■ 期待のデジタル伝送対応コードレスヘッドフォン 東北パイオニアの「SE-DIR800C」は、デジタル伝送のコードレスヘッドフォン。同社は、昨年7月に初のドルビーヘッドフォン対応コードレスヘッドフォン「SE-DIR1000C」を投入しているが、実売価格で5万円弱とかなり高めだった。 今回発売された「SE-DIR800C」は、その下位モデルと位置づけられており、実売価格も35,000円弱とお手ごろになった。コードレスヘッドフォンでは、より低価格なアナログ赤外線伝送の製品も発売されているが、ヒスノイズが多く、聞いていてやや気になるのも事実。先日レビューした、ソニーの「MDR-DS3000」もアナログ伝送の製品で、2万円弱と価格は安いものの、やはりノイズが気になることがあった。 コードレスヘッドフォンの、寝転がりながらでも聞けるという利点を生かしながら、高品質な再生性能を期待するのであれば、やはりデジタル伝送のものを選択したい。さらに、「SE-DIR800C」では、DTSやドルビーデジタル、ドルビープロロジック IIのデコーダを搭載しているほか、「SE-DIR1000C」を引き継いで、ヘッドフォンでバーチャル5.1ch再生を行なうドルビーヘッドフォン機能も備えている。 要するに現状手に入るデジタル伝送のコードレスヘッドフォンとしては最も安く、さらに、DVD視聴に最適な機能を満載している。 ■ パッケージに巨大なドルビーヘッドフォンロゴ
パッケージは赤基調の横長のもので、ヘッドフォンのものとしてはやや大きめ。「PIONEER」のロゴや、型番より大きく印刷された「DOLBY HEADPHONE」のロゴが目を引く。 伝送方式は、非圧縮デジタル赤外線伝送で、トランスミッタ部とヘッドフォン部より構成される。24bit非圧縮伝送により高品質な再生を可能にしたという。 ヘッドフォン部は密閉型で、高磁力希土類マグネットを採用した40mm径のユニットを搭載。イヤーパッドはジャージ素材。左ハウジングに単3ニッケル水素電池2本を収納し、連続使用時間はカタログ値で約16時間。電源スイッチも左ハウジングに備えており、右ハウジングにはボリュームコントローラを搭載している。左右の各ハウジング下部には赤外線受光部を備えている。 ヘッドバンドはフリーアジャスト式で、重量は約250g。なお、ヘッドフォン「SE-DHP800」の単体販売も行なわれ、価格は19,800円。複数台同時使用も可能となっている。また、SE-DIR1000C用のヘッドフォン「SE-DIR1000(25,000円)」も利用できる。
トランスミッタ部は、横置き/縦置き対応で、縦置き用のスタンドも付属。今回横置き可能なデザインとしたのは、CRTテレビの上部に設置することを考慮したためという。前面左右に赤外線発光部を装備、入力や、ドルビーヘッドフォンやドルビープロロジック II、入力信号のステータスを示すインジケータ、ワイヤードヘッドフォン用のヘッドフォン出力も備える。 上面には、電源ボタンやドルビーヘッドフォンのモード切替ボタン、プロロジック IIのモード切替、入力切替ボタンを装備。ワイヤードヘッドフォン用のボリュームも備えている。また、充電機能も備えており、上面の蓋を開けると単3ニッケル水素充電池×2本の充電が行なえる。 背面には、光デジタル、同軸デジタル、アナログの3系統の入力端子を装備。また、アッテネータ(ATT)スイッチも備えており、アナログ入力の感度を切り替えられる(0dB/-8dB)。 ちなみに、ドルビーヘッドフォンのハードウェアデコーダを持ったヘッドフォンは現在、本機と、「DE-DIR1000C」となっている。
■ 装着感は良好。ヘッドバンド連動電源が欲しい 接続は簡単で、トランスミッタをDVD/CDプレーヤーなどの出力機器とつなぐだけで利用できる。 ヘッドフォンの装着感はなかなか良好で、ジャージ素材のややざらついた質感も耳馴染みは悪くない。側圧も強くなく、ちょうどいい具合のホールドが得られる。 ヘッドフォンでの再生時には、左ハウジングの電源スイッチをONにする必要がある。最近のコードレスヘッドフォンでは、フリーアジャスト式のヘッドバンドが電源と連動するタイプのものが増えており、「DIR1000C」でもこの機構が採用されていたが、「DIR800C」では採用が見送られている。 個人的には、使用前に電源を入れることはさほど億劫ではないのだが、外した後に電源を切り忘れて、いざ利用しようとすると電池が切れている、といったことをやりがち。できれば、ヘッドバンド連動電源スイッチにして欲しかったと思う。 まずはヘッドフォンとしての実力を試すため、音楽を聞いた。デジタル伝送なので、ボリュームを最大にしても伝送ノイズは皆無で、非常に快適。40mm径の密閉型のためか、若干音場の広がりに欠ける印象はあるが、再生レンジは広く、高域まできちんと再生できる。 手元にあったソニーの「MDR-CD480」(5,500円)をトランスミッタ部のヘッドフォン出力に接続して聞き比べると、サラウンドの再現性はCD480が若干上回っているが、音の情報量はDHP800が勝っていると感じた。 なお、伝送距離はトランスミッタの上下左右 各30度、最長8mまでカバーしている。遮蔽物が無ければ、カタログ値より5度づつぐらい広く利用可能だったが、デジタル伝送のため、徐々に音が遠くなるという感覚でなく、「プチッ」と突然切れるのでやや戸惑う。 ■ ドルビーヘッドフォンの効果は大きい 本機の最大の特徴であるドルビーヘッドフォンは、後段の処理のため、ドルビーデジタルだけでなくDTSでも適用可能。また、DTS-ESやドルビーデジタル EXなどの6.1chフォーマットもサポートしている。 ドルビーヘッドフォンには、残響を抑えた「DH1」、適度な残響のある「DH2」、小規模な映画館を模した「DH3」の3モードが用意される。数字が大きくなるほどホールサイズが大きくなるため、音の広がりが増えるが、音の定位や情報量が薄くなっていくといった印象。 早速適用してみると、ステレオ再生の時に比べてセンターの定位が明らかに認識できるようになりセリフの明瞭性が増すほか、音場の広がりが体験できる。数分聞き続けていると、前後の移動も認識できるようになる。効果がわかりやすいのはDH3だが、音質とのトレードオフともなるので、この辺りは作品の特性に合わせて好みのモードを選択したい。 360度音が回転するデモ音声でも音の回転は感じられるが、前後が短い楕円軌道を描いて回っているという印象で、前後の距離感が完璧に再現されるというわけではない。大きな移動感が感じられるというよりは、自然な包囲感が得られるという要素の方が強く、必ずしもスピーカーシステムと同等に音の移動がわかるというものではない。しかし、映画の場合、きちんとした包囲感と適度な移動感により、ステレオで聴くよりははるかに臨場感ある再生が楽しめる。 ただし、ドルビーヘッドフォンも万能というわけではなく、高音質のDVDなどを視聴する際には、スルーで聞いた方がいい場合もある。たとえば、「DTSデモディスク 7」に収録されている、ETの自転車の空中遊泳シーンは1,536kbpsのDTS収録となっているが、ジョン・ウイリアムスの有名な音楽が鳴り響くクライマックスシーンで、ドルビーヘッドフォンをONにすると、包囲感や移動感は出るものの、音の奥行きやダイナミックレンジが狭くなる。 同ディスクに別音声として収録されている192kbpsのドルビーデジタル2chだと、ドルビーヘッドフォンにしてもさほど大きな音質差を感じさせないので、低レートのオーディオ再生時にはほとんど影響ない。オーディオレートの違いをきちんと聞き分けられるヘッドフォンのクオリティを有しているとも言えるだろう。 ドルビーヘッドフォンにより、セリフのセンター定位や、LFEの量感などが大幅に増すので、映画視聴の場合は基本的にONでいいと思う。音楽DVDなどを視聴する際には、好みによって使い分けてもいいという感じだ。なお、デジタル入力の対応サンプリング周波数は、44.1/48kHzまでなので、96kHzのDVDオーディオなどには対応しない。 なお、ステレオ入力時のドルビーヘッドフォンは前方の2つのスピーカーをシミュレートして再生する。また、ドルビープロロジック IIデコーダにより、ステレオソースを5.1ch化し、その後段でドルビーヘッドフォンをかけることも可能だ。プロロジック IIは、ムービー/ミュージックの切り替えが可能となっており、試しにパソコンのMP3ファイルなどを再生してみたが、さほど音質を犠牲にすることなく、サラウンド感が向上した。 なお、満充電時の連続使用時間は約20時間となっており、連続で10時間以上再生した際も効果や感度の低下などは感じられなかった。充電時間は10時間。 ■ デジタル伝送のメリットは大きい。DVD視聴に最適 やはり、デジタル伝送によるノイズの低減のメリットは非常に大きい。以前レポートしたソニー「MDR-DS3000」も、ヘッドバンド連動電源や充電スタンド装備など、かなり高機能な製品だったが、アナログ伝送のためやや音質面では不満の残るものだった。 「SE-DIR800C」では、デジタル伝送による音質の向上に加え、ドルビーヘッドフォン機能も搭載。ワイヤレスヘッドフォンによるDVD視聴で、現状考えられる機能を全て盛り込んでいる。さらに、ワイヤードのヘッドフォンも追加できることを考えると、MDR-DS3000の実売2万円弱に比べ、35,000円弱と約15,000円高価になるが、それだけの価値は十分持っているといえるだろう。 ほかに競合製品といえそうなのは、上位モデルの「SE-DIR1000C」。こちらは実売で5万円弱と約15,000円高くなるが、開放型で50mmユニットを採用し、音質的には上位に位置する。また、ヘッドバンド連動電源などの便利な機能も搭載している。こうした機能に何処までの価値を見出せるのか? というのが購入時のポイントになりそうだ。個人的には、競合製品を見回してみると「SE-DIR800C」のバランスのよさは際立っていると思う。 □東北パイオニアのホームページ (2003年11月14日)
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