本田雅一のAVTrends

Google TVとレグザAppsコネクトに見る、異なる二つの処方せん




ソニーが発表したGoogle TV採用「Sony Internet TV(NSX-40GT1)」

 9月、米サンフランシスコのIntel Developers Forumに出かけると、そこにはソニー製Google TVが置かれ、毎日のようにグーグルの担当者が、その機能について解説をしてくれた。米Intelが家電向けに開発したATOMプロセッサを搭載しているためである。

 白いボディで覆われたそのテレビは「SONY」のブランドが掲げられているが、フラットな面とシャープな線で構成されたシンプルなデザインのBRAVIAシリーズとは異なる雰囲気を持っており、それが“いままでのソニー”とは異なるテレビであることを主張しているかのようだった。

 一方、長い海外出張から帰ってみると、かねてから機能説明を受けていたレグザAppsコネクトが、そのリリース準備を整えていた。もっとも、Google TVがAndroidをベースにしたIPTV端末なのに対して、こちらは単にテレビとレコーダを操るための単なるスマートデバイス向けアプレットにしか過ぎない。Google TVとの比較は、いわば異種格闘技戦のようなものだ。

 しかし、直接対決はかなわなくとも、対比することはできる。両者はいずれも、ネットワークを用いてテレビライフを改善するための“処方せん”だが、その方向性、考え方は大きく異なる。

東芝の「レグザAppsコネクト」。iPadなどの携帯端末からREGZAやレコーダの操作を行なえる

 


■ Google TVは前傾姿勢テレビ?

 Google TVは技術的に言えば、Androidベースの情報端末を組み込んだデジタルテレビである。テレビとしての機能と情報端末としての機能は融合されているが、一方でそれは別々に開発が続けられてきたものだ。

 インターネットでリッチコンテンツが流通し始める中、次世代のテレビがどんなものかを模索する中で、こうした製品が生まれてきたのは必然と言えるかもしれない。しかし、このテレビがグーグルとソニーの共同開発で作られたことに、筆者は少々驚かざるを得なかった。

 なぜなら、これまでのソニーはリラックスした空間で“最高のエンターテイメントを再現する”ことに注力していたからだ。これは何もソニーのテレビ部隊だけが持っている特別な感覚ではない。エンターテイメントを楽しむデバイスとしてのテレビと、前傾姿勢で積極的にコンテンツを探し、リンクを辿りながら動画を楽しむスタイルは、似ているようで相容れないところがある。どんなメーカーでも、テレビを作り続けてきたメーカーならば、Google TVの機能をテレビ内に固定することに疑問を持つだろう。

「Sony Internet TV(NSX-24GT)」。QWERTYキーボード付きリモコンから操作する。スマートフォンなどからの操作にも対応する

 実際、ソニー内部でもGoogle TVに関しては意見が割れ、意思統一さえていないようにさえ思えた。混沌として何が生まれてくるのかわからない。こんな状況で生まれてくる製品は、天才的に素晴らしい製品か、どこか間の抜けた製品のどちらかだ……と言ってしまうと決めつけになるだろうか。

 Google TVはソニーなりに考えた、新しい世代のテレビへと向かうための試金石、処方せんなのだろう。しかし、単に放送局のIP配信サービスを受けるだけならば、従来型のテレビでも十分な使いやすさが実現されている。YouTubeに代表されるネット上の動画コンテンツに関しては、テレビリモコンで検索をする(しかも、検索している間はテレビ画面は中断している)という面倒なことをする必要はない。

 それほど前傾姿勢で大きな薄型テレビを使いたいと思うだろうか? もちろん、Google TVは従来のテレビとネットの統合(たとえばパナソニックのYouTubeアクセス機能など)に比べれば、遥かに軽快でネット上の動画を見つけ出すのも楽しむのも楽に作ってある。

 しかし、ネットコンテンツを探すならば、リビングでリラックスしながらテレビを横目に見つつ、手元のタブレット型コンピュータやネットブック、あるいはスマートフォンで行なってもいい。

 それをテレビで観たいと思った時、テレビにネットコンテンツを送り込む機能がありさえすればいいだけのことだ。ネットアクセスという、前傾姿勢で取り組む作業を、わざわざテレビ画面で行なう意味があるのか。まずGoogle TVは、過去に多くのインターネット対応テレビが跳ね返されてきたこのテーマについて、明確な答えを用意しなければならない。



■ テレビはエンターテイメントを描くキャンバス

 では手元にある好みの情報端末から、ネット上のコンテンツをテレビに表示させるなんてことが、本当に簡単にできるのだろうか?

CEATEC JAPAN 2010のDLNAブース。さまざまな機器からDMR対応のソニーBRAVIAへ映像出力するデモも実施していた

 実はテレビ次第では、これが簡単にできる。DLNA 1.5のデジタルメディアレンダラー(DMR)という機能があるテレビならば、その可能性がある。DMRはいわば、家庭内ネットワーク内にあるデジタルメディアを描き出すキャンバスのようなものだ。コントローラからの指示で、写真、音楽、動画などを再生する。手順はDLNAを踏襲する必要があるので、デジタルメディアサーバーが必要になるが、これも実は解決している。

 NTTドコモの子会社になった米ベンチャーのパケットビデオはTwonky Media Beamという製品を持っている。この製品は無償でInternet Explorer用プラグインとして配布されているが、つい先日、Android Marketでも同等機能のアプリケーションが無償公開(無償公開は年内まで。それ以降は有料化の予定)された。さらに将来、FOMAシリーズへの搭載なども考えられるだろう。

 この製品はインターネット上で公開されているメデイアデータを、DLNAの手順でDMRへと中継する機能を持っている。たとえば手元の端末で見ているYouTubeの映像を、目の間にあるテレビから再生させるよう指示すると、テレビ自身がYouTubeへのアクセス機能を持っていなくても再生することが可能だ。これは写真や音楽でも同じなので、美しい写真を見つけたとき、それをすぐにテレビに表示させてみたり、オーディオシステムから音を出したりといったことができてしまう。

CEATEC 2010のパケットビデオのデモ。YouTube動画の出力先として、DMR対応のテレビを選らんで出力Xperiaで撮影した写真をDMR対応のSamsungのテレビに出力

 製品そのものは昨年のCEATECでも展示されていたが、その頃はパソコン用プラグインしかなかった。ところがその後、スマートフォン市場が急速に盛り上がり、一般的な携帯電話の能力も上がってきたことで、よりリアルなユースケースが生まれてきたとも言えるだろう。好きな端末でデジタルメディアを操り、テレビをキャンバスに見立てて好みのコンテンツを映し出せるなら、テレビ自身がインターネット端末化する意味はあるのだろうか?Google TVへの疑問は、そんなところから来たものだ。

 ただしTwonky Media Beamのような製品(他にも似た機能をパソコンで実現した製品を東芝が発売している)を活かすには、テレビ側が真面目にインターネットのメディア形式に対応しなければならない。テレビ放送などで使われる映像・音声は、解像度やフレームレート、ビットレート、コーデック、コーデックプロファイルなどが厳密に規定されている。しかし、ネット上の動画は多種多様だ。

 それでもMPEG-2に加えてMPEG-4、H.264、WMVなど代表的なコーデックに対応しておけば、あとはいくつかのコンテナ形式に対応すれば、再生可能な動画形式はグンと増えてくる。ところが、こうした対応を行なっているテレビというのは実に少ない。DMRを実装しているのは、今のところソニーと東芝だけだ(日本では販売していないがサムスンも)。さらにネット上に多いMPEG-4のデコードをDLNA経由で行なえるものというとサムスンのテレビしかなくなる。もちろん、対応するコンテナの種類も少なく、Beamでネットコンテンツや携帯電話内のメディアファイルを中継、送出しても、ほとんど再生できない。

 もし、テレビをネット対応させるというのであれば、まずは映像を楽しむキャンバスとなるためにDMR対応した上で、ネット上の動画を再生できるよう代表的な形式に対応するといったことをするほうが、機器を購入してくれたユーザーに対して将来の発展も担保しやすく、活用の幅も広がるのではないだろうか。

 


■ テレビ番組を骨までしゃぶる「レグザAppsコネクト」

レグザAppsコネクトのサービス概念図

 これに対してレグザAppsコネクトは、“テレビを観ること”をよほど愛していると伝わってくる製品だ。もちろん、繰り返しになるがGoogle TVと機能はまったくかぶらない別のものである。詳しくは本誌の紹介記事を参照していただきたいが、ポイントはテレビ番組の楽しみ方の幅を拡げるための“周辺アプリ”に徹していることだろう。

 より多くのレコーダユーザーを巻き込み、同じ番組をみている他のみんなと盛り上がりたい。そんな欲求を満たすために用意されたのが、チャプタに名前を付けてサーバー上で共有できるタグリストだ。アナログ時代のレコーダであるRD-X5以降のネットdeナビ対応機なら、どの東芝製レコーダでも参加できるというのも、なかなか思い切った策と言えるだろう。たいていの場合、そんな昔の製品まではサポートできないと切り捨てるものだが、それをやらないのは、より多くのユーザーが参加してワイワイとやったほうが楽しいから、に違いない。


REGZAをiPadやiPhoneから操作。今後Android端末やパソコンにも対応RZコマンダーユーザーが番組に紐づいたタグリストを作成し、共有できるのも特徴

 現状のレグザAppsコネクトが持つ機能は限定的だが、将来はツイッターなどSNSと連携し、友人のタグリストを手早く探したり、あるいは自分で付けたタグリストを手軽にアナウンスできるようにすることを検討しているそうだ。たとえばツイッター上に「この前の放送、背景に隠れたびっくりハプニングを発見!」などとツイートした上でリンクを張っておき、そのリンクをクリックすると該当番組のチャプタ位置へ飛ぶなんてことができるようになりそうだ。

 また「Apps」と複数形で述べられていること、意図的に「第1弾」とアナウンスしていることから考えると、第2弾以降も存在することが想像される…… と表現して欲しいと言われたが、要は別の切り口でのテレビをより楽しく使うためのアプリケーションを、アイディア次第で増やしていきます、とのこと。まだリリース予定は未定だが、次は番組予約に関連するソーシャルなアプリになるようだ。

 話を戻そう。レグザAppsコネクトが成功するか否か、それは筆者にはわからない。あるいは誰も使わない可能性だってある。楽しい機能だと思うが、ややマニアックに過ぎるという意見もあるだろう。しかし、事の本質はそこではない。テレビというアプリケーションを理解し、いかにその楽しみを拡張していくのか。その考え方、アプローチという点で、実にGoogle TVと対照的である。

 両者は同じようにテレビの楽しみ方に変化を与える処方せんであるが、向いている方向は正反対と言っていい。どちらが正解なのか、あるいはどちらも正解ではないのか。答えは時間の経過が教えてくれるだろう。

(2010年 10月 15日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]