■ 「テレビで録画」は時代を作るか
デジタル家電の時代を迎えて、テレビとはどうあるべきかを各社とも模索している。テレビ製造はパネルからエンジン開発まで、垂直統合できるメーカーが有利とされてきた。もちろん現在でも、最新技術のパネルを投入できるという意味では、このメリットは生きている。 しかし現在はそれ以外の機能でも、新しい開拓要素も生まれてきている。松下のVIERA Linkもそうだし、「録画できるテレビ」というあり方もその一つだ。 東芝は自社でパネルを製造しない、垂直統合型製造を行なっていないテレビメーカーであるがゆえに、パネルの以外での差別化を行なってきた。録画できるテレビの発想は非常に早く、2004年には当時のブランドface「LZ-150シリーズ」で、LAN HDDに転送録画するというソリューションを実用化している。 続く2005年には、「ちょっとタイムface(LH100シリーズ)」で、テレビ本体にHDDを内蔵した。以降HDD内蔵テレビは、H1000シリーズ、H2000シリーズと続くわけだが、今回のH3000シリーズでは内蔵HDDの他に、市販のeSATA対応HDDを増設できるようにした。
レコーダとは別の文化であるテレビ本体での録画機能は、どこまで来たのだろうか。早速試してみよう。
■ 外観はシンプル、本当の顔はリモコン?
今回お借りしているのは、フルHDパネルを使用したモデルの中でもっとも小型な、37型の「37H3000」である。ディスプレイとしての評価はまた別にあるだろうが、今回は録画機能にフォーカスしていくことにしたい。
まずはハードウェア的な構成から見ていこう。アンテナ線の接続は、VHF/UHF兼用端子、BS/110度CS兼用端子が一つずつある。本機はアナログチューナも備えているが、アンテナ端子は地デジと共用になっている。また内部的には地デジチューナを2基装備しており、録画番組とは別に番組視聴ができる。
HDD増設用のeSATA端子は背面の下向きにあり、設置時にケーブルを接続しておいて固定という考え方のようだ。したがってHDDを交換したい場合は、HDD側のコネクタを外すか、リムーバブルケースを使って取り替えることになる。
入力端子として、HDMIが2系統、D4端子が1系統ある。HDMIは1080p対応だ。S/コンポジットアナログAV入力は背面に2系統、側面に1系統ある。そのほかPC入力用のD-SUBと音声入力も備えている。 出力としては、S/コンポジットアナログAV出力が1系統と、サラウンド用に光デジタル出力が1系統だ。
内蔵HDDは300GBで、地デジならTSモードで約28時間、衛星なら約24時間の録画が可能。またSDレートではXPモード以下4モードを備えており、長時間録画にも対応する。
本機に登録できるHDDは、内蔵も含めて最大5台。つまり外付けHDDは4台まで登録できることになる。現在サポートされているHDDはアイ・オー・データ機器のものに限られているが、単にメーカー検証時間の問題で、他メーカーのものも使えるものと思われる。実際の接続に関しては、このあと試してみよう。 操作性に関しては、リモコンの作りも重要だ。テレビに録画機能を搭載すると言うことは、レコーダ操作も必要になるため、レコーダのようなリモコンにならざるを得ない。 ただH3000シリーズのリモコンは、テレビというところを押さえつつ最低限のボタンでなんとかしようという試みがなされている。地デジのチャンネルボタンが大きくフィーチャーされ、上部にはBS/CS専用チャンネルボタンを設けるなど、リアルタイム視聴が中心であることは変わらない。
録画・再生に関する部分は、青紫の半透明なボタンでまとめられており、視認性を高めている。また中央部には同社VARDIAでお馴染みの、十字キーとその外側にボタンを配置するスタイルのボタン群があり、予約などのメニュー操作の便宜を図っている。
■ テレビであるメリットを生かした予約システム
ではまず、HDDの増設プロセスから見ていこう。今回使用したHDDは、アイ・オー・データの「RHD-UX320」というモデルで、HDDユニットが取り外し可能なタイプだ。 eSATAのHDDというのは、通常デバイスの電源を入れたままで抜き差しできるホットプラグに対応している。元々はシリアルATAを外付け用に拡張した規格ではあるが、USBと似た使い勝手だ。HDD背面には電源連動スイッチがあり、H3000本体の電源と連動してHDDの電源が入るようになっている。 最初にHDDを接続すると、HDDの登録画面が出てくる。ここで「はい」を選ぶと、初期化が行なわれる。この時点で独自の暗号化が行なわれ、現行のコピーワンス運用規定であるムーブに対応できるようになる。
次に、番組の予約システムを見ていこう。番組表は、7チャンネル6時間の番組を表示する「レグザ番組表・ファイン」が強力だ。HD解像度のフル画面全域を使って表示されるので、地上波であればほぼ全局の番組編成を一度に確認することができる。さらに「番組表ボタン」の二度押しで「ミニ番組表」になるので、今視聴中の番組を見ながら参照することもできる。
番組検索は、ジャンル、キーワード、日付、チャンネル(放送波)で絞り込んで検索することができる。事前登録されているキーワードが少ないのが難点だが、ほぼレコーダ並みの性能を備えると言っていいだろう。また放送波も選択次第では全波いっぺんに検索できるなど、かなり強力だ。
搭載CPUも相当高速なようで、検索はほぼ瞬時に行なわれ、待たされることはない。操作全般においてモタモタしたところがないのは、好感が持てる。 録画予約は、番組表で選択したり、検索結果から選択すれば、「番組指定予約」画面となる。この予約録画は、増設HDDに対してダイレクトに録画することができず、かならず内蔵HDDに録画することになる。したがって増設HDDには、この内蔵HDDからムーブという方法でしか記録ができないことになる。
この使い勝手は、現行のコピー規定運用上仕方がないとはいえ、ネットワークHDDには直接録画できた過去の製品に比べて利便性が上がっているかという点に関しては、微妙だ。確かにネットワークHDDよりもダイレクト接続するHDDのほうが、設置のしやすさ、低価格という点でメリットはある。しかし実際の運用では必ずムーブする必要があり、二度手間な感じがする。 予約手段は、他にも沢山ある。その一つは、現在視聴中の番組を「連ドラ予約」するという手法だ。ながら見しているときに、この番組を来週も見たいと思ったら、リモコンの「連ドラ予約」ボタンを押すだけで予約ができる。このあたりは、リアルタイム性を重視したテレビっぽい予約方法だ。
■ シームレスな視聴環境
予約した番組の視聴は、「HDDメニュー」から行なう。予約の変更や確認など、録画に関することはすべてここから操作できる。録画番組の並び順は、昇順・降順に変更できるほか、通常、曜日別、ジャンル別、連ドラグループ別、HDD別といった表示に切り替えができる。
番組のムーブを試してみよう。レコーダのように編集ナビといった画面がないので、番組のムーブは1つずつ行なうというのが基本のようだ。番組を選んで黄色ボタンを押すと、ムーブ画面が表示される。 eSATAはi.LINKのようにディージーチェーンができないので、基本的に増設HDDは入れ替えることはあっても、常に1台しか繋がっていないことになるだろう。そのため移動先の選択肢が他にないので、ムーブの実行はそのまま「はい」を選択するだけだ。ムーブの実行中は、現在放送中の番組に戻る。番組の逆移動も、同じ動作で行なうことができる。 試しに地デジの1時間番組(実質54分程度)をTS録画したものをムーブしてみたところ、約9分で完了した。だいたい6倍速といったところか。さすが相手がeSATAのHDDとなれば、ムーブにかかる時間は光ディスクの比ではない。 これまで外部機器に対してムーブで行ったり来たりするというのは、原理的には可能と言われつつも、実際にはi.LINKのD-VHSモードで接続するものが多く、一方通行のものが多かった。しかし本機のように限りなくムーブできる機能が付いた機器では、内蔵と外付け間でやりくりしながら、HDD別に番組ジャンルをまとめておくといった使い方も可能になるだろう。 ただ、HDDは暗号化されているため、当然ながらPCに接続しても、読み出すことはできない。さらにこの増設HDDは、録画したH3000以外の同型テレビに繋いでも、再生できない。つまり、完全にテレビ個体と一対一対応するわけだ。
したがってライブラリとしてHDDが使えるというわけではなく、実際にはタイムシフトの一時的な退避手段と考えた方が、悩みが少ないだろう。
■ 総論
テレビが多機能になるということは、リスクも大きい。テレビ自体が長く使うものに対し、搭載されている機能が時と共に陳腐化してしまうことで、購入当初のメリットが失われるからである。 一方レコーダとテレビの組み合わせでは、複雑さが増すばかりだ。テレビでも番組表が表示できるが、録画予約するときは入力切り替えをして、レコーダを起動し、リモコンを持ち替えて、もう一度番組表を表示させる、といった完全別個である不便さがある。VIERA Linkのような連携機能が受け入れられた背景には、操作を一元化できないか、というニーズがあったわけである。 テレビが録画機能を持つメリットは、リンクと言った手続きもなしに、スムーズに録画・再生に移行できるという点がある。リムーバブルメディアを使ったライブラリ化を考えなければ、タイムシフトの最も手軽なあり方だ。 H3000シリーズが注目を集めた理由は、内蔵HDDがいっぱいになったらどうするんだよ、という素朴な疑問に対して、明確な解を提供したからだろう。同様のソリューションは日立L37-XR01にも見られるが、iVDRという特殊なHDDで割高感があるのに対し、こちらは汎用HDDが使えそうだ、というところかと思われる。このあたりは、ユーザーのPCリテラシーによって左右される部分だろう。 すでに地デジ対応テレビを買ってしまった消費者にとって悩ましいのは、テレビを買い替えなければこのメリットが享受できないという点だ。あとからこの部分だけ買い足すわけにも行かないのである。もちろんそれと共に、地デジ対応機器の世帯普及率はまだ3割にも届いていないという現実がある。 難しいのは、これからデジタル対応テレビを買うレイト・マジョリティ層が、見たら消せばいいという感覚に馴染めるかという点である。だいたいソニーの「Clip-on(クリップ・オン)」が2000年に発売されて、今それでいいよねという感覚になるまで、7年かかったのだ。 しかし考え方を変えてみれば、ライブラリとして残す派も見たら消す派も、過去には等しくDVDレコーダ、あるいはVHSという選択肢しかなかった。しかしこれからはそれぞれのユーザー層で、使うものが違ってくるという世の中になる。 テレビのダイレクト録画は、見たら消す派の間でトレンドができてくるだろう。そしてその中で、どこまでできれば十分なのかという問いが、もう一度行なわれることになる。
□東芝のホームページ (2007年5月16日)
[Reported by 小寺信良]
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