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シート型有機EL TVが長寿命化、ホログラフィーテレビは動画対応へ。未来のTV研究進む

 日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2014」を5月29日から6月1日まで実施。入場は無料。マスコミ向けの先行公開が27日に行なわれた。ここでは、裸眼立体視を可能にするテレビ、シート型テレビなど、未来のテレビを実現するための研究をレポートする。

インテグラル立体テレビ

 裸眼で立体視が可能なインテグラル立体テレビ。小さなレンズを多数並べたレンズアレーを用意し、そこを通って生成された画像(画素画像群)を、複数のカメラで撮影・記録。その映像を、同じように小さなレンズを組み合わせたレンチキュラーシートを貼ったディスプレイに表示し、多視点の立体視映像を表示するというのが基本的な仕組みだ。今年の試作機では、従来の静止画だけでなく、動画表示にも対応した。

インテグラル立体テレビの概要
動画表示にも対応したインテグラル立体テレビ

 さらに、カラーカメラと、赤外線ドットプロジェクタ組み合わせ、インテグラル立体テレビに表示するための、立体像を生成するための新しい手法も開発された。

 被写体を複数のカメラで撮影する際に、被写体の特徴点を認識。その特徴点は他のカメラでも撮影されているが、撮影しているカメラの角度によって、見え方に違いが生まれ、そこから奥行き情報が得られ、立体映像のデータが取得できる。

 しかしこの技術では、被写体が無地の服を着ていたり、背景が無地であったりした場合、特徴点を認識できないという問題がある。そこで、赤外線ドットプロジェクタを用意。人間の目には見えない赤外線で無数のドットを被写体に照射。そのドットを特徴点としてカメラで認識し、無地の被写体でも立体像のデータが得られるという。

カメラと赤外線ドットプロジェクタを組み合わせ、特徴点を赤外線で投写。カメラで捕捉する
技術の概要
無地の背景、洋服でも赤外線投写で特徴点を捕捉できる。左下のモノクロの映像が赤外線の映像。無数のドットが見える

 デモでは、無地の背景の前で漫才をする人を7台のカメラで撮影し、立体映像として記録、インテグラル立体テレビに表示していた。7台のカメラで多画素化を図った事で、1台で撮影する場合と比べ、見える範囲を水平、垂直ともに約2.5倍に広げた立体像を動画表示できるようになったという。

4枚のHDディスプレイを結合し、1台のインテグラル立体テレビとした展示

 また、4枚のHDディスプレイを結合し、1台のディスプレイとしてインテグラル立体を表示する技術も展示。高品位なインテグラル立体像を表示するためには多くの画素が必要になるが、1台のディスプレイの解像度には限界があるため、複数枚を結合する技術に取り組んでいるという。

ホログラフィーテレビの実現へ

 特殊なメガネをかけずに立体映像が楽しめるもう1つの立体テレビ技術として、ホログラフィーテレビを実現する「空間光変調器」の研究も進められている。

 ホログラフィーテレビの基本原理は、空間光変調器に光を当てて反射させると、立体像が浮かび上がるというもの。空間光変調器には干渉縞が表示されており、これに光が当たっているのだが、この縞を電気的に高速に書き換える事が可能になれば、ホログラフィーの動画を表示できるという。

「空間光変調器」によるホログラフィーテレビの概念図
静止画だが、干渉縞に光を当ててホログラフィー立体像が浮かび上がったところ

 そこで、立体映像を生み出す干渉縞を表示するSLMの光変調素子を、トランジスタで駆動する技術を開発した。画素ごとにトランジスタを内蔵したアクティブ・マトリクス駆動方式とすることで、超多画素でも高速なON/OFF応答が可能となる「スピン注入型空間光変調器」がはじめて開発された。

 まだ動画を表示する段階には至っていないが、今後はまだサイズの大きなトランジスタを小型化するなど、研究を進めていくという。なお、空間光変調器の画素ピッチが狭くなればなるほど、視野角は広がるという。

干渉縞を表示するSLMの光変調素子を、トランジスタで駆動する技術を開発
動画対応ではないが、磁性固定パターンにレーザーを当て、ホログラフィーを表示させたデモ

 なお、出現するホログラフィー立体像の“飛び出し具合”は干渉縞で調整できるとのこと。箱の中で浮かんでいるような映像だけでなく、箱から飛び出したようなテレビも実現できる可能性がある。

 従来の空間光変調器では大電流が必要だったが、電流を低減する技術として、トンネル磁気抵抗効果を用いた光変調素子を画素とするデバイスも開発。各画素に流す電流方向によって光変調素子の磁化方向を制御する、スピン注入磁化反転で動作するという。

フレキシブル有機ELディスプレイ

左が通常構造の有機EL、右が逆構造有機EL素子

 超薄型のシート型有機ELディスプレイの研究では、有機EL素子の長寿命化に向けた取り組みが行なわれている。

 従来の有機ELは、基板上に陽極、有機層、電子注入層、陰極の順序で積層して成膜していくが、基板材料としてフィルムを使った場合、時間の経過とともに基板側と陰極側の両方向から、大気中の酸素や水分が進入。電子注入層と陰極を劣化させ、寿命を短くしていた。

 そこで、酸素や水分の影響を受けにくい電子注入層の材料を開発。さらに、劣化しにくい陰極用材料を使用。これらの材料を積層して成膜できるよう、陽極と陰極の位置を入れ替えた逆構造とすることで、長期間安定に発光する「逆構造有機EL素子」が開発された。

 昨年、要素技術は発表されていたが、今年は実際に素子が試作され、ディスプレイの表示デモも行なわれた。寿命を観察したところ、通常構造は100日目で大部分が劣化してしまうところ、250日目でも劣化がほとんど起こっておらず、長寿命化がある程度実現できたという。

左が通常構造の有機EL、右が逆構造有機EL素子。劣化の具合に注目
逆構造有機EL素子で作ったディスプレイ
250日目を比較した写真
印刷法で形成したディスプレイ

 しかし、このテストは常時表示させて行なったわけではなく、テスト時に表示させ、終了時に発光をやめて計測しているため、発光した状態での寿命など、今後もチェックしていくという。

 また、将来の大画面シート型ディスプレイ実現に向けた要素技術として、配線やTFT(薄膜トランジスタ)を大画面化しやすい印刷法で形成したディスプレイも紹介。工程数削減、材料などの使用料削減、装置コストが比較的安価なことなど、印刷法の利点も紹介されている。

(山崎健太郎)