大河原克行のデジタル家電 -最前線-

ハウステンボスで60型156台を使ったアトラクションを体験!

~シャープ製ディスプレイのキューブシステムで異次元へ?~


 長崎県佐世保市のハウステンボスで、シャープの60型液晶ディスプレイ156台を利用した「5D MIRACLE TOUR」が、2011年7月16日にグランドオープンした。前面と上下、左右の5面に、狭額縁の特徴を生かしたマルチディスプレイ型のキューブシステムを構成し、ここに映像を表示。参加者は映像に囲まれることで、浮遊感を体験できる新感覚のアトラクションだといえる。このほど、5D MIRACLE TOURを体験する機会を得た。その様子をレポートしよう。

長崎県佐世保市にあるハウステンボス

 ハウステンボスは、長崎空港からフェリーを使用して約50分の位置にあるテーマパークである。福岡空港からは電車で1時間45分。福岡空港や長崎駅からの直通バスも出ている。

 2010年4月から、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が子会社化。HIS会長の澤田秀雄氏が社長を務め、陣頭指揮を取り経営再建に取り組んでいる。2011年9月期上期決算では早くも黒字化を達成。通期業績でもオープン以来18年間続いた赤字からの脱却を見込んでいる。

 ハウステンボスがシャープとの協業によって導入した5D MIRACLE TOURは、2010年7月にリニューアルオープンした「スリラーファンタジーミュージアムエリア」の一角に設けられている。非日常の世界を体験できるハウステンボスにおいて、異次元を体感できる新たなアトラクションのひとつとして注目されているものだ。

 5D MIRACLE TOURの「5D」には、5つの方向をディスプレイで囲んだ環境であることを示すとともに、「Dream(夢のような空間の演出)」、「Dramatic(劇的な空間演出)」、「Discover(新しい発見)」、「Different(異次元空間体験)」、「Delight(楽しさ、歓喜体験)」の5つのDの頭文字の意味を込めている。


ハウステンボスとシャープの協業による5D MIRACLE TOUR

 シャープが開発した60型液晶ディスプレイ「PN-V601」を、前面と上面、底面にそれぞれ縦横6×6台の36台ずつ、左右の壁面にはそれぞれ4×6台の24台を設置。合計156台のキューブシステムとなっている。フレーム間のつなぎ目が目立たないことから、前面と上下左右の5方向において、200~300型超の大画面ディスプレイで囲まれたような空間を作り出しているのが特徴だ。

 すべての液晶ディスプレイは映像配信システムによってコントロールされ、明るくて高精細な迫力ある映像コンテンツを表示し、新たな映像体験を楽しめる内容となっている。

 筆者は、かつて正面が16台構成のキューブシステムでのデモンストレーション映像を見たことがあるが、正面36台という規模は、比べものにならないくらい“その空間のなかに入り込む感じ”がする。正面16台構成を大きく上回る臨場感だ。


7月16日からグランドオープンしたばかりだ

 ハウステンボスでは今年4月29日から試験的に運用を開始し、一般にも公開してきたが、そこから得られた意見などをもとに改善し、7月16日からのグランドオープンにあわせてコンテンツも変更した。試験運用では、サイパンに伝わる人魚伝説のストーリーをベースとしたオリジナル映像コンテンツである約8分間の「人魚伝説 ―Sirena―」を上映していたが、浮遊感などをより体験できるコンテンツとして、約10分間の「5D AEROSPACE」をシャープが新たに制作。5Dエアロスペース社がプロデュースするミラクルツアーに参加し、2222年の未来の地球へワープ。参加者は無事に生還することができるかどうかというストーリーになっている。

 「7月16日以降の参加者の満足度は高まっている。以前のコンテンツよりもさらに浮遊感が体験できるものになったといえる」(ハウステンボス営業本部広報宣伝課・高田孝太郎課長)と自信をみせる。


 5D MIRACLE TOURが設置されているスリラー・ファンタジー・ミュージアムエリアは、無料で利用できるフリーゾーンと、有料ゾーンの区切りがあるサウスゲートからは歩いて5分ほどの位置にある。レンガづくりの建物が並ぶ一角であり、ハウステンボスがテーマとしているオランダの異国情緒が感じられるエリアだ。夜には、イルミネーションショーが行なわれ、来場者の目を楽しませてくれる。

スリラー・ファンタジー・ミュージアムエリアその一角に5D MIRACLE TOURがある夜になるとイルミネーションショーが開かれる

 5D MIRACLE TOURは、午前9時30分から入れ替え制で行なわれており、一回の定員は32人。料金は600円だが、とくとくチケットを持っている場合やFAMILIE年間パスカードを所有している場合には500円で入場することができる。

 入口を入ると、まずはチケットが渡される。5Dエアロスペース社がプロデュースするミラクルツアーに参加し、そこから無事に帰ってくることができると、このチケットが変化するという。どう変化するかは参加して体験してみてほしい。

5D MIRACLE TOURのアトラクションの入口入場の際に手渡されるカード。果たしてどんな変化をするのだろうか

 まずはアトラクションの説明スペースに通され、ここで簡単な説明を受ける。ミラクルツアーに乗るためのシャトル(これがシャープ製のキューブシステムとなる)に関して紹介し、来場者との簡単なやりとりが行なわれる。

 シャトルを操縦するのは人工知能のHANAであり、これがいまひとつ調子が悪いらしい。ここで来場者の不安感が高まる。ただ、来場者をスキャンすると、来場者の考えていることがわかるらしく、「今日は暑くてアイスを食べたいと思っているでしょう」と、みんなが考えていることが当てられてしまった。

最初の部屋で60型ディスプレイ5台を使って概要を説明部屋と観客の様子人工知能HANAに皆が考えていることが知られる?

 そして、いよいよシャトルへの搭乗だ。ドアが開けられ順番に入っていく。階段をあがると、そこには156台の液晶ディスプレイを使用したキューブシステムが目に入ってくる。

 来場者は順番に席に着くが、人工知能からの指示で「今日は立ってもらった方がいい」と言われる。そこで来場者全員が立ち上がることになる。

いよいよシャトルに搭乗する「シャトル」こと156台を利用したキューブシステム。正面と上下左右の60型液晶ディスプレイに囲まれる

 いよいよ5D MIRACLE TOURのスタートだ。

 手前のバーに掴まりながら映像を見ていると、まさに浮遊感を味わうことができる。画像が右に傾くとまるで自分まで右に傾いているような気分になる。足下から伝わってくる振動も、さらに臨場感を高めている。

 156台の空間は、まさにまわりのすべてが動いているような感覚に陥る。前方向に歩いていく映像では通路を横切ると横方向がどうなっているのかを見ることも可能であり、また上方向の天井も確認することができる。下方向のディスプレイでは廊下が迫ってくるため、まるで自分が歩いているような感じだ。空を飛ぶような映像では、この空間ならではの迫力の映像となって迫ってくる。浮遊感とはここで味わうことができるだろう。

 約10分間のコンテンツで、まさに非日常を体験できるのは確かだ。

 ひとつ難をいえば、様々なシーンを詰め込みすぎて、ストーリー性に欠けてしまうという点だろう。さらに高速で変化する映像では、応答速度が追いついていない部分も見られた。またこれだけの液晶ディスプレイを一度に稼働させると発熱が大きい。空調を効かせていたが、ディスプレイに近い席では、わずかにディスプレイの熱を感じるところもある。

 ただ、液晶ディスプレイの高輝度を生かした明るさは、臨場感を高めるのには大きな威力を発揮していた。また、狭額縁である点は、超大型ディスプレイとして機能させるにもほとんど気にならないレベルのものになってきたともいえよう。

 ハウステンボスの澤田秀雄社長は、「まだまだ完成度を高めることができると考えている。点数をつければ、まだ60点程度の完成度。コンテンツをよりよいものに改善していくとともに、次のステップでは、3D映像によるバーチャル体験ができるようにも進化させていきたい」と語る。

 コンテンツの変更時期を明確にしているわけではないが、いまは完成度を高める時期ということもあって、半年程度でコンテンツを変更する可能性もありそうだ。

ハウステンボスにはこのほかにも映像を利用したアトラクションが複数ある。IFXシアターでは、幅9メートル、高さ7メートルのスクリーン3面と鏡を利用した映像を上映ミステリアエッシャーでは3D画像で不思議な世界が体験できる。そのほかにも自分が映画の主人公になれるグランオデッセイなどがある
アンケートを実施しており、コンテンツの改善に力を注いでいるハウステンボスの澤田秀雄社長

 世界初となる5面表示の大規模アトラクションが、これから進化を遂げるのは間違いない。

 「今後、ハウステンボスにしかないアトラクションのひとつとして5D MIRACLE TOURを積極的に訴求をしていきたい。そして、5D MIRACLE TOURを目的に来場してくださる人たちを増やしたい」とハウステンボスの高田課長は語る。

 世界初のアトラクションの体験に、非日常を感じるという点では満足するものだった。これがさらに進化するというのであれば、ますます楽しみだ。これからの進化にも期待をしたい。


(2011年 7月 28日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など