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ソニー、業界最小画素で1.5倍高精度なToF距離画像センサー。VRやロボットに

 ソニーは5日、業界最小となる10μm角画素の裏面照射型「Time of Flight方式」(ToF方式)距離画像センサーを開発したと発表した。正確な距離画像を高速に取得でき、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)分野のほか、ロボットやドローンなどでの活用が見込まれる。6月5日から京都で開催されている「VLSIシンポジウム」において発表された。

同一距離での取得距離画像比較。左が新開発センサー、右が従来品
CMOSイメージセンサーによる撮影画像

 ソニーが2015年に買収した Softkinetic Systems(ソフトキネティックシステムズ)のToF方式距離画像センサー技術と、ソニーの持つ裏面照射型CMOSイメージセンサーの技術を融合して実現したもの。

 ToF方式は、光源から発した光が対象物で反射し、センサーに届くまでの光の飛行時間(時間差)を検出することで、対象物までの距離を高精度に測定する方式。さらに精度を向上するためには、反射光を効率よく捉えるとともに、より高速に距離測定の処理が必要とされるほか、低消費電力化のためには、反射光の集光/利用効率を高め、光源の出力を抑えることが求められるという。

 ソフトキネティックシステムズが持つ、ToF方式を実現する画素技術「CAPD」(Current Assisted Photonic Demodulator)は、反射光信号の読出し精度を上げるために、画素内ドリフト電流(通常のイメージセンサーと異なり、空乏層を形成せずに、2極間電位差により発生する電流)を用いた高速処理が可能な独自の画素構造を採用。この構造により各画素の測距精度が上がり、遠距離でも正確な測定と距離画像を取得できるという。

 CAPDは、光源の飛行時間を利用した位相の異なる信号の読み出しを複数回行ない、その信号の比率を出力することで、距離に換算する方式を採用している。この場合、距離画像のSN比を上げるには、反射光信号の利用効率向上に加え、画素内に複数の読み出し回路を配置し、反射光の遅延が正しく計算できるように複数の位相の信号を正確に読み出すことが求められる。また、測距精度向上のために、より高速な周波数で駆動することが必要。これらを満たすために、CAPDは電位勾配(電子転送のための斜面)を動的につくり、画素内ドリフト電流で高速転送を行なう。受光部で反射光から変換された電子を、2つの読み出し部の間で効率よく高速に転送することで、より正確な位相差信号を取得可能となる。

 一般的なToF方式の画素は、画素内に複数の読み出し回路を配置するため、表面照射型CMOSイメージセンサーを使っているのに対し、ソニーは裏面照射型CMOSイメージセンサーの画素技術を組み合わせることで、画素の有効開口率(チップに対する受光部の割合)を向上。表面照射型の15μm角画素と同等の集光効率を、裏面照射型の10μm角画素で実現。距離画像センサーの小型化を図りながら、より高精度な測距性能を可能とした。また、高い集光効率により光源の出力を抑えられ、距離画像センサーモジュールを低消費電力化/小型化できるという。

 さらに、裏面照射型導入に合わせて画素構造と画素内配線をToF方式に最適化することで、測距に必要な位相差の検出をより高速化することが可能となった。反射光の利用効率を維持したまま駆動周波数を従来比で2倍の100MHzに上げられるため、同一の距離において精度が向上。従来よりも高品位な距離画像が得られる。また、従来と同一の精度を維持した場合は、従来比1.5倍の距離までの距離画像が得られる。

 今後は「DepthSense」商品群として、ジェスチャー認識や物体認識、障害物検知など、ToF方式距離画像センサーの応用領域の拡大を図っていく。

距離の誤差が同等時の測定距離の比較。環境光は2klux、光源強度は104mW(平均、100MHz駆動時)
主な仕様の比較
開発品従来品
光源波長850nm850nm
画素サイズ10×10μm15×15μm
変調周波数100MHz50MHz
信号コントラスト比0.850.6
蓄積時間380μs380μs
1m測距時の距離誤差5.9mm12.9mm
ソフトキネティックの既存技術で実用化された、カーインフォテインメントジェスチャーコントロール