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ソニー・平井社長が見据える4K、TV、PlayStationの今後
CESラウンドテーブルで語った「変わるソニー」
(2013/1/9 19:02)
2013 Internatinal CES会場にて、ソニーは日本人記者向けに、同社社長兼CEO・平井一夫氏を囲んでのラウンドテーブルを開催した。今回発表した新製品についてはもちろんだが、ゲーム事業の今後や「画期的な製品」を開発するための姿勢など、回答内容は多岐に渡った。
4K・有機ELの画質は徹底して追求。パナソニックとの協業で「2013年中に量産めど」
平井氏はまず、今回のCESで発表された内容についてのおさらいから始めた。4K対応BRAVIAをはじめとした4K製品、Xperia Zとその連携製品、そして56型4K・有機ELディスプレイなどが中心だ。詳しくはプレスカンファレンスに関する記事を参照していただきたいが、ソニーとしては、かなり自信のあるものであったようだ。
平井氏(以下敬称略):私が昨年の4月に社長兼CEOに就任してから、常日頃、全世界の社員に言っているんですけれど、いかにしてソニーはお客様の好奇心を刺激して、感動をもたらす会社になっていくかを念頭に置いて、そこから商品・サービス・コンテンツを考え出していく、という会社でありつづけたい、と思っています。今回のCESでも、そういう商品・サービスの一部をご覧になっていただけたと思います。そのエッセンス、感動していただけるということをどういう風に伝えるか、ということ、特にエレクトロニクスのビジネスにおいては、「BE MOVED」というひとつのキャッチフレーズをこれから、様々なラインで使っていきます。
今回発表された中で、技術の面で特に注目は、やはり56型4K有機ELディスプレイだろう。筆者が見る限り、画質面では展示されている有機ELテレビの中で圧倒的にトップ。掛け値無しに「はっと息をのむ」という表現がふさわしいと感じる。だが、製品化の時期や、商品としての市場性についてはかなり不透明でもある。
平井:試作機の発表でしたので、実際に商品化の時期・価格は、改めて発表できる段階でご案内させていただきます。しかしやはり、有機ELは、発色がLCDと比べても、黒の出方が、特徴的。ソニーとして画質を追求していますので、お客様に、4Kと組み合わせることで、既存のHD以上のものが提供できると思っています。大事に、4Kもそうですが、4Kと有機というコンビネーションでも育てていきたいと思います。
また、コンテンツをどう配信していくか、今回はアメリカを中心に発表させていただきましたが、そういうことも考えながらやっていきます。
パナソニックとは、有機ELについて、2013年中に量産の技術に関するめどがつくような形での共同開発をする、と発表させていただいていますが、それにむかって両社の技術者が、いままさにいろんな場面で作業に着手し、着々と共同開発がすすんでいる、とご理解いただいていいと思います。
同じ有機ELでも、パナソニックとソニーとでは、印刷と蒸着、という違いがあります。いいところがそれぞれあるので、共同開発していく中で、どういった方式が、製造する段でコスト構造よく、かつ画質も素晴らしいものができるかがポイントです。今の段階で、蒸着か印刷かということではなく、持ち合った上でどうすべきかを考えるのがポイントかと思います。
4Kの時代が来るとなれば、当然「コンテンツ」が重要になる。今回ソニーは、アメリカ市場で夏に、4Kでのオンライン配信の開始を発表した。その辺り、国内も含めどうなるのだろうか?
平井:詳細はまた別途発表させていただくことになりますが、どういう形でお客様に届けるのがいいか、は今議論をしています。
同時に、ブルーレイのアップスケーリングも画質はご評価いただいています。いくつかの合わせ技で4Kの世界を楽しんでいただけるよう、なるべく広いチョイスを用意しようとはしているところです。それが一つのドライバーになるかと思います。
ブルーレイの4K化については、ディスクのキャパシティや画質、記録時間など色々な問題はあろうかと思いますが、ディスクは一つの選択肢かと思います。しかしそれはソニー独自というより、業界全体でちゃんとスタンダードを決めて、ということになろうかと思います。
シェアを減らしても「止血」優先。反転攻勢は黒字化後
テレビ事業については、昨今、ソニー製テレビのシェア低下が伝えられている。特に北米市場では、シェア低下の幅が大きい。テレビ事業の現状はどうなっているのだろうか?
平井:アメリカのみならず、全世界的にシェアが下がっているのは、2011年に発表した、2年間かけてテレビ事業を黒字化するという計画の一環です。
その中で「ディフェンスするところとオフェンスするところがある」とお話させていただいているのですが……、まずは出血を止めないといけない。台数が出れば出るほど赤字が出る、というビジネスは、基本的にあり得ないです。よって私は、テレビ事業の基本的な考え方を変えてもらうということで、まずは事業健全化のための「台数は追わない、マーケットシェアは追わない」という宣言をさせていただきました。テレビのマーケットがシュリンクしている部分もありますが、それ以上に台数を絞ってきましたので、マーケットシェアは下がりました。しかしそれは想定の範囲内です。ただし、これは「成長するために縮小する」という戦略です。
現在は、2年のロードマップに比べ先行しています。ディフェンスである「コストを下げる」、オフェンスである「商品力を強化する」ということができて、2013年度にちゃんと黒字化できた、という段階で言うならば、またマーケットシェアを決定的に追いかけなければ、と思います。ずっと一桁台で良し、とすることはありません。しかし、一回ブレーキをかけないと、いつまで経ってもサイクルが止まらない現象があった、ということです。
テレビの反転攻勢の材料というのは、4K、そして4Kの有機ELも非常に大事な要素なんですが、ボリュームゾーンという意味では、既存のLCDのテレビビジネスが、台数的にも一番多い。いかにここで、ビジネスとして利益をあげていくかがポイントかと考えています。すべてが4K・OLED頼みで、既存のテレビはマイナスでいい、という話ではないです。数字的にも難しいと思います。一番のボリュームゾーンであるLCDのTVで、いかにオフェンスとディフェンスを組み合わせて利益を出すかが一番大きなポイントだと、私は考えます。
テレビの商品力強化は、「やろう」と言ってもすぐできるものではないです。1年・2年先を見据えて手がけて、やっとこのタイミングで少しずつ出てきた、というところかと思います。
しかし一方で、コストは「切る」と決めれば比較的速く切れます。いままでの期間で「いい方に振れている」というのは、まさしくコストのカットが思ったよりできた、ということが、いい数字に表れているとお考えください。
まだまだセーブできるところはあります。 一つの例でいうと、あえて国内でやらなくても、マレーシアのテレビ工場で同じ事ができるなら、日本人スタッフにも赴任してもらい、そこでR&Dをやる、という方法もあります。いろんな要素を見つつやっていく必要があるかと思います。
テレビでのネットサービスについてですが、我々には他社と違い、PS3があります。テレビ以上に情報処理能力があるので、リッチなサービスにつなげていただけると考えます。また、それより下位のサービスは、テレビやプレーヤーで展開する。そうするのが、コストの面からもいいのか、と考えます。
すなわち、テレビのネットサービスについては、当面は、他社のように性急に「テレビ内に多機能を詰め込んでのスマートTV化」をより推し進めるのではなく、PS3を併用した「経済的なやり方」で行く、ということのようだ。
ゲームは「クラウドへの変革」の時期。Gaikaiの技術はBRAVIAなどへも応用
平井氏は、同社の3つの主たる成長事業領域として、「デジタルイメージング」「モバイル」「ゲーム」を挙げている。このうち、前者2つはある程度方向性も見えてきているが、最後の「ゲーム」については、まだ不透明な点が多い。PlayStation 3もライフサイクルは末期に近い。ポータブルのPlayStation Vitaは売り上げがまだ伸びず、率直にいって不振。この点を、平井氏はどうみて、ソニー側としてSCEをサポートしようと考えているのだろうか。
平井:ゲームはソニーにとってコア領域です。これからもSCEには様々な面でがんばってもらう、ということになっています。
ことポータブルのビジネスについては、スマートフォンやタブレットでカジュアルなゲームを楽しむお客様が多いことが我々にも見えてきています。ゲームに特化した製品としてPlaystaion Vitaを投入した上で、PlayStation Mobileというイニシアチブを展開しています。まだまだ発展途上ではありますが、Android上でPlaystaionのゲームを楽しんでいただき、新しいゲームを作っていただく環境も用意しているところです。
それに加え、Gaikaiを買収させていただき、もう一つのトレンドであるストリーミングの時代にどうリーダーシップをとっていくかが、大きな課題になってくるかと考えます。
端的に言ってしまいますと、PlayStationビジネスはいままでのコンソールとディスクベースのゲームを買っていただいて、プラスアルファでネットのゲームを楽しんでいただく、という形から、根本的にクラウドの方に物事が進んでいく中で、どのようにプラットフォームビジネスを立ち上げていくか、転換期にあるわけです。それをうまくマネージしていかなくてはいけない。PS3・Vitaというハードは大事なんですけれども、それ以上のチャレンジとして、SCE、もしくはゲーム業界の方向をどう変えるか、ということがあるかと思います。以前、ネットワークビジネスが立ち上がったときのようにだんだん変わっていくものだと思いますし、VitaでもPS3でも、いままでにないビジネスモデルのご提案は、パブリシャーの方々からいただいているところです。まさしく「過渡期」ですね。そういう意味では、2013年が、という意味ではなく、その前から始まっている、という認識です。
ソニー本体としては、SCEに対し、そういったことを支援していくといっていいかわかりませんが、Gaikaiの技術を使い、ビジネスモデル転換の中で、第一優先はSCEのビジネスモデルをどう変えるか、ということではありますが、今後、BRAVIAやブルーレイプレーヤー、その他のデバイスで、PlayStationのストリーミングを楽しんでいただくためのサービスを展開するということも十分可能だと思っています。Gaikaiの買収はSCEが行ないましたが、SCE単独で終わるとはまったく考えていません。むしろソニー全体で利用します。
ただし、そこには優先順位があり、まずはSCEのゲームビジネスで生かしてもらい、他にはそれから、ということになるかと思います。
これからはますますゲームの楽しみ方は多様化してくる、と私は思っています。それはストリーミングかも知れないし、Vitaかも知れないし、PS3かも知れないし、スマホかも知れない。広がりはあるんです。
昔で言えば「PS1だけ」、それだけで圧倒的なビジネスのボリューム感がありました。それに比べると、絶対的なハードのボリュームというものは、1つ1つで見ると、台数が、昔のように、「1億何千万台行く」とう時代からは変わってきているのではないか、と思います。PS2が一気に1億台行ったように、ああいう、フェアウエイど真ん中ドーン、という感じではないだろうな、と思います。そういう意味では「小粒感」と言ってしまうといけないのかもしれませんが、そういうものがでてきているかもしれません。そういった中で、どうやってビジネスをマネージするかを考えなくてはいけないです。
ちょっと歴史を振り返りますと、今はPS3も、やっとコンソールの中では良かったですね、とご評価いただけていますが、私が日本に戻ってきた2006年・2007年頃は、PS3は苦戦していました。その時も「プラットフォームビジネスは、5年・10年で振り返って評価しないといけないですね」とお話ししてきました。Vitaについても、予想しているレンジの下の方ではではあるんですが、まだまだこれから、いかに大きなプラットフォームに育てるか、5年後振り返って、「PSPのように成功したプラットフォームになったね」と言えるように育てていかなくてはならない、と思います。
【1月10日訂正】平井氏のコメントの一部に、事実と異なる箇所がありましたので訂正しました(編集部)
“第3のOS”Playstaion OS活用のスマートデバイスも?!
ゲームに限らず、現在は、イメージングデバイスにおいても、スマートフォンとの「市場の取り合い」が始まっている。その中で、成長の実現は可能なのだろうか? そもそも、3つの柱は並び立つのだろうか?
平井:カニバリゼーションが始まっている領域はあります。一番いい例はデジタルイメージングで、ローエンドのサイバーショットはスマートフォンにビジネスとして持って行かれているところがあります。そこで、サイバーショットをお買い上げいただけなかった時に、他社さんのスマートフォンを買われてはソニーグループとしてマイナスになります。よって、そうではないように、サイバーショットではないけれどXperiaをご購入いただく。そのために、一体感をもたらすためにも、ジョイントベンチャーを解消して、ソニーグループの一員として、ソニーモバイルを展開する戦略に出ています。他社に持って行かれないことこそが戦略のキモかと思いますので、そうしていけば、食い合いの影響を受けずに済むと思っています。
それにこれから、ソニーモバイルのビジネスは、まだまだマーケットシェアをとっていかねばいけないと思っています。台数を飛躍的に伸ばしていく計画を立てています。
ですから、社全体で、公表した業績目標の数値を撤回する・変更するというつもりはまったくありません。いかに戦略を組み込むか、議論しているのが現状です。
そこでXperiaを選んでいただけるかどうかは、まさしく商品力にかかっていると思っています。
その部分で一つ言えるのはですね……。デジカメ対スマホ、という軸でお話させていただくと、ソニーエリクソンの頃は、デジカメ事業部から見ると、「なぜ技術を合弁会社に出さないといけないのか」ということで、議論に壁があったわけです。そこで私は、ジョイントベンチャーを解消したこともそうですし、マネジメントもほとんど、4月以降、入れ替えています。その中で、デジタルイメージング側も、「なにが必要なのか、言ってくれればすべて出す」という形になりました。Xperia Zで言えば、(高性能撮像素子である)Exmor-Rの最新のものを、ちゃんと提供してもらう。マネジメント層には、事業部がどうこうというより、「ソニーグループとしてどうなんですか」というマインドセットで仕事をしてもらっていますから、その辺は、商品力を徹底して強化し、お客様に一番近いところで戦うことで、商品価格の下落を抑えることが必要だと思います。
あと、お客様も重要ですが、キャリアとの関係も大切で、「Xperiaはここがいいですよ」という説明を一緒にできる関係を作ることが重要です。日本は一番いい例なんですが、NTTドコモとも非常に良い関係を保たせていただいており、Xperiaが出るとマーケットシェアNo.1にしていただいています。
スマートフォンでは、アップルとサムスンが巨大なシェアを持っている。ソニーとしては、ここでどうするかが大きなカギだ。シェア奪還のためにはなにが必要と考えているのだろうか?
平井:良い商品を作ること、キャリアと良い関係を作ることに尽きると思っています。
特にスマートフォンのビジネスでは、マーケットシェアの入れ替わりは激しいのではないか、と私は思っています。例えば5年前、スマートフォンでの二強は、いまの会社とはまったく違う会社でした。そういった意味では、お客様に御評価していただける商品を素早く投入していけば、マーケットシェアの入れ替わりはまだまだあるのではないか、と思っています。
スマートフォンはわかった。では、もう一つのスマートデバイスである「タブレット」はどうだろうか?
平井:価格で攻める面もあるのですが、その戦いに入るとプラスに行くのは難しいです。やはり、プレミアムでどう評価してもらえる商品・サービスをつけるかが大事だと思っています。テレビビジネスもそういうところがありますが、価格のみの軸では、ネガティブな影響が出ると思っています。価格に意味がないとは、まったく思いませんが、それでも、お客様にどう評価していただける商品を出すか、それがソニーとしては正しいところかと思います。
タブレット向けのOSとしては、VAIOで展開するWindowsと、Xperiaで展開するAndroidの2つがあります。VAIOはやはりプロダクティビティの要素が強く、ここではWindowsが一番評価されると考えます。他方で、タブレットはエンタメ中心で、よりスマホに近いもの。ここではAndroidが評価されているものと評価しています。市場での評価のフィードバックを反映、利用するOSを考えていきます。
他方で弊社の場合ですと、「第3のOS」としてPlayStation OSもあります。3つのOSを色々な商品にあわせて投入していくことになるかと思います。
PlayStation OSを他の機器に導入するという話については、いますぐどうこう、という計画はありません。しかし、PlayStation OSはSCEの資産ですが、私の観点でいえば、これはソニーグループの資産です。このOSを使うことによって、他社とは違う、ゲーム以外に生かせる商品ができるなら、大いに活用すべきと考えます。
そういった議論は以前はあまりされていなかったかもしれませんが、今はそれも含めて、全然違う軸足の商品をどうやって出していくのかは、特に昨年の4月以降、マネジメントの間では積極的に議論がなされているところです。いくつかのアイデアが、いますぐ商品化という話ではないですが、すでに事業部に、課題として落としているものもあります。
壁をなくして「チャンピオンモデル」を作れ! 社長直下でプロジェクト進行中
平井氏が社長に就任して以降、社内では様々な動きがあったという。その結果が今年のCESに反映されているが、平井氏が考える「ソニーらしい商品」とは、それらの中でどれになるのだろうか?
平井:やはりまずは4Kの有機EL。これはソニーのDNAとして、音・画質にこだわってきた会社の集大成としてやっているもの。ソニーのDNAが詰まっています。
また違う観点でソニーらしいと思っていることもあります。もっともっと強化しないといけないと思っていることでもあるのですが……。いままでのような「壁」のない中でのスマートフォンはどうなるのか、徹底的にソニーの資産をすべて入れたらどのようなスマートフォンになるかを、私が旗を振って「やってくれ」といって、第一弾として出てきたのがXperia Zです。これは、もっともっと研ぎ澄ましていかないといけないのですが、ある意味、新しいソニーを象徴する商品かと思います。
今回、ソニーブースを見て気づいたことが一つある。カメラでもオーディオでもPCでも、スマートフォン連携があるのはいまや当然。そんな機器と同時に展示されるスマートフォンのすべてが、新機種「Xperia Z」と「Xperia ZL」で統一されていた。Xperia ZとZLは、「2013年のチャンピオン・モデル」(平井氏)と呼ぶ自信作。それだけに、大量の試作モデルを用意し、強くアピールする作戦を採っているのだろう。
平井:もう一つ、CESで発表したわけではないのですが、「ソニーらしい」ということでご紹介させていただきたいのが、『サイバーショットRX1」です。
これは、写真業界では「そこまでやるんですか、ソニーさん」と言われたものです。
が、やります。イメージセンサーを自社で作り、レンズを自分で作り、カメラも自分で作っている。この3つが組み合わさってはじめてできる、この時代には珍しい、というと悪いのですが、「すりあわせ」の技術です。
RX1は、ほとんど手作りなんですよ。価格も25万円する。しかし、商品企画の人間やエンジニアが、「フルフレームでサイバーショット」という夢を追ってできた商品です。そのこだわりと追求、でもやります、という部分、最初のアイデアから市場に出るまで、社内であれが潰されなかったというのが……、社内には黙ってやったんですが(笑)、実にソニーらしい商品かと思います。
そういった部分も含め、平井氏から見て、ソニーはどこが「変わった」と見えているのだろうか。
平井:「One Sonyだ」といって、トップマネジメントも、人事とCFO以外は担当替え、もしくは本人の仕事を変え、シフトをかけました。また、アメリカ以外の主要な市場で、トップは全員変えました。
まずはトップ層を入れ替えることで、「私と同じ夢」「会社をどうやってやっていくか」ということを、共有できる人達と一緒に仕事をするんだ、ということで、一挙にマネジメントを変えさせていただいたんです。
その後に、毎週マネジメントで各事業部長を集めて、あーだこーだ、議論をしています。それをずっとしているうちに、「ソニー全体にこれでどうやって貢献するんですか」という視点を持ってもらえるようになりました。まだ100%じゃないです。16万人社員がいますので。でもOne Sonyとして、トップマネジメントが同じ方向に進んでいるんだ、ということが、だんだんと社員にも浸透してきたかな、と思っています。
もう一つ、ソニーはある意味、危機的な状況にあることを社員のみなさんに伝えて、「なにをして、どうやって復活させるか」を、海外の販社や工場も含めて、自分で赴いて、自分の言葉でしゃべって、一体感を作るかに努力してきました。それはある程度、手応えはあるかと思います。
今回のCESには、それが現れているかと思います。ブースのデザインやプレスカンファレンスのあり方にしてもそうです。例えば私は、「エレクトロニクスのショーなのに、なんで歌手が出ないといけないのか」といって、カンファレンスでそういうことをするのを止めました。この場では、歌手がスターなんじゃなく、「商品がスター」なんですから。そういうことが大事なんですよ。私はエンタメ出身なのでいろいろ言われますけれど、CESなんですから、4Kが、RX1が、Xperia Zが光って欲しいんです。
そういうのも含めて、文化っていうんでしょうか……、少しずつかわってきた、ということを社員の方々もわかってきたし、外部の方々にも評価していただけてきていると思っています。
あとは、結果を出す。これしかないです。
では結果をどう出すか。重要なのは「商品」。その開発プロジェクトはどうなっているのだろうか? そこでの考え方からは、平井氏の思う「ヒットを生み出すための必要条件」が見えてきた。
平井:すでにいくつか、5つ、6つですかね、私の直下でもプロジェクトを走らせています。かなり奇抜なアイデアのものも含めて、独断と偏見と言われそうですが、私が「これは面白いからもっと進めてくれ」ということで、ハードの商品のプロジェクトを進めてもらっています。
これはソフトと違ってハードですので、出てくるまでに時間がかかりますけれど、ある意味で「私が面白いと思う商品」を作っていくのが大事かと。自分で勝手に思っているところはありますが(笑)
自分がモノ作りの現場に入ってやることは、自分の刺激にもなりますし、現場で動いている方々も、マネジメント層、私の場合は社長ですけれど、そういう人間が来ていっしょに色々やることを「楽しいね」と感じていただいているかも知れません。向こうから言わせると、そうでもないのかもしれませんが(笑)
お客様に「すごいね」といっていただける商品のカテゴリーは、2つあると思っています。
1つは「既存の商品の発展」。4KのOLEDも「これすごいね」と言われますが、既存の商品の発展です。基本テレビですから。もう1つはライフスタイルを変えたもの。極端な例でいえば、ウォークマンやPlayStationです。
この両方をやらなければいけないと思っていて、前者はいろんな形で情報を出させていただいています。ただ後者は、なかなか簡単ではない。難しい。でもだからなにもしない、というのではダメで、5つくらいの面白そうなものは進めているんですが、どんなに加速しても半年でもできないです。そこら辺をなんとか。「平井さん、これ2年くらいで商品化ですか」と言われたら、「なにいってんの。来年のCESに出すくらいの勢いでやんないとダメだよ」というくらいのスピード感でやらないと、なかなか世に出てこない、とは思っています。
あと、これも言っていることなのですが……。
出して失敗してもいいじゃない、と。私はエンタメ出身なんでちょっといいづらいですが、レコードも、新人10人出しても、1人当たるか当たらないか、ですよ。だからといって新人を出さないのはあり得ない。新製品もどんどん出せば良くて、当たればいいし、ダメなら次のものをやる。「リスクテイクを許すような環境を作る」というか、「そういうことはやっちゃダメ」という環境になってはいけない、と思うので、私が自ら、独断と偏見かも知れないですが、「これ、やろうよ」という雰囲気に、どんどん会社を変えていこうとしているんです。
CESでのプレスカンファレンスでは、最後に4K・有機ELディスプレイを発表する際、画面が出ないというトラブルがあった。このとき、平井氏は「4K有機ELテレビだと、インターフェース画面も美しいでしょう? 」とジョークを発して切り抜けた。こういう時に慌てたりしないのだろうか?
平井:いい質問ですね(笑)
ああいうデモンストレーションは、ゲームでE3に出ていた時からたくさん経験しています。英語でいうとですね、ああいうトラブルは「IF」(もし起きたら)ではなく「WHEN」(いつ起きるか)なんですよ。そういうリスクを背負ってやっているんです。ですからテレビが映らない時も、見ていて映像が出ないのはわかりましたから、慌てふためいてもしょうがないですから、淡々と……。会の最初にも、なぜか説明用の映像が2回流れてしまったので、そちらもジョークを言わせてもらって切り抜けたり。
他社さんの色々なデモでも同じようなことがあります。「大変だったね」と声をかけさせていただいてもいます。もう「いつかは起きる」「WHEN」のことでしかないな、と。慌てたりしたことはないですね。
あの場で流せなかったので、その後立ち上げ直して映像を流しましたが、かえって(プレスの)皆さんが集まって見ていただけたので、良かったかな、とも思っています。