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第42回:卓越したレンズ解像力が魅力の720pプロジェクタ
~ 自社デバイス採用で差別化 ソニー「VPL-HS50」~


 松下「TH-AE700」、三洋「LP-Z3」、エプソン「EMP-TW200H」など、720p対応の液晶プロジェクタが市場投入され、年末商戦の人気プロジェクタとなっている。ソニーも人気の液晶プロジェクタ「シネザ」をモデルチェンジ。720p/レンズシフト対応の「VPL-HS50」を発売した。

 上記の3モデルはキーコンポーネントとなる液晶パネルが共通で、エプソン製D4パネルだが、VPL-HS50ではソニー内製の0.73インチ透過型液晶パネル(1,280×720ドット)を採用するなど、他のプロジェクタと比べると独自色の強い製品だ。


■ 設置性チェック
  卓越したレンズシフト機能と1.6倍ズームレンズ採用。設置自由度は高い

 本体サイズは348×360×135mm(幅×奥行×高さ)mmと、TH-AE700やLP-Z3などの競合機と比較すると奥行きや高さが大きい。重さも約5.6kgと競合機よりも約1.5kg~2kgほど重い。

VPL-HS50

 ただし、ソニーならではの凝ったボディデザインとスマートな配色の効果か重厚感はそれほどない。もっとも、奥行きはそこそこあるので、本棚などの天板への疑似天吊り設置などを計画している人は、天板の幅がVPL-HS50を載せるのに十分かどうか吟味する必要がある。

 投射モードは台置き、天吊り、フロント、リアの全モードに対応。天吊り金具「PSS-610」(52,500円)も純正オプションとして設定されている。ちなみに、このPSS-610はVPL-HS50専用ではなく、歴代VPLシリーズとの兼用製品であるため、既にVPL-VW12HTやVPL-HS20、その他のソニー製プロジェクタを導入している設置環境であれば容易に差し替えることが可能だ。

 投射レンズには1.6倍ズームレンズを採用。ズーム最大時には100インチ(16:9)を投射距離約3.0mで投射でき、ズーム最小時には投射距離を約4.5mにしても100インチ(16:9)での投射距離が可能となっている。短焦点だけをウリにしたモデルとは違い、小さめな部屋から大きめな部屋へまで幅広い設置性に配慮したレンズ性能となっている。部屋の最後部に設置しての100インチ(16:9)投射が約6畳から約12畳程度の範囲の部屋で行なえる。

前面 レンズシフト用の調整ダイヤルを装備。奥行きは360mmとやや長め 電源や入力切替ボタンを装備する

 トレンドに従って、VPL-HS50はレンズシフト機能も獲得。これもなかなか欲張りなスペックになっていて、左右±0.5画面分、そして上下は±1画面分のシフト幅を有している。それほど背の高くないリビングテーブルに台置き設置しても、上方向のシフトを最大にすれば常識的な高さに画面が持ち上げられるので、専用台の必要性は感じない。

 また、部屋後部に設置した棚の天板に設置するケースでも、VPL-HS50の天地を逆転させて設置しての「疑似天吊り」をせずとも、通常の天地で画面を下にシフトするだけで最良の高さに位置させられる。なお、このレンズシフト機能の搭載にともない、「斜め投射機能」としてシネザシリーズの看板機能となっていた水平方向デジタル台形補正機能はカットされている。垂直方向デジタル補正機能は健在だが、こちらも必要になることはほとんどないだろう。

レンズシフト操作は側面の回転ダイヤルで行なう

 レンズシフト操作は手動で行ない、本体側面に設置された2つの回転ダイアルで調整する操作系となっている。この回転ダイアルの操作感は競合機と比較すると圧倒的に良い。

 競合機では微妙なシフト量を設定しようとするとレンズの自重で調整ツマミの方が動いてしまったりと、なかなか調整が難しかった。これに対しVPL-HS50では、調整用の回転ダイアルの1回転に対して画面のシフト幅が非常に小さく設定されているため、非常にきめ細かなシフト調整が行なえるのだ。レンズの自重で回転ダイアルが動いてしまうこともない。

 最初の導入時に1画面近いシフトを行なうときには、何回転もダイアルを回す必要があるが、同じ環境で使っている限り、ダイアルを回す機会はそう何度も無いので大きな問題ではないだろう。

 光源ランプにはLP-Z3などと同じ135Wの超高圧水銀系ランプを採用。交換ランプ「LMP-H130(40,950円)」は、本体底面のネジを一個外すだけでユーザー自身が交換可能だ。なお、天地を逆に天吊り設置した場合には、一度天吊り金具から取り外して行なう必要がある。

 動作時ファンノイズは最も大きくなるランプコントロール「高」、アドバンストアイリス「切」の時で33dB。この状態ではプレイステーション 2(SCPH-30000モデル、以下PS2)とほぼ同程度になる。逆に最も静かになるランプコントロール「低」、アドバンストアイリス「入」のときは24dBとなり、この状態ではPS2よりもかなり静かで、視聴位置より近場に設置していても、視聴中、ファンノイズが気になることはほとんどない。

 光漏れは、正面向かって左側面のスリットからと背面の電源コネクタ部から若干あるが、投射映像に影響を及ぼすほどではない。吸気はこの側面スリットから行なわれるので、設置の際はここを塞がないように気をつけたい。背面には接続端子パネルがあるだけなので、常識の範囲内で本体後部を壁に寄せての設置は可能だ。なお排気は投射レンズのある本体前面側にレイアウトされている。


■ 接続性チェック
  HDMI入力を実装するも接続端子パネルはシンプル

背面にHDMIやコンポーネント入力を装備する

 接続端子パネルは最近のモデルにしては非常にシンプルな構成で、ビデオ系はコンポジットビデオ入力、Sビデオ入力、コンポーネントビデオ入力がそれぞれ1系統、PC系はD-Sub15ピン端子によるアナログRGB入力が1系統のみだ。デジタル系入力としては、HDMI入力を配備している。

 この構成を「シンプルですっきりした」とするか、「接続性が低い」とするかは人それぞれだろうが、とにかくVPL-HS50本体側に配線が集中することをあまり想定していない設計となっているようだ。D端子が普及していないアメリカ市場を考えて、こうならざるを得ないのかもしれないが、個人的にはD4入力端子をあと1系統くらいは欲しかったと思う。

 この他、VPL-HD50が稼働しているときにDC12Vを出力するTRIGGER端子も実装されている。これは電動スクリーンや電動シャッターの開閉をシンクロさせるために活用するものだ。HDMI端子の周囲のスペースは比較的開いており、HDMI-DVI変換アダプタなどは問題なく装着できるようになっている。



■ 操作性チェック
  デジタル世代ならではの画質調整「リアルカラープロセッシング機能」

 リモコンの電源ONボタンを押して、コンポーネントビデオ入力の映像が実際に投射されるまでの時間は実測で約21秒。最近の競合機と比較すると若干遅めだ。

リモコン。全体的なメニューの操作感は非常に機敏。この特殊形状の十字キーの操作感は見た目ほど悪くはない。使ってみて感じることはやはり入力切り替えが順送り形式なのが、改善を要するところだろう

 リモコンのデザインは2年前のモデルであるVPL-HS2やVPL-HS10のものから基本的に変わっていない。最近の機種のものと比べると厚みがあり、やや野暮ったい印象がつきまとっている。逆に、歴代のVPLシリーズを使い続けているユーザーにとってはなじみの操作系が継承されている、といえるのかもしれないが……。

 最上部に位置する[LIGHT]、[INPUT]、[電源]の3ボタンは蓄光式で、その他のボタンはこの[LIGHT]ボタンを押すことでオレンジ色に自発光する。電源ボタンは○形状なので迷うことはないが、蓄光の柔らかい光ではLIGHTとINPUTの記載の判読が難しく、慣れないうちは誤って押してしまうこともしばしばであった。入力を切り替える[INPUT]ボタンは使用頻度も高いはずなので自発光ボタン列に含めるべきだと思う。

 入力切り替えは[INPUT]ボタンで順送り形式に行なわれる。切り替えに掛かる所要時間はSビデオ→アナログRGBの切り替えで実測約1.4秒、アナログRGB→コンポーネントビデオの切り替えでも実測約1.4秒と、なかなか高速。

 アスペクト比切り替えは[WIDE MODE]ボタンを押すことで順送り形式に行なわれる。切り替え所要時間はアスペクトモードによらず実測で約1.0秒とこちらも高速だ。なお、アスペクトモードはフル/ノーマル/ワイドズーム/ズーム/字幕入りの5モードが用意されている。

 なお、VPL-HS2等に搭載されていた、スケーリングロジックを介さずに表示する「スルー」系のアスペクトモードはVPL-HS50ではカットされている。

 画調モードの切り替えは、[DYNAMIC]、[STANDARD]、[CINEMA]、[USER1~3]の独立ボタン操作でダイレクトに行なえる。こちらはボタンを押した瞬間に切り替わり所要時間はほぼゼロだ。

 基本的な画質調整はメニューの「画質設定」項目から行なうことになる。調整項目としては「明るさ」「コントラスト」「色の濃さ」「色合い」「シャープネス」といった一般的なものが用意されており、このうち「明るさ」と「コントラスト」についてはリモコン上の[BRIGHT]と[CONTRAST]の[+]、[-]ボタンで直接上げ下げ調整が行なえるようになっているのが特徴的。

 調整した画質設定は3つのユーザーメモリに記憶ができる、というよりは、あらかじめ[STANDARD]と同等に初期化設定されている[USER1~3]の画調モードを自分本位に作り込める、というスタイルになっている。また、3つのダイナミック/スタンダード/シネマといったプリセット画調モードにおいても、ユーザーが調整した値で上書き保存されてしまう。

 もちろん、プリセットに戻すことはできるのだが、取り扱いには留意したいところだ。プリセット画調モードの設定状態、ユーザーメモリは各入力系統ごとに個別管理される。入力ソースごとに特化した画調モードが作り込めるので、ユーザーメモリが足りなくなると言ったことはまずないはずだ。

メニュー画面

 VPL-HS50には、数値パラメータによる画質調整のほか、発色の傾向を赤、マゼンタ、青、緑、シアン、黄色の6色の代表色から選択式に調整できる「Real Color Processing」機能を搭載している。メインメニューからも調整メニューが呼び出せるが、それ以外にリモコン上の[RCP]ボタンからも呼び出すことができる。

 調整方法はその時点で表示している投射映像を見ながら行なえるため、非常に直感的に操作できる。

 具体的な活用例としては鋭い赤が欲しい場合、人肌に暖かみが欲しい場合、空の青みや草木の緑をもっと鮮烈にしたい場合…… といったところになるだろうか。他の色の発色に影響を与えず選択式に調整できるのがこのRCP機能の強みと言うことになる。RCPのプロファイルは3つまで記憶させることが可能で、全入力系統に共通に管理される。もちろんRCP機能を切ることもでき、その場合はプリセットの発色プロファイルが適用される。

まず、調整したい色を赤、マゼンタ、青、緑、シアン、黄色の6色の代表色から選択。続いて、この選択した代表色の範囲内で円状のカラーダイアグラムから調整したい色を絞り込む。この時点で表示画面は調整するために選択した色以外はモノクロ発色になる 最後にその選択色を「色の濃さ」と「色あい」を調整して好みの彩色に追い込んでいく
タコの赤が黒ずんだマゼンタに振れている印象があるのを…(RCP適用前) 艶やかな赤に仕立ててみた例(RCP適用後) このRCPプロファイルを「スタンダード」画調モードに適用して見た例(参考)
 ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用した。レンズはSIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC。
 撮影後、投影画像の部分を約800×460ドットにリサイズしている。
(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS

 最後に、リモコン上のわかりにくい略語キーワード記載されているボタンについての簡単な解説をしておこう。[APA]ボタンのAPAとはAuto Pixel Alignmentの略。アナログRGB入力時のみ有効な機能で、ドットクロックや画面サイズ、画面位置を自動調整するものだ。[ADJ PIC]ボタンは画質調項目を順送り式に呼び出せるもので、イメージ的には階層メニューを操作しなくても画質調整ができるショートカットキーのようなものだ。


■ 画質チェック
  アドバンスドアイリスによるハイコントラスト表現と卓越したレンズ解像能力

 公称光出力はランプコントロールを「高」設定として135W駆動し、アドバンストアイリスを「オート」設定にした最も明るくVPL-HS50を活用できる状態にして800ANSIルーメンとなっている。800ANSIルーメン機といえば、競合機の三洋LP-Z3もこの明るさスペックだが、若干VPL-HS50の方が暗い印象で、完全に遮光できない環境での利用は厳しいという印象だ。

 公称の最大コントラスト性能は6,000:1という、DLPプロジェクタ並みのスペックがうたわれている。しかし、これにはちょっとしたからくりがある。

 VPL-HS50では、入力映像のトータル輝度値にインタラクティブに反応してアイリス(絞り)を無段階制御する「アドバンスドアイリス」機能を搭載。この機能により、明るいシーンではその明るさがより鋭く輝いて見え、一方暗いシーンでは詳細な階調表現が知覚できるようになり、トータルとして、非常にハイダイナミックレンジな映像表現ができるようになる。

 さらに、光源ランプの駆動モードを切り換えられる「ランプコントロール」機能が備わっており、スペック通りに135W駆動する「高」モードと約20%低い110W駆動する「低」モードが選択可能になっている。

 この6,000:1というスペック値はこれらの2機能を働かせたときのもので、具体的には最小絞り時、最低ランプ輝度時の黒輝度値と絞り解放時、最高ランプ輝度時の白輝度値の対比なのだ。実際に平均的な輝度の映像を投射したときには6,000:1という実感はさすがにない。しかし、たとえば宇宙戦闘シーンを最後の爆発シーンまで見た場合など、一連の映像シーケンスを見る中で、この値に近いまばゆさを実感できることは結構ある。こうした時間積分的なハイダイナミックレンジ表現は、フレーム単位のハイコントラスト感というよりも、映像を見ているうちに臨場感として感じられてくる。これは普段我々が生活している現実世界が数億:1以上のハイコントラスト環境にあり、これを擬似的に感じられるためだ。

 カタログ的には「コントラスト比1,000:1~6,000:1」としており、6,000:1という最大値に過大な期待は禁物だが、それでも、筆者の実感でも、だいたい800:1から1,000:1あたりのコントラスト感はあり、透過型液晶プロジェクタとしてはトップレベルのハイコントラスト性能にはなっている。

 発色の傾向は非常に素直で、超高圧水銀系ランプ特有の青緑が強く出る傾向をうまく抑えたチューニングされているようだ。このクラスの競合機では色味を濃くし、鮮烈な印象の画作りにしてくることが多いが、VPL-HS50は落ち着いた理性的な色バランスになっている。このため店頭などで見比べてしまった場合には派手さに欠けるような印象を持つかもしれないが、実際にはVPL-HS50のような画作りの方が様々なソースで破綻しない映像が楽しめる。

1,280×720ドットのPC画面を上下左右レンズシフトをそれなりに活用した状態で100インチサイズで投射し、その画面の右端付近に配置したアイコンを捉えたもの。写真を見てもらうと分かるように画素格子はそれなりにある。しかし、レンズ性能が高いおかげで色収差が少なく、色ズレが最低限に留まっているのがわかる。これがパネル解像度以上の解像感が得られている秘密だ

 色深度は深く、中明色以上の色解像力が特に優秀だ。カラーグラデーションなどは3板式透過型液晶ならではのしなやかな描写になっており、人肌の曲面表現などにもリアリティがある。

 そして、VPL-HS50には、先代VPL-HS20よりもフォーカス性能を改善したというARC-F(オール・レンジ・クリア・フォーカス)レンズが搭載されている。これは、色境界表現における鋭いエッジ表現力と、1ピクセル単位の細かいディテール描写力に見た目で貢献しており、同一解像度のパネルを採用した競合機よりも高い解像感が感じられるほど。個人的にはこれがVPL-HS50の一番の武器ではないかと思えた。

 第一印象から全体としてバランスの良い画作りになっていると感じられたのだが、より深く見ていくと暗部階調表現の物足りなさが気になった。ハイコントラスト重視の画作りに振っているせいか、暗部階調表現はツブレ気味にチューニングしてあり、黒いボディに映った周囲の情景、茶色いの服のシワの凹凸感、洞窟内シーンや薄明かりのシーンでは描写精度が不足してしまっている。ブライトネス(明るさ)を持ち上げると幾分か改善されるが、そうすると黒浮きが強くなり、自慢のコントラスト性能も半減してしまう。このあたりは改善の余地有りと言ったところだ。


プリセット画調モード
 ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用した。レンズはSIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC。
 撮影後、投影画像の部分を800×450ドットにリサイズしてから画像の一部分(160×90ドット)を切り出した。

(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS
 
●ダイナミック
 色温度が「高」に設定され、ホワイトバランスはやや青白い方向に振られる。純色が鮮烈に出るように調整してあり、周囲が若干明るくても映像情報をなるべくユーザーに見せるような配慮がなされている。
 とはいえよくある明るい部屋で使用するための飛ばし気味の画調モードというわけでもなく、CG系映画やアニメ映画、デジタル放送のハイビジョン映像などとの相性がよく、意外にも汎用性は高い。ただし、シャープネスが強めでざらつき感が強いので、映像ソースによっては調整の必要がある。
 
●スタンダード
 色温度は「中」と設定され、白色の発色もナチュラル。黒表現の沈み込みも良好で、コントラスト感もベストバランスだ。
 階調表現は中明部以上はリニアに決まっており、微妙なグラデーションや色ディテールも鮮明に描写されるが、暗部階調はやや死に気味。
 とはいえ、最も万能な画調モードであり、常用はこれになるだろう。
 
●シネマ
 色温度がかなり赤みを帯びた色合いとなる。暗部階調表現を可視化しようとしてか、黒浮きが目立ちコントラスト感はスタンダードに及ばない。人肌に血の気が強く感じられるようになるが、青や緑に鋭さがなくなる。モード名の割には使いどころが難しい画調モードだ。
 

映像タイプ別のインプレッション
◆DVDビデオ(コンポーネントビデオ接続)
 アドバンスドアイリスの効果は、実際に「スターウォーズ」のような宇宙戦闘シーンにて、漆黒の宇宙空間の沈み込みとまばゆいばかりの爆発や光線が同居した映像として体感することができた。
 画調モードはシネマよりもスタンダードの方がうまくハマる。屋外シーンなどが多いタイトルや、CG映画ではダイナミックも意外にしっくり来る。
 暗いタイトルでは、本文でも述べたように中明色以下の階調力不足が気になる。これを改善するには「明るさ」を上げて階調をブーストさせることだが、「明るさ」を上げれば上げるほどその分、黒が浮きだし、コントラスト感が無くなってくる。+10前後までが妥協できるギリギリな線だろうか。
 プログレッシブ化ロジック「DDE(Dynamic Detail Enhancer)」は非常に優秀。プレーヤーであえてインタレース出力して試してみたところ、フレーム単位で非常に美しいプログレッシブ化が行なわれていた。安価なプレーヤーならばこちらのDDEを活用した方が良質なプログレッシブ・フレームが得られる可能性がある。
 
●ハイビジョン(コンポーネントビデオ接続)
 現行のデジタルハイビジョン放送の解像度はインタレース1,920×1,080ドットであり、一方VPL-HS50のパネル解像度は1,280×720ドットと画素数的には約半分の欠落を伴う表示なる。とはいえ、元映像ソースが段違いに高精細と言うこともあり、DVDビデオなどのSD解像度と比較すれば、違いは一目瞭然の、解像感の高い映像が表示できているのが実感される。
 100インチ以上の投影では、角度の浅い斜め線表現で、透過型液晶ならではの画素格子が若干見えてくるものの、レンズのフォーカス性能が高められていることもあって、色境界付近のぼやけの少なさは、競合機よりもよい。総じてハイビジョン映像の表示能力は競合機よりも若干良いくらいの印象が持てる。
 
●PC(RADEON9800PRO)
入力解像度 結果(DVI接続) 結果(アナログRGB)
640×480ドット
848×480ドット ×
(640×480と誤認)
856×480ドット ×
800×600ドット ×
1,024×576ドット ×
(オーバースキャンされる)
1,024×768ドット ×
1,152×864ドット ×
(1,024×768と誤認)
1,280×720ドット
(オーバースキャンされる)
1,280×768ドット ×
1,280×960ドット ×
(1,024×768と誤認)
1,280×1,024ドット ×
(1,024×768と誤認)
1,360×768ドット ×
(1,280×768と誤認)
1,600×1,200ドット × ×
1,920×1,080ドット ×
(1,024×768と誤認)

 PCとの接続はHDMI-DVI変換アダプタを用いたパターンとアナログRGB入力端子をそのまま用いたパターンの両パターンで行なった。

 1,280×720ドットのパネル解像度で入力しても、DVI接続ではオーバースキャンされて表示されてしまうため、画面全域が表示されないばかりか、映像エンジン側のスケーリング処理を通ってしまう。このため画面モードが1,280×720ドットでも映像側のピクセルとパネル側のピクセルが1対1に対応しないぼやけた表示になってしまっていた。VPL-HS50にはDVI接続時にオーバースキャンを取りやめる設定は用意されていないので、PC常用にDVI接続は向かないといえる。
 つまり、もっとも美しい表示になるのはピクセルが1対1に対応するアナログRGB接続時の1,280×720ドットモードということになる。

HDMI端子を使って1,280×720ドットの画面を映したとき。上下左右の数%がクリップアウトした表示となってしまうばかりか、数%の拡大表示となるため映像画素と表示画素が1対1に対応しないぼやけた表示になってしまう
 
●ゲーム(PS2/コンポーネントビデオ接続)
  目立った残像もなく、違和感なくゲームが楽しめた。  DDEはPS2のインタレース映像のプログレッシブ化にもうまく効果を発揮してくれるので、ぜひとも活用したい。その際には「フィルム」ではなく、2-2プルダウンモードである「プログレッシブ」のモードを選択すること。ちなみにDDEを「切」としてキャンセルすればあえてインターレース映像を投射することもできる。


■ まとめ~競合機との比較

 VPL-HS50は、エプソン製D4液晶パネルではなく、ソニー製パネルということなので、多くの読者が「縦縞はどうなの?」という興味を抱いていると思う。これについては、「やはり縦縞は見える」ということになる。どうも現行の透過型液晶パネルには共通して抱える問題として捉えておいた方が良さそうだ。

写真ではわかりにくいかもしれないが、VPL-HS50でも薄く縦状の周期的な縞が見える。これが現行透過型液晶プロジェクタの共通した弱点だ

 さて、数ある720pリアル解像度対応プロジェクタにおいてVPL-HS50の訴求ポイントはどこにあるのか。

 設置性や接続性については、競合機のスペックに足並みを揃えてきたという印象であり、突出した部分はない。レンズシフト機能はもはやこのクラスでは当たり前になってきたし、HDMI入力端子も今年モデルにおいてはほぼ標準仕様という印象である。

 やはり違いは画質、というよりも画作りの部分にメーカーの特性が表れていると思う。現行の各社の数百万から数千万クラスの最上位機の画質レベルを思えば、画質向上のヘッドルームはこのクラスにはまだまだあるわけだが、「このクラス」という枠内では、今や合格ラインは確実にクリアしており、「どれが一番良いか」という問いに対しては「どれを選んでも満足は出来るはず」としか言いようがない。ただし、画作りそのものが全く違うので、「好み」という観点からは自分に「合うもの」と「合わない」ものはあるはずだ。

 筆者が評価した2004年下半期発売の720pリアル解像度対応プロジェクタについては、“派手目で見た目と純色の鮮烈な”三洋「LP-Z3」、“画素格子低減と階調バランスを重視した”松下「TH-AE700」、“ハイコントラスト性とレンズ解像力に注力した”ソニー「VPL-HS50」という印象を持っている。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/Peripheral/Projector/VPL-HS50/
□関連記事
【10月7日】ソニー、720pパネル/レンズシフト採用の液晶プロジェクタ
-シーン連動絞りでコントラスト比6,000:1を実現した新「シネザ」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041007/sony.htm

(2004年12月2日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  遊びに行った先の友人宅のテレビですら調整し始めるほどの真性の大画面マニア。映画DVDのタイトル所持数は500を超えるほどの映画マニアでもある。現在愛用のプロジェクタはビクターDLA-G10と東芝TDP-MT8J。夢は三板式DLPの導入。
 本誌ではInternational CES 2004をレポート。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化している。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。

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