藤本健のDigital Audio Laboratory
第723回
手のひらサイズの高機能ピンマイクPCMレコーダ。TASCAM「DR-10L」で録音した
2017年5月22日 12:31
ティアックのTASCAMブランドから非常に小さなリニアPCMレコーダ「DR-10L」が発表され、6月上旬より発売される。付属のピンマイクを使ってレコーディングするモノラル仕様のレコーダだ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は25,000円前後。発売前に借りて試すことができたので、どんな製品なのか紹介しよう。
重さ63gの手のひらサイズ。単4電池1本で長時間録音
最近リニアPCMレコーダというと、高音質化ということもあり、どんどん大きくなるような印象がある。もちろん高音質化は非常に重要なポイントではあるが、大きいといつもカバンに入れて持ち歩くという使い方はしにくい。一方で、iPhoneなどのスマホの録音機能も充実してきているため、多少音質的に不満があったとしても「まあ、これでいいか」と使うケースも少なくない。
そんな中、TASCAMが発売するDR-10Lは非常に小さなリニアPCMレコーダ。同じTASCAMのDR-44WL、iPhone 7と並べてみると、そのコンパクトさが分かるだろう。外形寸法は52×24.4×55.6mmで重量は本体で51gという超軽量。これに駆動するための単4電池1本を入れても63gと、とっても軽い。単4電池1本とはいえ、アルカリ乾電池(EVOLTA)なら約10時間、ニッケル水素電池(eneloop)でも約8時間というスタミナがあるのも魅力的なところだ。
ただし、このDR-10LはほかのリニアPCMレコーダと比べて大きく違うところがある。それは本体にマイクを装備しておらず、付属のピンマイクを使って録音するという点、そしてピンマイクが1つだからモノラルのレコーディングに限られるという点だ。モノラルとなると、音楽用途にはあまり向かないのかもしれないが、WAVフォーマットで24bit/48kHzに対応しているので、いろいろな利用法は考えられそうだ。
ちなみにDR-10Lにはすでに発売されている兄弟ハードウェアがある。具体的にはワイヤレスマイクシステム用マイクロリニアPCMレコーダのDR-10Cシリーズ、XLRマイク用プラグオンマイクロリニアPCMレコーダのDR-10X、そしてショットガンマイク搭載カメラ用リニアPCMレコーダのDR-10SGの3製品。いずれもレコーダとしてはほぼ同機能・同性能だが、接続するマイクが異なるため形状や用途も異なってきているようだ。この中でもっとも汎用性が高そうなのが、ピンマイクで使うDR-10Lというわけだ。
まず、そのハード的なところから見ていくと、手のひらに乗るサイズのDR-10Lはマイクを接続するミニ端子とヘッドフォンを接続するステレオミニ端子が装備されている。
マイク端子のほうはスクリューロックコネクタとなっているので、動き回ってもケーブルが抜けにくいのも一つの特徴だ。
付属のピンマイクは感度-42dBV/Pa、115dB SPLの最大入力音圧レベルを持っているため、小さい音から大きな音まで捉えられるという。そのマイクケーブルは160cmあり、脱着可能クリップもついているので、衣服などに取り付けることが可能だ。
また、マイクの先端にはウインドスクリーンも被せられており、これも取り外すことが可能とのことだが、普通は付けたままでよさそうだ。ちなみに、DR-10L本体にもベルトなどに固定できるクリップが搭載されているので、マイクとともに目立たずスマートに装着できるのもポイントとなっている。
このDR-10L本体にはメモリを装備していないため、microSDカードを挿入して、ここに録音する形となる。最大32GBのmicrSDHCカードまで認識でいるので、かなり長時間の録音までできるようだ。microSDスロットの横にはmicroUSB端子が装備されているが、これをPCと接続するとmicroSDの中身がマスストレージクラスとして見えるほか、USB電源供給し、バッテリーなしで動作させることも可能になっている。
豊富な録音メニュー。デュアル録音も
さっそく電源を入れてみると本体中央にある有機ELディスプレイが光り、これと下に並ぶ4つのボタンを使って各種操作ができるようになっている。MENUボタンを押すとマイクゲインの設定、ローカットのオン/オフ、リミッターのオン/オフ、オートレベルのオン/オフ、サンプリングレートの設定、サンプリングビットデプスの設定など計19種類もの設定項目が現れる。いっぱいあるけれど、階層がないので、シンプルで分かりやすい。
サンプリングレートは44.1kHzと48kHzの二択、量子化ビット数も16bitと24bitの二択なので、ここでは48kHz/24bitに設定。また、マイクゲインはL、ML、M、H、H+の5段階となっていて、デフォルト設定はHだ。試しにヘッドフォンを接続した状態で切り替えていくと、録音してない状態でもマイクからの入力がそのままモニターできるので、録りたい音に合わせて切り替えるとよさそうだ。なおヘッドフォンの音量は右サイドにあるボリュームボタンで調整していく。
ところで、この設定の中に、やや見慣れない項目がひとつあった。それがDUAL RECというもの。これはその名の通り、2つ同時に録音するというものなのだが、2つといっても、同じマイクからの入力なので、普通に考えると無意味だ。でもこのデュアルのほうは、通常録音のものよりも6dB小さい音量で録音させる形になるのだ。つまり半分の音の大きさでの録音となるから、仮に音量オーバーでクリップしてしまっても、デュアル側では大丈夫という仕様になっているのだ。大切な音を録音する場合には、ここをオンにしておくと安心だ。
もう一つ、パッと見てよく分からなかったのがFILE TYPEというメニュー。これの中身を見てみると、MONOとPOLYとなっている。MONOとSTEREOならわかるけれど、POLYってシンセサイザみたいな表現はなんだ……と思ったら、何のことはない。単に左右同じ音で録音され、ファイル形式としてステレオ扱いになるというだけ。これを使うかどうかはユーザーのニーズによって決まるだろう。
モノラルながらしっかり録音。いつも持ち歩けるレコーダ
これを持って外に出て、野鳥の鳴き声を録音してみた。結構キレイな音で録れてはいるけれど、やはりモノラルマイクなので、どっちの方向で鳴いているのかはまったく分からない。これはモニターしながら録音しているときも同様。ヘッドフォンを外すと左右から聴こえてくるのに、ヘッドフォンをつけると、空間的に分からなくなってしまうのだ。その意味では、やはり自然の空間を捉えるのには不向きといえそうだが、それなりに風がある中だったにも関わらず、風に吹かれる音もなくキレイに録音できたのは、服にマイクを取り付けているので、背中が風を遮ったのとともに、ウインドスクリーンの威力もあったのだろう。
【録音サンプル】
野鳥の声(48kHz/24bit)
dr10l_bird.wav(9.45MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
では音楽を録ったら、どんな音になるのだろうか?これもいつものようにCDをモニタースピーカーで鳴らしたものを録ってみた結果がこちらだ。やはりモノラルだからか、ちょっと音がこもった感じで聴こえるが、グラフで見ると、それなりにバランスよく録音できているようだ。使い方としては、全体を録音するのではなく、ボーカルだけを録るとか、ギター単音で録るといった用途なら行けそうに思う。
【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音(48kHz/24bit)
dr10l_music2448.wav(11.36MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:48kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
もっともピンマイクを採用しているという点を考えれば当然だが、パンフレットを見てもDR-10Lの主目的は声を録ること。インタビュー録音用という意味では、かなり使えるレコーダであるといえそうだ。
なお、このDR-10Lで使われているWAVはBWFフォーマット対応だ。つまり、ファイルに時間情報が付加されたフォーマットであるため、映像との連携にも威力を発揮しそうだ。また電池が切れる前に収録中のデータ消失を回避するための自動ファイルクローズ処理がなされる仕組みが搭載されていたり、タイムトラックインクリメント機能というものを装備しているのも安心材料となっている。このタイムトラックインクリメント機能というのは、長時間の録音をする際、録音中に一定の録音時間長 (約15分)でファイルを更新できるというもの。この際、音が途切れることなく、次のファイルへとつながっていくので、非常に扱いやすくなるはずだ。
見てきた通りDR-10Lは非常に小さいながらも、しっかりした機能を持ったリニアPCMレコーダだ。ステレオではなく、モノラルなので、オールマイティーに使えるわけではないが、この軽さ、小ささをうまく利用して、日々持ち歩くレコーダとして常にカバンに入れて持ち歩くのにもよさそうだ。