シャープ、5,000人規模の人員削減と「脱テレビ」へ

-通期赤字は2,500億円に。ビヨンドTV/PC/スマホ


奥田隆司社長

 シャープは、2012年度第1四半期(2012年4月~6月)連結業績を発表。その席上で、同社・奥田隆司社長は、「AQUOSのような、いまのテレビを国内で生産していても採算はあわない。デジタル家電から逃げることはしないが、ビヨンドテレビ、ビヨンドPC、ビヨンドスマホといった新たな融合製品を作っていく。国内では脱テレビの方向に向かっていくだろう」などとした。

 また、「シャープは、在庫、設備、人という3つの課題がある。このままでは業績回復につながらない。一刻の猶予も許されない経営状況にあるとの認識から、実態に即した形でただちに業績予想を修正し、スピード感をもって事業運営に反映させる。そして、できる限り早く踏み込んだ構造改革に取り組み、次のシャープの成長につなげる」とし、「自然減、オフバランスのほか、希望退職制度の実施により、現在5万6,756人の総社員を対象に、2013年3月末までに、約5,000人の人員削減を行なう。シャープとして、前例のない構造改革を進め、業績の回復に取り組む」などと、強い姿勢で構造改革に取り組む姿勢を示した。

 シャープが希望退職制度を実施するのは、1950年以来、62年ぶりのこととなる。5,000人はほとんど国内が対象となり、1,300人はオフバランス化によるもの。残りの3,700人のうち、自然退職者の数100人を除いた人員が希望退職制度の対象となる。


■ AV・通信機器の売上高は半減

第1四半期業績

 2012年度第1四半期の業績は、売上高が前年同期比28.4%減の4,586億円、営業損失は前年同期の35億円の黒字から、マイナス941億円の赤字に転落。経常損失は6億円の赤字からマイナス1,038億円の赤字。当期純損失はマイナス492億円の赤字から、マイナス1,384億円の赤字となった。

 シャープの奥田隆司社長は、「前年同期に比べて大幅に悪化している。業績悪化は、AV・通信機器と液晶の2部門によるものになっている。また、IGZO技術転換に伴う事業構造改革費用などで142億円、訴訟関連の和解金で158億円などを、特別損失として計上したことも影響した」と総括した。

 2012年度第1四半期の部門別業績は、エレクトロニクス機器の売上高が36.7%減の2,772億円、営業損失が297億円減のマイナス96億円の赤字。そのうち、AV・通信機器の売上高は54.9%減の1,341億円、営業損失が277億円減のマイナス202億円の赤字。


特別損失部門別業績AV・通信機器

 液晶テレビの販売台数は、前年同期比49.4%減の166万台。売上高は49.6%減の777億円となった。「ASEANなどの新興国での販売は好調だが、中国市場での販売低迷、国内市場の大幅な需要減少が影響している」(奥田社長)という。また、携帯電話の販売台数は63.1%減の77万台、売上高は68.4%減の292億円となった。海外携帯メーカーとの競争激化と主要デバイスの供給不足による販売台数減が影響したという。

 健康・環境機器の売上高は5.3%増の782億円、営業利益が15億円増の82億円、情報機器の売上高が2.1%減の647億円、営業利益が35億円減の23億円となった。

 電子部品は、売上高が17.4%減の2,352億円、営業損失が674億円減のマイナス754億円の赤字。そのうち、液晶の売上高が22.4%増の1,459億円、営業損失が588億円減のマイナス634億円の赤字。太陽電池の売上高は18.2%減の419億円、営業損失が31億円減のマイナス69億円の赤字。その他電子デバイスは、売上高が4.2%増の474億円、営業損失が54億円減のマイナス50億円の赤字となった。

 「中小型液晶の収益悪化があった。大手ユーザーからの受注ずれ込みによる工場の操業低下。大型液晶も堺工場の稼働率を3割程度まで落として在庫の適正化を図った。その他デバイスについては、カメラモジュールの販売が好調だったが、液晶テレビやデジタル家電向けデバイス競争激化から営業損失を計上した」という。



■ 2012年通期の赤字は2,500億円に下方修正

2012年度の通期業績見通しを下方修正

 また、2012年度の通期業績見通しを下方修正した。

 4月公表値に比べて売上高は、2,000億円減の2兆5,000億円、営業損失は1,200億円減のマイナス1,000億円の赤字、経常損失は1,200億円減のマイナス1,400億円の赤字、当期純損失は2,200億円減のマイナス2,500億円の赤字とした。

 「日本、中国を中心とした液晶テレビの販売減、IGZO液晶の立ち上がりと販売先拡大の遅れによる中小型液晶の販売未達。液晶テレビの販売低迷によるLEDデバイスなどの減少などにより、売上高、営業利益を修正する」としたほか、「4月末の決算発表からわずか3カ月で、業績見通しを修正しなくてはならなかったことは、大変重く受け止めている。まずは足下の着実な収益改善と財務体質の改善を最優先で取り組む一方、規模に見合った経営体質への移行と、固定費の削減、あらゆる分野における構造改革をしながら、新たな成長分野に向かっていく。上期に膿みを出しながら、下期から再生していくという、不退転の決意で経営陣は取り組んでいく。引き続きシャープを応援してもらいたい」などとした。

部門別営業利益(年間)

 だが、「上期は1,300億円の営業赤字から、下期は300億円の営業黒字への転換を見込んでいる。上期をボトムに、下期から来期に向けた収益改善を図るため、課題事業への対応と確実な利益回復に向けた取り組み、新たな成長に向けた経営改善対策に取り組む」と語った。

 部門別では、エレクトロニクス機器の売上高が4月公表値に比べて、2,500億円減の1兆3,000億円、営業利益が210億円減の370億円。そのうち、AV・通信機器の売上高は2,300億円減の6,900億円、営業損失が120億円減のマイナス170億円の赤字。


液晶カラーテレビ

 テレビ事業に関しては、第2四半期以降において、市場拡大が期待される新興国地域における取り組みを強化。2012年度上期には、国内90万台(前年同期は388万台)、海外285万台(同299万台)。2012年度下期には、国内110万台(同195万台)、海外315万台(同345万台)を計画している。

 健康・環境機器の売上高は据え置きの3,200億円、営業利益も据え置き320億円、情報機器の売上高が200億円減の2,900億円、営業利益が90億円減の220億円とした。

 電子部品は、売上高が300億円減の1兆4,200億円、営業損失が1,070億円減のマイナス1150億円の赤字。そのうち、液晶の売上高が300億円減の9,000億円、営業損失が950億円減のマイナス1,050億円の赤字。太陽電池の売上高は据え置きの2,600億円、営業損失も据え置きのマイナス100億円の赤字。その他電子デバイスは、売上高が据え置きの2,600億円、営業利益が120億円減のブレイクイーブンとなった。


携帯電話健康・環境機器情報機器
液晶太陽電池その他電子デバイス

■ 堺のオフバランス以外にも財務対策改善対策。ビヨンド

 同社では、大型液晶事業のオフバランス化による1,100億円、鴻海(ホンハイ)グループへの第三者割当増資で669億円、在庫の適正化および固定資産の圧縮で1,500億円、設備投資の圧縮で700億円の合計4,000億円の財務体質の改善対策を行なっていくとしている。

 一方で、棚卸資産を2012年度末に、前年度末比1,274億円減となる4,000億円、有利子負債を同2,271億円減の9,000億円に削減する計画を打ち出す一方、2013年度の転換社債2,000億円の償還を見据えた長期資金の安定調達を図るため、主力取引金融機関にバックアップ体制を検討してもらっている」などとした。

4,000億件規模の財務健全化策棚卸資産削減

 経営改善策については、人件費で約400億円、減価償却費を300億円、業務委託費や宣伝費の削減などのその他固定費についても300億円をあわせ、合計で1,000億円の固定費削減に取り組み、「現在と同じ水準の売上高という厳しい経営環境下でも営業黒字を確保できる筋肉質の経営体質にしていく」とした。

堺工場稼働について

 また、堺工場においては、2012年度第1四半期では、需要減と在庫消化の優先によって稼働率が約30%になったこと、価格下落による追加コストが発生したことが大きく響き、「稼働率が10%落ちると100億円の影響がある」という。

 これが、第2四半期については、鴻海グループによる引き取りが着実に進捗していくことや、シャープの外販先の受注拡大により、稼働率80%程度になること、第3四半期以降は80~90%の稼働率となるほか、大型液晶は今年3月末から比較して、6月末までに400億円の在庫削減を達成。さらに9月末までに200億円を削減し、合計で600億円を削減することになる」と述べた。


中小型液晶の取り組みについて

さらに、中小型液晶パネルについては、車載向けおよびスマートフォン向けを中心に好調な多気工場、天理工場についてはフル操業となっており、亀山第1工場については、8月からスマートフォン向け専用工場として量産を開始。しかし、亀山第2工場では、「タブレットやウルトラブックなどの中型高精細、低消費電力の特性を生かしたIGZO液晶の生産を今年3月から開始しているが、立ち上がりの遅れ、大口顧客からの受注減、顧客先で進めていたデザインインが、商品化がずれ込んだ影響で、稼働率が低迷し、操業損が第1四半期に発生。通期の収益計画にも影響が残る」とした。だが、「Windows 8が年内に発売される予定であり、IGZOの特徴を生かした中小型液晶パネルに対する引き合いをもらっている。2012年度下期から13年度にかけては新たなモニターやウルトラブックなどの需要が拡大すると見込んでいる」とした。

  一方、事業構造改革として、「事業グループの再編」、「事業所の体制の見直し」、「本社のスリム化」、「人員のスリム化」に取り組むと語った。

  事業グループの再編では、新必需品の創出やBtoB製品による新たな市場創出型製品の投入に向けて、現在の事業を、4つの事業グループに再編。AVシステム事業本部と通信システム事業本部を再編統合し、デジタル情報家電グループを設置。IGZO液晶を応用するとともに、次世代液晶テレビやタブレットなどのネットワークを連携した新たなデジタルライフ製品を提案することで、より付加価値の高い事業体を目指すという。

固定費を削減事業構造改革人員のスリム化
事業グループを再編

 「AVシステム事業本部と通信システム事業本部の統合によって、技術が切磋琢磨して、ビヨンドテレビのような新たなものを作っていくのが狙い。いまのAQUOSのようなテレビを継続していても、日本での生産継続はないだろう。新たなテレビを生み出していかなくてはならない。今後、テレビの定義をどうしていくかによって、テレビを日本で作るかどうかが変わっていく」と語った。

  また、健康環境システム事業本部とソーラーシステム事業本部を母体として、健康環境・エネルギーグループを設置。HEMSや蓄電池、パワーコンディショナーなどのソーラー周辺機器の事業拡大を図る。また、同グルーフでは、業務分野におけるプラズマクラスターイオン事業や業務用LED事業を新たな本部として独立させて、BtoB事業を推進。成長著しいASEAN市場での事業拡大を本格化させる。


栃木工場縮小、本社スリム化

  そのほか、BtoB事業の中核となる組織と位置づけ、この分野における販売体制の強化に乗り出すビジネスソリューショングループ、Windows 8の発売やスマホの販売拡大などをビジネスチャンスと捉え、IGZOの用途拡大や、様々な特徴デバイスの融合による新デバイスの開発に取り組むデバイスグループを設置する。

  事業所体制の見直しでは、AVシステム事業の本部機能を、栃木工場から奈良に移転。ソーラーシステム事業の本部機能を奈良・葛城から、大阪・堺に移転。両工場は順次その規模を縮小する。

  本社のスリム化では、業務の効率化、意思決定の迅速化を図るため、肥大化し、縦割化していた本社の各本部組織を8月3日付けで再編。16部門を9部門に減らし、本社人員のスリム化も図る。

  また、人員のスリム化では、約5,000人を削減し、2013年3月には約5万1,700人とする計画を発表した。

 奥田社長は、「日本の電機メーカーは、ジャパンスペックから、グローバルスペックの会社に変わらなくてはいけない。日本から外をみていくのではなく、地域に対して権限を委譲し、地域完結型になれば、日本の電機業界の姿は変わることになる。日本のメーカーは様々な技術を持っているが、技術を融合しながら、新たな需要を創造するカテゴリーの創出、地域の拡大、チャネルの拡大にスピード感が遅れている。まだ、日本の電機業界はやれることがたくさんある。エレクトロニクス技術を異分野で利用することで、新たな需要の創造ができる可能性がある」などとした。


(2012年 8月 2日)

[ Reported by  大河原 克行]