本田雅一のAVTrends

PS4が変えるユーザー体験。SCEハウスCEOインタビュー

アイディアとモチベーションを引き出すPS4へ

SCE アンドリュー・ハウスCEO

 米ニューヨークでのPlayStation 4(PS4)発表を受けて、ソニー・コンピュータ・エンターテインメント社長兼グループCEOのアンドリュー・ハウス氏に話を伺った。25分と短いインタビューだったが、このインタビューでハウス氏はゲーム専用機ビジネスの成長プランと、カジュアルゲーム増加への布石について語ってくれた。

PS3ゲームとの互換性は?

--- 今回のインタビューにおける骨子とは少し外れるのですが、まずPS3との互換性について確認させてください。Gaikaiのクラウドゲーミングシステムを通じて提供されるのはPS3用だけということですね?

ハウス:その通りです。PS4本体のPS3との互換性はありませんが、PS3タイトルを遊んでいただくためにGaikaiのサーバーにPS3ゲームを揃えていきます。

--- 私の認識では、PS3タイトルをGaikaiのサーバーで準備するとアナウンスされましたが、すでに所有しているPS3ソフトについて、どのような扱いになるかは“決まっていない”のですよね? 一部ではPS3ゲームを所有していても、クラウド経由で遊べるわけではないと伝わっていると聞きました。

ハウス:なぜそうした話が出ているのか詳細は不明ですが、正しくはおっしゃるように、すでに所有しているPS3フォーマットのディスクについて、どのように扱うかは“まだ何も決まっていない”です。

--- クラウド上で動かすことを考えると、おそらく“買い直し”と“無償で使える”の中間ぐらいじゃないかと想像しているのですが、たとえばPS4にPS3フォーマットのブルーレイを挿入し、所有を確認することで遊べるといった仕組みは提供できるのでしょうか?

ハウス:そうした方法も含めて、現在、どういった方法がベストなのかを検討しています。

PS4が狙うゲーム市場とゲーム体験

PlayStation Meeting 2013でPS4を発表

--- では本題に入りますが、ハードウェアのスペックやシステムソフトウェアが持つ機能、サービスの一部が今回の発表会で明らかになりました。またゲーム開発者に向けての強いメッセージも発信しています。とりわけ、ゲーム開発者に向けてのメッセージとソーシャル機能を強調していましたが、これらの施策でゲーム市場の縮小傾向に歯止めをかけられるとお考えですか?

ハウス:まず、ゲーム市場の成長はたしかに鈍りましたが、市場全体が縮小しているかというと、そこまでは言えないと考えています。たしかに日本ではその傾向が見えますが、米欧ではコンピュータゲームの市場が小さくなっているとは言えないでしょう。ですから、まずはワールドワイドでのコンピュータゲーム市場に適切な製品を投入する必要があります。

 その上でPS4という新しいプラットフォームを用いて、新しいゲーム体験を創造しなければなりません。これはハードウェアだけで実現できるものではなく、エンターテインメントを提供したい、生み出したいというクリエイターの夢と創造を掻き立て、彼らが作りたいものを作れるよう環境を整えることが必要です。

 PS4をゲーム開発者中心のプラットフォームにしたのは、まさに新たな娯楽を生み出す源泉がゲーム開発者自身だからです。彼ら自身が欲しい、遊びたいと思うコンテンツが生まれてくる環境を作るのが、我々の仕事です。ゲームを遊ぶ人と人をつないぐソーシャル機能など、全ゲームから呼び出せる各種サービスをシステムレベルで用意したのも、それらを活用してクリエイターが新たな遊びを開発可能にするためです。

--- 現在のゲーム専用機でパッケージを作っていこうと思うと、開発、流通、プロモーション様々な面で負担が大きく、手軽に遊べるゲームが減り、それにともなってカジュアルにゲームを楽しんでいた人達がゲーム機を使わなくなっているように見えます。SCEではこの状況をどう見ていますか?

ハウス:これまでと同じように超大作のゲームも作られるでしょうし、コアゲーマーにとっても我々にとっても、それは以前と変わらず大切なものです。しかし、一方で手軽に楽しめるタイトルも必要です。たとえば映画にしても、大きな予算を与えられて作る超大作もあれば、個人レベルで資金を集めて作るインディーズの映画もあります。

 ではインディーズの映画がつまらないかと言えば、面白いものがたくさんある。映画の場合、インディーズ向けの映画祭などで売り込み、ヒット作を出す道がありますよね。そうした道筋をゲームの世界でも作らなければならないと思います。

--- たとえば、クリストファー・ノーラン監督は、サンダンス映画祭でグランプリをとった「メメント」で注目され、今や撮る映画のすべてがブロックバスター(超大作)という位置にあっという間に登り詰めました。これと同じような仕組みを作りたいということですか?

ハウス:ええ、まったくその通りです。面白いインディーズ系映画は、それぞれがキッチリと利益を出しています。PS1やPS2の時代を振り返ると、それまでまったく名を知られていなかったクリエイターが、たとえばパラッパラッパーのように突然、大ヒット作を飛ばしていました。これこそがエンターテインメントだと思います。自らの想像力と創造力によって、投資資金がなくともヒット作を作れる可能性があった。

 しかし、今のゲーム産業の構造はそうなっていません。大手のゲーム会社が巨額の予算を組み、100人、200人といった大規模チームを編成してタイトルを開発している。こうした構造では、どうしてもマニアックな方向に先鋭化しますから、コアゲームしか存在しない世界になってしまいます。

--- ゲームを開発、提供するための全体の予算が大きくなりすぎて、そもそもカジュアルなゲームが生まれない環境になってしまっているわけですね。どのような対策を施そうとしているのでしょう?

ハウス:たとえばPS3において徐々に成功を収めつつあるのがデジタル配信です。低予算ゲームをデジタル配信専用タイトルで手軽にパブリッシュできる環境を整えました。それによってJourneyやFlowerといったタイトルが生まれています。特にJourneyは大成功を収めています。開発したのはとても小さなデベロッパーなのですが、そんなことを誰にも感じさせないクオリティです。こうした小さなデベロッパーが、小さな予算で開発、流通させる環境作りを行ない、インディーズからブロックバスターのクリエイターへと登り詰める道があることが明らかになってくれば、カジュアルゲームの市場が活性化すると考えています。

--- 開発ツールやミドルウェアの面でも、色々なレベル……たとえば本格的なゲームプログラマーではないけれど、創造する力と意欲はあるといったクリエイターでもエントリーできるような入り口が必要ではないでしょうか?

ハウス:そうです。それこそ色々な技術レベルのデベロッパーがあり、必ずしもコアなゲームプログラミング技術を持っていない、しかし創造力豊かなクリエイターがたくさんいます。彼らが、それぞれのレベルに応じた入り口を、PS4では用意しようと考えています。そのために、自社開発、サードパーティを問わず、ミドルウェアやツールを積極的に提供する準備を進めています。

--- 開発投資を回収する収益モデルは、これまでの仕組みを踏襲するのでしょうか?それとも小規模デベロッパー向けの新たな課金モデルなどは考えていますか?

ハウス:根本的な部分では大きくは変わりません。ブルーレイを使ったパッケージで、大量のデータを扱うものは物理メディアでの流通が中心となり、収益モデルは大きく変えられません。

 しかし、同時にフリーミアムのゲームも流通する仕組みを作ります。また、PC上で開発したゲームをPS4にポーティング(移植)するための道を作り、手軽にダウンロード配信で遊んでもらえるようにします。たとえばエピソード単位のダウンロードをアプリ内課金で行なうなどのモデルです。我々としては、可能な限り柔軟な課金モデルを提供し、様々なビジネスモデルでゲームビジネスを組み立てられるよう支援していきます。

 日本もそうですが、欧米でも50〜60ドルの大作ばかりでは、簡単に遊べません。作り手側も投資が重くなります。一面的にブロックバスターかフリーミアムかではなく、その中間のソリューションも含めて考えていきます。

PS4が目指すユーザー体験とは?

PlayStation 4ロゴ

--- これまでのプレイステーションは、毎回、ハードウェアのグラフィックス性能で次世代への移行を促してきましたが、今回は少し方向性を変えていますね。ハウスさんは、PS4というフォーマットをどのようなプラットフォームにしていきたいと考えていますか?

ハウス:現世代のゲーム専用機(PS3/Xbox 360)で私が残念に考えているのは、ユーザー体験を大きく変える要素を提供できなかったことです。PS1ははじめての本格的な3Dグラフィックスゲームマシンでした。さらにPS2でハードウェアを強化することにより、3Dワールドがよりオープンな、広大な仮想空間を生み出しました。しかし、現世代のゲーム専用機は、PS2の世界観を拡張したものになっています。現世代機はより良いグラフィックスを実現しましたが、誰もが一目で分かるようなプレイスタイルの変化をもたらしていません。

 たしかに現世代のゲーム専用機では、ネットワーク機能が充実し、それを起点にオンラインマルチプレイのコアゲーマー向けタイトルが大流行しました。そうした面を見ればゲームトレンドの変化を生み出していますし、今も何百万人という人がプレイしています。しかし、やはりそれはPS2時代の延長線上にあるものだと思うのです。他のトレンドとして、たとえばWiiを発祥とするモーションゲームが流行しましたが、ゲーム産業の中心になるほどの大きなモーメンタムとなっていません。

 PS4はこうした状況を打破し、ゲームのプレイスタイルそのものを変えていこう、遊び方そのものについてもう一度考え直そう。そういったプラットフォームになると思います。そのためにゲーム開発者、クリエイター中心のプラットフォームとして、彼らのアイディアとモチベーションを引き出すものに仕上げていきます。

(本田 雅一)