ガラス基材の高品位CDでN&Fとセーラー万年筆が提携

-共同で「Extreme HARD GLASS CD」を展開


エヌ・アンド・エフ福井取締役

11月17日発表



 音楽レーベル「fine NF」を運営する有限会社エヌ・アンド・エフは17日、ガラス基材を利用した音楽CD「Extreme HARD GLASS CD」をセーラー万年筆株式会社と共同開発し、共同でガラスCD事業を行なうと発表した。

Extreme HARD GLASS CD

 両社協業の第1弾として「COND:PETER SANTA/AMSTERDAM SYMPHONY ORCHESTRA」のハイライト作品集を製作した。ただし国内での発売は未定という。Extreme HARD GLASS CDの受注窓口はエヌ・アンド・エフが担当。マスタリングやクオリティ管理にもノウハウが必要なため、fine NFレーベルで発売する。同レーベルのタイトルは1枚から受注生産を行ない、1枚当たりの販売価格は98,700円。

 「Extreme HARD GLASS CD」は、エヌ・アンド・エフがトエミ・メディア・ソリューションズと2006年9月に共同開発。2007年にはカラヤンの第9などの作品を発売してきた。しかし、トエミ・メディアが株式会社メモリーテックに吸収され、GLASS CDを製造していた岐阜事業所もメモリーテックが継承したことで事業環境が大きく変わったという。

 エヌ・アンド・エフはメモリーテックとガラスCD事業において覚書を交わし、共同で事業展開する予定だったが、メモリーテックから「独自の考え方や営業方針で事業を進めたい」という申し出を受けたという。こうした経緯や、ガラスCD製造方法や商標権に関するビジネス展開への方向性の違いから、円満に提携を解消に至ったとする。こうした経緯から、今回新たにガラスCDを手掛けていたセーラー万年筆のロボット機器事業部と業務提携し、ガラス製音楽CD事業を共同で展開することとなった。

 従来のCDが基材にプラスチック(ポリカーボネート)を使用するのに対し、Extreme HARD GLASS CDはガラスを採用。優れた物理特性により、高音質化を図るとともに、安定性や耐久性の向上などを実現している。

 ガラス基材の採用により、温度や湿度による面振れ偏移がないほか、複屈折が無いため、読み込みレーザーの効率やS/N比の向上を図れる。また、強化ガラスの使用で耐久性も大幅に向上し、長期の保存に優れるほか、ピックアップのフォーカスやトラッキングが安定するなど、サーボ系の安定による再生S/Nの改善も可能とする。

 ディスク重量は31g(CD規格の上限は33g)。フライホイール効果により回転が非常に滑らかになり、時間軸精度の向上が図れるという。製造時には独自開発の光硬化技術による高精度微細転写方式を採用し、1枚1枚時間をかけて製造する。

Extreme HARD GLASS CDポリカーボネートディスク(左)とガラスディスク(右)の反りを3次元グラフで比較

 エヌ・アンド・エフの「Extreme HARD GLASS CD」の特徴といえるのが、アルミニウムのスパッタの採用で、盤面はシルバーとなる。一方、メモリーテックが展開するガラスCDの「クリスタルディスク」では、スパッタリングで金を成膜し、盤面がゴールドとなる。エヌ・アンド・エフの福井末憲取締役は、「(アルミスパッタの採用について)高級光学ガラスと鏡面で反射されたビームがカラーリングされないように配慮している。金鏡面は物理特性として反射率は向上するが、反射した光線がカラーリングされ、自然な高音質再生には不向き」とする。

 


■ Extreme HARD GLASS CDで「ディスクの価値を向上」

Extreme HARD GLASS CD

 エヌ・アンド・エフの西脇義訓代表取締役は、2001年のハイブリッドSACD発売や、2007年の「Extreme HARD GLASS CD」発売などの経緯を紹介。「当初は『ガラスで音が変わるわけがない』と言われたが、その後実際に体験していただいて、『スゴイ』という評判に変わった。ガラスで高音質で残すという『保存性』と、『年々安くなるディスクの価値を上げたい』という2つの目標を実現できた。ポリカーボーネート基板でも、(SHM-CDやBlu-Spec CDなど)相次いで高音質CDが発売され、ディスクの質に注目が集まり、価格、価値の上昇が図れた。これもガラスCDがきっかけになったのではないか」と語った。

 また、エヌ・アンド・エフ取締役で録音エンジニアの福井末憲氏は、セーラー万年筆ロボット事業部との協業について、「原点回帰」と説明。9月のメモリーテックとの提携解消後に、セーラー万年筆にコンタクトしたという。「ロボット事業部というので、ガラスCDをハイスピードで量産しているのかと想像していたが、専用工場で精緻に組み上げる手作りの技で、製作されていた。我々の求めていた技術があった」と今回の提携について語った。

 セーラー万年筆 取締役の三田公夫ロボット機器事業部事業本部長は、射出成型機などを皮切りに、オーディオカセットのシェルやプラスチックケースの自動組み立てなど、オーディオ関連機器についての同社の関わりを紹介。LDやCD、DVDなどの工程にも同社のロボットが多数使われているという。

セーラー万年筆 三田取締役セーラー万年筆がガラスCDを手掛ける理由
セーラー万年筆 企画開発部 菱沼部長

 セーラー万年筆ロボット機器事業部 企画開発部の菱沼英司部長は、物理特性や光学特性、信号特性などのExtreme HARD GLASS CDの特徴を紹介。ポリカーボネートと比較した際の反りの少なさや、湿度による変化の少なさ、個体差の少なさなどをデータを交えて紹介した。

 発表会場は、東京恵比寿のデノン&マランツ恵比寿ショールームで、ポリカーボネートのCDと、Extreme HARD GLASS CDの比較試聴も行なわれた。


湿度と反りの相関。ガラスCDでは湿度に起因する反りがほとんど生じないディスクピット形状の比較会場はデノン&マランツ恵比寿ショールーム

(2009年 11月 17日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]