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第306回:ソニーのポータブルPCMレコーダ「PCM-D50」を試す
~ 実売6万円。16bit録音用のディザリング機能も~




PCM-D50

 SONYから「PCM-D1」の弟分となるポータブル・デジタル・レコーダ「PCM-D50」が発売された。PCM-D1と比べてよりコンパクトに、そして低価格で登場したのだが、Rolandの「R-09」やZOOMの「H2」など、数多くの競合が存在する中、その実力はどんなものなのだろうか?

 オプション品とともに、お借りすることができたので、その実力を検証した。



■ デンスケ再来の「PCM-D1」低価格モデル

 デンスケの再来といった感じで2年前に登場して話題になったPCM-D1。アナログのメーターを2つ装備したデザインが印象的であったが、発売当初の実売価格が20万円前後と非常に高価であったため、一部のマニアだけのものといった状況だった。すでにRolandが「R-1」を、M-AUDIOも「MicroTrack 24/96」を、低価格でリリースしていた上、その少し後にRolandが大ヒット製品となるR-09を発売したこともあって、PCM-D1の市場全体への影響は少なかったようにも思う。

 しかし、ここに来てSONYはPCM-D1の廉価版ともいえるPCM-D50を発売した。パッと見た目ではアナログメーターがなくなり、短くコンパクトになった印象。またスペックを見ても、72.0×32.7×193.0mm(幅×奥行き×高さ)/525gが、72.0×32.7×154.5mm(同)/365gと背と重量が3割程度縮んだといった感じである。


左側面には主電源スイッチや録音レベル調整などを備える 右側面にはホールドスイッチやUSB端子などを装備 背面には三脚取り付け穴を備える

 気になる値段だが、実売価格は60,000円前後と、PCM-D1と比較すると1/3以下に下がった。現在トップシェアのR-09が35,000円弱であることを考えると、まだ高価とはいえるが、4GBのフラッシュメモリを内蔵していることを考慮すれば、実質1.5倍程度の価格であり、性能次第では十分検討できる範囲内に入ったといえる。

 PCM-D1と比較すると、24bit/96kHzまで対応するなど、基本的なスペックは変わらないが、細かな点での違いはある。一言でいえば、周波数特性やS/Nなどの性能は若干落ちているが、バッテリーの持ち使い勝手が向上しているのだ。

 実際、消費電力が2.1Wから0.75Wに下がるとともに、単3アルカリ乾電池使用時に16bit/44.1kHzでモニターなしでの連続録音時間が約2時間から約24時間と大幅に向上している。ニッケル水素充電池の利用も可能だが、使用する電池は4本となっており、電池ボックスに入れた上で本体内に挿入する形になっている。メモリースティックPRO Duoスロットも備えており、メモリ拡張も可能だ。

 手元にあったR-09と比較すると、1回りか2回り大きく、ぐっと重い印象。R-09やH2が単3電池2本で駆動するのに対して、4本使うあたりにも要因がありそうだ。


4本の単3電池をボックスに入れて利用する 電池ボックスは、本体底面部に挿入 R-09とのサイズ比較。重さもPCM-D50の方がぐっと重い印象



■ X-Y配置のマイクは可動式となり、使い勝手が向上

 ところで、PCM-D1の大きな特徴となっており、ZOOMのH4でもそっくりに真似されたX-Y配置のマイクにも大きな変化があった。左右90度で向かい合っているものを左右120度にまで開けるようになった。

 それぞれ手で動かして設定するのだが、この2つの角度以外にまっすぐ並行になる位置でも、カチッと固定するようになっている。マニュアルを見るとソロ演奏や2~3人のセッションなど、近くに寄って録音の場合は90度のX-Yポジション、コーラスやオーケストラなど大人数の演奏をホールで録音するような、音源から距離がある場合には120度のワイド・ステレオポジションがお勧めとのこと。並行で使うというシチュエーションについては記述されていなかった。


近距離録音では90度のX-Yポジション 音源から距離がある場合は、120度のワイドステレオポジションがお勧めという マイク位置を並行にセットすることもできる

 ここで気になったのは、それぞれのポジションでマイクの役割が左右ひっくりかえるはずだが、どうなっているのか、ということ。試してみると、X-Yポジションに固定されている場合のみ左右が反転し、それ以外のポジションにすると元に戻る仕様になっているようだった。

 マイクにはアッテネータースイッチがあり、通常は0dB、大きい音を入力する場合は-20dBに設定するようになっている。また液晶の右側には録音レベル調整があり、これを0~10の範囲で回すことで設定し、自動レベル調整モードは用意されていない。

 ただし、突発的な大音量が入った場合に備えて、リミッターが用意されており、LIMITERスイッチをオンにすることで機能する。またプロジェクターの風切り音などのノイズを低減するためのローカットフィルターも用意されており、これもLOW CUT FILTERスイッチをオンにすることで機能する。

 リミッターもローカットフィルターも本体のメニュー操作によって、設定の変更も可能だ。MENUボタンを長押しするとメニューが表示され、ここでLIMTERを選ぶと、150ms、1sec、1minの3つが選べる。これはリミッターが働きはじめてから、切れて復帰するまでの時間の設定となっている。また、ローカットフィルターは75Hz以下をカットするか、150Hz以下をカットするかを選択できる。

 このメニューには、そのほかにもいろいろな設定がある。一番重要ともいえるのがREC MODEだろう。ここでは16bit/22.05kHzから最高で24bit/96kHzまでの7段階を設定することができる。デフォルトでは16bit/44.1kHzとなっている。


MENUボタンの長押しでメニューが表示 リミッターは150ms/1sec/1minの3つから選択 ローカットフィルター利用で75Hzか150Hz以下のいずれかをカットできる


24bit録音中にリアルタイムで高音質の16bit音声に変換してレコーディングする「Super Bit Mapping」機能を搭載

 また、なるほどすごいと思ったのがSBM(Super Bit Mapping)機能だ。SBMはご存知SONYのディザー機能で、24bitレコーディングしたものを16bit化する際などに高音質化する技術だが、PCM-D50は基本的に24bitレコーディングする機材なので、それをリアルタイムにSBMを働かせて16bitモードでレコーディングする際の音質を向上させようというものなのだ。したがって、24bitモードの場合は機能しない。

 そして、PCM-D50の新機能として便利なのが「PRE REC」(プリレコーディング)機能だ。これはRECボタンを押して、録音スタンバイすると、約5秒分の音声をバッファに記録して、PLAYボタンを押して録音スタートした際、5秒前から録音が開始されるという機能だ。スタンバイしていて、いざスタートすると、頭がどうしても欠けがちだが、これならそんな問題を防ぐことができ、とても便利だ。

 もうひとつ、PCM-D50がR-09やH2などの製品と異なり、いかにもSONYのDATを継承するレコーダーだなと感じるのがS/PDIFのデジタル入力に対応していること。シンクロ録音のオン/オフ設定なども用意されているなど、機能的にもしっかりしている。


24bitモード利用時にはSBM機能は利用できない 常に5秒前の音声をバッファに保存し、録音できる「PRE REC」機能も備える 光デジタル入力からのシンクロ録音にも対応する



■ クリアな音質。豊富な別売オプションも用意

 実際に、PCM-D50を屋外に持ち出して外の音を録音してみた。以前、H2で試したときはまだ夏で、セミなどの虫の声がしていたが、さすがに今の季節は虫の声はしない。同じ場所で試したところ、午前中だったので、いろいろな鳥の声が聞こえる。おそらく10~30m離れたところで鳴いているようだったが、とりあえずX-Yポジションのまま録音してみた。

 24bit/96kHz、24bit/48kHzのモードでそれぞれ録音したが、そのままの状態では、風切り音が大きなノイズとなってしまうためオプションのウィンドスクリーンを取り付けた。また、やはりオプションとなった三脚は脚を閉じると円柱状になり手持ちの録音も可能となるので、これも利用してみた。


オプションのウィンドスクリーンを取り付けた オプションの三脚は、本体背面に取り付けて利用する 脚を折り畳むと円柱状になり、手持ちの録音が行なえる

 ちなみに、別売オプション品としては、これら以外に、キャリングケース、また録音スタート、ストップ、録音分割操作が可能なリモコンがある。


キャリングケース 録音操作などが可能なリモコン

 さて、実際、ヘッドフォンでモニターしながら録音したが、生で聴いているよりも、ずっと細かな音を捉えているのが分かる。X-Yポジションだったからかステレオ感はイマイチな気もしたが、実際の音を聴いてみて欲しい。なお、録音したデータをそのまま掲載しても容量が大きくなるだけで、音の雰囲気も捉えにくいので、それぞれをノーマライズ処理して、16bit/44.1kHzに変換している。

【録音サンプル】
サンプル 1
(鳥、PCM、24bit/48kHz)
sample1.wav
(3.36MB)
サンプル 2
(鳥、PCM、24bit/96kHz)
sample2.wav
(3.36MB)
編集部注:録音ファイルは、いずれも録音した音声をノーマライズ処理し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

録音サンプル : 楽曲(Jupiter)
【音声サンプル】(6.96MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、24bit/48kHzで録音した音声をノーマライズ処理し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 次に実験したのは、以前、R-09、H4、H2のそれぞれで行なったのと同じ音楽のレコーディング。方法としては、CDをCDプレーヤーで再生させ、S/PDIF出力したものをRolandのMA-10Dを用いてかなり大きめの音量(ボリュームの7割程度)で再生させたものを約50cmの距離でレコーディングするというもの。素材も以前と同様、TINGARAの「JUPITER」という曲を使わせてもらった。

 なお、この音量の場合、アッテネーターを効かせないと入力レベルがオーバーしてしまうため、-20dBに設定REC LEVELの目盛りを7の位置にすると、最大で-6~-4dBくらいになるので、この状態で録音した。近距離でのレコーディングなのでマイクはX-Yポジションだ。

 ここではR-09などとの比較のため、また素材がCDであることも考慮して、24bit/48kHzで録音した。掲載した音はやはり分かりやすくするため一旦、ノーマライズ処理をして16bit/44.1kHzへと変換している。ぜひ、この音をR-09、H2、H4と比較して欲しいのだが、それなりに音質には違いが出ている。R-09とH2、H4の違いほどではないものの、R-09よりもさらにクリアなサウンドになっている。

 WaveSpectraの分析でみると、確かに波形は異なるが、どちらがいいかはハッキリ読み取れない。しかし、聴いた音としては、マイクの前にかかっている膜が一枚取れたといった感じだろうか……。ステレオ感も向上しているように思える。



■ 「SonicStage Mastering Studio」がバンドル

 PCM-D50からPCへのデータの転送はUSB接続で行なう。USBマスストレージ対応となっているため、ドライバも不要で、すぐにアクセスできる。


SonicStage Mastering Studioのバンドル版が付属

 ここにもう1つ大きなオマケが付いている。あの「SonicStage Mastering Studio」(SSMS)のPCM-D50版である「SonicStage Mastering Studio Recorder Edition Ver.2.4.00」がバンドルされているのだ。これまでSSMSはVAIOに搭載されたソフトであり、VAIO以外で使うことができなかったが、PCM-D50によってそのSSMSが解放されたわけだ。

 基本的には、VAIO搭載のSSMSと同様のものであり、外部のアナログ音をレコーディングして、CDに焼くというソフト。オーディオインターフェイスとしてASIO対応のものが使え、PCM-D50が接続されていない状態でも利用することができる。また起動時にPCM-D50が接続されていると、フォルダごとに整理されているメモリー内のデータを吸い上げて、SSMS上に自動的に並べてくれる。


ASIO対応オーディオインターフェイスが利用できる 接続されたPCM-D50内のデータを自動で並べる 取り込みたいフォルダのみを選択して吸い上げることもできる

 ただし、VAIOのようにWAVESのプラグインは収録されていないので、その意味での魅力はない。「Sony Downmix Plugin」、「Sony Fader Plugin」、「Sony Localization Equalizer Plugin」、「Sony Surround Panner Plugin」という4つのプラグインが入ってはいるものの、いずれもサラウンド関連のもののようで、いわゆるマスタリング用に使えるものではなさそうだ。とはいえ、VSTプラグインは使えるので、フリーウェアなども含め、マスタリング用エフェクトを追加すれば、結構使えそうではある。


Sony Downmix Plugin Sony Fader Plugin


Sony Localization Equalizer Plugin Sony Surround Panner Plugin

 なお、DSDレコーディング、DSDディスクの書き込みも可能となっているようだが、SoundReality搭載機でないとDSDモードは利用できないとのことで、結局VAIO以外ではDSDディスクの書き込みはできない。

 以上、PCM-D50について検証してきたが、ちょっと価格的には高めではあるものの、音質的にはかなりよさそうだ。近々登場すると思われるMarantzのPMD620も含め、この市場はますます競争が激しくなっていきそうだ。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200711/07-1107/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/linearpcm-rec/PCM-D50/index.html
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-本体を小型化、可動マイク採用。さかのぼり録音も
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(2007年12月3日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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