第496回:ゲーム機ライクな小型DTM機「KDJ-ONE」をチェック
~高い自由度、タッチ操作も。持ち運べる本格機材 ~
世界でのサービス展開を進めている日本のオンラインゲームの開発企業サイバーステップが、ゲーム機風な小型DTM機材、KDJ-ONEという製品を5月ごろの予定で発売する。シンセサイザ機能、シーケンサ機能、エフェクト機能、レコーディング機能……などさまざまな機能を搭載した小さなDAWであるKDJ-ONEのβ版を、ひと足早く借りて試すことができたので、どんなものなのかを簡単に紹介しよう。
■ 音源内蔵シーケンサ「QYシリーズ」の現代版!?
KDJ-ONEが最初に話題に上ったのは、昨年1月にアメリカで行なわれた楽器の展示会、NAMM SHOWでのこと。日本の会社がとってもユニークな小型DAWを展示している、とネット上で話題になったのだ。筆者もすぐにコンタクトをとり、アメリカから帰ってきたばかりの開発者を捕まえ、試作機を見せてもらったりもした。
当初、昨年の夏をメドに発売すると話していたが、震災の影響などもあって開発に遅れが生じた。約1年遅れとなる今年の5月か6月ごろの発売ということになり、現在先行予約が始まっている。価格は69,800円だが、先行予約割引ということで59,800円で購入受け付けが始まったところだ。
KDJ-ONE(右)とQY70(左) |
このKDJ-ONE、昔あった「ヤマハの音源内蔵シーケンサ、QYシリーズの再来か? 」などともいわれているようだが、確かに現代版QYシリーズといってもいいかもしれない。ただ、時代が違うだけに機能的、性能的に大幅に進化しており、非常に面白い機材になっている。ちょうど、手元に1997年発売のQY70(当時の定価51,450円)があったので並べてみると、確かに似たサイズになっている。外形寸法は126×150×27mm(幅×奥行き×高さ)、重量は380g。
初めてKDJ-ONEを見たという方も多いと思うので、まずはその概要を簡単に紹介しよう。スペックについては表にまとめてあるが、これを見てもわかるとおり、KDJ-ONEは音源内蔵のシーケンサであり、システムにはコンピュータそのもの。実際CPUにはIntelのATOM E460 1.0GHz、メインメモリ512MBが搭載されており、OSはWindowsではなく、IntelのMeeGo Handset editionというものが搭載されている。そのため、実はDAW機器ではあるものの、Webブラウザを使えたり、メールのやりとり、写真の閲覧や音楽ファイルの再生、Skypeなどもできてしまうという代物なのだ。バッテリも内蔵し、持ち運んで利用できる。
KDJ-ONEの主な仕様 |
右のスペック表からもわかるが、KDJ-ONEは拡張性が高いというのも大きな特徴。PCと同様にUSBホストの端子を2つ装備(今回使わせてもらったものは1つのみの搭載で、2つ目の端子部分には穴があいている)する一方で、PCと接続するためのUSBスレーブ端子も備えているほか、MicroSDカードスロットも用意されている。
また、ステレオミニ端子でのヘッドフォン出力およびマイク/ライン入力も搭載されているほか、単体でも遊べるようにそれなりの大きさで鳴るスピーカーも内蔵されている。このスピーカー、0.25W + 0.25Wで左右から音が出るのだが、この2つのスピーカーのほかに、低音を振動で響かせるQWボディソニックバイブレータも搭載。それぞれの音量も調整できるようになっている。これにより、手に持って音を出すと、実際には小さな音しか出ていないのに、重低音が響く感じが演出されるのだ。この辺りは、さすがゲーム系の会社といったところだろうか。
入出力端子部 | スピーカーも内蔵 | 振動で低音を響かせるバイブレータ機能も |
■ 様々な音作りに対応。タッチパネルやUSBキーボードで操作
シンセサイザは2オシレーター構成 |
では実際の画面を見ながら機能を紹介していこう。さまざまな画面があるのだが、まずはシンセサイザとしての画面から。KDJ-ONEのシンセサイザは2オシレーターの構成となっている。この2つを並列して音を出すのか、リングモジュレーター型に接続するのか、掛け合わせてFM音源にするのかなど、10種類のアルゴリズムが使えるようになっている。またウェーブフォームも200種類以上が用意されており、それぞれにADSRのエンベロープも掛けられるので、音作りはまさに自由自在だ。
フィルターセクションを見てみると、フィルターのタイプのローパス、ハイパス、バンドパスなど7種類から選べ、FREQ、RESOでグリグリといじることができる。またモジュレーションセクションでは独立した4系統のLFOが利用でき、それぞれ9種類のLFOをピッチやレベル、カットオフなどのパラメーターに対してモジュレーションすることができるという自由度の高い設計になっている。この9種類の中には波形自体を自分で組み合わせて作れるものまで存在するなど、かなりマニアックだ。
フィルター | モジュレータ | 自分で波形を組み合わせることも可能 |
豊富なプリセットの音色から選んで加工できる |
操作していて、やはり便利なのはこの画面がタッチパネルであること。パラメータを直接触って変更できるUIはやはりいい。しかもマルチタッチ対応だから、フィルター画面でFREQとRESOを2つの指で同時に動かすことも可能なわけだ。このようにゼロから音を組み立てていく楽しみ方がある一方プリセット音色も多数用意されている。まずは、ここから適当な音色を選び、それを加工していくというのがわかりやすそうだ。
作った音は画面の下の鍵盤(?)を押せば即音を出して確認することができる。もちろん、単音でもポリフォニックでもOKだ。フロントの角の部分には左にVELOCITY、右にMODULATIONのレバーがあり、これを調整することで、入力する音のベロシティーやモジュレーションを調整することも可能となっている。
ただ、「こんなキーでは演奏しづらい……」という人も多いはず。そんな場合には、前述のUSBが効いてくる。そう、ここにUSB-MIDIキーボードを接続すれば、すぐに使えてしまうのだ。ためしに手元にあった、コルグのnanoKEYを接続したところ、ドライバも不要ですぐに演奏することができた。ただ、これがβ版だからなのか、レイテンシーはちょっとある。正確に計っているわけではないが、感覚的には100msec程度といったところだろうか。今後、ある程度改善されるにせよ、手弾き演奏メインの利用法だと、ちょっと厳しいかもしれない。
2オシレーターのシンセサイザとは別に、ドラム音源としての機能も搭載されている。これも808キットや909キット、ロック、ヒップホップ、エレクトロニカ……とさまざまなキットが用意されているが、音源としては8つのパッドでキットが構成されており、ユーザーは必要に応じて1パッドごとに音作りが楽しめるようになっている。
コルグのnanoKEYを接続したところ | ドラム音源としても利用可能 |
またシンセサイザもドラムキットにもエフェクトが独立して2系統ずつ使えるようになっているのも大きなポイント。リバーブ、コンプレッサ、フェイザー、オートパン、ピッチシフト……と20種類を使用可能だ。
シンセサイザとドラムキットに独立のエフェクトを2系統ずつ使える |
さらに、このβ版では実装されていなかったが、オーディオクリップを音源として扱うことも可能になっている。つまり、サンプラーとして使えるというわけだ。そのサンプリングデータ自体も自分で録音することができる。本体左側のボタンを押すとSound Recordingという画面が出てくる。これを使って内蔵マイクでレコーディングすることできるし、MIC IN/LINE IN端子からレコーディングすることもできるのだ。まあ、これ自体は本当に単純に録音するだけなので、うまく扱うためには一度PCへコピーして編集するのが良さそうではあるが、外部の音を取り込んで音源にできるというのは、やはり大きな機能といえるだろう。
内蔵マイクでのレコーディングも | マイク/ライン入力も備える |
■ 6トラックのシーケンサを複数同時再生可能
では、これらのシンセサイザ、ドラムマシンをどうやってプログラミングしていくのか。それがピアノロール画面だ。見た目のとおりの画面でタッチスクリーン画面を使って入力していくこともでき、ベロシティーなどの設定も可能。さらに本体搭載の鍵盤やUSB-MIDIキーボードを使ってのステップ入力、リアルタイムレコーディングもできるようになっている。
また、この際ゲートタイムをどのくらいにするか、SNAP機能をオン/オフどちらの設定にするか、クオンタイズを効かせるのか……といった設定もできるようになっている。ドラム音源の場合には、ドラムエディット画面となり、ここで入力していくのだ。
画面の下のほうに6つのボタンが表示されているが、これがトラックを意味しており、1つのSONGデータ内に6つのトラックがある。これを切り替えて使えて、もちろん同時に鳴らすこともできる。オレンジ色が一般のシンセサイザ音源、緑がドラム音源を意味しており、ドラム音源を複数トラックで鳴らすこともできるし、全部をシンセサイザ音源にすることができるなど、この辺の自由度は非常に高くなっている。で、その6つのトラックのバランスは、というと、これ用にミキサー機能が用意されている。
ゲートタイム、SNAP機能、クオンタイズなどの設定も | ドラムエディット画面 | 6つのトラックのバランス用にミキサーを備える |
「MOTION REC」オンでレコーディングすると、ボリュームやPANを操作した内容が記録される |
音量だけでなく、パン、センドエフェクトの設定ができるほか、トラックごとにピッチベンド、フィルター、LFOなどが設定できる画面も用意されている。そして、ここでの設定は固定値だけでなく、変化そのものもオートメーションとして記録できるようになっている。そのためには、「MOTION REC」というボタンをオンにした状態でレコーディングをするのだ。すると、ボリュームやPANを操作した内容が記録されていく。
パン、センドエフェクトや、トラックごとのピッチベンド、フィルター、LFOなども設定可能 |
このようにして作った6トラックのシーケンスデータはさらに、SONGモード画面で組み合わせて並べることができるようになっている。つまり先ほどのシーケンスデータ作りにおいては、1曲丸ごと作るのではなく、Aメロだけ、サビだけ……というように部品を作っておき、それをSONGモードで並べていくことで、効率よく曲を作っていくことができるのだ。しかも、このSONGモードでは、単に順番に並べるだけでなく、同時に複数のシーケンスパターンを鳴らすことも可能になっている。具体的にいうと最大4つまで並べることが可能なので、最大6トラック×4=24トラックまで鳴らすことができるというわけだ。
さらに、このSONGモードは、シーケンスパターンを並べるだけではない。シーケンスパターンと同じ扱いで、オーディオデータを並べることもできるのだ。そしてこのオーディオデータは、ACID形式のWAVファイルとなっているから、シーケンスパターンとピッタリのテンポで同期させることが可能。ACIDデータだから、テンポを変えてもそれに追随する形でタイムストレッチしてくれるのもKDJ-ONEの大きな特徴となっている。
6トラックのシーケンスを、SONGモード画面で組み合わせて並べられる | 同時に複数のシーケンスパターンを鳴らすことも可能 | オーディオデータもシーケンスパターンと同じ扱いで使える |
フェード情報やフィルタ設定もSONGモードで利用できる |
あらかじめ用意されているACID形式のWAVファイルを扱えるだけでなく、もちろんPCやUSBメモリ、MicroSDカードなどから取り込んだファイルを利用することも可能だ。
そしてもうひとつ、フェード情報や、フィルタ設定などもシーケンスパターン、ACIDデータと同様に、このSONGモードで並べていけるというのもちょっと変わった感覚だ。
■ PC連携などの機能追加にも期待
とりあえず、現行のKDJ-ONEのβ版で試すことができたのはこのくらい。しかし、今後発売されるまでの間、さらには発売後にも機能がどんどんと増えていくようだ。その一番大きい部分はPCとの連携機能だろう。まずはACID形式のデータのやりとりが可能になることで、膨大な素材をKDJ-ONEに送って使うことができるようになる。反対にKDJ-ONEで作成したシーケンスデータをもとにWAVファイルにバウンスしたり、ACID形式のWAVファイルを生成するといったこともできるようになるそうだ。
またユニークなところでは、KDJ-ONEのシンセ機能をVSTを用いてPCのDAWから利用することも可能になるとのこと。これによって、PC環境とKDJ-ONEのモバイル環境を有機的につないだ音楽制作ができそうだ。
まだ、製品の発売までには少し時間があるが、ほかにあまりないアイテムだけに、とても楽しみなところだ。