上させた技術に迫る

 前回は新型4Kビエラ「AX800」シリーズの技術的なアプローチについて紹介した。しかし技術的なアプローチが斬新、あるいは正しかったからといって、実際の映像が優れているとは限らない。技術は高画質を実現するための道具でしかない、ということだ。

 ではAX800は、新たなカラーマネジメント技術「ヘキサクロマドライブ」と、改良が加えられたデータベース型超解像技術「4Kファインリマスターエンジン」などの“道具”を用い、どのような絵を作ってきたのだろう。とりわけ製品ごとの差が出やすいシネマモードの画質を確認した。見所となる部分を取り上げていこう。

 シネマモードでの視聴を始め、最初に気付いたのが引き締まった暗部階調の表現だ。暗部表現に関しては、前回解説したように「ヘキサクロマドライブ」による暗部色再現の違いもあるのだが、たとえばダークナイトにおけるバットマンスーツの表現など、色彩感のない“黒の中における黒の表現”が格段に上がっている。

 これは液晶パネルが不得手とする、“液晶シャッターを閉じる直前”の階調表現を改善する「エリアガンマ制御」という制御を行っているためという。一般的には、不安定な“シャッターを閉じる直前”の部分を積極的に使ってしまうと、RGBのバランスが崩れやすくなって黒の色付きが気になり始める。このため、暗部を少し持ち上げ気味に制御するなどして不得手な明るさを避けるよう調整するのが一般的だ。

 しかし、暗部を持ち上げ気味に制御すると黒が浮いて見えてしまう。このあたりの味付けや追い込みはメーカーごとの腕、技術の見せ所である。暗部階調の表現をより高精度に合わせ込むことで、映画再生で重要となる黒の表現力が増しているのである。これはモノクロ映画を視聴する際にも効果的な部分だ。

 映画において黒、あるいは色が乗っている部分であっても暗部が重要な理由は、一般的なテレビ番組とは映像の作り方が違うからだ。テレビ番組などの一般的なビデオ映像は、白側を基準に映像を作る場合が多いが、映画は黒を基準に光を積み重ねて表現するシーンが多用される。

 たとえば近年の邦画では、クリント・イーストウッドの作品を日本を舞台にリメイクした「許されざる者」などが代表的な例だろうか。無論、シーンごとのメリハリを付ける上で、すべての場面が黒いわけではない。しかし、映像演出をもってストーリーテリングを行う中で重要なポイントだ。そして、暗部の表現力こそが、液晶テレビの高画質化における最大のテーマになっている。

 そうした意味では、前作WT600ではやや使い慣れていない印象をもったローカルディミングも、左右エッジLEDライトの大まかな分割でありながら、効果的に使えている点も液晶パネルにおける暗部再現の進歩として、AX800の注目点と言えるだろう。

 しかし、やはり映画画質を評価する上でのハイライトは「ヘキサクロマドライブ」による、暗部の色再現力向上であろう。シネマモードのデフォルト設定では広色域パネル採用による色再現域の拡大を、明るい部分の鮮やかさには用いず、液晶パネルが不得手な暗部における色付きを改善するだけでなく、三次元変換による高精度の色空間変換により、“正しく”色を出そうというアプローチだ。

 前出の「ダークナイト」。バットマンの宿敵ジョーカーが取調室でテーブルライトを向けられ尋問されるシーンがある。真っ黒な背景に浮かぶ白いメイクが剥げかけたジョーカーの顔、真っ赤に塗られたピエロの唇は、充分な黒沈みと色ノリ、それに正確かつ幅広い明暗のコントラストがなければ、上手に表現できない部分だ。

 昨今の映像処理では、この白側を信号処理で持ち上げ、全体のコントラストがあるように見せる手法を採っているものもあるが、このシーンはそうした小手先の技術があまり有効ではない。

 なぜなら尋問する警部の背景は真っ黒ではなく、セリフが入るたびにカメラが相互に細かく切り替わるため、信号処理でコントラストを伸ばしたのでは、相互の精神状況を表現した各カメラの演出設定が活きてこない。この後、蛍光灯が急に灯り、バットマンによる尋問が開始するまでの一連の明るさの変化は、監督が計算で行っているものなので、変に演出的になるとマイナスのイメージが残る。

 その点、AX800シリーズの明暗トーンは正確。その上、暗部の色ノリが同じく正確に出てくれるので、まるで業務用の3板式DLPでの上映を観ているかのような安心感がある。コントラストを改善する対策を打ちながら、しかし暗所での映画鑑賞に堪えられる正確性もあるのだ。多くの場合、店頭でこの画質を検証できない(店頭環境が明るすぎるため)のは残念だが、それでもその実力の一端は垣間見ることができるだろう。

 “広色域パネルであること”を、このように地味な部分に使っているのは、少々訴求点として控え目すぎないか?という意見もあるだろう。シネマモード時の色再現域はBT.709というテレビ/ブルーレイの規格そのものに準拠したもので、明るい部分では色再現域の拡張部分をほとんど使っていない。

 ところが、映像の印象は異なる。暗部の色ノリがよく、明るい領域と暗い領域のつながりが自然となり、全体に色が濃く立体感のある描写になる。平たく言えば、明るめの映像シーンでも「ヘキサクロマドライブ」の効果が観られる。

 それはリファレンスとして利用している65ミリフィルム撮影映画「Samsara」に登場する少年僧の表情、彫の深さを見る度に強く感じたことだ。明るいシーンといっても、100%の明るさはほとんどない。どんなシーンでも、色域拡張の恩恵を各自に体験できる。

 改良された超解像についても前回のコラムを読み返していただきたいが、「Samsara」のような、高画質コンテンツではあるが、暗いシーンはそう多くないというシーンでも、他製品と色に関する描写の違いは驚くほどだと思う。

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