「One Sony」で大胆に選択と集中。ソニー次期CEO平井氏
-TVは2年で改善。Vitaからスマートモバイル
4月から社長兼CEOに就任する平井一夫副社長とハワード・ストリンガーCEO |
ソニーは2日、2月1日の取締役会において選任された新経営体制について会見を開催。4月1日より代表執行役社長 兼 CEOに就任する平井一夫氏(現代表執行役副社長)と、3月末にCEOを退任し、6月から取締役会議長に就任するハワード・ストリンガー 取締役 代表執行役 会長 兼 社長 兼 CEOが会見に臨んだ。
今回の人事は、ストリンガー氏より取締役会に提案され、決議。ストリンガー氏は6月の定時株主総会まで代表執行役 会長職を継続。株主総会直後の取締役会の決議を経て、取締役会議長に選任され、平井氏は6月の定時株主総会において、取締役に選任予定。
■ 「舞台は整った」とストリンガーCEO
3月末でCEO職を退く、ハワード・ストリンガーCEO |
ハワード・ストリンガーCEOは、今回の人事について説明。「ソニーは偉大な会社。2009年に構築した経営体制では新世代の経営陣を起用したが、その際『新世代でグローバルに活躍し、デジタルに馴染む後継者がこの中にいる』と紹介した。まさにその中に後継者がいたことになる。私がカズ(平井一夫氏)をCEOとして推薦したが、会社も回復への努力を続けており、その舞台が整った」と説明。「(大幅な最終赤字を発表した直後だが)最悪期はほぼ脱した。2011年は大震災、タイの洪水など多くの災害に見まわれた。私が間違いを犯していないと言うつもりはないが、不幸な出来事がなければ黒字の報告ができた。(退任の前に)3年間準備を進めており、平井が引き継いでくれることは嬉しい。方針を変えるのではなく、ギアをシフトする。世代交代のまたとないタイミングだ。優れた能力を持つ友人の平井に引きつげるので気分がよい。人柄もいいし、統率力もソニーのリーダーにふさわしい。今後デバイスとコンテンツを融合し、よりエンターテインメントを楽しめる環境を作ってくれるだろう。新しい方法でまとめてくれると思う」と、構造改革に一定の目処がついたことから、退任を決めた旨を語った。
平井一夫副社長(左)とハワード・ストリンガーCEO(右) |
過去の経営については、「(CEO就任時には)エレクトロニクスが赤字。財務改善の目標を設定し、3年で5%の利益率までもっていき、ソニーは転換した。その時はテレビの構造的問題を認識していなかったが、リーマンショック後に悪化した。中期経営計画では35億ドルの利益をあげる予定で、震災前の状況であれば実現できたと思うが、いろいろな災害、苦難に巻き込まれた。しかし、7年間違え続けたとは思っていない。テレビはサムスンとの協力関係が良かったこともあったが、今は新しい戦術が必要。ソニーだけじゃなく、日本のエレクトロニクス全体に問題がある。社会全体の対応が必要だ」と述べ、「2011年はソニーにとって過去最も厳しい年になったが、タブレットやスマートフォン、テレビ、カメラなど新しい製品が登場し、ソニーエンターテインメント ネットワーク(SEN)も実現できた。私は7年間継続してきた改革と勝利を誇りに思っている。Blu-rayの勝利、PlayStation Network、映画や音楽に優秀な人材を登用し、収益化したこと、ソフトウェアとハードウェアの協力体制がそれだ。効率を高め、リーマンショックからも立ち直り、'11年の厳しい環境も切り抜けた。良い時も悪い時も確かにあったが、社員を誇りに思う。涙よりも笑いに満ちた日々だった」と語った。
■ 平井新CEO「One Sony」で集中と選択を徹底
平井一夫次期CEO |
新CEOに就任する平井副社長は、「今こそソニーの力を結集するとき。新体制でいかにして立てなおすかは、後日改めて語りたいが、今日は礎となる私の考えを示したい」と切り出した。
平井氏は、「日本のエレクトロニクス産業は、デジタル技術によるコモディティ化と、低コスト化で低迷している。ソニーも例外ではなく、我々を取り巻く競争に厳しい危機感を持っている。メディカル事業とイノベーションを担当する吉岡副社長と、技術や斎藤CSO、各事業本部長などの担当マネジメントと密接に連携し、CEOは決定したことを実行するワンマネジメント(One Management)体制を構築する。(ストリンガー体制の)脱サイロは継続・発展させ、One Sonyを実現する」と語り、現状分析と新マネジメント体制の基本方針を説明した。
新体制のマネジメント方針 | 重点施策 |
続いて今後の事業改革についても説明し、「エレクトロニクスの事業改善には、なによりも商品力強化が必要となる」とし、「コア事業強化」、「テレビ事業の立て直し」、「事業ポートフォリオの改革」、「イノベーションの加速」の4つの重点施策を紹介した。
コア事業の強化については、「垂直統合型のデジタルイメージング(DI)とゲームに於けるナンバーワンポジションを確立する」としたほか、新規事業として「DIの技術をベースに革新技術を開発し、メディカルに応用。将来のコア事業化を目指す」とした。
さらに、平井氏の出身母体であるゲーム事業とモバイルの融合を加速。「PlayStation Vitaがまもなく欧米で発売されるほか、PlayStation 3とPSPの収穫期に入っている。ゲームで培った技術を投入し、『ソニーならではのモバイル商品』をやる。ソニーエリクソンの携帯事業も吸収し、動きを一層と加速。動画や通信を融合した新しい製品を創造する」とし、DI、ゲーム、スマートモバイルの3つを集中領域として強化していく方針を説明した。
2点目はテレビの立て直し。「テレビは家庭のエンタテインメントの中心機器で、この立て直しは待ったなし。アセットライト(製造設備/資産の削減)を徹底し、他社との協力で投資資本を最小化して、事業を立て直す。商品力は独自技術により高めていき、Crystal Crear LEDや有機ELなどもコストを睨みながら開発する」とした。なお、11月の第2四半期決算発表で、'11年度のテレビ事業の赤字は1,700億としていたが、「100億円ほど改善できそう(加藤優CFO)」とのことで、2012年度に赤字幅の半減(約800億円)、2013年度のブレイクイーブンを目指す。
3点目は、事業ポートフォリオの改革。「コモディティ化した商品の事業構造を見直す。聖域なく集中と選択を徹底する。ソニーでは多数の製品を掲げているが、すべての事業選択を積極的に見直す。統合を測ったほうがいいものは、撤退やアウトソースか、アセットライト化、アライアンスを組むなどで集中領域を明確にする」と説明。例として「テレビはS-LCDの売却により、第4四半期には改善の効果が出てきており、約500億のコスト削減効果がある。中小型も(東芝らとの合弁会社)ジャパンディスプレイに切り出している。自律的な成長ができる体制のために、他社との統合や協業をやっていく。一方で、コア事業への投資は重要で、引き続き行なっていく」とした。
4点目はイノベーションの加速。メディカルエリアの事業推進と、R&D部門と事業本部のアラインメント強化による新たな成長の促進を掲げ、この領域は吉岡副社長が担当する。
平井氏は、目標とするソニーの姿として、「2009年以来一貫して目指しているのは、ソニーらしい商品はもちろんのこと、素晴らしい体験を提供できるか。そしてそれにより好奇心を刺激し、本当に良かったと笑顔を広げてもらう。そのために商品設計、デザインリソースを集中し、素晴らしい製品を作る。これが大前提だ。素晴らしい顧客体験を通じて、ライフスタイル、生活様式を変えていく」と説明。「A Company that Inspires and fulfills your curiosity(ユーザーの皆様に感動を与えたい 人々の好奇心を刺激する会社でありたい)」というステートメントを掲げた。
ユーザーの皆様に感動を与えたい 人々の好奇心を刺激する会社でありたい |
平井氏は、これらの施策に取り組むにあたり、「多くの痛みを伴う選択や判断に直面するだろう。しかし、競争相手は余裕を与えてくれない。猶予はなく、覚悟を持ってやり遂げる。ソニーの課題を解消し、世界中で日本の企業として、日本の存在感を高めるソニーブランドを作りたい。大賀さん、出井さんやハワードのソニーユナイテッドを継承しながら、新しいソニーをつくっていきたい」とした。
■ テレビは着実に収益改善。スマートモバイルでVita OS活用も
「大胆な選択と集中」について言及したことから、質疑応答では、テレビ事業についての多数の質問が及んだ。テレビ事業の「他社との提携や撤退の可能性」について、平井氏は「11月に説明したように、2年かけてターンアラウンドする施策に着手している。一つの結果がS-LCDの解消。このように順次進めて、軌道修正しなければいけないものは当然やっていく。一回決めたからよしではなくリアルタイムで変革していく。他社の協業は今は無い。目標(2013年度の赤字解消)までは1年半以上残っているが、他社と話すことがオプションとして出てくるのであれば、検討の価値はある。ただし今は無い」とした。
また、テレビ事業の重要性については、「テレビは様々なコンテンツをお楽しみいただく中で、アウトプットデバイスとして優れている。お客様が集まる重要な商品。ソニーが提案する多くの新しい商品が、テレビを通して楽しんでいただくもの。テレビの重要度は増えることはあっても減ることはない。ソニーのありとあらゆる商品をつなぐ重要なもの。簡単に撤退したり、縮小すれば、お客様への重要なリンクがなくなる。そういう重要な事業だから、コストを見直しながら確実に商品力を強化する」とした。
なお、平井氏のCEO就任についての打診は「正式な話は(1日の)取締役会で決定した後」とのこと。また、「サイロを壊す(部門間の連携不足や障壁の排除や他社との協業)」をテーマに経営してきたストリンガーCEOには「サイロは壊せたか?」との質問が飛んだが、「平井がPlayStation Networkを本社に移してくれたのはその例だろう。SCEは孤立した島だったが、エレクトロニクスの主流に入ってきて、もはやサイロではない。PlayStationはコンテンツの会社ともつながっているのでさらにサイロがなくなり統合された。ハードもコンテンツも融合された。大きな進歩を遂げた」と回答した。
新規事業として「メディカル」のコア事業化を目指し、吉岡副社長が担当する。この具体的な展開やオリンパスとの提携について、平井氏は「オリンパスとは様々な分野、特にメディカルでは以前から協力しているが、今後どうするかについてはコメントを控えさせていただきたい」とした。
スマートモバイルについては、Androidへの集中の是非と収益化について質問が及んだが、「Androidだけではなく、独自のPlayStation VitaのOSがある。これがソニーモバイル戦略の大きな位置を占めている。他社にないモバイル戦略の一環」とVita OSによる差別化について言及。さらに、デバイスの差異化については、「1つはソニーのさまざまな技術資産、例えばサイバーショットの画像/信号処理、機能などを、積極的にソニーモバイルコミュニケーションに投入していく。さらに、Video Unlimited、Music Unlimitedなどの配信サービスなども活用していく。昨年のXperia arc/acroなども高い評価を得たが、そこで光ったのはデザインや使い勝手。その良さはソニーの技術が惜しみなく使っていること。ソニーならではのXperiaを提供したい」とした。
また、平井氏がゲームやエンタテインメント業界出身ということで、「本流(エレクトロニクス)ではない出身として改革をすすめる上で、不安があるか?」という質問も出た。平井氏は、「よく聞かれるが、長年PlayStationビジネスをしてきた。ゲームビジネスはエンタテインメントと思われているようだが、そのビジネスをドライブするのはハードウェアだ。プラットフォームを作り、そのプラットフォームを10年とか長いライフサイクルを維持して、ビジネスする。これは失敗が許されないビジネス。その中でどうハードウェアを作って、何が喜ばれるか、徹底的に議論してきた。PlayStation、特にPS3はハードウェアビジネスの側面が特に強い。PS3についてはいかにコストを圧縮するか、ずっとコスト削減もやって、ターンアラウンドできた。エレクトロニクスの経験がないといわれるが、PSのハードウェアビジネスを徹底してやってきた。3年前からはネットワークプロダクツ&サービスグループのプレジデントとして、ソニー自体のエレクトロニクスも担当し、勉強、理解してきた。エレクトロニクスの経験も大事だが、もっと大事なのは、判断ができるのか、自分の意見を筋を通して実行できるかという実行力。正しい事をすすめるという信念だ」と語った。
(2012年 2月 2日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]