レビュー

Shureのポータブル新境地。コンデンサ型イヤフォン「KSE1500」を聴く

 昨秋、発表されるやいなやポータブルオーディオファンの話題を一身に集めた、コンデンサ型イヤフォン「Shure KSE1500」。オーバーイヤーならぬインナーイヤー、そのうえDAC内蔵のアンプとセットという点も大いに注目された。発表会のとき聴いたサウンドはまさに驚愕。自宅でじっくり堪能したいとの願いが叶い、今回試用の機会を得たので、その使用感などを報告する。

Shure KSE1500(左)

“コンデンサ型”は普通のイヤフォンとどう違う?

 KSE1500という製品を語る前に、「コンデンサ型ヘッドフォン」について改めて説明したい。一般的なヘッドフォン/イヤフォンと何が違うのか、その音響特性はどうなのか、まずは簡単におさらいしよう。

 コンデンサ(静電)型ヘッドフォン/イヤフォンは、ドライバーの構造が現在主流のダイナミック型と大きく異なる。ダイナミック型ドライバーでは、N極/S極の永久磁石により作られた磁界に置いたコイルに電気を流すと電流と直角の方向に力が生じるというフレミング左手の法則を応用する。磁力を用いて振動板の一部を動かし音を出すイメージだ。

 一方のコンデンサ型は、文字どおりコンデンサと似た構造を持つ。コンデンサという電子部品は、絶縁体を挟むよう向かい合わせに配置された2つの導体に電圧を加えると、磁石のS極とN極のように互いを引き寄せる力を利用して電力を蓄えるが、コンデンサ型ドライバでは導体の間に絶縁体ではなく極めて薄い振動板を置く。そこへ電圧をかけることで振動板を動かし、音を発生させるというわけだ。

 コンデンサ型ドライバといえば、国内ではSTAXのヘッドフォン(イヤースピーカー)が著名な存在で、海外ではゼンハイザーやKOSSも手掛けているが、Shureも一朝一夕に製品化したわけではない。彼らが長年コンデンサ型マイクで培った経験と技術力があるからこそ、KSE1500という製品が生まれたのだ。

 発表会で明かされたKSE1500開発秘話もおもしろい。同社のエンジニアが、あるとき「小型マイクを反対に動作させれば……」と思い立ち、音を集めるのではなく出す働きを持つコンデンサ型イヤフォンを試作、ヘッドフォン/イヤフォンのプロダクトマネージャーに持ち込んだことがきっかけというのだから。経緯は以前のニュース記事に詳しいが、Shureというメーカーの社風を感じさせる話だ。

KSE1500イヤフォン部の内部。キャビティ内部の構造は、BA型/ダイナミック型と大きく異なる
一般的なコンデンサ型と比較すると、KSE1500に搭載されているドライバの小ささは際だっている

 イヤフォンのハウジングを一見する限り、SE846やSE215といったカナル型(耳栓型)の既存製品と大差ないが、じっくり見ると多くの点に違いを発見できる。一般的に、バランスド・アーマチュア(BA)型/ダイナミック型モデルはハウジング内に複数の部品が詰め込まれた凝縮感があるが、KSE1500のキャビティは薄い缶詰のような形状で、部品点数の少なさが見てとれる。このあたりにも、開発中に蓄積されたノウハウがあるのだろう。

耳にケーブルを掛ける“シュア掛け”が前提となるハウジングの形状
キャビティは薄い缶詰のような円盤状で、透明なハウジングに収まる

 KSE1500の核ともいえるコンデンサ型ドライバには、「ほぼ無質量」といわれるほど小さく軽い振動板が採用されている。向かい合わせに配置されたふたつの固定極板に挟まれる形で設置されるが、そのスペースはわずかに0.002インチ(約50.8マイクロメートル)、製造には高い精度が求められる。しかも固定極板にかける電圧は200V、振動板へ均一にかけないことには自然な音とならない。着想から製品化まで約8年という期間を要したのもうなずける話だ。

前面には明るく視認性が高い有機ELディスプレイを配置

 だから、USB DAC搭載のポータブルアンプと一体化されていることは、狙ったというより必然。数百ボルトという高い電圧を要するドライバの特性上専用のアンプを設けなければならず、ケーブルも静電容量を低く保てるよう特別な設計が必要となる。アンプ部との接続は6ピンLEMOコネクターになるが、他のLEMOデバイスは接続できない。いきおい、PCやスマートフォン、あるいはポータブルオーディオプレーヤーと組み合わせて使うことがメインになる(ライン入力も可能だが)うえ、リケーブルも難しい。

 ただし、USB DACのスペックは最大96kHz/24bit対応で最新とは言い難く、DSD対応が当たり前となりつつあるポータブルアンプ界隈において見劣りすることは否めない。前述したリケーブルなどのカスタマイズ要素とあわせ、KSE1500という製品のオーナーとなるための“踏み絵”になることだろう。

左側面には電源ボタンとホールドスイッチ。設定やEQ操作時、電源ボタンは「戻る」ボタンを兼ねる
上部には回転式のコントロールノブとライン入力端子、付属のイヤフォン専用の6ピンLEMO端子
イヤフォンケーブル側の6ピンLEMO端子
本体背面
KSE1500の付属品一式。イヤーピースは計9種が同梱

圧巻の音質。長年聴いた曲に新たな発見も

 さっそく、KSE1500の試聴に移ろう。ハウジングの形状はSE846など既存のカナル型と大差なく、ハウジングとつなぐ"シュア掛け"の鍵となる針金入りのケーブルも変わらないように見えるが、使用感は多少異なる。高い絶縁性と静電容量を保つ必要上、アンプ部とつなぐケーブルは平たいリボンケーブルを選択しており、これがやや重い。1.4mという長さは過不足ないものの、イヤーピースを緩めに装着しているとケーブルの自重で次第にずれてしまうことがある。イヤーピースは8種類付属しているが、耳穴とのフィット感を高めるべく少々キツめに感じるものがお勧めだ。ただし、ケーブルの外皮はKevlar繊維で柔軟性があるため、取り回しは意外なほどいい。

 スマートフォン対応は万全だ。Android端末用にMicro-B OTGケーブル、iPhone用にMicro-B/Lightningケーブルがそれぞれ付属し、フルデジタルで接続できる。Android 4.3が動作するSONY Xperia Z UltraとiPhone 6sを使い、同じ「ONKYO HF Player」でFLAC 96kHz/24bitなどハイレゾ再生を試したが、どちらも支障なく動作した。

Xperia Z UltraとMicro-B OTGケーブルで接続、「ONKYO HF Player」で96kHz/24bitの音源を再生

 アンプ部は、やや厚めのリモコンといった印象。選曲は送り出し側のスマートフォンやPCで行なうことになるので、有機ELディスプレイを見なくても音楽を聴くには不自由しないが、スマートフォンとは背中合わせで重ねるという利用スタイルになるだろう。ポータブルアンプでよく見かける利用スタイル(ゴムバンドなどで束ねる)にはやや無理があると感じたため、どのように持ち運ぶかは各自の工夫が必要となりそうだ。

KSE1500に付属のバンドで、ポータブルプレーヤーのAK100と束ねたところ

 アンプ部のUIは、再考の余地がありそうだ。上部には大きめのボリュームノブがあり、回転させれば項目の選択に、軽く押せば決定ボタンとしての機能を果たすのだが、左側面の電源ボタンが「戻る」ボタンを兼ねている。再生中に軽く押した程度では電源オフにならないと頭で理解はしていても、どうしても違和感がある。電源オン/オフはボリュームノブに割り当て(音量を絞りきるとオフにするなど)、側面のボタンは「戻る」に徹したほうがスマートだと思う。なお、表示言語は日本語にも変更できるものの、フォントの関係でどうにも見映えが悪く、英語のまま使うことが正解だ。

 イコライザ機能は4バンド/パラメトリック型で、プリセット5種のほか最大4種のユーザー定義が可能。4つのフィルターポイントがあり、調整する周波数を選択できる。専用DSPを搭載するなど設計面のこだわりは強く、ときには音の雰囲気を変えて楽しむのもいいだろう。

4バンドパラメトリックイコライザーはプリセット5種、カスタマイズ可能な4種の設定を用意
表示は日本語化できるが、英語に比べると画面とフォントサイズのバランスに難がある

 肝心の音質だが、一聴してわかるディテールの細やかさは圧巻のひと言。音の発散から収束までのつながりが俄然スムースで、付帯音がほぼ感じられずキレが鋭い。ピアノなど打楽器も、アコースティックギターなどの弦楽器も、音の伸びが大きく改善される。無音状態からピークまで、ピークから無音状態への到達時間が短く、それが一音一音積み重なることで音楽全体の輪郭が際立つのだ。

iPhone 6sとMicro-B/Lightningケーブルで接続、「ONKYO HF Player」でDSDをPCM変換/ダウンサンプリングのうえ出力

 ジャズドラムでよく使われるブラシの音は、その典型といえる。この道具は、数十本程度の繊維をドラムヘッドに擦ることで本数や材質に応じた音が発生するが、KSE1500ではその音がよりリアルに感じられるのだ。その材質が金属なのかナイロンなのか、本数が50本なのか100本なのかがはっきりわかるようになる、というと比喩的過ぎるだろうか。ボーカルもまた然り。長年繰り返し聴いた音源にもかかわらず、新たなリップノイズを発見してしまうほどだ。

 一般的なBA型/ダイナミック型との比較でいえば、「音場感のリアリティ」は格別だ。コンデンサ型ドライバの優れた過渡特性が成せる技だろう、録音エンジニアが目指したであろう空気感はこれだったか、と繰り返し聴いた音源も印象が変わる。

 コンデンサ型ヘッドフォンに対する指摘で耳にすることがある「低音の量感不足」だが、この点に関してはやや誤解があるように思う。確かに、低音重視の密閉型ヘッドフォンと比べると低音のインパクトは薄いが、モニターよりモニターらしい音といえば肯ける。むしろ、解像感が増したことによりベースやバスドラといった楽器の付帯音が減り、音が痩せたように感じられるからではないか。

 例えばベースの音は、きめ細かさが向上することでリアリティが増しているし、バスドラのキックも迅速に発散/収束することで、楽曲本来のキレやドライブ感が出てくる。原音への近さでいえば、こちらが正解なのだろう。もっとも、リスナーとしての満足感はまた別な話であるため、もの足りなければイコライザで補完したほうがいいかもしれない。

コンデンサ型の特徴を活かしたポータブル機。再生機能一体型への期待も

 ありそうでなかった、量産品レベルでの「コンデンサ型ドライバ搭載のインナーイヤー」により、Shureはポータブルオーディオの新境地を拓いた。新ドライバの効果は歴然で、ポータブルオーディオファン垂涎のモデルとなることは確実と言っていい。現在主流のBA/ダイナミック型との違いは、それほどはっきり音に表れる。

 筐体デザインについては、やや消化不良な点が残る。コンデンサ型ということで、専用のアンプが必要になることは承知しているが、ポータビリティ、特にスマートフォンと重ねて使用する状況への適合性は改良の余地がある。個人的には、多少割高になったとしても、サイズアップしたとしても、再生機能を搭載したほうが総合的なユーザビリティは向上するように思える。

付属のレザーキャリングケースに入れたところ

 再生可能なフォーマットが最大96kHz/24bitという点は、あまり気にならない。たとえCDクオリティの音源でも、コンデンサ型ならではの精細感を存分に堪能できるからだ。それに、ハイレゾ再生アプリの多くは自動的にダウンサンプリングする機能を備えている。筆者はふだん再生機にRaspberry Piを使用しているため、プレイリストにDSDを含めていると突然の異音に慌てふためくこととなるが(PCM変換されずそのまま出力されてしまう)、さすがにこれが問題視されることはあるまい。

 とはいえ、このドライバでDSDネイティブの音を聴くとどうか、アップサンプリング機能があればどうか、などと湧き出す期待感は抑えがたい。コンデンサ型ドライバ搭載のインナーイヤーのシリーズ化とともに、DAC周辺のみ最新スペックにグレードアップした「KSE1500 SE(Special Edition)」を待望してしまうのだが、いかがだろうか。

Mac(OS X Yosemite)に接続、Audirvana Plusで認識させたところ。再生可能なフォーマットが96kHzとわかる
Raspberry Pi 2(OSはVolumio 1.55)で認識させたところ。44/48/88.2/96kHzのサンプリングレートに対応していることが読み取れた
試聴曲

・Gaucho/Steely Dan (FLAC 96kHz/24bit) e-onkyoで購入
・Kin/Pat Metheny (FLAC 96kHz/24bit) e-onkyoで購入
・Random Access Memories/Daft Punk (WAV 88.2kHz/24bit)
・Brazasia/Yutaka (WAV 44.1kHz/16bit)
・ピアノ・ソナタ D.894「幻想」& D.575/高橋アキ (FLAC 192kHz/24bit)
・GRACIM/渡辺香津美 (DSD 2.8MHz)

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Shure KSE1500

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。