藤本健のDigital Audio Laboratory

第606回

iPhoneが高性能リニアPCMレコーダに変身

XYマイク搭載「Zoom iQ6」とMSマイク「iQ7」を試す

 数多くのリニアPCMレコーダを発売しているZOOMから、iPhone/iPad用のマイク、「iQ6」と「iQ7」が発売された。iQ6がXYマイク、iQ7がMSマイクで、いずれも価格が10,800円。ともに結構大きなマイクカプセルを使っており、単独のリニアPCMレコーダに匹敵する高音質を実現しているのが売りだ。実際どんなものなのか使ってみた。

iQ6(左)とiQ7(右)

XYマイク搭載の「iQ6」とMSマイク搭載の「iQ7」

iQ6をiPhoneに装着したところ

 この連載でも以前取り上げたようにZOOMでは、最近マイク交換型のリニアPCMレコーダ、H5、H6を出しているが、今回リリースされたiQ6、iQ7はマイク交換の母体となるレコーダにiPhoneやiPadを使ってしまおうというコンセプトの製品だ。接続はLightningコネクタだから、扱いはいたって簡単。Lightning端子に、iQ6かiQ7のいずれかを挿せば、iPhoneやiPadが即リニアPCMレコーダに変身するのだ。なお、どちらも48kHz/16bitまでの対応となる。

 それぞれのマイクを具体的に見てみよう。まずiQ6はXYマイクで、2つのマイクカプセルがクロスする形状になっている。ユニークなのはZOOMの他のXYマイクと同様に、このマイクカプセルを回転させることによって集音角度を90度と120度に変更できる点。これは特許も取得しているもので、シーンや目的に応じてベストなステレオイメージが得られるわけだ。中央には入力ゲインを調整するボリュームがあり、その左にあるLED表示のレベルメーターを見ながら設定できるようになっている。

 一方で、このiQ6にはヘッドホン出力端子も装備されている。これはiOSの使用上、オーディオ入力とオーディオ出力のデバイスはセットで扱われるシステムとなっているため、マイク入力だけをLightning接続にして、出力は通常のヘッドホン端子から出すということができないためだ。とはいえ、このiQ6のヘッドホン出力性能も非常に高いので、オーディオ出力だけのために使っても悪くない。

マイクカプセルを回転できる
中央に入力ゲイン調整のボリュームダイヤルを備える
iQ6のヘッドフォン出力
MSマイク搭載のiQ7

 一方のiQ7は前方向と左右方向をとらえる、ちょっと不思議な構造のMSマイクというものになっている。MSマイクがどんなものかについては、以前ZOOMのH2nを紹介した記事で解説しているので、ぜひそちらも参照いただきたいのだが、MSというのはMidマイクとSideマイクを組み合わせたマイクであることを意味している。あとで、具体的な例は音として紹介するが、MSマイクの最大の特徴は録音した後に集音角度を変更できることだ。

 前述のiQ6の場合、物理的にマイクカプセルの角度を切り替えることで集音角度を90度と120度に変更できたのに対し、MSマイクの場合は物理的には何も触らず、RAWデータで録音後に、デコーダーを使って集音角度を30度でも90度でも150度でも自由に変更できるのがポイント。ちょっとダマされているような気もしてしまうが、音を聴いてみれば、明らかに違うので不思議だ。ただし、iQ7にはスイッチが用意されており、本来の性能を発揮するMSマイクモードのほかに予め集音角度を90度に設定するモード、120度に設定するモードが用意されている。つまり、これはデコード自体をiQ7搭載の回路で予め行なってしまうものであり、録音後に角度を変更することはできないが、デコーダーにかける必要もなく、簡単に扱えるというメリットもある。

 中央に入力ゲイン調整のボリュームがあること、その左にLEDのレベルメーターがあること、ヘッドホン出力を装備していることなどは、すべてiQ6と同じだが、iQ7にはもう一つ大きな特徴がある。それはマイクユニットを90度回転させることができて、これによってiPhoneを縦持ちでも横持ちでも扱えるようになるという点。つまり、普通のリニアPCMレコーダ風にマイクを正面に向けて録音する方法のほかに、iPhoneのビデオカメラを使いながら音をiQ7のマイクによって高音質化するということも可能なのだ。iQ6では、そうしたことができないので、ビデオ用ならiQ7ということになるわけだ。

集音角度を設定するスイッチ
iQ7のマイクは90度回転できる

 なお、Lighting接続のMSマイクという意味では、すでに発売されているiQ5という球状のマイクもある。iQ7の基本的な考え方はこのiQ5と同様であるが、より高品位なマイクカプセルを用いて、より高音質で録音できるのがiQ7というわけなのだ。

iQ6/iQ7で録音した音声を聴いてみる

 このiQ6、iQ7に共通する便利な機構が採用されている。その一つがLightning端子のところにあるケースアジャスターだ。通常は、この黒いアジャスターを取り付けたままでiPhoneなどと接続するのだが、着脱式になっているため、取り外すことができる。こうすることにより、iPhoneにケースが装備されている状態でも、ケースを外すことなく、そのままiQ6やiQ7を取り付けることができるのは非常に便利なのだ。

着脱可能なケースアジャスター
ケース入れたiPhoneにも装着可能
付属のウィンドウスクリーンを取り付けたところ

 またiQ6およびiQ7には、スポンジでできたウィンドウスクリーンが付属しているのも大きな特徴だ。どちらもマイクも非常に高品位で繊細なものだけに、そのまま野外に持ち出すと、ちょっとした風でも拾ってしまい「ゴゴゴー」という激しいノイズとなってしまう。しかし、このウィンドスクリーンを取り付けることで、その風切音を大幅に軽減することができる。

 では、さっそくこのウィンドスクリーンを取り付けた状態で、ちょっと風のある日に外に出てみた。いつもはスズメなど野鳥の鳴く声を録りにいくのだが、夏場は見つけにくいので、近所の神社に行ってセミの鳴き声を録ってみた。iQ6は90度の角度設定で、またiQ7はMSモードではなく120度の設定で録っている(semi_XY.wav、semi_MS120.wav)。角度設定が違うので、iQ6とiQ7で音の広がりに多少の違いが感じられるが、音質的にはかなり近い感じであることが確認できる。なお、iQ6のほうに入っている低音は飛行機の音。録音しているときは、あまり気にしていなかったが、こうして聴いてみるとかなりの騒音であることを改めて認識する次第だ。

録音サンプル(WAV)
iQ6(90度) iq6_semi_xy.wav(4MB)
iQ7(120度) iq7_semi_ms120.wav(5MB)
※編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
M-S Decoder

 その足で、今度は踏切に向かい、iQ7のモード設定をMSマイクにした上で、電車が通過する音を録ってみた。デコードしていない、MSマイクのそのままの音、60度にデコードした音、150度にデコードした音の3つを作ってみたので、これを聴き比べてみると面白いと思う(train_RAW,wav,train_60.wav,train_150.wav)。ちなみにデコードに用いたのはZOOMが無償で配布しているM-S Decoderというプラグイン。Windows用およびMac用にVSTプラグインとAudioUnitsプラグインを出しているので、これを用いてデコードしてみたのだ。

録音サンプル(WAV)
iQ7(RAW) iq7_train_raw.wav(3MB)
iQ7(60度) iq7_train_60.wav(3MB)
iQ7(150度) iq7_train_150.wav(3MB)
※編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ところで、セミの鳴き声も、電車の音も録音に用いたのはiPhone 5s。ここで動く録音アプリであれば基本的にどれでも使うことができるが、今回利用したのは、ZOOMが無料アプリとして出しているHandy Recorderだ。これは、iPhoneをまさにリニアPCMレコーダとして機能させるためのアプリで、単に録音するというだけでなく、さまざまな機能が備わっている。まずは録音のレベルメーターが搭載されているので、iQ6やiQ7搭載のレベルメーターより細かく音量チェックができる。またフォーマットは44.1kHz、48kHzのWAVファイルのほかAACの64kbps、128kbps、160kbpsのそれぞれから選択できるようになっている。

Handy Recorderの画面
録音フォーマットを選択可能

 また、今回は使っていないが、EQ、リバーブ、マスタリングエフェクトなどのエフェクトが利用できたり、オーバーダブ機能によって重ね録りができるなど、さまざまな機能を有しているのだ。横画面にすることで、波形をステレオで見ながら編集できるのもポイントだ。

様々なエフェクトも使える
横画面にすると波形表示も可能

 中でも特徴的なのが、MSマイクへの対処だ。iQ7を用いてMSモードを設定した際、そのままモニターすると妙な音像となってしまうが、MS Monitorという機能をオンにすると、リアルタイムにデコードし、モニターできて便利なのだ。もちろん、これはモニターするだけなので、記録されるのはデコードしていないRAWデータ。それを先ほどのようにPCに取り込んでからデコードするのもいいが、Handy Recorderには、再生時にMSマイクによる音をデコードする機能も含まれている。WIDE-FOCUSというパラメータで広がりを調整できるから、わざわざPCを用意しなくても、すぐに好きな音でデコードできるのも大きなポイントだ。なお、Handy Recorderで録った音は、iTunes経由でPCに取り込むことができるほか、SoundCloudにアップロードしたり、Emailで送ることもできるようになっている。

リアルタイムにデコードして聴けるMS Monitor機能
WIDE-FOCUSパラメータで広がりを調整できる
録音したファイルはiTunesからPCに取り込める

ハイレゾ録音には非対応だが、手軽に持ち運べて便利

 このようにiQ6やiQ7とiPhone/iPad上のアプリHandy Recorderを組み合わせることで、かなり高音質なリニアPCMレコーダを構築できる。しかも大型マイクカプセルを使用しているとはいえ、手のひらサイズだから、いつでもどこでも持ち歩けてとても便利だ。ただし、H5やH2nと比較して劣る面があるのも事実。最大のポイントはiOS側の仕様でハイレゾでの録音ができないことだ。今のリニアPCMレコーダでは簡単に96kHz24bitレコーディングができるのが特徴だが、Handy Recoderでは44.1kHz/16bit、48kHz/16bitどまり。正直なところ、この制約によってiQ6やiQ7のマイク性能がフルに生かし切れていないのが残念に思えるところ。ぜひ、間もなく登場するというiOS 8で対応してもらいたいところだが、さてどうなるか……。

 最後に、いつものように、CDを再生したものをiQ6、iQ7で録音してみた。iQ6のほうは90度の設定、同様にiQ7もMSモードで録音した後、90度にデコードしている。いずれも、周波数解析してみると近い感じの特性になっている。ただし、ほかのリニアPCMレコーダと比較して聴いてみると、やや音の粗さが感じられる。この辺は、iPhoneでの録音にどこまでを求めるのかによって見方が変わってくるとは思うが、iPhone内蔵マイクとは異次元の高音質を実現できるので、いざというときのためにカバンの中にiQ6やiQ7を忍ばせておくというのは有効な手段だと思う。

録音サンプル(WAV)
iQ6(90度) iq6_music_xy90.wav(7MB)
iQ7(90度) iq7_music_ms90.wav(7MB)
※編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
iQ6の録音データの周波数特性
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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto