2017年8月8日 07:45
7月28日、アップルはiPod nanoとiPod shuffleを製品ラインナップからはずしたと公表した。これで、iPod touchをのぞき、音楽プレイヤーとしての「iPod」は現行製品から姿を消すことになる。
数ヶ月前、Netflixで配信が始まったオリジナルドラマ「アイアンフィスト」を見て驚いた。アイアンフィストでは、飛行機事故で15年間行方不明だった主人公がニューヨークへ舞い戻るところからスタートするのだが、その時間経過の演出が「初代(もしかすると第2世代かも知れないが)iPodで音楽を聴きながら帰ってくる」ことだった。40も半ばになるおっさんのイメージからすれば「ちょっと前の製品」なのだが、ドラマの主人公達、そしてこのドラマのターゲットとなるミレニアル世代後半の人々にとっては、まさに「過去の象徴」なのだろう。
・iPod nanoとshuffleが販売終了。touchは値下げし、「ラインナップをシンプルに」
純粋な音楽プレイヤーとしてのiPodが消えたのは、スマートフォン的な機器に需要を奪われたためだ。だから「iPhoneがiPodを殺した」とも言える。
だが、筆者は「iPhoneがiPodを殺した」という表現には異論がある。本当にiPodを殺したのはハードウエアではなくサービスだ、と思うからだ。
現在欧米では、音楽をSpotifyなどのストリーミング・ミュージック経由で聞くのが基本になっている。アップルもそれを追いかけてApple Musicをスタートしているのはご存じの通り。その前には、YouTubeでミュージッククリップを探して視聴する行為が定着していた。
これらと過去のiPodでの視聴との大きな差は、「デバイスの中に音楽を転送しておく必要がない」ということにある。好きな音楽は好きな時に、好きなように探して聞くもの。自分が持っている音楽を「Syncして」聞くのは、CDやダウンロード販売が中心だった時代の行動であり、現在のスマートフォンを軸にした音楽の聴き方では、「自分がその曲を持っているかどうかは大きな意味を持たない」形になっている。それはスマートスピーカーでも変わらない。スマートスピーカーには音楽を転送して聞くことはなく、直接サービスにアクセスして再生するものだ。
iPod世代と現在の音楽機器では、「コンテンツの蓄積のあり方」が大きく変わっている。それはハードウエアがなければ起きなかった変化なのだが、変化の本質はサービス側にある。iPhoneは重要なプラットフォームだったが、真にiPodを殺したのはその上で動くサービスである「YouTube」であり「Spotify」だったのである。結局、アップルは今のところ、そこに追いつくための手を打っている状況で、フォロワーといっていい。
バグルズは「ビデオ(MTV)がラジオスターを殺した」と歌ったが、個人の音楽視聴においては、レコードをウォークマンが殺し、ウォークマンをiPodが殺し、いままたストリーミング・ミュージックがiPodを殺した。こうやって並べてみると、結局「殺す」ための武器は音楽そのものの流通の変化であり、今回起きたのもそこが本質だ。ストリーミング・ミュージックは、何年後にどんなサービスに殺されることになるのだろうか。それとも、もうこれで最後の劇的な変化になるのだろうか。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。
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2017年8月4日 Vol.137 <備えあれば憂いなし号>
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01 論壇【小寺】
いつかは起業。その時のために
02 余談【西田】
誰がiPodを殺したのか
03 対談【小寺】
新人研修の秘密 (2)
04 過去記事【小寺】
洗濯はなぜ非効率なのか
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと