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本田雅一のAVTrends

東芝4Kテレビ本気宣言。「50型以上は4Kが主流に」

−レグザエンジンCEVO 4K開発。さらなる高品位化へ




東芝ブースで披露された84型4Kテレビ

 IFA2012の東芝ブースでは先行してプレス向けの展示説明会と事業責任者へのラウンドテーブルが行なわれた。東芝からの主なメッセージは三つ。

 まずはテレビ事業における「4K2K本気宣言」。さらなる高品位化を目指し、昨年に引き続いて4K2Kへの取り組みを加速させていくと話し、そのために4K2K専用の映像処理LSI「レグザエンジンCEVO」を新規設計すること。

 Ultrabookのラインナップを拡充し、異なるユーザーニーズに対して、それぞれ最適な製品を提供し、またWindows 8で導入されるタッチパネルを使った新たな商品の創造に力を入れていくこと。

 Windows 8かAndroidかといったOSプラットフォームに依存しない、東芝オリジナルの付加価値をアプリケーションやサービスとして実装し、各地域ごとに異なる嗜好性に会わせたコンテンツ、サービスと消費者をつないでいくクラウドへの統一した入り口(TOSHIBA Place)を提供していくこと。

東芝 執行役上席常務 デジタルプロダクツ&サービスDS社 副社長 徳光重則氏

 それぞれについて、東芝・執行役上席常務でデジタルプロダクツ&サービス(DS)社・副社長の徳光重則氏に話を伺った。

 ブースレポートなどについては、別途、記事を参照いただきたい。また、同じDS社が扱うパソコンと、パソコン、タブレット、テレビをつなぐクラウド戦略に関しては、別ストーリーで「本田雅一のモバイル通信リターンズ」で紹介する。



■ 高画質はテレビの基本。必要なことは“価格と機能・性能のバランスを取ること”

次世代4Kテレビ向けに「レグザエンジンCEVO 4K」を開発中

 インタビューに先立ってレグザエンジンCEVO 4K(以下、CEVO4K)のデモを受けた。CEVO4Kは主に三つの映像処理パートから成り立っている。

 ひとつは4K微細テクスチャー復元。これは1枚超解像の手法として一般的な再構成法に近い効果が得られるものだが、より4K2Kに最適化した処理へと改良されている。抽出するテクスチャ、そのエンハンスメントの手法やパラメータ含め、すべて4Kに最適化している。入力映像が4K2Kであっても効果が望める。

 次が4K輝き復元。この処理は東芝・研究開発センターのマルチメディアラボラトリーが今年8月に学会発表した技術を元にしたものだ。映像に含まれている光を、物体色成分(拡散反射された光)と光沢成分(鏡面反射された光)に分離し、光沢部分の輝度変化カーブを見て、自然な風景の中にある“光沢”と同様の輝きに見えるよう輝度信号を調整する。単に輝かせるだけでなく、マットな質感の素材に関しては輝き感を抑制する動作も盛り込まれており、トータルでの質感の違いが明瞭になる。これに加えて今もCEVOエンジンに組み込まれている色復元機能を4Kに最適化したものもCEVO4Kに組み込まれる。

 IFA2012の東芝ブース内にあるバックヤード(一部商談用スペース)では、これらのアルゴリズムをコンピュータ上でシミュレーションし、ワーナー・ブラザースの映画「ダークナイト」のオープニングシーンを4K2Kアップコンバートした映像を見せていた。

 まだ画質調整は行なっていない段階とのことで完璧ではない動作の部分もあったが、高画質化の効果は明らか。確かに従来のフルHDとは異なる世界観を感じさせるものだった。これら4Kアップコンバートに技術を磨くとともに、4K2KのHDMI出力を持つパソコンの発売や、ゲームベンダーと協力して3Dゲームの4K2K対応、高精細にデジタル写真を楽しむ機能を充実させていくなど、DS社全体を上げて4K2K高画質体験の充実度を高めていく。

84型4Kテレビでダークナイトをデモ。情報量の多い映像だけにインパクトはなおさらに強い ファイナルファンタジーのリアルタイムレンダリングトレーラーを4K対応した映像 ブルーレイ映像のフルHD(左)と4Kアップコンバート(右)の比較。写真を通しても違いがわかるはず
ニコンD800で撮影した写真を表示。4Kの凄まじい解像感がわかる。写真の楽しみ方が変わると感じるデモだ 4K出力可能なパソコンを発売することで、超高解像度モニターとしての使い方も訴求していく

 すでに昨年末に他社に先駆けて4K2Kテレビを発売し、今年はその廉価版も発売。そうした経験から、この路線に手応えを感じているのだろう。しかし、一部には“高画質という方向に偏り過ぎたことが、日本メーカーのテレビ事業がダメになった主因”という論調もある。筆者はこの論調に迎合しないが、さらなる高解像度へとコミットすることに対して東芝自身はどう考えているのだろう。

 徳光氏は「どんなに素晴らしい画質でも、それが高価なままでは拡がりませんし、ボリュームを追えなければ事業としてのテレビは収益性の低いものになってしまいます。テレビは数を追わなければ事業として成り立たない。そのために”高すぎる”ものではダメです。本格的に4K2Kに取り組むということは、4K2Kをリーズナブルな価格で提供するために歩を進めていくということです。50型以上のサイズは4K2Kが主流になっていくでしょう」と話した。

「私たちも過去に、考えられる最高の技術を投入した高価なテレビを出してきましたが、当然、数は出ないので開発投資を回収はできません。これらは広告投資として考えたものです。事業投資という面できちんとコストを回収するには低価格化と、より解りやすく4K2Kの良さを感じてもらう独自LSIの開発が必要不可欠です(徳光氏)」

 このIFAで展示した84型の4K2K液晶テレビは、もちろんサイズから言っても低価格なものにはならないだろう。しかし「各サイズごとに製品の機能・画質を考えた時、適正な価格は付けられる(徳光氏)」と話す。言い換えれば、新しい要素を盛り込んだからといって高価すぎる製品にはしない、ということだ。

「CEVO4K搭載シリーズは、最初から値段を意識して50インチ以上の製品に買いやすい価格帯の製品を提供します。我々にとっては第2世代の4K2Kテレビですから、消費者が何を求めているかは十分に理解しています(徳光氏)」


■ 自分たちの得意な領域で勝負する

 テレビ業界は韓国メーカーだけが勝っていると見られがちだが、実際にはフルHD化の後に体験レベルを大きく引き上げるトレンドが生まれず、さらにメーカー間の過度な販売競争などもあって、商品としての成熟があまりに進みすぎたという背景がある。サムスンやLGも決して楽なわけではない。

 たとえば、すでに中国の液晶パネルメーカーが中大型パネルを量産し始めている。現在は中国国内向けに低価格な液晶テレビを出荷しているが、そのうち中国製パネルを使った中国製テレビが、テレビ市場の裾野、すなわち“出荷ボリュームの大きさを支えている層”を浸食し始めていくだろう。

「その点について、我々は心配していません。パネル生産を持っている場合、その部分が重荷になってしまいます。しかし、中国製パネルの品質が世界で通用するものになるならば、東芝自身がそれを調達し、生産も中国で行なえばいい。東芝製テレビの価値はパネルの独自性にあるのではなく、映像エンジンや豊富な録画機能など半導体技術とソフトウェアの組み合わせによるものです。パネルは絵を描くためのキャンバス。得意分野で勝負します(徳光氏)」

 日本のテレビメーカーの中にあって、東芝が独自の立ち位置を維持できてきたのは、何を消費者が求めているのかを正確に分析し、目的地を定めたなら集中的に自分たちの持つ資源を投入する見極めと思い切りの良さにあると思う。

 ある時期までパネルの独自性(SEDを主導していたのは東芝とキヤノンである)に拘った東芝だが、SEDの開発が失敗に終わったことでパネルの自社生産、垂直統合を捨てざるを得なくなった。しかし、そのことが半導体とソフトウェアで勝負するテレビメーカーという、もっとも自由でユニークな製品を生み出す位置に来れたとも言えるだろう。

 もっとも、CEVO4K搭載製品が出てくるのは来年のようだ。それ以前、今年の年末商戦に向けては、まったく別の付加価値を用意しているという。こちらはCEATECで明らかになっていくだろう。

(2012年 9月 1日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

 個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。


[Reported by 本田雅一]