シャープ、テレビ向け液晶パネル生産をGW明けに再稼働

-'10年度は増収増益。震災の影響で新年度計画公表せず


シャープの片山幹雄社長

 シャープは、4月初旬から停止していた亀山第2工場およびグリーンフロント堺のテレビ向け液晶パネル生産を、ゴールデンウイーク明けにも再開する考えを明らかにした。4月27日に、2010年度連結業績について、大阪市内で会見したシャープの片山幹雄社長が言及した。

 2010年度前半には旺盛だったテレビ向けの大型液晶パネルの需要は、その後の欧米市場の伸び悩みや、中国市場におけるローカルブランドの販売不振により、年後半には需給環境が悪化。液晶パネルの急激な価格下落や、市場在庫の増加が進展するという事態に陥っていた。

 シャープでは同社の液晶パネル生産拠点において、2010年度第2四半期(2010年7~9月)以降に、1~2割程度の生産調整を実施してきたが、2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響で、液晶テレビの販売減少と、これに伴う液晶パネルの在庫が増加。また、シャープでは、必要部材を中小型液晶に優先的に供給したこともあり、4月初旬からは大型液晶工場におけるパネル投入を休止していた。

 片山社長は、「部材調達の安定化、在庫の適正化を図ることで、5月の連休明けの稼働再開を目指している。現在の在庫の状況、新たな製品の引き合い状況からみても、ゴールデンウイーク明けの再開は、適正な状態に達した上での判断だといえる」という。

 また、「亀山第2工場の一部生産ラインを中小型液晶向けに転換したこと、60型などの大型液晶生産比率が拡大することに伴い、第2四半期以降は、大型液晶についても高い稼働率が見込める。シャープが生き残る道は、大型液晶テレビであり、そうした方向に向けた切り替えを進めている」とした。

 加えて、「中国の第6世代生産ライン(南京中電熊猫液晶顕示科技有限公司)の稼働が、今年度中盤以降に寄与してくることから、中国生産によるコスト力、円高メリットを生かしたパネル調達も可能になる。液晶パネルやモジュール設計、部材の標準化や共通化を図るとともに、各工場の強みが発揮できる最適生産機種へ絞り込むことで、コストダウンを一層進めることができる。これにより、大型液晶事業の収益向上を図ることができる」とした。

 なお、亀山第1工場はすでに中小型液晶生産に向けた設備導入が始まっている。「亀山工場は、世界に向けて新たな役割が出てきた。スマートフォン、タブレット向けなどに安定供給を図る考えであり、そこでビジネスを伸ばしていく」としている。



■ソニーとの合弁会社への増資は1年協議を延長

 一方、ソニーと進めている大阪府堺市に大型液晶パネル生産拠点における合弁事業については、協議期間を2012年3月まで、1年間、期限を延期したことを発表した。

 液晶パネルおよびモジュールの製造、販売に関する両社の合弁会社であるシャープディスプレイプロダクト(SDP)に対して、ソニーは、2011年4月末までに最大34%まで出資比率を引き上げることで合意。2009年12月の第三者割当増資では、7.04%を出資していた。現時点で、それ以上の追加出資の事実はないという。

 「大型液晶を取り巻くビジネス環境が大きく変化するなかで、今後の合弁事業の方向性について両社で協議を重ねた結果、今回の合意に至った」(片山社長)とした。



■増収増益の2010年度決算、テレビ事業も黒字

2010年度の連結業績

 シャープが発表した2010年度(2010年4月~2011年3月)連結業績は、連結売上高が9.7%増の3兆219億円、営業利益は52.0%増の788億円、経常利益は90.8%増の591億円、当期純利益は341.2%増の194億円となった。

 シャープの片山幹雄社長は、「円高基調の為替推移や市場価格の下落が影響し、厳しい経営環境となったが、エコポイント制度などの経済対策効果や独自の特徴をもった製品の市場投入により、大幅な増収増益になった。しかし、3月11日の東日本大震災の発生以降の急激な売上げ減少もあり、2010年10月28日の公表数値を変更することになった」とした。

 2010年度実績は、10月28日の公表値に比べて、売上高で780億円減、営業利益で111億円減、経常利益で41億円増、当期純利益で105億円減となっている。

 また、2010年度の特別損失として、200億円を計上。そのうち、126億円が事業構造改革費用となった。これは、亀山第2工場の一部ラインを中小型液晶へ生産転換したことに伴い発生したものだという。

営業利益経常利益
主な特別損失の項目当期純利益

 部門別業績では、エレクトロニクス機器の売上高が6.9%増の1兆9,705億円、営業利益は49.3%増の792億円。そのうち、AV・通信機器の売上高が7.1%増の1兆4,267億円、営業利益は161.8%増の407億円。

部門別の売上高部門別の営業利益

 液晶テレビの販売台数は前年同期比45.5%増の1,482万台。「東日本大震災の影響によって、3月後半の国内販売が落ち込み、年初計画の1,500万台には若干の未達となった。だが、国内は6割増の伸び、海外も中国を中心に2桁増となり、前年からは大幅に成長した」と総括した。

 液晶テレビ事業の売上高は前年同期比20.5%増の8,035億円。通期での黒字を達成しているという。

 液晶テレビの販売台数のうち、国内の販売台数は61.2%増の889万台、海外は27.0%増の593万台。海外のうち、北米は16.4%減の137万台、欧州は10.0%増の142万台、中国は83.7%増の218万台、その他地域では74.6%増の95万台となった。「日本では、エコポイント制度の駆け込み需要による液晶テレビの販売増に加え、BDレコーダの伸張がみられた」という。

 一方、携帯電話の売上高は9.1%減の4,132億円、販売台数は7.6%減の974万台。「スマートフォンは好評だが、市場投入が第3四半期後半となったこと、さらには国内市場の成熟化、海外メーカーの拡大などが影響している。今後は、世界に通用するグローバルスマートフォンを展開してきたい」とした。



■付加価値で差別化した中小型液晶の伸張が際立つ

主要商品・デバイスの状況

 また、健康・環境機器の売上高が10.5%増の2,698億円、営業利益が22.7%増の199億円。情報機器の売上高が2.6%増の2,739億円、営業利益は12.7%減の185億円。「健康・環境機器では、冷蔵庫、エアコンが国内外ともに好調に推移しているほか、情報機器ではデジタルカラー複合機の伸張などにより売り上げ増に貢献した」という。

 電子部品の売上高は前年同期比13.0%増の1兆5,540億円、営業利益は12.4%減の307億円。そのうち、液晶の売上高は17.0%増の1兆269億円、営業利益は6.8%減の170億円。太陽電池の売上高は27.2%増の2,655億円、営業利益は58.7%減の21億円。その他電子デバイスの売上高は9.6%減の2,615億円、営業利益は1.0%減の115億円となった。

 「中小型液晶は、ゲーム機、車載機、スマートフォンやタブレット端末向けに高精細液晶、3D液晶といった高付加価値パネルの需要が急激に伸びており、需給状況が逼迫するなかで、当社ならではの強みを生かせる。工場もフル稼働の状況」だとした。また、「太陽電池は国内外ともに売上げは好調に推移したが、価格下落の影響が大きかった」という。



■通期見通し未公表も、増収増益の方向感を打ち出す

 一方、2011年度の業績見通しについては、「企業活動に与える東日本大震災の影響は広範囲であり、予想が難しい。業績に与える影響額を現段階で合理的に見積もることが困難である」として公表しなかった。

 片山社長は、「当社においては、甚大な被害はなかったが、各種生産活動に必要な半導体や素材、薬品などのサプライチェーン、電力やガスなどのインフラが大きな影響を受けることになった。6~7月も見通せる状態にはない。また、当面は国内消費の大幅な落ち込みが想定される」と分析。その一方で、「今後の予想が可能となった時点で速やかに公表したい」としており、早ければ6月にも、2011年度の事業方針が公表される可能性が高い。

 ただ、「数値を言える段階ではないが、これまで取り組んできた中小型液晶および大型液晶の生産体制の強化、イタリアにおける薄膜太陽電池生産の稼働などが、年後半に寄与するだろう。これにより、売上げ、利益ともに、2010年度実績を上回るとの方向感は持っている」と、増収増益を目指す姿勢を明らかにしている。

 液晶テレビ事業については、「部材調達に関して不透明な部分が多く、台数目標を出せる段階にはない。年度方針が見えた段階で明らかにしたい。日本では、エコポイント制度終了の反動もあり、アナログ停波以降の後半は厳しくなると予想している。だが、中国や新興国を中心とした海外市場は引き続き堅調な成長を続くとみている。新興国向けの中型サイズのラインアップ強化や、北米および中国市場向けの60型以上の大型モデルの投入によって、新たな市場創出を図る」とした。

 片山社長が、大画面テレビの足がかりと位置づける、2011年1月のCESで発表した60型および70型のAQUOSクアトロンは、今週末から、北米市場向けにいよいよ出荷が開始される予定だという。

 なお、2011年度第1四半期(2011年4~6月)業績については、「大型液晶工場の投入休止もあることから、厳しい業績になることが見込まれる」とした。


(2011年 4月 27日)

[Reported by 大河原克行]