藤本健のDigital Audio Laboratory
第737回
無料の「Sony | Music Center」でハイレゾを劣化せず再生。ASIO/WASAPI対応で他社DAC接続も!?
2017年9月11日 11:20
Windowsを使ってオーディオを聴いているという人は多いと思うが、再生ソフトは人によってそれぞれであり、これがベスト、という決定的なものがなかなかないのが実情だ。そうした中、ソニーが「Sony | Music Center for PC」というソフトを先日リリースし、試してみると、なかなか使える。一通りのファイルフォーマットに対応すると同時にASIOやWASAPI排他モードに対応する形でハイレゾサウンドの再生も可能。また、PCMはもちろんのこと、DSDネイティブでの再生もできる機能を持ちつつ、なんと無料のソフトなのだ。
ウォークマン用のソフトウェアという位置づけではあるが、ウォークマンユーザーでなくてもまったく問題なく使うことができる太っ腹な仕様となっている。実際、どんなことができるのか試してみたので紹介しよう。
Windows Media PlayerやiTunesとの違い
Windowsユーザーにとって、親しみのあるプレーヤーソフトというとWindows標準のWindows Media PlayerやGrooveミュージック、またAppleのiTunesあたりだと思う。ただし、このDigital Audio Laboratoryで何度も指摘してきた通り、これらには音質に大きな問題がある。Windowsのオーディオエンジン(Windows XP世代まではカーネルミキサーと呼んでいたもの)を経由するため、どうしても音が劣化してしまう。
そこでWindowsオーディオエンジンをバイパスするためには、オーディオ出力部分でASIOやWASAPI排他モードというものを選ぶ必要があるのだが、それらを利用するとなると途端に難しくなるケースが多い。例えばfoobar2000が典型的な例だと思うが、すべて無料ではあるものの、ASIOやWASAPIを使うとなるとそれぞれ別途プラグインをインストールする必要があり、DSDの再生となると、また別途プラグインが必要になる。しかも基本は英語のソフトであり、日本語化するのにもひと手間かかる。一方、各オーディオ機器メーカーがバンドルするソフトは、その機種専用であったり、ユーザーのみしかダウンロードできないなど簡単に使えないのが実情だ。
そんな中、8月29日にリリースされた「Sony | Music Center for PC」(以下Mucis Center)は、Windows専用アプリで、新ウォークマンや、Bluetoothスピーカー、AVアンプなど、ソニーオーディオ製品用となっているが、とくにプロテクトがかけられているわけではないため、他社製品でも問題なく使うことができる。
なお、これまでソニーのオーディオ製品では、「Media Go」が標準の音楽管理アプリとして推奨されていたが、Media Goに代わるものとして展開するのが新しいMucis Center。Media Go以前にウォークマン用アプリとして展開し、現在も提供されている「x-アプリ」をベースとしたソフトだという。
Music Centerのインストーラをソニーサイトからダウンロードしてみると、ファイルサイズは104MB。インストールする際「カスタムインストール」を選択すると「C:Program Files(x86)/SonyMusic Center」にインストールされるのが確認できるため、64bitアプリではなく32bitアプリとなっているようだ。
豊富な再生対応フォーマット
起動すると、ウェルカム画面登場後、本体ソフトが立ち上がると同時に、ライブラリの取り込みの案内が表示される。
このまま自動で取り込んでもいいが、ここでは、後で手動で行なうことにして、まずは音が鳴らせる状態にする。ツールメニューから設定を選び、オーディオ出力設定を選択する。デフォルトではDirectSoundになっているので、これをASIOもしくはWASAPI排他を選び、接続されているDACのドライバを指定する。この際、2つの制限がある旨の警告表示がされる。その警告とはMusic Centerでのボリューム調整ができなくなるので、ハードウェア側で調整するということ、もう一つはハイレゾデータやWAVコンテンツにおいては、イコライザ機能が使えなくなるということ。これは、確かに利便性においては劣ってしまうが、「できる限り原音に近いいい音で聴きたい」という目的においては、逆に望ましい。そして、本来こうあるべきものなので、OKをクリックする。
では実際に聴きたい楽曲をMusic Centerに取り組んでいこう。ここで、Music Centerの仕様を見てみると、再生可能な楽曲ファイルフォーマットは下記の通り。
Sony | Music Center for PCの再生対応フォーマット
ATRAC(.oma/.aa3)/ATRACAdvancedLossless(.oma/.aa3)/WAV(.wav)/MP3(.mp3)
AAC(.3gp/.mp4/.m4a)/HE-AAC(.3gp/.mp4/.m4a)
WMA(.wma)/DSD(.dsf/.dff)/FLAC(.flac)
MQA(.mqa.flac)/APE(.ape)
ALAC(.mp4/.m4a)/AIFF(.aiff/.aif)
一通り何でもOKで、なんとMQAまで再生できてしまうようだ(ただし「MQA形式の音楽ファイルをパソコン上で再生した場合の音質はFLAC形式同等」としている)。これだけのフォーマットに標準で対応している無料ソフトはないのではないだろうか?試しに、WAVファイルを一つドラッグ&ドロップしてMusic Centerに持っていくと、また別の警告が表示される。これを見ると、Music Center用のデータとして別途コピーしてライブラリを構築するか、今のまま直接再生するかを選択できるようなので、ここでは「いいえ」を選択して、そのまま再生することにした。
【追記】「MQA形式の音楽ファイルをパソコン上で再生した場合の音質はFLAC形式同等」との旨を追記しました(9月14日)
曲を選んでプレイボタンをクリックしてみると、再生されると同時に画面上に、ライブリに登録したジャケットが流れるように表示される。ジャケットがないものは音符マークが表示されているだけだが、ここで気になるジャケットをクリックすれば、そのアルバムにジャンプできるようになっている。
またイコライザのアイコンをクリックすればステレオのFFT表示になる。さらに、イコライザ設定ボタンをクリックすると、各種設定を選べるし、カスタマイズをクリックすれば、イコライザ設定を自分で行なえる。ただしWAVファイルの再生中やハイレゾサウンドの再生中には、設定はできてもイコライザは無効となる。
次に試してみたのは、DSD非対応のDAC、オーディオインターフェイスでDSDファイルの再生ができるのかという点。結論からいえば、内部で自動的にPCM化された上で再生することができた。一方で、DSDにネイティブ対応しているDACの場合は、もちろんネイティブのまま再生できた。ここではコルグのDS-DAC-100、そしてティアックのUD-301を用いてASIO 2.1ドライバを使って試してみたが、DAC側のインジケーターを見ても確かにDSD 2.8MHzおよび5.6MHzが点灯していた。
無料でもあなどれない、豊富な機能
このMusic Centerの機能で、個人的に面白いと思ったのがソニーの音質向上技術DSEEが、ソニー機材なしに、このソフトだけで利用できてしまうという点だ。DSEEとはDigital Sound Enhancement Engineの略で、MP3などで圧縮して欠けた高域の周波数帯を補うことで、音質を向上させるというもの。DSEE HXではないので、非圧縮16bit/44.1kHzのWAVに対しては効果がないが、MP3やAACなどではそれなりの効果が得られる。またかかり具合を調整することができるし、再生しながらオン・オフできて、音の違いを確認できるのも楽しい。
ほかにも機能はいろいろ搭載されている。たとえばプレイリストの作成・編集もできるし、ポッドキャストにも対応している。またCDからファイル取り込みも可能で、この場合は、FLAC(.flac) /WAV(.wav)/MP3(.mp3)/AAC(.mp4)のそれぞれの形式で取り込むことが可能だ。また楽曲のプロパティを開けば、タグ情報の編集もできるし、ジャケットの登録なども可能。
当然、ウォークマン用のソフトなので、ウォークマンなどのソニー機材があればデータの転送ができるほか、ここからmoraへアクセスして、ダウンロードしたり、各楽曲をプレビューするといったことも可能。この場合もしっかりASIO、WASAPI排他接続でのデバイスから音が聴こえるというのもうれしい。
このように機能満載なMusic Center。UIの好き嫌いというのはあるかもしれないが、これだけの機能、性能を持ったソフトが無料で入手できるというのはありがたいところ。個人的には使い勝手もよく気に入ったため、当面はこれを使ってみようと思っている。