エプソン、動画撮影にも強いEVF用液晶パネルを製品化

-デジタル一眼向け。プロジェクタの高画質技術を応用


新パネルを使ったEVFのデモ機

10月14日発表


 セイコーエプソン株式会社は14日、デジタル一眼カメラの電子ビューファインダ(EVF)向けの高温ポリシリコン(HTPS)TFTカラー液晶パネルを開発し、10月より量産を開始したと発表した。ミドル~ハイエンド用デジタル一眼カメラへの搭載を想定し、既に供給を始めている。なお、価格は非公開。

「ULTIMICRON」シリーズの第1弾製品「L3F04S-80300」

 EVF向けのHTPSカラー液晶パネルは「ULTIMICRON」(アルティミクロン)というシリーズで展開。今回の製品「L3F04S-80300」が第1弾となる。

 新パネルは、0.47型/解像度800×600ドットのTN液晶で、表面輝度は460cd/m2、コントラスト比は280:1。画素ピッチは4×12μm。表示色は約1,677万色で、色域はsRGBカバー率92%。

 大きな特徴は、同社プロジェクタ技術の応用による高精細/高開口率化で、画質を向上したこと。粒状感が無く、眼の分解能に迫る精細感を実現したという。既存のD7パネルを応用し、強い光を用いるプロジェクタ特有の遮光構造など、EVFでは不要な部分を簡略化するなどして製品化している。低消費電力化も追求しており、460cd/m2で表示する場合、200mWで駆動できる。


新パネルの主な仕様構造図。液晶層とカラーフィルタ、バックライト(白色LED)などが一体化されている従来のEVFに比べ高精細化していることが大きな特徴

 また、カラーフィルター方式の採用により、他社の色順次方式で発生するカラーブレークアップ(画面の動きと眼の動きの相互作用でRGBが分離して虹のように見える現象)が発生せず、動きの速い被写体や流し撮り、動画撮影などで効果を発揮するという。さらに、液晶をアナログ駆動することで、豊かな階調表現と自然なボケ味を実現するとしている。

カラーブレークアップが発生せず、動画撮影時などに適しているという液晶のアナログ駆動による豊かな階調表現も特徴精細感や広色域を実現しながら小型化し、「業界NO.1の高画質」とアピール
新パネルを使ったEVFのデモ展示。今回は特徴の1つである動きの速い被写体を捉えたサンプルはなかったが、静止画において解像度の高さと明るさが確認できた


■ フルHDまでの高解像度化や、HMDなどへの応用も視野

TFT事業部長の下斗米信行氏

 同社はプロジェクタ向けHTPSパネルで累計5,000万枚超を出荷し、半数近くのシェアを持つという。TFT事業部長の下斗米信行氏は、素子能力が高く微細加工が容易なHTPSの特徴を活かし、プロジェクタ本体の小型化や高解像度化、高輝度化を実現してきたことを挙げ、EVF向けでもこうした技術の応用と進化で、新しい市場と付加価値の創造を目指すと説明。また、セイコーエプソンとしてのウォッチ事業で培った精密加工技術や、自社カラーフィルタなどキープロセスの内製化なども強みとする。


プロジェクタで培ったHTPS技術プロジェクタ向けは累積出荷5,000万枚を超える同社HTPSパネルのターゲット市場。プロジェクタは、特にモバイルの市場に注力するという

 今回、デジタル一眼向けの製品を開発した背景については、CIPA(カメラ映像機器工業会)のデジカメ市場の統計をもとに説明。レンズ交換式デジカメが'08年に前年比125%の伸長となったこと、'03年にはデジカメ全体の1.9%だったレンズ交換式が'08年に8.1%となったことを挙げ、今後も堅調に推移するとの予測から、これを成長ジャンルと見込む。

 そのなかで、今後の競争軸の1つであるデジタル一眼の小型化/軽量化や、動画撮影機能の搭載/強化などに焦点を当てる。デジタル一眼レフカメラの光学ファインダ(OVF)で必須のミラー部やプリズム部が、EVFの採用で不要となる点や、ミラー動作時のタイムラグ、ミラーショックによるブレを防ぐ点、ファインダで見ている画と撮影される画のギャップを無くす点、電子増感により暗所撮影でも被写体確認ができる点などを長所としてアピール。新製品の投入で、デジタル一眼市場の一層の活性化を図るという。

CIPAによるデジタルカメラ市場の出荷実績と予測(左)と、レンズ交換式モデルの推移(右)TFT技術部長の矢崎正幸氏

 TFT技術部長の矢崎正幸氏は、ULTIMICRONの高い解像度や高速被写体追従性、低消費電力といった特徴を武器に、「従来のOVFを代替し、多くのユーザーメリットが提供できる。小型/軽量化や動画撮影といったデジタル一眼の新しいニーズにも対応可能」と語る。

 新パネルの製造は、国内拠点のうち小型パネルを生産する諏訪南工場で行なう。プロジェクタ向けとEVF向けの生産割合は、スタート時は5:1で、今後は徐々にEVFの割合を上げていくという。

 また、今後は段階的な高解像度化でフルHDまで対応することや、Adobe RGBサポートなど色域の拡大、500:1以上の高コントラスト化といった画質向上の追求と、画素微細化による小型化、低消費電力化などのユーザビリティ向上に取り組むとし、ULTIMICRONシリーズのラインナップ強化と応用分野の拡大を図る。今回はデジタル一眼カメラ向けだが、これをトリガーとし、業務用カムコーダやヘッドマウントディスプレイ(HMD)といった分野への応用にも意欲を見せた。

小型化や動画撮影の問題など、現状のデジタルカメラの課題をEVFで解決できるとする
HTPSにおける同社の強みフルHDなどの高解像度化や、ユーザービリティ向上などを進めるデジタル一眼以外にも応用分野を広げる


(2009年 10月 14日)

[AV Watch編集部 中林暁]