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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
~ 松下がプラズマの尼崎工場を報道関係者に公開 ~



■ 第2期生産を4カ月前倒しで稼働へ

 松下電器産業は、9月16日から稼働しているプラズマパネルの生産拠点である尼崎工場の開所式を12月2日午前に開催し、兵庫県・井戸敏三知事など地元関係者などが参加した。また、同日午後には、内部の様子を報道関係者やアナリストに初めて公開した。

新大阪駅からJR快速でわずか10分強のJR尼崎駅。ここから車で約20分の距離にある 阪神高速の尼崎末広の出入口からはわずか1分の場所にある 尼崎工場の入口ゲート。厳重に警備されている

 尼崎工場は、松下電器のプラズマパネルの生産拠点としては、大阪府の茨木第1工場、同第2工場に続き、国内3拠点目。中国・上海の工場を含めて4拠点目となる。

 尼崎工場は、当初11月の稼働を予定していたが、年末のプラズマテレビの世界的な需要拡大を見込んで、中村邦夫社長の号令のもと、前倒しで設備を整え、9月16日から生産を開始していた。

 第1期となる現在の設備では、42型換算で月産12万5,000台の生産が可能となっており、茨木第1の3万台、茨木第2の12万台、上海の2万5,000台とあわせて、月産30万台体制となる。

 また、尼崎の第2期の生産設備の稼働は、来年11月を予定していたが、これも4カ月前倒しで稼働する計画に変更したことを、このほど明らかにし、2006年7月には稼働する。第2期生産施設の稼働により、尼崎工場の生産能力は月産25万台となり、全拠点をあわせて42万5,000台の生産が可能になる。

右下の写真が茨木第1、第2工場。縮尺を同一にしているため比較がしやすい。尼崎工場の大きさがわかる 当初の計画では11月の稼働予定だったが、建屋および原動施設工事で3週間の前倒し、そして、設備搬入を24時間体制で行ない、生産立ち上げも大幅に短縮化。これにより、2カ月前倒しで稼働した 尼崎工場の稼働によって月産30万台体制となり、来年7月の第2期稼働で月産42万5,000台となる

 尼崎工場は、松下電器の子会社である松下プラズマディスプレイ株式会社が運営している。関西電力尼崎第3発電所(火力発電所)の跡地である、大阪港に面した埠頭の突端に位置し、敷地面積14万2,000m2に、延床面積約14万7,000m2の4階建ての生産棟を設けている。人員は約800人。投資金額は950億円。

尼崎工場の全景。縦116メートル、横290メートルの大きさとなる 南側からの様子。伊丹空港から羽田空港に向かう際に、右側の座席に座るとPanasonicの文字が見えるという 4階建てとはいえ、高さは36メートルもある。一般のマンションの10階から11階建ての高さとなる

 フロア構成を見てみよう。4階建てのうち、3階は、背面板と前面板の生産設備が入る。プラズマパネルの前面板、背面板が別々のラインで用意され、印刷、乾燥、露光、現像、割断、焼成といった作業が行なわれる。この部分生産工程は、ほぼ自動化されており、1フロア全体でも約30人が作業しているにすぎない。

プラズマテレビの製造工程。背面板と前面板が別々に生産され、それが貼りあわされる 尼崎工場のレイアウト。4階は第2期稼働のエリアとなる

 生産されるパネルは42型で6面取りができる1,664×1,961mmのものと、50型で4面取りが可能な1,329×2,332mmの2種類。ひとつのラインで混在した生産が可能で、段取り替えにもそれほどの時間は必要ないという。ただし、現在のところ、42型で6面取りが可能なパネルが主流で生産されているという。

3階フロアの前面板の生産工程 3階フロアで使用されている大型自動搬送機。自動搬送機としては世界最大規模のものだという。パネルを20シート搭載することができ、フル搭載時の重量は3.5トンになるという

前面板と背面板とを貼りあわせる パネルの組立工程。セル生産方式を採用している

 この1,664×1,961mmというパネルサイズは、液晶パネルで言い換えれば、サムスンとソニーが合弁で立ち上げたS-LCDが導入している「第7世代」といわれるサイズにあたる。なお、同社最大規模となる65型のプラズマテレビ用のパネル生産は、茨木第2工場で行なわれている。

 2階フロアは、パネル組立工程となる。第2期の生産施設がまだ運び込まれていないため、現時点では、半分のエリアしか使用していない。

2階フロアでパネルの持ち運びに利用されているクレーン。生産はほとんどが自動化されている 一番右が尼崎工場で生産されるパネル。42型で6面取りが可能。中央が茨木第2工場で生産されている3面取りのもの。一番左が茨木第1工場のパネル。42型換算で1枚ごとに生産していた

 ここでは、MgO(酸化マグネシウム)蒸着、蛍光体検査、フリート塗布乾燥、焼成、アライメント封排、エージング、パネル検査といった工程が行なわれる。3階フロアで、テレビのパネルサイズに割断された背面版と前面版を貼りあわせ、さらに、エージング検査によって、初めてパネルを発光させるという工程を通過する。この時点での歩留まり率は、90%台中盤から後半だという。

 1階では、FPC圧着、パネル梱包、出荷が行なわれるほか、原動施設が置かれている。なお、4階は、第2期生産設備のためのエリアで、現在はなにもないが、3階の設備と同じものが設置されることになるという。


■ 1インチ5,000円は‘08年より早まる可能性も

松下プラズマディスプレイの森田研社長

 「プラズマパネルの生産は約2日間でできる。約10日間を要する液晶パネルに比べて、短期間で生産できるということは、その分だけ、生産整備を軽くできる。大型化すればするほど、プラズマパネルの方が原価が低い。また、すでに9割を超える歩留まり率を達成している。2008年には1インチ5,000円を目指しているが、もっと早まるかもしれない」(松下プラズマディスプレイ・森田研社長=松下電器執行役員パナソニックAVCネットワークス社上席副社長を兼務)としている。

 茨木第1工場を1とした場合には、尼崎工場は、人員生産性で4.2倍、投資生産性で3.7倍を実現しているほか、製造固定費(原価)は、茨木第1工場を100とした場合に、28と大幅な低減を達成した。

 また、同様に茨木第1工場を100とした場合、工程数は80に、リードタイムは56にそれぞれ削減されているという。

 なお、尼崎工場では、プラズマテレビの生産工程はなく、パネル生産だけに特化している。テレビとしてのセット組み立ては、茨木工場のほか、海外向けには、米州、欧州、中国の各拠点といった、消費地に近いところで行なわれている。

 松下電器では、2006年にはPDPで、年間1,000万台規模の市場に、2010年には2,500万台の市場規模に達すると予測しており、そのうち40%の市場シェアを獲得する考えだ。

尼崎工場の生産性の比較。すべてにおいて大幅な向上が図られているのがわかる 敷地内はすべて禁煙。さらに、建物内部には携帯電話の持ち込みは禁止。今回は、内覧会のため携帯電話の持ち込みは許されたが、カメラが使えないように封印。また、工場構内の写真も原則撮影禁止で内覧会が行なわれた 尼崎工場のエリアは、「尼崎21世紀の森構想」のなかに含まれる。環境に配慮した工場として、外壁光触媒塗装の採用により、一日あたりポプラ約1,800本分のNOx削減を達成するなど、数々の環境への配慮がある


□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
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【2004年5月18日】松下電器と東レ、PDPの大型工場を2005年度にも稼働
-兵庫県・尼崎市の関西電力発電所の跡地に建設
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040518/pana.htm

(2005年12月5日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(以上、毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島、ウルトラONE(以上、宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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