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第61回:[CES特別編]「最新映像エンジン事情」
~ DLPも透過型液晶もLCOSもすべてRGB-LEDに ~

 「LEDバックライト」。その色再現性の高さと長寿命性が評価され、2004年あたりから徐々に液晶ディスプレイや液晶TVに実用化され始めている。今年のInternational CESでは、この「LEDバックライト」をプロジェクションシステムに応用した展示が目立った。


■ RGB-LEDバックライトで48倍速カラーホイール相当を達成する

 テキサスインスツルメンツ(TI)が開発した、DLP(Digital Light Processing)方式の映像プロジェクションシステムでは、その映像生成パネルであるDMD(Digital Micromirror Device)チップをRGBの3原色分3枚用意した3板式DLPと、1枚のDMDチップのみを用いてRGBの3原色の映像を時分割表示する単板式DLPの2スタイルの製品が存在する。劇場向け業務用デジタルシネマ用プロジェクタととしては3板式が用いられ、ホームシアター向けプロジェクタとしては単板式が用いられる。

DMDチップとDLPプロジェクションシステムの概念図
TI提供

 DLP方式では光源からの光をDMDに透過させるのではなく反射させるため、3枚分の光をどう投射方向へ導くのか(明表現)、導かないのか(暗表現)、という部分で光学エンジンが大きくなりやすい。3板式は、TIが独占製造するDMDチップを3枚使用する上に、この光学エンジンが3ブロック分必要なため製造コストが高くなる。よって3板式DLPはハイエンドや業務用となるわけだ。

 単板式ではRGBの3原色に区分けされたロータリーカラーフィルターとよばれる回転するカラーフィルタに光源からの光を通し、そこからの単色光と同期させて単色の映像をDMDで作り出して時分割フルカラー表現を行なっている。RGBの時分割精度が高くなければ正しい色表現が知覚されづらくなるわけで(カラーブレーキング現象)、この時分割精度を上げるためにカラーフィルターの回転速度を上げたり、カラーフィルタのRGB区画を細分化させるという方策がこれまで取られてきた。

3板式DLPプロジェクションシステムの概念図 単板式DLPプロジェクションシステムの概念図
TI提供

 このカラーフィルタの高速化にも限界がある。そこで白羽の矢が立ったのがLED(Light Emitting Diode)。RGBの光源を、回転するカラーフィルターから作り出すのではなく、RGBの各色のLEDの発光のオン/オフから作り出す。

 TIの担当者によればRGB-LEDバックライトシステムでは、ナノ秒から数ミリ秒の単位での明滅が可能であるため、ロータリーカラーフィルターでいうところの約48倍速相当が実現できるのだという。これにより、3板式に迫る色再現性が達成され、カラーブレーキングも劇的に低減できるとしている。

 また、LEDシステムには他にも副次的なメリットがある。1つはその高い色再現性。RGBの各色のLEDは色純度が高く、超高圧水銀系ランプよりも広域な色表現が可能となる。また、RGBのLEDのそれぞれの輝度を動的に変化させることでダイナミックレンジを犠牲にせずに色温度の調整が行なえたり、またシーンごとにRGBのLEDのバランスを変更することでさらに色域を広げることも可能になる。

RGB-LED光源システムを利用した単板式DLPプロジェクションシステムの動作概念図
TI提供

 二つ目は長寿命性。超高圧水銀系ランプの数千時間という寿命から、数万時間という長寿命を獲得することが出来る。プロジェクションシステムからランプ交換という概念を取り去ることが可能になる。実際にはLEDも経年劣化があり、RGBのLEDごとに経年劣化の度合いが異なる。しかし、RGBの各LEDの輝度を最適化しつつ経年劣化に伴った最適化を行なうことで、色再現性の高さを維持していくことは可能だという。

 3つ目は高速起動性。超高圧水銀系ランプでは、輝度が安定するまでに数十秒という時間が掛かるため、電源を入れても実際に映像が出るまでに時間が掛かっていた。これがLEDでは数秒というオーダーの起動時間にすることが出来る。

LEDバックライトの構造模式図 RGB-LED光源システムではHDTV標準色仕様のRec.709を大幅に上回る色表現が可能
TI提供

 しかし、解決すべき問題点がないわけではない。1つは輝度性能の問題。高輝度を得るためにはRGB-LEDの個数を増やす必要があり、増やせば増やすほど消費電力が高くなる。

 実際、超高圧水銀系ランプと比べると、RGB-LED光源システムはワットあたりのルーメン数が低い。超高圧水銀系ランプでは1Wあたり約10ANSIルーメンであるのに対し、現状のRGB-LED光源システムでは1Wあたり1ANSIルーメン程度と10倍の格差がある。同じ輝度を獲得しようとすると10倍の消費電力が掛かってしまうわけだ。なお、これについてはRGB-LED光源についての基礎技術革新が進めば改善される問題だとしている。

●Samsung、世界初のRGB-LED光源DLPリアプロTV「HL-S5679W」

世界初のRGB-LED光源DLPリアプロTV「HL-S5679W」

 このRGB-LED光源を世界で初めてDLPリアプロTVに応用した試作機を開発したのがSamsung。試作機ながら型番は「HL-S5679W」とされており、価格は3,999~4,199ドル、発売は2006年4月~5月を予定している。

 電源オンから映像表示までの待ち時間はわずか7秒。寿命は2万時間と発表されている。画面サイズは56V型、解像度は1,920×1,080ドットの1080p対応。DMDチップは960×1,080ドットの100万画素相当だが、時分割画素描画技術「Smooth Picture」によって1080p解像度を実現している。

 表現色域はNTSC色域の130%(120%という資料もあり)をカバーしている。輝度はRGB-LED光源でありながら400cd/m2を達成。一般的なPC液晶ディスプレイ程度の明るさを達成しているのは立派だ。なおコントラスト比は非公開となっている。

 実際の表示映像を見たが、緑や赤の純色が鮮烈でグラーデーション表現も美しく、確かに超高圧水銀系ランプとは違った色が出ているのがわかる。また、確かに単板式特有のカラーブレーキングが見えにくく、暗部階調の表現も優秀だ。絶対輝度はもう少し欲しい気もするがコントラスト感はそれなりに高い。

 なお、TI関係者によれば、このRGB-LED方式の単板DLPでは、RGB-LEDの各二色を同時発光させることで生み出されるシアン、マゼンタ、イエローといった補色光を用い、「Brilliant Color方式」の色生成をも組み合わせているという。

ブース内に展示されていたRGB-LED光源についての技術解説パネル RGB-LED光源でありながらなかなかの高輝度振り。48倍速カラーホイール相当というのは伊達ではなく、シャッター速度を比較的速めにして撮影してもちゃんとフルカラー映像が結像していた

●AKAI、RGB-LED光源で格安な「PT46DV27L/PT52DL27L」

左が46V型のPT46DV27L。右が52V型のPT52DL27L。価格の安さが凄い。共に奥行きは奥行きは約35cm

 AKAIもサムスンと同等のRGB-LED光源をバックライトに据えた、単板式DLPフルHDリアプロTVをブース内に展示、この春に発売することを発表した。

 AKAIのモデルは46V型の「PT46DV27L」と52V型の「PT52DL27L」の2モデルからなり、いずれもSmoothPictureベースの1080pのフルHD解像度対応。

 画面サイズ以外のスペックは完全に共通。北米仕様のATSC/NTSC/QAMチューナを内蔵し、デジタルケーブルTVに対応。公称輝度はサムスンHL-S5679Wを上回る500cd/m2、公称コントラストは3,000:1と発表されている。LED寿命は2万時間から5万時間。

 驚くべきはその価格で、46V型のPT46DV27Lが1,499ドル、52V型のPT52DL27Lが1,799ドル。発売時期はPT46DV27Lが4月、PT52DL27Lが6月を予定している。

 実際の表示映像を見てみたが、まだまだ試作機ということで画質はまだまだという感触。輝度性能やコントラスト性能に関しては公称スペックに近い値を出せているようだが、発色についてはさらなる練り込みが必要と感じた。暗部階調の再現は高倍速カラーホイール相当というだけあって優秀だった。

1080pの解像感は優秀。試作機のためか赤がやけに強く出されており、色バランスは要調整だろう



■ サンヨー、透過型液晶リアプロTVもRGB-LEDバックライト採用!?

 サンヨーブースでは、透過型液晶パネルを使用し、これにRGB-LED光源組み合わせたリアプロTVの試作システムを展示していた。画面サイズは55V型で、液晶パネルとしてはエプソン製D5世代と思われる1,920×1080ドットタイプを採用する。液晶パネルは、RGBそれぞれのLEDからの原色光を透過させる形で3枚が使用される。

 あくまで実験的な試作機ということで発売時期や価格は未定であり、1080p対応、色域はNTSC120%を達成といった基本情報以外のスペックも非公開としている。ただし、試作気前に掲げられたフリップには「広色域再現」「高速起動表示」「ランプ交換不要」というRGB-LED光源システムのメリットを記載していた。

 サンヨー担当者によれば、「全くの試作機で画質には自信がない」と謙遜していたが、透過型液晶ならではのなだらかな階調性と赤や緑の純色の艶やかさが両立されている画調は、比較用として並べられたプラズマTVのそれを遙かに上回っている。

 リアプロTVが完全に市民権を得ている北米での発売を視野に入れているとのことだが、日本での発売も期待したいところだ。

左がRGB-LED光源透過型液晶リアプロTV試作機、右がプラズマTV。プラズマでは赤がどうしても朱色によってしまうのだが、RGB-LED液晶リアプロではそれがない。赤い花の色ディテールが正確に再現されている点にも注目したい



■ 日本ビクター、D-ILAもRGB-LEDで高画質化

 日本ビクター独自のLCOS(反射型液晶:Liquid Crystal on Silicon)デバイスであるD-ILAチップを映像生成パネルに採用したリアプロTVにおいても、RGB-LED光源を組み合わせた試作機が展示された。

 画面サイズは43V型で、高出力な数m角サイズのRGBのLEDを一個ずつ光源として実装し、消費電力は100W程度ながらのRGB-LED光源システムで映像表示面にして400cd/m2の輝度スペックを達成している。

 色域はNTSC120%をカバー。RGB-LEDの長寿命化に伴い、これまでのリアプロTVとは異なり、光源ブロックの交換は想定していないという。

 D-ILAパネルはRGBの各光源からの光を受ける形で三枚分が使用される。ただし、各D-ILAはアナログ駆動ではなくパルス駆動され時間積分的なフルカラーを作り出す方式を採用する。

 本来D-ILAは通常の透過型液晶のようにアナログ階調を作り出すことが出来るのだが、値段重視のリアプロTVではコストダウンの意味合いもかねてパルス駆動方式を採用している。D-ILA上の各画素が全反射するか(1)/しないか(0)の二値的な動作が出来ればスペックを満たすとして製品に採用が出来るため、たとえアナログ階調の動作が出来なくても製品として採用でき、またアナログ階調が再現できているかのチェックをパスすることが出来る。これがコストダウンに繋がるというわけだ。

 DLPによく似たD-ILAのパルス駆動とRGB-LED光源の組み合わせの相性はすこぶるよく、試作機ながら非常に完成度の高い映像を出せていた。もう少し輝度ダイナミックレンジは欲しい気はするが、青、緑、赤の純色表現は明らかに超高圧水銀系ランプとは異なる色合いで、ついつい目を奪われてしまうほど。

 パルス駆動ということで暗部階調表現の精度を心配するかもしれないが、DLPと同じ時間積分階調方式とはいえ、こちらは3板式D-ILAなのでカラーブレーキングは皆無。微妙な色デイテールの変化もしっかりと描写できており、アナログ階調方式との格差は最低限だと感じる。

 発売価格は未定とするが、製品化があるとすれば、同画面サイズの同スペック相当の現行モデルと価格帯は同じに据え置く方針を取りたいとのことだった。

RGB-LED光源+パルス駆動D-ILA 3板方式のリアプロ試作機。緑、青、赤の純色表現がとにかく美しい。暗いシーンでも暗部階調が破綻せずにアナログ的な表現が行なえている点に感動を覚えた


□2006 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/default_flash.asp
□関連記事
【1月5日】TI、1080p対応DLPリアプロにLED光源を採用
-新チップセット搭載TVはサムスンより2006年中に北米で発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060106/ti2.htm

(2006年1月9日)

[Reported by トライゼット西川善司]


西川善司  大画面映像機器評論家兼テクニカルライター。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化しており、映画DVDのタイトル所持数は1,000を超える。

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