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パナソニック'15年度テレビ事業は変化対応力で“白字化”

アプライアンス事業説明。TV固定費はソニーより小さい

 パナソニックは、5月20日に証券アナリストを対象としたPanasonic IR Day 2015を開催し、テレビ事業を含むアプライアンス社の事業戦略について説明した。

VIERA CX800シリーズ(写真は4月2日のVIERA発表会のもの)

テレビ事業は変化対応力で白字化。固定費はソニーより小さい

 テレビ事業については、「2015年度は販売規模に応じた固定費構造により、白字化を目指す」(パナソニック アプライアンス社・本間哲朗社長)と宣言した。白字とはパナソニック社内で用いられている用語で、ブレイクイーブンの状態を指す。

 2015年度におけるテレビ事業の業績見通しは、売上高が20%減の3,609億円、営業利益は152億円改善し、3億円と黒字転換を見込む。若干の黒字であることから「白字」と表現している模様であり、ただ、これを達成すれば、テレビ事業の黒字は8年ぶりとなる。

 「テレビ事業については、日本、欧州、アジア、中南米に地域を絞り込む。これらの地域は、同質化の価格競争から脱却し、デザインや基本性能で商品の差別化ができる地域。また、製販連結経営により、収支をリアルタイムで見極めながら、商品と材料のベストミックスで利益の最大化を目指す。営業利益の改善については、2014年度の米国市場からの徹底や、拠点の統廃合などによる構造改革効果を刈り取ることができる1年だと考えている。さらに、テレビ事業で培った技術、ノウハウをアプライアンス社および全社で活用。それに伴い、開発費を約50億円削減する。加えて、パネル調達の合理化や4Kテレビなどのプレミアム商品の強化で、限界利益を向上。これらにより、販売規模に応じた固定費構造へ転換することで、白字化を目指すことになる」とした。

TH-60CX800N

 テレビ事業では、米国市場での減販などにより、売上高で885億円のマイナスを想定。エリア別では、欧米市場で560億円の売上高のマイナスを予想しているが、ここでも米国でのテレビ事業のクローズが影響しているという。

テレビ事業の取り組み

 パナソニック アプライアンス社の吉田守上席副社長は、「2014年度に、米国、中国におけるテレビ事業を整理。2014年度の赤字はこのエリアにおいて見られていたが、これが無くなる。また、日本では、4K対応が遅れ、これが赤字要因になった」とした。

 2015年度は、構造改革の刈り取り効果で41億円、テレビ事業の開発費削減で52億円、限界利益の向上により89億円の効果をそれぞれ見込む。

 一方で、本間カンパニー社長は、「パナソニックのテレビ事業は、ソニーと比べても、固定費が十分に小さいと考えている。テレビ事業は、変化対応力の戦いによる事業であり、技術に関係なく、米相場のように液晶パネルの価格が動くことにどう対応するかが鍵になる。私がテレビ事業を担当していたのは、2011年4月であり、それから4年をかけてようやく均衡点にまで戻った。すでに、ブラジル、メキシコ、インド、台湾では、テレビ事業は黒字化し、安定した収益を確保できている。ブラジルでのテレビ事業の成功をリードした品田(=品田正弘氏)をテレビ事業部の事業部長に就け、成功体験をグローバルで展開することになる」と語った。

 さらに、テレビ事業の基本的な姿勢についても説明。吉田上席副社長は、「テレビ事業は、地域の集中と選択を行なう。これにより、テレビの生産体制は約3分の2に絞り込む。また、製品数についても3分の2に絞り込んでおり、これはもう少し絞り込むことができ、効率化ができると考えている。顧客に届けたい製品は、自社生産にこだわるが、32型のローコストモデルなど、誰でも作れるようなものはODMのコスト力を生かして、販売の間口を確保することになる。ODMの比率は2014年度には18%であったが、2015年度はこれが20%になる。ODM比率は20%前後で推移するだろう」と語った。

エアコンは三菱電機をベンチマーク。大型空調を柱に

 一方、2015年度のアプライアンス社の業績見通しは、売上高で前年比1%増の2兆5,900億円、営業利益は45%増の736億円。営業利益率は2.8%を目指す。

 本間カンパニー社長は、「テレビの減販を、インドやアジア、中国などの海外戦略地域の白物家電の増販でカバーする」と語った。

2015年度経営目標

 アプライアンス社では、白物事業を中心とした安定成長事業、コールドチェーンや大型空調、燃料電池などのBtoB事業による高成長事業、テレビをはじめとするAVによる収益改善事業というように、事業ポートフォリオを3つに分類する。

 「安定成長事業の構成比は約70%、高成長事業は約10%を占め、全体の80%が成長領域にある。安定成長事業では、プレミアム分野を拡大し、中国、アジアでの成長を加速。安定収益の拡大を目指す。また、高成長分野においては積極的な投資を行い、グローバルでの高い成長を目指す。白物家電は気温に左右される事業だが、中期的な視点からみれば、コールドチェーンなど気温に左右されない製品の成長が重要である。一方で、収益改善事業においては、投資を最小化するとともにリスクを最小化し、黒字化を目指す」とした。

アプライアンス社の事業ポートフォリオ

 アプライアンス社の社内に新設したエアコンカンパニーによる事業展開を開始したエアコン事業については、2015年度から成長軌道へと移行させるとともに、ルームエアコンで稼いだ収益を大型空調に投資。エアコン専業メーカーと対峙した体制を構築する方針を示した。「今後は、アプライアンス社の大きな柱に育てていく」(本間カンパニー社長)とした。

 現在、大型空調の構成比は約2割だが、2018年度に向けて事業規模を倍増させる計画を掲げたほか、ルームエアコンも10%増の成長を確保するとともに、営業利益率5%以上を目指す。

 「エアコン業界全体では、2桁の営業利益率、1兆円以上の売り上げ規模を誇る企業が4、5社程度あるが、当社は5,000億円に満たない規模であり、昨年度ようやく黒字化したところ。弱者として展開している事業であり、独自の強みを生かした事業を進めたい」(吉田上席副社長)としたほか、「当社がダイキンをベンチマークとするのはおこがましい。ベンチマークにするのであれば三菱電機になる」(本間カンパニー社長)などと語った。

 また、2014年度のアプライアンス社の事業についても総括した。

 アプライアンス社の売上高は前年並の1兆7,697億円、営業利益は37%増の405億円。そのうち、テレビ事業に関しては、売上高が10%減の4,494億円、営業損失は前年の152億円の赤字から若干回復したものの、マイナス149億円の赤字となった。

 「エアコンは増収となったものの、テレビの減販および日本における消費増税の反動、テレビ事業改革の影響などが減収要因となった。円安のマイナス影響をエアコンの収益力回復などでカバーし、アプライアンス社全体で増益となった」

 2014年度には、テレビの販売減で268億円のマイナス影響があったとしている。

 「白物家電は、過去30年間で最高水準の国内シェアになっている。テレビ事業は、北米、中国拠点の統廃合や三洋電機のテレビ事業の譲渡などの利益確保への改革を行なってきたが、黒字体質の定着が実現できなかった点は課題である」とした。

 2014年度における成果としては、日本市場は販売計画を達成し、シェアを向上させたほか、ルームエアコンや大型空調ともに収益を改善。また、コールドチェーンの開発、製造、販売の体制刷新をあげる一方、課題としては、円安による利益悪化、テレビ事業の黒字体質の定着ができなかったこと、ヒートポンプ給湯機市場における対策費用の増大をあげた。

“憧れ”マーケティングで成長

 一方、アプライアンス社における2018年度に向けた家電成長戦略として、「白物家電(安定成長事業)での販売拡大」、「プレミアムゾーンの強化」、「中国・アジアでの事業成長加速」、「成長領域へのリソースシフト」の4点をあげた。

 2015年度の売上高2兆円の見込みに対して、2018年度には2兆3000億円へと、3000億円規模の拡大計画を打ち出しているが、そのうち白物家電で1,800億円増、AVで20億円増、アプライアンス以外(BtoB)では1,200億円増を見込んでいる。

 また、プレミアム化に向けた事業強化として、商品、地域に適した感性価値を高め、差別化することを掲げ、「Aspire to more」、「くらしにもっと憧れを」をキーメッセージに、「Innovation」、「Design」、「Space」、「Customer touch-point」の4点から事業強化を図るとした。

4つの視点ごとの最適アプローチで「憧れのくらしを提案」

 「Innovation」では、業界最軽量の家庭用掃除機や、高効率コンプレッサーの投入など、「Design」では品位を持った日本デザインやパナソニックらしいデザインの採用、「Space」ではビルトイン型製品の提案や、ネットで結んだ空間提案など、「Customer touch-point」ではeコマースを含んだ多様な販売ルートの開拓、キッチンスタジオなどを通じた提案などに力を注ぐという。

 環境コア技術、生体科学技術、材料・デバイス技術、デジタルAV・クラウド技術の4つのコア技術を活用するとともに、コアデバイスとモノづくり技術とノウハウのすりあわせにより、プレミアム商品を創出。「現地に展開した開発設計部門が、現地完結により、差別化商品の開発を加速する体制を構築する。中国・無錫では冷蔵庫、ベトナムでは冷蔵庫、洗濯機の開発および生産が可能な体制を確立しており、各国の潜在顧客に向けて、最適な商品を創出できる体制が整った。自社開発は、プレミアム分野に集中し、ひとつの冷却器で3室以上の温度帯を実現する冷蔵庫や、圧縮機の高速起動により超速冷、超速暖を実現するエアコンなどの高機能商品を、現地で開発。一方で、技術力が必要ないサイドバイサイド型の冷蔵庫や小型ドラム洗濯機についてはODMを活用して品揃えする」という。

 中国、アジア市場においては、プレミアムゾーンの製品強化に注力。コアデバイスやモノづくり技術のすりあわせによる差別化や、地域・顧客密着型経営の確立、現地リソースの徹底活用、「憧れ」マーケティング展開に取り組む。

憧れマーケティングを加速

 「パナソニックがターゲットするのは中国では世帯年収5.3万ドル以上であり、それらの世帯は今後10年間で3,000万世帯増加する。アジアでは4.5万ドル以上の世帯が今後10年でほぼ倍増すると見込んでおり、これらの市場での成長を見込むことになる」という。

 プレミアム製品の構成比は、アジアでは2014年度には24%であったものが、2015年度第1四半期には31%に拡大。中国でも2013年度には9%、2014年度には15%に拡大。さらに、2015年度には23%にまで拡大させる計画だ。

 「海外におけるエアコン、冷蔵庫、洗濯機などの開発設計は数100人規模で増員し、さらに、デジタルAV事業のノウハウを白物家電で活用するために数100人規模の技術者をシフトする。また、日本の最先端マーケティング、販売促進策を実行するために数10人規模をシフトする。カンパニー戦略機能を強化し、リソースマネジメント、事業ポートフォリオマネジメントを推進する」と述べた。

成長領域へリソースシフト

 なお、国内生産への回帰については、「報道が先行しすぎているところがある」と前置きし、「アプライアンス社は、20年以上をかけて海外での生産体制を整えてきた。それをなげうって日本に生産を移すということは考えていない。投資を伴う国内生産回帰は考えておらず、新製品の立ち上げの機会を見て判断している。すでにエアコン、洗濯機は国内生産を開始しており、今後、電子レンジや炊飯器も日本での生産を開始する。また、部品については毎月のように、輸入部品から日本製部品へのスイッチを行なっている。為替対策という点では、冷蔵庫では生産金額の10%程度を日本から輸出したいと考えている」と語った。

 パナソニック AVCネットワークス社の榎戸康二社長は、同カンパニーにおけるBtoBを中心とした映像・イメージング事業について説明し、「この分野においては、高画質、映像処理・映像解析、光学技術で商品を差別化している。2015年度は4K商品群にかなりの販売ウエイトを移していくことになる」として、4Kデジタルカメラのラインアップ強化や、4K対応セキュリティカメラによる差別化、4K対応の映像制作用カメラ、デジタルサイネージや液晶プロジェクターなどの事業強化を図り、店舗運営や野外イベント、学校教育、映像制作などの領域に展開していくという。

 「映像・イメージング事業は、ようやく成長戦略にシフトするめどが立ってきた。2014年度は映像・イメージング事業の売上高が2,673億円、2015年度は3,080億円の売上高を目指す。また、2018年度には3,500億円を計画。年平均成長率は107%になる」と語った。

 また、液晶パネルの生産を行なうパナソニック液晶ディスプレイ'PLD)の現状については、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長が説明。「2014年度第3四半期および第4四半期は黒字化している。また、2015年度第1四半期も黒字化を見込んでいる。2015年度は通期黒字化を目指したい」とし、「非テレビ向けへのシフトを図っており、それが収益改善につながっている。非テレビ向けの販売ウエイトは約6割に達している」と述べた。

(大河原 克行)