■ マルチチャンネル録画ブーム?
テレビ録画ソリューションにも、その時々でトレンドがある。そしてこの夏のトレンドはどうやら、マルチチャンネル録画のようだ。2002年に発売されたソニーの初期型コクーンはWチューナ搭載の先がけであった。しかしその後、カノープスが翌年2月にダブルチューナ搭載キャプチャカードをリリースしたり、10月にエプソンダイレクトが2番組同時録画可能なPC「EDiCube MW2500H」を発売したり、日本電算機が6チャンネル録画を同時録画できる「BigChannel」を発売したりしたが、大きな流れにはならなかった。 その状況が一変したのは、おそらくソニーのVAIO 第2章の発表会でコンセプトモデル出品された、VAIO「type X」からじゃないかと思う。7系統の地上アナログテレビチューナと1TB以上のHDDを搭載、同時に7ch録画というぶっちぎったスペックに、まずパソコン業界が動いた。 何だぉカードいっぱい挿すのアリかぉってんで、チューナカードやUSBチューナユニットをリリースしているエスケイネットやアイ・オー・データが、チューナ複数接続という方向に走り出したのは興味深い。 そして家電業界でも、マルチチャンネル録画機能が再燃しそうな気配だ。東芝RDシリーズの新モデル、RD-XS53およびXS43は、WチューナWエンコーダを搭載した「W録」機能で注目を集めている。プレスリリースには発売日が8月1日とあるが、一部のショップではそれ以前に販売が開始されたようだ。 今回はその上位モデル、RD-XS53のレビューをお送りする。 ■ ガワのコスト削減? でも中味で勝負
一新されたフロントパネルは、わりとのっぺりとした作りとなった。また筐体部も黒に近いブルーグレーとなり、シルバーが主流のレコーダにおいてはやや異質な存在感を醸し出している。Wチューナ、Wエンコーダで内部コストがかさむのか、筐体デザインは極力コストを抑えた作り、という印象だ。
アルミ板のフロントパネルには、電源、エンコーダ切り替え、あとはレコーダ操作に必要最小限のボタンがあるのみで、チャンネル切り替えなども本体にはない。左側下部の隠しパネル内にも、外部入力端子があるのみ。ただ必要な表示は惜しまず、R1(エンコーダ1)は星マーク、R2(エンコーダ2)は月マークでアクティブなほうが点灯する。また各エンコーダの録画状況や挿入メディアの種類もLEDで表示する。
内蔵HDDは320GBと、かなり余裕がある。現在レコーダのHDD容量は、上位モデルでは250GBが主流で、それ以上の容量は日立 MS-DS400の400GB、NEC AX300Hの300GBがある程度。容量では日立に続くNo.2の位置にある。 DVDドライブは、自社開発のDVD-RAM/R/RW対応ドライブで、DVD-Rが4倍速、DVD-RAMとDVD-RWが2倍速。以前のRDでは、-RWはビデオモードだけサポートしていたが、デジタル放送がスタートしてCPRM対応の選択肢が多い方がいいということだろうか、RD-X4の機能拡張モデルRD-X4EX以降は、VRモードもサポートする傾向にあるようだ。
背面に周ってみよう。普及レンジのXSシリーズとは言いながらもハイスペックマシンなので、サポート端子類は多い。まず入力は、アナログAV入力3系統、DV1系統、D1入力1系統。出力はアナログAV2系統にD2端子、音声は光と同軸の両方を装備している。またY/Cb/Crコンポーネント出力まである。 地上波のチューナは2つあるとはいっても端子は1つで、内部で分配されている。アナログBSチューナは1つ。コントロール系として、スカパー!チューナと連動するための端子がある。今回はGRは搭載せず、また映像DACも10bit/54MHzと、映像クオリティを追求するよりも、ユーザビリティ重視のモデルだと言えそうだ。 また今回はLAN端子が大活躍する。番組表は東芝オリジナルのDEPGで、ネットワーク経由で取得する。さらに、ネットワークで接続した別マシンへのコンテンツコピーも、可能になった。ただしダビングの相手は、今回発売のXS53/43以降のモデルとなり、旧モデルやPCへの転送はできない。もちろんコピーワンスのコンテンツもコピー/ムーブはできない。 リモコンも大幅にリニューアルされた。RDのリモコンといえば、十字キーの周りに早送りやコマ送りといったシーソーボタンが円形に配置された独特のデザインだったが、今回はボタン配列もシンメトリックで、オーソドックスな印象を与える。色は本体に合わせた黒で、形状は竹を半分に割ったような感じと言えばいいだろうか。先端になるにしたがって平たくなっており、持ちやすい。
ボタン配列で目を引くのは、「簡単ナビ」ボタンだ。これはよく使う機能のショートカットメニューを呼び出すためのボタンとなっている。また従来機では操作の特徴となっていたA、Bボタンが廃止され、「モード」、「戻る」ボタンがそれに変わる。 フタを開けると、DVD操作系のボタン類が集められている。確かに市販DVDはレコーダでは見ないという人もいるだろうから、このような操作性の割り切りはすっきりする。また従来同様「設定」ボタンもこの中だ。 ■ ユニークな番組表
やはり最初に気になるのは、独自方式のDEPG番組表だ。RD-X4の機能拡張キットとして既に運用されている機能だが、普及モデルで普通に番組表が使える意義は大きい。 東芝では以前から「○○ナビ」という呼び方をしているが、番組表は「番組ナビ」である。ボタンを押すと、いきなり番組表ではなく、まず番組ナビのメインメニューが表示される。ここでは番組表示スタイルの選択や、ジャンル別、検索といった機能にアクセスできる。 多くのレコーダでは、まずストレートに番組表が表示され、その表示オプションとしてジャンル別などの表示に切り替えるというスタイルが主流だが、最初に必ず全部の機能にアクセスできるような作りは、マニアックだ。 まずは普通に「全チャンネル表示」を見てみよう。縦にチャンネル、横が時間軸となっており、標準では1画面2時間表示だ。だがこれはクイックメニューから4時間、6時間表示に切り替えることができる。4時間表示ではまだ番組名がなんとなくわかるが、6時間表示になると、もうほとんど何が何だかわからない。ジャンルごとの色分けでざっくり編成を把握するといった使い方になるだろう。
このような番組表のズーム機能は、比較的頻繁に使用するものだ。クイックメニューとはいっても、実際にはカーソル移動やサブメニューに入って行っての切り替えになるので、全然クイックじゃない。できればリモコンにボタンが欲しいところだ。 操作性の面でもう1ついうと、RDのリモコンは、以前からチャプタースキップボタンを、GUI画面のページ切り替えと兼用している。今回もそれは変わらないのだが、今まで十字キーの周りに配置されていたスキップボタンが、今回のリモコンデザインでは格子状に並んだボタン群の中に埋もれてしまっているため、使いづらい。頻繁に使用するキーなだけに、もうちょっとボタン配列がなんとかならなかったのか、惜しまれるところだ。 ユニークなのは、番組表のチャンネル並び順まで自由に設定できるところ。例えばNHK2波はBSと一緒に並べておく、といった自分なりのアレンジも可能。
モードボタンを押すと、チャンネル別表示に切り替わる。特定の放送局の、8日分のスケジュールが俯瞰できる。今までチャンネル別表示といえば、ある局の1日分の番組が俯瞰して見られるという表示形態だが、こういう表示方法は変わっている。だが再放送枠や帯番組を探すには、意外に便利かもしれない。 次に、メインメニューにある「番組リスト」機能を見てみよう。ここにはプリセット5つと、自分でキーワードを決められる「お気に入り」が3つある。プリセットの5つも、実は「番組ナビ設定」から好きなものに変更できる。さらに3つの「お気に入り」には、キーワードを各20個まで登録できるなど、強力だ。また複数の単語をスペースで区切って1つのキーワードとして登録すれば、AND検索ができるなど、自由度はかなり高い。 「番組検索」では、3つのキーワードで単発の検索ができる。もちろんフリーで入力できるほか、事前に入力しておいたキーワードやお気に入りからも引っ張って来られるほか、本体に記憶されている人名ライブラリからも選ぶことができる。人名ライブラリは、データベースとして十分な数とは言えないが、気になるタレントはキーワードで登録しておけばいい。
■ 簡単だが奥が深いW録
ではいよいよW録機能を試してみよう。番組表で、重なる時間帯に予約を入れてみる。1つめの予約はそのまますんなり登録されるが、重複する時間帯の別番組を予約しようとすると、3つの選択肢が表示される。ここで「W録を切り替えて予約する」を選ぶと、今度はもう1つのエンコーダとチューナを使って予約が設定される。 地上波の重なり予約はこのように非常に簡単なのだが、難しくなるのがBSを絡めた予約だ。BSチューナはR1(エンコーダ1)にしか接続されていないので、BSの録画には必ずR1を使うよう設定しなければならない。先に地上波の方でR1で予約を入れているときは、使用エンコーダをR2に変更する必要があるわけだ。 同じ番組をもう一度選択すると、同じように3つの選択肢が出てくる。このうち、「この番組を含む予約を確認する」を選ぶと、使用エンコーダを変更することができる。ところが既にエンコーダがR2で予約が入ってる時は、ダイアログが出ずにすんなり二重に予約ができてしまう。
これにはわけがあって、なんせエンコーダとチューナが2つあるので、同じ番組をビットレートを変えて録画ができてしまうのである。まあこれはこれで、ここぞという気合いの録画時には便利なのだが、番組ナビでいろいろいじくってるうちに二重三重に予約を入れてしまって四苦八苦することになりがちだ。地上波を選んだときは、R1R2関係なくダイアログの出方を統一した方が、混乱がないかもしれない。 整理すると、本機の場合、エンコーダのプライオリティはR1がメインという位置づけにある。BS録画、DV入力、ラインU/レート変換ダビング、DVD-RへのVideoモード直接録画は、R1のみだ。一方D1入力だけは、R2のみになっている。さらにR2は、容量にしてDVD4枚分以上の連続録画ができないという、妙な制限もある。いろいろな機器を接続していくと、使い方がかなり複雑になる。基本ルールをしっかり覚えておく必要がありそうだ。 ■ 未だ発展途上のGUI
録画機能では、新長時間モードとして、ビットレート1.0Mbpsを搭載した。320GBのHDDに最大570時間、DVDに8時間録画できるそうだが、筆者は全然興味がない。ポータブルプレーヤーに転送するといったソリューションがあるなら別だが、テレビにしか繋がらないレコーダで、そこまでMPEG-2の低ビットレートを頑張る意義がよく見えない。東芝技術陣も低ビットレートの画質向上に向けて頑張ったんだと思うが、残念ながら所詮鑑賞に堪えうる絵ではないことには変わりないのである。 参考のために、代表的ビットレートの録画サンプルを掲載しておく。
GUIの改良は、少しずつだがなんとかしようという努力は成されている。「簡単ナビ」は、録画、再生、ダビングなどの機能をまとめたメニューだ。所詮は「録るナビ」や「見るナビ」へ飛ぶだけなのだが、それでもリモコンの手元をいちいち見なくていいというのは、子供やお年寄りにはありがたい機能だろう。 ただここに「設定」まであるのは、善し悪しだ。あまり詳しくないユーザーが設定メニューに迷い込むと、ヤバイことになる。さらに設定メニューから抜けるためには、リモコンのフタを開けて「設定」ボタンを押さなければならないという、行きはヨイヨイ帰りは怖い状態なのである。このあたり、ちょっとパニックの元になるんじゃないかと思うのだが。 さらに、現在使用できないメニューとしてグレーアウトしているボタン上には、カーソルが移動しないようにしたほうが、十字キーの操作がさらに簡略化できるはずだ。わかりやすさを表現しようとするあまり、「全部みっちり手動操作」のようになっている。 録画番組を見るための中心となる「見るナビ」画面で、フォルダ分けができるようになったのは大きい。最大で24個設定でき、名前も自由に付けられる。もちろん録画予約時に振り分けも可能だし、番組のフォルダ移動もできる。そのほかパスワードで閲覧保護できる「カギ付きフォルダ」も設定できるため、アレな映像とかを保管することもできる。
一括移動も可能で、今までのようにルートにわーっと番組が散らばることもなく、すっきり使うことができる。フォルダの削除は、「フォルダ解体」というクイックメニューを使う。中の番組は自動的にルートに展開されるなど、細かいところまで配慮されている。おそらくフォルダ機能搭載のレコーダの中では、もっとも柔軟な設計だろう。 ■ 総論
あいにく筆者宅はスカパー! チューナがないので、連動機能などはテストできなかったが、それでもW録の威力は十分理解できる。裏番組だのなんだのを気にせず自由に録画予約できるだけでもメリットは大きいが、地上波、BS、CSを1台で録画できるという点でも、テレビの下がずいぶん整理できるだろう。柔軟性の高い番組表も、自社でサービスを持つメリットがよく現われている。 さらにVHSをDVDにダビングして整理したい人にも、現実的な解答となるだろう。外部入力からの録画をR2で行ない、予約録画はR1で設定しておけば、予約時間を気にすることなく、いつでも作業することができる。このような用途では、今までVHSまで付いた3in1レコーダがベストとされてきた。だが既にVHSデッキがあり、繋ぎ方も自分でわかるのであれば、いずれは使わなくなる機能にコストを割いたマシンはもったいない気がする。 その反面、1台でいろんなことができるということは、その分だけ多機能となり、使いこなしが複雑になるということでもある。ちなみに付属のマニュアルはA4サイズで、「準備・簡単操作編」が68ページ、メインの「操作編」が268ページ、合計336ページという超大作となっている。 また操作体系のセオリーが一貫しておらず、既にRDユーザーの筆者でも、多くの新機能はマニュアルを当たらないと、さっぱり使い方がわからない。難解というほどではないが、クイックメニューに設定があるのかと期待すれば、実はメインメニューの表に設定ボタンがあったりと、なーんか予想の範囲外のところに設定があったりするのだ。旧館、本館、新館、ニュー新館と、建て増し建て増しで複雑怪奇な建物になった箱根の温泉旅館みたいになっている。 おそらく旧体制のクイックメニュー依存スタイルの部分と、メインメニューに機能を集約する部分とが混在しているところが問題なのではないかと思う。これだけの機能だ、整合性を取るだけでも大変な作業だろうが、もう少しメニューを体系化して全体が俯瞰できるようなGUIに整理しないと、このままでは一度ちらっと見たが二度とは出せないマボロシ機能とかも出てきそうである。 RD-XS53は、店頭予想価格が15万円前後とかなり高い部類にはいるが、ネットでは既に10万ちょいぐらいまで下がっており、徹底的にレコーダで遊びたい人には、面白い機材だろう。スカパー! 連動が必要ない人は、2~3万円安いXS43もいい。マニュアル読破をいとわないならば、録り貯めマニアには是非モノのレコーダと言えそうだ。 □東芝のホームページ (2004年8月4日)
[Reported by 小寺信良]
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