■ ホームネットワークとオーディオの関係 PCとオーディオの関係を考えたときに、従来のようにサウンドカードのアナログ出力をスピーカーに繋ぐというレガシーなやり方以外にも、いろいろできるだろうということがわかってきた。USBタイプのサウンドデバイスは、ノートPCのサウンドの非力さを補う方法として広く認知されてきたし、同軸や光デジタル接続も広く浸透してきた感がある。その中で、今ひとつ盛り上がりそうで盛り上がらなかったのが、ホームネットワークとオーディオの関係である。ホームネットワークの基幹技術であるDLNAは以前からオーディオもサポートしていたが、サーバーはPCでできるとしても、クライアントがあまりなかった。 一時期ネットワーク対応型DVDプレーヤーが流行った時期があったが、オーディオをDVDプレーヤーで聴くという感覚には、あまり馴染めなかった。ソニーのNet Jukeも面白い製品だが、今さらミニコンポはいらないという家庭も多かろう。 そんな中、ソニーから発売される「VGF-WA1」(以下WA1)は、無線LANを使って音楽を聴こうという、オーディオユニットである。本体内部には音源らしい音源を持たず、PCをサーバーにしてそこからオーディオストリームを貰って鳴らすという製品である。2月中旬発売予定で、店頭予想価格は35,000円前後。 同じようなものとしては、かつてアップルが販売した無線LANアクセスポイント「AirMac Express」もあった。これはどちらかと言えばリモートスピーカーのようなもので、アクセスポイント側からは楽曲のコントロールが一切できなかったため、この機能自体は日本ではあまり受けなかったと記憶している。 だがWA1はスピーカー付きで、さらに手元からも楽曲がコントロールできるという、これまでありそうでなかったタイプのDLNAクライアントであるとも言える。これまでVAIOで培った技術を広く一般に応用させる製品群、「Extension Line by VAIO」の一つであるWA1を、早速試してみよう。
■一見すると小型ラジカセ
WA1にはホワイトとブラックのモデルがあるが、今回はブラックのほうをお借りしている。全体的なサイズ感は小型のCDラジカセ程度で、上から見ると楕円形をしているあたりが、アットホームな印象を与えている。 CDラジカセであればどこかに開口部があるわけだが、WA1は内部に音源を持たないため、どこにも開くようなところがなく、ツルッとしている。オーディオ伝送には無線LANを使用するわけだが、外観にはアンテナらしきものは見あたらない。 ボタン類も控えめで、左側に電源ボタン、右側にPCやWEB RADIOといったソース切り替えボタンがある。そのほか操作ボタンは、手前のアクリル部に集中しており、タッチセンサー式のボタンとなっている。したがって機能ボタンは結構な数になるのだが、物理的なスイッチ部が少ないため、シンプルに見える。
アクリル部にはモノクロの液晶モニタを備え、各種設定やステータスなどを表示するようになっている。バックライトは時間が経つと消えるが、人が近づくと点灯するよう、本体に対物センサーも取り付けられている。 前面のパンチンググリル内には8cm径のフルレンジユニットを2つ備える。アンプはΔΣ(デルタシグマ)型デジタルアンプを採用し、同時開発の24bit DSPも搭載している。アンプはAC接続時は8W×2chだが、内部には充電式バッテリを備えており、バッテリ駆動時は4W×2chとなる。 内部的には、スピーカのエンクロージャを外装部から独立させた構造となっており、ボディの共振を押さえることで音質劣化を防いでいる。また本体内部の容積のほとんどをスピーカのエンクロージャとして使用することで、本体に似合わぬ低音の充実を実現した。
背面には持ち運び用のハンドルがあり、移動もラクだ。本体重量は約2.5kgで、バッテリ駆動時間は約4時間となっている。
また端子類は、ポータブルオーディオなどが接続できるようステレオミニのライン入力をそなえ、音声出力としてはアナログ音声(RCA)と光デジタルを備えている。USB端子もあるが、これは本体設定時に使用する程度で、運用時には使用しない。 付属品としては小型の赤外線リモコンと、現状、無線LANのアクセスポイントがない環境向けに、USBに直結するタイプのアクセスポイント「ワイヤレスアダプタ」が付属している。あとはサーバーソフト類を収録したCD-ROMが付属する。
■サーバー設定はよくできてはいるが… ではPC側の環境構築を見ていこう。というのも、ネットワーク関連製品の場合、物理的に繋げば動くというようなものではないため、ユーザーによっては設定が難しくて使えないということも起こりうるからだ。付属の「おまかせ設定CD-ROM」をセットすると、自動的に「おまかせ設定」が起動する。ウィザードにしたがって操作すると、SonicStage 4.2、VAIO Media(サーバー)、アクセスポイント接続ツールがインストールされ、続いてサーバーと接続設定までが、一連の操作で行なわれるようになっている。
VAIO Mediaは、これまでDLNAベースのサーバー/クライアント環境としてソニーのVAIOにのみ搭載されてきたが、今回初めてVAIO以外の機種を対象にリリースされることになった。またここでSonicStageのインストールが必要なのは、VAIO Media Serverで音楽をストリーミングする際に、SonicStageの楽曲データベースを引っ張ってくるからである。 またおまかせ設定では、Microsoftの新しいメディアサーバー「Windows Media Connect」もインストールされる。WA1はこのどちらかを使って接続することになる。 WA1側のネットワーク設定は、USBでPCと直結することにより、ネットワークIDとパスワードを転送する。物理接続で転送するので、セキュリティの面でも手間の面でも安心できる。
これだけ至れり尽くせりであれば、誰でも簡単に設定できる。と言いたいところだが、現実はそれほど甘くない。というのも、ファイヤーウォールに例外設定を設けなければならないからである。Windows標準のファイヤーウォールを使用している場合は「おまかせ設定」が例外設定を行なってくれるが、ウィルス監視ソフトが提供するパーソナルファイヤーウォールに対しては、自分で例外設定を行なわなければならない。 例えばウィルスバスターに関するヒントは、VAIOの「VAIO Mediaサポートページ」にあるのだが、ここの情報もそれほど新しいものではなくなっている。このあたりは、CES2007の総括でも言及した通りのことが、目の前にあるという感じだ。 またテストした環境では、既にデジオンのDiXiM Media Serverが動いていたため、これがVAIO Mediaへのアクセスを横取りするといった問題があった。またSonicStageの楽曲データベースファイルが壊れていたりという潜在的な問題もあったため、上手く接続できるまでまる1日以上かかった。 また付属のワイヤレスアダプタを使用しての接続は、WA1側のネットワーク設定でワイヤレスアダプタを使用するよう切り替えておかなければならない。初期設定から付属のアダプタを使うぶんには問題ないかもしれないが、途中で接続方法を切り替えようとすると、案外気がつかないところだ。
■いったん繋がれば快適 それでは、実際の使い勝手を見てみよう。WA1を起動すると、最初にサーバーの選択となる。サーバーはVAIO Media、Windows Media Connect、Windows Media Player11のいずれかが使用できる。ただWindows Media Player11はWindows XP用はまだβ版なので、今回は使用しなかった。まずVAIO Media経由で接続してみる。すると「すべての曲」、「すべてのアルバム」、「アーティストから探す」、「ジャンルから探す」という4カテゴリが現われる。「キャビネットから探す」がグレーアウトしているのは、この機能は番組録画関係の機能だからと思われる。
「アーティストから探す」を選択すると、アーティスト一覧、アルバム一覧と順に表示され、アルバム内の曲がトラック順に表示されるという、一般的なディレクトリ構造となっている。ものすごく当たり前のようだが、実はこれができるのは大変なことなのである。 と言うのも、DLNAマンダトリ(必須)の機能だけを使うと、曲順がトラック順を無視してアルファベット順にソートされて現われることになる。過去DLNA対応サーバーとクライアントの組み合わせでは、音楽再生でそこがネックだったわけだが、VAIO Mediaではそれをオリジナルの技術で解決したようだ。 VAIO Mediaサーバーを使うメリットは、以上の点だけで十分ある。再生可能なフォーマットは、ATRAC3、ATRAC3plus、WAVE、MP3、WMAとなっている。気に入った曲は本体メモリにダウンロードしておけば、、サーバーなしでも聴くことができる。 ただこのサーバーでは、DRM付きの音楽は再生できない。Windows Media DRMはもちろん、ソニーのOpenMGにも対応しない。OpenMG採用の音楽サービスは「mora」、「bitmusic」、「Yahoo!ミュージック」などがあるわけだが、自社のDRMは今後サポートする責任はあるだろう。 一方「Windows Media Connect」をサーバーとして使用すると、Windows Media DRMがかけられた音楽も聴くことができる。Windows Media Connectを利用するメリットは、このあたりにある。 ただこちらでは、アーティストを選択するとアルバムが表示されず、いきなり楽曲がアルファベット順に並ぶということになる。「アルバム」から選択すればトラック順に再生は可能だが、すべてのアルバム名が記憶できているわけでもないだろうから、目的のアルバムを探すのは一苦労だ。このあたりが現状は痛し痒しである。 肝心の音質だが、中音域に独特の厚みがあるサウンドだ。「サウンド」設定では、オリジナルのDSPを使った効果が選択できるが、デフォルトでは6バンドイコライザの「ヘビー」が適用されている。
試しにエフェクトを「切」にしてみたところ、かなり中音域に固まった、昔のラジカセみたいな音になる。音の素性はこんな感じで、DSPで大胆に音質補正されているようだ。そのDSPによるサウンド効果は、多岐に渡る。「D-ノーマライザ」は、2006年発売のHi-MD対応MDウォークマン「MZ-RH1」から搭載されている機能で、自然なダイナミックレンジ補正効果が得られる。 「D-バスブースト」は、低域を強調させる機能で、かなり大げさな効き方をする。通常時に使うというよりも、低音量時に使用するといいだろう。 「エフェクト」の「6バンドイコライザ」は、3つのプリセットと2つのカスタム設定から成る。カスタム設定では自分で6バンドEQの調整ができる。ここではかなり大胆に音作りができるので、自分好みの音を作る楽しみもある。
「VPTワイドステレオ」は、ステレオ感を強調する効果だ。多少位相がずれた感じがするので、近距離ではなく離れた場所で聴くときに使うといいだろう。 「D-リニアフェーズ」は、3タイプのスピーカーのシミュレーションがプリセットされている。Aはスピード感があるモニタ的サウンド、Bはボーカル中心のウェットな感じ、Cはクセのないフラットな感じだ。 これらエフェクト内にある「6バンドイコライザ」、「VPTワイドステレオ」、「D-リニアフェーズ」は排他仕様になっており、同時に設定できないのは残念だ。 またスピーカーの特性として、真正面から聴いたときと、斜め上45度ぐらいの角度から聴いたときの音質差が激しい。画面を見ながら操作するには45度ぐらいの角度になるわけだが、その状態でDSPをいじっても正面で聴いたときにかなり違った結果になるので、なかなか調整が難しい。音の広がりも真正面ではまずまずだが、角度が付くと広がり感が失われる。理想的なリスニングポジションがかなり狭いようだ。 せめてリモコンでメニュー操作が可能だったら、音質補正もリスニングポジションから行なえたのだが、あいにくリモコンにはそこまでの機能がない。まあ、そういうユーザー層は想定していないということなのかもしれない。
■ 総論 本体にストレージを持たず、無線でPC内の音楽が聴けるというWA1。技術的には高度だが、問題はどう使うかである。ベンチがあってくつろげるテラスがあるとか、日当たりの良い縁側で読書ができるといった環境があるなら、持っていて楽しい1台かもしれないが、あいにく筆者宅にはその両方ともないので、使い道があまり想定できない。ワイヤレスであるということ以外は結構コンサバティブな製品なので、ベストな用途があったときにぴったりハマるだろう。内部のDSPでかなり音が変化できるのは楽しくもあるが、同時にDSPなしでもバランス良く聴ける素性の良いスピーカーユニット設計技術が、こぼれ落ちているのではないかという印象も受ける。デジタルプロセッシングで歪みなく音がいじれるようになったのは素晴らしいことだが、それが本当に生きるのは確固たるアナログ技術があっての上ではないだろうか。
本体の操作面は、透明度の高いアクリルパネルであるがゆえに、使っていくうちに指紋だらけになってしまって具合が悪い。使っていない状態のデザインよりも、使っていていつまでも綺麗なデザインであるほうが、ユーザーにとっては所有する喜びに繋がるだろう。 ただ、VAIOブランドとして、このようなスタイルのオーディオ製品が出たということは、意義深い第一歩だろうと思う。実はWA1を箱のまま電車で自宅まで持って帰ったのだが、VAIOロゴ入りのラジカセみたいな商品というのは、かなり注目度が高い。駅の改札へ向かうエスカレータで、20代女性がまさに「ガン見」と表現しても過言ではないイキオイで箱を注視してきたのには、こっちが困ってしまった。 おそらくそういう形のパソコンかと思って見ていたんだと思うが、VAIOはそういうイノベーター的な事が有り得ると思われている、希少なブランドである。むしろこれ自体が枕になるとか、USBでPCと繋ぐと普通のUSBオーディオとして使えるとか、人がいる方向を検知してそっちに特性を向けるとか、もう一歩踏み込んだ機能があれば、面白かっただろう。これをベースにいろいろアイデアはありそうだ。
□ソニーのホームページ
(2007年1月24日)
[Reported by 小寺信良]
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