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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
なぜソニーは、「らしくない」店頭POPを用意したのか
~ 年末商戦の販売戦略をソニーマーケティング・竹村常務に聞く ~



今年のメッセージは「ハイビジョンはソニーにおまかせ!」

 ソニーが今年の年末商戦向けに用意した店頭向けPOPに、ちょっとした違和感を感じる人も少なくないだろう。

 写真のように、ソニーの年末商戦向けPOPは、白地の丸いデザインに赤い縁。そして、赤い文字で「ハイビジョンはソニーにおまかせ!」と記されている。

 例年ならば、「Sony Hi-Vision Quality」に代表されるように、英文を使った「ソニーっぽい」洗練されたPOPが店頭を飾る。だが、今年のPOPは、明らかに「ソニーっぽい」雰囲気とは異なる。「シンプル」であり、悪い言い方をすると「ベタ」なデザインなのだ。

ソニーマーケティング 竹村英洋執行役員常務 ソニーが用意した店頭POPの数々

 このデザインを採用しているのは、POPだけではない。カタログも同じように、白地に赤のシンプルなデザインを採用し、内容もシンプルなものにしている。

 「おまかせカタログと呼ばれるクロスカテゴリーカタログには、細かいスペックや最新技術の詳細を紹介することをやめ、製品ごとに2、3の機能を紹介するだけに留めた。これも今までのソニーにはない挑戦」と、ソニーマーケティングの竹村英洋執行役員常務は語る。

複数の製品を掲載したクロスカテゴリーカタログ。「おまかせカタログ」と呼ばれ、中身もシンプルな内容としている



■ 「個」から「群」への製品提案へと進化

 竹村執行役員常務は、「このデザインをPOPやカタログに採用するかどうかに関しては、社内でも多くの議論があった」と明かす。

 外野がソニーらしくないデザインと感じるように、社内でも同様の意見が出たであろうことは容易に想像することができる。きっと反対の意見も多かったに違いない。それでも、最終的に、ソニーがこのデザインを採用したのには理由があった。

 それは、「ユーザー目線に立ち、わかりやすさに重点を置いた提案」が、この年末商戦で求められていたからだ。

 「ユーザーに最もわかりやすいメッセージは何か。その答えが、『おまかせ』という言葉だった」。ソニーは、ここ数年、「HD World」、「Sony Hi-Vision Quality」などのメッセージを使い、ハイビジョンで先行していることを訴えてきた。それは今年も一緒だ。

店頭に展示されたソニーのBDレコーダ

 だが、昨年と今年の違いは、製品が「個」から「群」に大きく変わっていることだ。もちろん、昨年の年末商品でも、つながることを打ち出し、「群」の提案をしてきた経緯はある。しかし、「群」の規模が、昨年と今年では大きく異なる。

 昨年までは、HD Worldを実現するといっても、ユーザーの製品選択肢が少なく、一部製品分野ではヘビーユーザーを対象としたものに限定されていた。これに対して、今年は明らかに選択肢が増え、広いユーザー層に訴求できるものになっている。

 最たる例がBlu-ray Discレコーダだ。昨年、ソニーが用意したBDレコーダは2機種。しかも、市場想定価格は25万円以上となり、二層録画機能には対応していないという課題もあった。

 だが、今年の商戦では、4機種へとラインアップを拡大。最下位モデルの市場想定価格は14万円からとし、DVDレコーダの中位機クラスの価格帯にまで近づけた。さらに、BDレコーダの一部機種では、「ワンタッチダビング」ボタンを押すだけで、ハイビジョンハンディカムで撮影したハイビジョン映像を取り込むといったように、一般ユーザーが簡単にハイビジョン機器同士の連動利用ができる機能まで搭載した。

 このように、HD Worldの提案が、より現実的にものになっているのが、今年のソニーの商品「群」ということになる。

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■ セット販売を増加させる仕掛けづくりも

 「群」による選択肢が増えたことで、ソニーは、わかりやすさを追求することにこだわった。

 「昨年は、ハイビジョンを見せることが前提となっていた。だが、今年は説明して購入していただくことが前提となる。何と何を組み合わせると、どんなことができるのか。できるだけシンプルに伝えることで、セット提案を増やしていく狙いもある」。

 ソニーは、今年の年末商戦において、液晶テレビ「BRAVIA」と、「BDレコーダ」を二大支柱とし、これに、BRVIAに付属する「おき楽リモコン」、オプションで用意する「シアタースタンドシステム」を加えた4点セットでの訴求を特に強化する考えだ。

 社内用語で「四天王」と呼ばれるこの組み合わせ提案は、約1,000店舗の主要販売店において、専用ブースを配置するという力の入った訴求展開を行なう。さらに、BRAVIAを核とした7つの連動/設置スタイル提案を「My BRAVIA STYLE」として、ハイビジョン環境が、かんたん、快適、高品位に利用できることを訴える。

BRAVIAを中心にしたMy BRAVIA STYLEも提案 おき楽リモコン 製品発表会見で、おき楽リモコンを持つソニー業務執行役員SVP テレビ事業本部長の福田隆志氏(右)と、ソニーグローバルマーケティング部門長の鹿野清氏

 今年9月に東京・品川で開催したディーラーコンベンションでは、セット提案に向けた販売店向けセミナーを連日開催し、商戦突入に向けた準備を進めてきたほか、ソニーショップにおいても、同様にセット提案を行なえる体制を整えた点も見逃せない。ソニーショップでは10月以降、合同展示即売会(合展)を全国で開催し、ここでもセット販売の訴求を前面に打ち出したことで、一部合展では前年比2倍近い売り上げを達成する成果があがるなど、販売記録を更新する合展が相次いでいる。

 「群としての付加価値を提案できることで、客単価が上昇している。ネットワークという言葉をあえて使わずに、BRVIA LINK、ソニールームリンクの機能を訴求したことも、ユーザー目線での取り組み成果のひとつ。前哨戦は評価できる出足」だという。



■ ソニーが挑戦する3つの取り組み

 ソニーは、今年の年末商戦で、3つの新たな挑戦に取り組んでいる。

 ひとつは、これまで触れてきた、ユーザー目線による「わかりやすい」訴求である。過去に例がないともいえる「ソニーっぽさ」を捨てたこの展開は、いまのところ成功しているといっていいだろう。

 当初は、量販店担当者さえも「ソニーらしくない」と驚いていたPOPやカタログが、「連動提案をする素材として使いやすい」との評価があがっていること、さらに、客単価の上昇や、合展での販売新記録の樹立といった成果が証明している。

年末のレコーダ新製品は「BDレコーダ」へと一本化

 2つめの挑戦は、年末のレコーダ新製品をBDレコーダへと一本化したことだ。

 DVDレコーダについては、一部製品に限定して既存モデルを継続販売するが、新製品として投入したレコーダはBDだけ。DVDレコーダの新製品が投入されないことで、営業現場では、当初、不安感も走ったというが、ディーラーコンベンションでの販売店の評価や、合展での成果によって、すでに現場での不安感は払拭されている。

 それどころか、同社の予想を上回る実績となっているのが現状だ。

 ソニーでは、年末商戦において、レコーダ全体に占めるBDの構成比を12%と見ていたが、10月末時点で早くも、BDの構成比がDVDレコーダ全体の15~20%に到達。さらに、ソニーのシェアがBD市場において、6割を占めるという出足を見せているのだ。BD比率の上昇をソニーが牽引したといってもいい状況だ。

 「当初は、発売を待っていたユーザーの購入が先行するため、この数値が、商戦の最後まで続くとは思っていないが、現時点でも当初予想を上回る実績となっていることは事実。生産計画を大きく修正することができないため、一気にBDの構成比が上昇することはないだろうが、BDレコーダに対する高い関心があることを証明した」(竹村執行役員常務)のは間違いない。

 矢沢永吉氏を起用したテレビCMの効果も、ソニーのBDレコーダ需要を後押ししているようだ。

有機ELテレビ「XEL-1」

 そして、もうひとつが、有機ELテレビである。

 同社では、12月1日の発売を予定していた有機ELテレビ「XEL-1」を、11月22日からの店頭展示開始にあわせて販売を開始。年内には約2,000台を出荷する計画だ。

 700台を店頭展示用に用意するという仕掛けは、年末商戦での実売数量を追求するよりも、中長期的視点での有機ELテレビの訴求を狙ったものともいえる。

 2011年7月の地上アナログ放送の停波に向けて、デジタルテレビの普及は、むしろこれから本番。この年末商戦で、生産台数が限定される有機ELテレビの販売数量を追わずに、訴求に力を注いだのは、将来のテレビの選択肢として、有機ELの存在感を訴えるという狙いがあるともいえそうだ。

 「ソニーらしい新技術をきちんと訴求できる店頭展開を打っていく。多くの店舗に実際の商品を展示することで、有機ELの薄さ、高いコントラスト比、視野角の広さなどを実際に体感してもらう」(竹村執行役員常務)という。

 年内の品薄は必至と見られ、年明けの生産台数がどう推移するかも注目されるところだ。

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■ 群によって、「ハイビジョン=ソニー」を定着へ

奥が液晶テレビ「BRAVIA」と「シアタースタンドシステム」。手前が「おき楽リモコン」。机の上に乗ったオプションで用意するチューナー内蔵HDDレコーダもセット戦略の重点製品のひとつ

 ソニーの年末商戦の評価は、「個」の製品の売れ行きもさることながら、「群」としての売れ行きが、鍵を握っている。

 「4点セットに加えて、ハンディカム、VAIO、サイバーショット、α700、ロケーションフリー、プレイステーション3といった組み合わせ提案によって、ハイビジョンによるホームネットワークを完成させることができるようになったのが今年のソニーの強み。群により、ハイビジョン=ソニーのイメージを、一層浸透させることに力を注ぎたい。この提案によって、どれだけ『群』としての成果をあげられるかが課題だ」と竹村執行役員常務は語る。

 現時点では、セット販売比率を集計するには時期尚早であろう。だが、その成果は着実に出ているようである。

 年末商戦が終了した段階で、どの程度までセット販売の比重が高まっているのか、ソニーの年末商戦の成果のひとつとして注目したい。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/

(2007年11月27日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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