■ 今度の革命は薄さ! デジタルオーディオプレーヤーの代名詞ともなったiPod。そのiPodの新製品として、8日に発表、即発売されたのがフラッシュメモリオーディオプレーヤーの「iPod nano」だ。1,000 songs in your pocketをキーワードに、2GBモデルと4GBモデルを用意し、価格は2GBが21,800円、27,800円とカラー液晶搭載のフラッシュプレーヤーとしては破格の安さだ。 1,000 songs in your pocketというキーワードからもわかるように、iPod nanoの特徴はなんと言ってもポケットに収まりやすい薄さ。外形寸法は40×90×6.9mm(幅×縦×厚み)、重量は約42gと、iPod shuffle(25×85×8.5mm、重量22g)に比べると、面積は大きく重量は重くなっているものの、厚みはさらに薄くなっている。 カラー液晶を搭載したことで、操作性については現行iPodとほぼ共通となることから、待望されたApple製の液晶付きフラッシュプレーヤーであり、iPod shuffleの上位モデルとも言えるだろう。 なお、iPod nanoの登場に合わせてiPod miniは製造終了となった。日本でのiPod人気を決定づけたのはiPod miniだったことを考えるといささか寂しい気もするが、グレッグ・ジョスウィック バイスプレジデントのインタビューにもあるように、機能と価格のバランスを考えると当然の選択とも言えるだろう。ただ、改めて1インチHDD搭載のiPod miniのさらなる進化を期待したいところだ。 とにかく薄さがインパクトのiPod nano。今回は2GBモデルを購入し、テストした。なお、ボディカラーはテスト機のホワイト以外にも、ブラックが用意されている。
■ ほとんどiPod。下出しケーブルの対応が課題?
パッケージも薄型で、iPod nanoの薄さを強調する音楽CDのBOXのようなデザイン。同梱品はiPod nano本体のほか、ヘッドフォン、USBケーブル、iTunesを収録したCD-ROMなど。なお、最新版iTunesのiTunes 5が公開されていたが、購入したディスクには前バージョンのiTunes 4.9が収録されていた。インストール後はアップデートをチェックした方が良いだろう。 また、クレードルのガイドパーツのような見慣れない部品が付属している。アップルに聞いてみると、これは「今後アップルがiPodシリーズを乗せるクレードルサイズとして公式に定めたサイズに合わせるためのパーツ」だという。 現在、iPodをクレードルのように乗せられるアクティブスピーカーがサードパーティーから多数発売されているが、iPodは世代やiPod miniなど、各モデルでサイズが異なるため、各社は独自にクレードルのサイズに合わせるためのパーツを同梱して販売していた。 だが、これではiPodの新モデルが発売されるたびにガイドを出さなければならず、効率が悪い。そこで、アップルが公式に「iPodシリーズのクレードル用サイズ」を決定。サイズが小さいnanoには、その公式サイズに合わせるためのパーツが付属しているというわけだ。そして、今後はサードパーティー各社から、その公式サイズに従ったクレードルサイズを持つ製品がリリースされ見込みだ。
早速パッケージを開いてみるとやはり驚くのはその薄さ。ガム2、3枚分のオーディオプレーヤーでしかもカラー液晶搭載というのは、インパクトがある。液晶は176×132ドットの1.5インチカラー。現行iPodのカラー液晶の2インチ220×176ドットより、サイズも解像度も小さくなっている。操作体系もiPodやiPod miniとおなじクリックホイールを搭載するなど、機能的には薄く小さくなったiPodという印象だ。背面もアルミの素材感を活かしたシンプルなデザインで、指紋が付きやすいのもiPodとかわらない。上面にはHOLDボタンを備えている。 しかし、ヘッドフォンを装着すると印象は若干変わる。というのも、iPod nanoでは、ヘッドフォン出力が本体の下部、Dockコネクタの脇に設けられているからだ。そのため、液晶を上面にして操作しようとするとケーブルが気になる。慣れの問題かもしれないが、全てがiPodそのままとは行かないようだ。 もっとも、「iPodエコノミー」と呼ばれるまで周辺機器市場が活発なiPodのこと。あまり時期をおかずに、対応ケースなどが発売されて、解決される問題かもしれない。それに取り回しという意味では、Shuffleより若干大きいものの、iPod miniやiPodと比較すると圧倒的に省スペース。この小ささを生かした活用法を見いだせればケーブルに悩まされることは無いだろう。
■ iTunesも進化。VBRエンコードに対応
手に持った感触は非常に軽く、背面がアルミ素材ということもあり、結構滑るので慣れるまでは落下に注意したい。 また、Appleによる広告イメージのようにジーンズのポケットに入れても確かにすっと入ってくれる。さすがにコインポケットにつっこむと、薄いこともありポキッと折れそうで不安になったが……。
USBストレージクラスのデータストレージとしても利用できるが、オーディオデータの転送はiTunes 5を利用する。転送も従来のiPod/iPod miniと共通で、ライブラリの全同期のほか、任意のプレイリストとライブラリのみの同期、手動転送が選択できる。 また、iTunesのライブラリ容量が、iPod nanoを上回っていた場合、容量にあわせた[iPod nanoセレクション]というプレイリストを自動作成して転送してくれる。その場合は、評価レートや再生回数が多い楽曲を収録したアルバムを中心にプレイリストが作成されるようだ。 Let'snote CF-W4(Pentium M 1.2GHz/メモリ512MB)から、自動作成された1.73GB/384曲のオーディオデータをiTunes経由で転送した場合の転送時間は約12分35秒(18.77Mbps)。一方同じ曲ファイルをiPodをUSBストレージとして転送した際の転送時間は約9分10秒(25.76Mbps)となった。iPod shuffle(iTuens転送時11.7Mbps/ファイル転送時16.4Mbps)に比べると、高速化している。
カラー液晶を搭載した現行iPodとほぼ共通と言うこともあり、カラー液晶に最適化した写真の転送も可能となっている。iTunes 5上で特定のフォルダを指定しておくだけで、iPod nanoとの同期時に自動的に最適化、転送してくれる。なお、フルサイズで転送することもできるが、nano上ではフルサイズ表示はできないので、データバックアップ以外にはあまり使い道は無いかもしれない。
フォト転送については転送後にはパソコンの指定フォルダ以下に[iPod Photo Cache]というフォルダが作成され、.itmbという独自形式のファイルが作成される。このファイルが1ファイルあたり500KB程度あるので、楽曲データで容量をフルに使い切っているとなかなか、フォト機能が使えないかもしれない。 対応オーディオ形式はAAC、MP3、WAV、Audibleと、Apple Lossless、AIFF。なお、iTunes 5ではAACのエンコード機能も強化されており、AACのVBRエンコードが可能になっている。iTunesのAACエンコーダは、MP3に比較して優秀という声が多く、さらに音質にこだわりたいユーザーにはVBRによるカスタム設定の追加は嬉しいだろう。iPodだけでなく、iTunesもオーディオプラットフォームとして進化していることが確認できる。
操作はほぼ完全にiPodそのもので、クリックホイールで全ての操作が行なえる。ホイール状のタッチパッドと、押しボタンを統合しており、指先でなぞってホイール操作で楽曲検索などを行ない、上下左右と中央部分のボタンを押し込むことで、メニューの選択や取り消し、再生/停止などの操作が可能となる。iPodユーザーならばおなじみのインターフェイスであり、初めて使うユーザーでも問題はないだろう。 楽曲検索はプレイリスト/アーティスト/アルバム/曲/ジャンル/作曲者などから検索できる。クリックホイール自体がかなり小型化されているので、iPodに慣れていると口径の小ささ(実測でnanoは30mm、第4世代iPodが42mm)を感じてしまう。しかし、操作を間違う程の違和感はなく、何より操作方法が完全に同じなので、さほど戸惑うことなくすぐに慣れることができた。 そして、カラー液晶搭載で何より嬉しいのがジャケット写真表示機能。iTunes上でジャケット写真を設定してあれば、そのままnanoの液晶でジャケット写真が表示できる。 iTunesでは、アルバムを選択して、ジャケットの画像をアートワークの登録画面にドラッグアンドドロップするとジャケット写真を登録できる。さらに、iTunes Music Storeで購入した楽曲は基本的にジャケット付きということもあり、iTMSの日本でのサービスインと相まってカラー液晶の魅力はさらに増したといえるだろう。 また、再生中にクリックホイールの中央部を2回押すと、ジャケットのみの表示も可能だ。ジャケット表示に慣れると、ジャケットが無いアルバムなどが非常に気になってしまい、全てにジャケット設定したくなってしまう。できればジャケ写からの楽曲検索機能も欲しいところだ。
ヘッドフォンは従来のiPodと共通デザインのシンプルなもの。取り立て高品質というわけでも無いが、そのまま使っても十分なクオリティ。nano本体の音質傾向は従来のiPodシリーズとあまり変わらず、ナチュラルで、クセのない印象。第4世代iPodと比較してもほとんど違いは感じられず、ソースを問わずそつなくこなす印象だ。 個人的にiPodシリーズで一番印象の悪かった初代iPod miniと比較してみたところ、音ヌケや音場の広さなどに顕著な差があり、ダイナミックレンジもnanoの方が上。より聞きやすく、音楽を楽しめた。なお、曲間ギャップは短いが、ライブ盤での曲間ギャップは感じられ、ギャップレス再生とまでは言えない。イコライザはカスタム設定はないものの、Acoustic/Jazz/Danceなど20モードを備えている。 フォトビューワ機能は現行iPod/iPod photoとほぼ共通で、iTunesから転送したフォトデータをメインメニューの[写真]から閲覧できる。転送時に最適化するため、若干変換に時間がかかるが、100枚程度の写真の転送は約2分程度で転送が可能だった。 なお、現行iPod/iPod photoが備えているテレビへの静止画出力機能は備えていない。また、デジタルカメラからiPodへ画像データを転送するオプション品「iPod Camera Connector」(3,400円)も、nanoは対応していないという違いがある。 液晶の表示画質については、1.5型液晶と言うこともあり、必要十分なクオリティ。転送前に最適化されているだけあって、輪郭の乱れなどは感じられない。真っ青な空の写真などで、時折グラデーションの表現が段々になってしまったりするものの、旅の写真などを楽しみながら確認する分には十分だ。また、音楽付きのスライドショー機能も搭載。さらに、エフェクトも[横から押しだし]、[下へ押しだし]、[横へワイプ]、[下へワイプ]、[中央からワイプ]の5つを選択できる。
充電はUSB経由で行ない、バッテリ駆動時間は音楽再生時14時、スライドショーと音楽再生時で4時間となる。
■ iTunesの進化でWindowsでもカレンダー機能に対応
また、nanoには、世界時計やストップウォッチ機能、さらにスクリーンロック機能も追加された。 世界時計は現在地のほか、複数の世界の時間を指定できる。普段時計を持ち歩かず、携帯電話で代用しているため、肝心の海外旅行の時に時計を忘れるような人間には非常に嬉しい機能追加だ。nanoで薄く小型化されたことで、持ち歩いても苦にならないところがありがたい。また、ストップウォッチ機能はラップ機能も搭載、履歴も保存できるなどなかなか機能面で充実している。 スクリーンロック機能は4桁の暗証番号を指定して、iPodの操作をロックする機能。新たにnanoではOutlook/Outlook Expressのアドレス帳やOutlookのカレンダー連携機能も備えたことで、より多くの個人情報が管理できるようになった。そのため、こうしたロック機能の導入は歓迎すべきことだろう。ただし、自分がロックしたいときに設定メニューからスクリーンロックを選択しないとロックできない。使っている途中に無くした、なとの時にはあまり意味がないので、一定時間操作を受しないとスリープ状態に落ちてロック、といったオプションがあってもいいかもしれない。
また。iTunes5で搭載された新機能として、Outlook/Outlook Expressのアドレス帳、Outlookのカレンダーの連係機能がある。iPodを接続し、iTunesの設定から同期設定を行うことで連携可能となる。 同期したアドレス/カレンダーデータはiPod nanoのメインメニュー→エクストラで選択可能で、カレンダーは1カ月分を表示し、任意の日付の箇所でクリックするとその日の情報が確認できる。Macintoshユーザーには既におなじみの機能だが、Windowsユーザーとして、個人的には特にOutlookカレンダーの同期機能には期待していただけに非常に嬉しいアップデートだ。 なお、Outlook/Outlook Express同期機能はiTunes 5の機能のため従来のiPodのユーザーでもiTunesをバージョンアップすれば利用できる。このあたりのアップデートによる進化もiTunes/iPodの魅力の一つといえるだろう。 ■ 着実な進化と圧倒的な価格競争力。他社はどうする? 一通りの機能を使ってみたが、使い勝手はiPodを継承しながら、さらなる機能の充実を図っており、iPod shuffleの高機能板と考えても、iPod miniの後継と考えても、スキがない。特にこの価格帯でのカラー液晶対応はiTMSが始まった今だからこそ、非常に意味のある機能強化ポイントと感じる。 液晶の精細感や解像度では東芝「gigabeat F」やケンウッド「HD20GA7」などの方が上だが、サービスと連携したカラー液晶の魅力という点ではiPodの扱いやすさは群を抜いている。価格体系も2GBで21,800円、4GBで27,800円と従来のiPod mini(4GB 21,800円、6GB 27,800円)を引き継いでおり、容量は減っているものの、機能的にはカラー対応や小型化など大幅に強化されている。カレンダー/アドレスの同期機能など魅力的なアップデートも多く、既にiPod shuffleの価値も価格以外には無いのではと思える程、魅力的な製品になった。 「6GBが最適」という人もいるかもしれないが、次世代のnanoではおそらくメモリ容量強化もされるだろう。iPod miniとなるかはわからないが、1インチHDDを使った製品でも新しい提案があるかもしれない。 今、ギガバイト級のフラッシュメモリープレーヤーを選択するならば、競合製品を探すことすら難しい。 唯一のウィークポイントは、iPod shuffleより伸びたとはいえバッテリ駆動時間が14時間と他社の製品よりも短めというところだろうか……。おそらくnanoの発売をうけて、数週間の間に各社の値下げ発表もあるだろう。あらためてAppleのこの市場での圧倒的なイニシアチブの強さを思い知らされる。 しかし、右肩上がりで成長を続けてきたデジタルオーディオプレーヤー市場にも、価格下落の波をうけたRioの撤退のようなネガティブな話題も出てきた。国内メーカーをはじめとして、各メーカーの奮闘にも期待したいが、Appleは後続に追いつかれる前に、大きく引き離しにかかっている。 □アップルのホームページ (2005年9月9日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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