■HDTVをディスクに録りたい テレビ放送が今後どのようなカタチになっていくのか、もっとも影響力の大きい地上波デジタルが始まってみないことには何とも言えないところではある。しかし多くの人の期待は、デジタル放送になればHDTV番組がわんさか増えるにちげえねえ、これでうちのワイドテレビもヒラメ顔表示からようやく解放かよ、というところだろう。 そうなると必要になるのが、やはりHDTVが録画できるレコーダである。現在、BSデジタルのHDTV録画は、D-VHSという図式が一般的のようだ。だがSDTVでは、既にテープのようなリニアなメディアから、ディスクというノンリニアなメディアにシフトし始めている。せっかく次世代のテレビ時代を迎えようというのに、録画メディアが前世代にバックしちゃうのはどうよ、とD-VHSユーザーでさえそう思っているに違いないのである。 そこで、俄然注目を集めるのが、ディスクメディアでHDTVが録画できる「ブルーレイディスクレコーダ」というわけである。この手の製品は、昨年ぐらいから様々な展示会で各メーカーから参考出品されていたが、いよいよこの春、その世界第1号機が市場に出る。 今回はこのブルーレイディスクレコーダ、「SONY BDZ-S77」(以降S77)を取り上げる。
■ 外観はとにかく重厚 ブルーレイディスク(Blu-ray Disc、以下BD)に関しては、規格とかいろいろ知っていかなければならないことは多いのだが、まずはホレ、物欲全開の方のためにルックスから入っていくことにする。 とにかくコイツ、宅急便の兄さんから受け取った瞬間からムムムと大苦戦する重さである。カタログ値で14kg。母子手帳によると(なんでそんなの持ってんだ)、14kgといえばだいたい4歳ぐらいの子供の体重と同じである。棚とかに乗せるつもりの人はとりあえず4歳児を乗せてみて大丈夫かどうかを調べてみるといいだろう。4歳児はどうやって手配するのか筆者はしらん。 ボディは、見える部分は全部アルミ削り出しという、どっしりしたもの。正面下部のパネルは写真で見ると激しく斜めに出っ張っているように見えるかもしれないが、実際はほぼ垂直に張り付いている。形が台形なのでそのように見えるのである。
パネルを閉じた状態で見えるスイッチは、電源、パネルの開閉、ドライブの開閉のみ。このボタンがイカしてて、静電タッチセンサーになっている。よくエレベータのボタンなんかでありますな。つまり押しても凹んだりしないのである。むー金かかってるぅ。 開閉ボタンを押すと、電動でしずしずとパネルが下に降りてくる。そういうところを編集部がばっかだなぁ(笑)、わざわざムービーで撮影しちゃってるのでそれを見て頂こう。
パネル内部にはドライブユニットと、その両側に操作ボタン類がある。表記は当然英語オンリー。また内部パネルは両側からブルーの照明によって照らされるという凝りようだ。ブルーといえば、前面上部のディスプレイ部もブルーのハーフミラーになっている。メディアを入れると、中央部にブルーの点線が表示される。
そしてこれがブルーレイディスクだ。片面単層で、23GBの容量を持つ。メディアはケースに完全に囲われており、表からはメディア表面は見えない。
裏面に開口部があり、メディア側面にある歯車を回すことで記録面が露出する。ローティングと同時に開口部が自動的に開くという仕組みだ。メディアのローディングには、およそ30秒程度かかるようだ。 背面に回ってみよう。端子類はほとんど左側に集まっている。まず入力は、地上波アナログRF、BSデジタル/アナログRFのほか、アナログAV入力が2系統。出力は各アンテナのスルーと、アナログAV出力が3系統。うち1つはD4端子となっている。 またデジタルオーディオ出力として、コアキシャルと光出力が1つずつある。背面に2つあるi.LINK端子は、別のブルーレイレコーダとリンクするためのものだ。マニュアルによると、BDレコーダ以外とは繋がらないと書いてある。それから前面パネル内に、DVカメラ用のの入出力端子として、i.LINK端子が1つある。
そのほか電話のモジュラーがあるが、これはBSデジタルチューナなどでおなじみのように、ユーザーのステータスを局へ送信するために使われる。 リモコンもシルバーで、なかなか高級感のある作り。材質は樹脂だが、塗装が凝っている。中央部のジョイスティックがメニュー操作用、その下にあるレバーが早送り用となっている。実際の使用では頻繁に使うものゆえ、表示は日本語になっており、操作性が重視されている。 リモコン底部には「開」ボタンがあり、これを押すと上部がスライドして開く。中にチャンネルボタンや録画ボタンなどがある。
■ 使い方は超カンタン では実際に番組を録画してみよう。デジタル放送をダイレクトに録画する場合は、もうデータそのまま記録するだけなんで、画質設定みたいなものはない。この録画モードをDR(ダイレクトモード)と言い、HDTVなら1080iでも720pでも1枚のメディアに2時間記録できる。 デジタルそのままじゃなくてSDに再圧縮してもいいや、という場合は、HR、SR、LRの3モードが利用できる。録画時間は下記の通りだ。
もちろん地上波アナログ放送の録画にはDRモードは使えないので、上記HR、SR、LRの中から選ぶことになる。DV端子経由のDVカメラからの録画も同じだ。だが実際には、45万円もする機材を買ってアナログ地上波を圧縮で録るってのもどーかと思うので、これ以降はBSデジタル波をDR録画するという話に集約する。 予約の流れを見てみよう。リモコンの「番組表」ボタンを押すと、BS番組表が表示される。これで録画したい番組を選択し、「録画予約」を選択するだけだ。予約録画に関しては、HDDレコーダなどを使ったことがある人なら簡単に使えるだろう。 録画した番組を見るには、リモコンの「タイトルリスト」を押すと、ディスクの録画リストが表示される。見たい番組を選択して再生するだけだ。DR記録では同時に放送されているデータもそのまま記録されているので、「d」(連動データ)ボタンを押せば、データ内の情報にアクセスできる。放送中に行なっているのとまったく同じ、完全にタイムシフターとして機能すると考えていいだろう。
■ 外部機器は…… ではそのほかの機能を探っていこう。まず気になるのは、i.LINKを使ってほかのHDTVレコーダと繋がらないのか、という点だ。S77にはHDDが搭載されていないので、記録容量としてはメディア1枚分の2時間である。狙った映画などを録る分にはこれでも構わないが、留守録などして貯めておくには不十分。できればHDDレコーダと繋がったりしてほしいものだ。
BDレコーダといっても現状はS77しか存在しないので、同じ機種同士でダビングできるぐらいしか使い道がない。別機種のHDDレコーダやD-VHSで録ったものからのダビングというのは、今のところできないもとのして考えた方が良さそうだ。
またブルーレイディスクから来る制限だろうが、HDDレコーダなどでおなじみのスリップ再生機能がない。これは単純に転送レートの問題だろうから、将来レコーダにHDDが搭載されれば可能だろう。先日SONYが発表したプロ用規格の「青紫色レーザーディスク」ではピックアップを2つ使って高速化しているが、もしブルーレイディスクだけを使ってやろうとするならば、こういうことになるだろう。 しかしそれにはメディアの構造も変えなければならないので、この方向性は無いと思われる。やはりスリップ再生を行なうには、HDD搭載機を待つしかないだろう。まあそうまでしてスリップ再生しなきゃならんのかオマエのイノチなのかと言われると、そうでもなかったりする。 録画した番組の編集機能だが、AB間の削除、番組の分割といった基本機能は揃っている。DVDと違ってメニュー画面の決まり事みたいなのが無いので、DVD-RWやDVD-RAMのVRモードみたいな感じだと思っていればいいだろう。
また、東芝のRDシリーズなどは、メディアになにが入っているかを知るためのライブラリ機能が充実しているが、S77もそういう機能は持っている。だがサンプルのメディアが1枚しかないので、これがどのぐらいの使い勝手なのかを調べることができなかった。実際の使用では、メディアを沢山消費するだろうから、この機能は重要になると思われる。
■ 総論 ブルーレイは大容量でしかもHDTVがダイレクトに録画できるメディアとして、AVマニアの間では注目度が高い。しかし現状はまだ規格の全てがはっきり決まっていないこともあって、S77はかなり先物買いという気がする。 というのも、デジタル放送はBSのみで地上デジタルは未対応、HDではメディア1枚に2時間しか録画できないというのでは、ちょっと使い勝手が悪い。まだ規格策定が進行中の2層メディアにもROMメディアにも対応しないなど、先物なりのリスクを背負っている。 やはり普通の録画機として使うのであれば、現状のHDD/DVDレコーダのように、HDDで録って外部メディア書き出し、という便利さは捨てられないのではないか。またメディアが1枚3,500円というのも、普通に使うにはちょっとキツい値段だ。 しかしこの本体の作りを見ると、45万円と言われてなるほどそのぐらいはしちゃうだろうなぁ、と思わず納得してしまうほど丁寧に作り込んである。低価格化が進むHDD/DVDレコーダはだんだんデザインの質が低下しているが、これは久々に高級機と呼ぶにふさわしい作り込みの機材だ。 しばらく使ってみたが、機材の安定度はさすがだ。何らかのエラーが出ることは一度もなかった。またデジタルチューナも含めて全部一台で完結しているので、ほかの機材との連係操作の面倒がない。普通のDVDレコーダと同じような感覚だ。 思うに今S77を買うということは、いわゆる「ジャケ買い」の世界かもしれない。ジャケ買いとはCDやDVDを買うときに、中身は全然知らないんだけどジャケットがカッコいいから買う、みたいな買い物の仕方だ。こういう買い物は、たとえいくらお金を持っている人でも、生理的にできる人とできない人がいる。そういうことができるかどうかは、持って生まれた資質なのである。 さあさあ世界初のブルーレイディスクレコーダ45万円也。こんなカッコいい機材は、もう当分お目にかかれないだろう。あなたはこれをジャケ買いするだろうか。
■ 次週予告 さぁて来週のElectric Zooma!だが、筆者は米ラスベガスのNAB取材のため渡米するので、いつものスケジュールでは公開されないことをあらかじめお断わりしておく。 この国際情勢である。向こうに行ってなんかいい感じだったらアップするかもしれないし、「その前にそもそも行けるんでしょうか」って感じで臨機応変に行きたいと思う。ようするに適当なのねとか言わないように。
□ソニーのホームページ (2003年4月2日)
[Reported by 小寺信良]
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