藤本健のDigital Audio Laboratory

第605回:コンパクトなDTM環境が作れるALESISのUSBオーディオ、「iO Hub」などをチェック

第605回:コンパクトなDTM環境が作れるALESISのUSBオーディオ、「iO Hub」などをチェック

 ALESISから、Windows、Mac、iOSのそれぞれで利用可能なコンパクトなオーディオインターフェイスが2種類、8月25日に発売された。コンデンサマイクやギターとの接続も可能とする2IN/2OUTのオーディオインターフェイス「iO Hub」(直販価格12,800円/税込)と、MIDIインターフェイス機能も一体化した「Control Hub」(同9,980円)。それぞれどんな製品なのか、紹介しよう。

iPhone 5sと並べたところ。右上がiO Hub、左上がControl Hub

iPhoneにもピッタリなコンパクトサイズのインターフェイス

 ALESISは1984年にアメリカで設立されたメーカーで、古くはADATやADAT XTといったS-VHSテープメディアを利用したマルチトラックのデジタルレコーダや、Quadrasynthなどのシンセサイザで一世風靡した。また、近年ではiPhone用のマイクや、iPad用のドックなどをリリースして話題になっていたが、実は現在においてはALESISという会社は存在しない。ALESISはブランドであって、inMusicという会社の一部門となっているのだ。

inMusicの持つブランド

 inMusicという会社について、ご存じない方も多いと思うが、レコーディング、オーディオの世界のコンツェルン的存在で、inMusic Brands傘下には名だたるブランドが連なっているのだ。具体的にはALESISのほか、AKAI Professional、AIR、M-Audio、Numark、SONiVOX、ION、MixMeisterがあるほか、デノンとマランツのプロフェッショナル向け製品まで入っているのだ。もともと日本の大手メーカーが3つもinMusicの中にあると思うと、ちょっと複雑な気持ちになるが、各ブランドが横のつながりも持ちつつ、現在もしっかり機能していることを考えると、ホッとする面もある。

 ちなみに、日本法人は東京都港区にあるニュマークジャパンコーポレーションという10人ほどの会社。inMusicの名前が国内でほとんど知られていないため、DJ系機材で知名度のあるNumarkを社名にしているそうだが、今後社名をinMusicに変更する可能性もありそうだ。今回取り上げるALESISのiO HubおよびControl Hubの発売元ももちろんニュマークジャパンとなっている。

 さて、オーディオインターフェイスとしては、ちょっと変わった形状のiO HubおよびControl Hubだが、上記のiPhone 5sと並べた写真で、大きさの雰囲気は分かっていただけるだろう。Control Hubの横幅とiPhoneの長さがほぼ同じで、iO Hubはそれよりも若干大きいサイズ。具体的にはiO Hubが約142×96×59mm(幅×奥行き×高さ)で約300g、Control Hubが約127×96×59mm(同)で約220g。いずれにせよ、オーディオインターフェイスとしては非常にコンパクトなものだ。

iO Hub
Control Hub
並べると、iO Hub(右)のほうがやや大きい

 では、その仕様はというと、まずiO Hubの端子を見てみると左からコンボジャックの入力が2つ、ヘッドフォン出力、標準ジャックでのライン出力のLとRとなっている。ヘッドフォンとライン出力は基本的に同じ信号が出るので、2IN/2OUTのオーディオインターフェイスなのだ。冒頭で、Windows、Mac、iOSのそれぞれで使える旨を説明したが、そのことからも想像できるとおり、USB Class Audio 1.0対応のクラスコンプライアントな仕様となっており、Windows、Macともにドライバなしで利用できる。同様にiPadやiPhoneとの接続も可能だが、この場合Lightning-USBカメラアダプタなどが必要となる。

 こうしたUSB接続の場合、よく問題になるのが電力供給能力不足でうまく動作しないという点。たとえばローランドのDUO-CAPTURE EXの場合、そうした問題を解消するため単3電池を3本入れることで、対処しているが、iO Hubの場合は、電池不要で、iPadやiPhoneからの電力供給だけで動作させることができた。が、実はリアパネルを見てみると、ここには電池ボックスがあり、9Vの006P電池が入れられるようになっている。これなしでも動くのになぜ電池ボックスなどがあるのだろうか?

iO Hubには、9V電池を入れるボックスを装備
コンボジャックは、9V電池を入れることでファンタム電源供給も可能に

 実は2つあるコンボジャックはともにコンデンサマイクが接続できるように+48Vのファンタム電源供給が可能となっており、そのための電力を006Pが担っているようなのだ。そのためコンデンサマイクを接続する場合は006Pが必要だが、そうでない場合は使わずにすむわけだ。ちなみに、006Pなしで動作させているときに、PHANTOMスイッチをONに設定すると、iOSデバイス側で電力不足のアラート表示がされて、接続が途切れてしまうので注意したい。

 INPUT1、INPUT2とも独立したマイクプリアンプが搭載されており、フロントのボリュームを使って別々に入力レベル調整ができる。このうち右側のINPUT2のほうはMIC/LINEとGUITARの切り替えスイッチが用意されていて、GUITARにするとハイインピーダンス入力対応となる構造になっている。

 さらにその右隣がヘッドフォン出力、一番右のLとRがそれぞれメイン出力となっている。ヘッドフォン出力とメイン出力のそれぞれ別々にボリューム調整ノブが用意されているが、出てくる信号自体は同じであるため、結局2IN/2OUTのオーディオインターフェイスというわけだ。なお、ヘッドフォンのノブとメイン出力のノブの間にはDIRECTというスイッチが用意されている。これはダイレクトモニタリングを意味しており、これをONにすると入力端子に入った信号がコンピュータを経由することなく、そのままヘッドフォン出力およびメイン出力に送られるため、レイテンシーのないモニタリングが可能になる。もちろん、このようにしてもコンピュータにも信号が送られるため、普通にレコーディングできる。

 なお、iO Hubで利用できるサンプリングレートは32kHz、44.1kHz、48kHzに対応しており、ソフトウェア側で選択することが可能。量子化ビット数は最大24bitまで対応するという仕様になっている。

無償ソフトで簡単にレコーディング/編集が可能。ASIOドライバには非対応

 実際に使ってみても、音質的にはマズマズといったところ。高音質というところまではいかないものの、SNは悪くないし、マイクプリアンプも素直で、とくに変わった特性もなく扱いやすいものだ。ただし、問題はWindows使用時の動作環境。前述のとおり、iO Hubはドライバなしですぐに使えるUSB Class Audio 1.0対応のクラスコンプライアントな仕様であり、専用のドライバは存在しない。そのためASIOドライバを使うことができず、DAWではちょっと扱いづらい。もちろん、ASIO4ALLなどを入れて使うのも手であるが、結構トラブルの多いドライバなので、積極的にはお勧めはしない。

 ただし、WASAPIは利用できるので、SONARやCubaseであれば、それなりに使うことができる。また、iO HubやControl Hubを購入すると、無償でinMusicのAIRブランドのソフト、Igniteをダウンロードできる(Windows版およびMac版)。これは、もともとProToolsに同梱されていたAIRのソフトシンセ、Strike、Structure、Velvetなどから一部の音色を切り出してスタンドアロンで使えるようにしたソフト。つまりMIDIキーボードとオーディオインターフェイスがあれば即、演奏を楽しめ、簡単なレコーディング、編集までできるというもの。このソフトを起動するとWASAPIとしてiO Hubが設定できるようになっているので、MIDIキーボードから演奏してみたところ、レイテンシーがほとんどない状況で音を出すことができた。

AIRブランドのソフト「Ignite」を無償で利用できる
IgniteはWASAPIに対応

 このようにASIOに対応していないため、いつも行なっているRMAA PROでの音質チェックはできないが、参考までにMMEドライバを用い、48kHz/24bitで測定してみた結果は以下の通り。

MMEドライバを用いて48kHz/24bitで測定した結果

MIDI入出力装備、iPhone接続も可能なControl Hub

Control Hubは、MIDI入出力を装備

 一方のControl Hubはオーディオ機能を縮小して出力だけにして、MIDIの入出力を搭載したMIDIインターフェイス(11)。オーディオ出力のほうはiO Hubと同様にヘッドフォン出力とメイン出力があり、それぞれ個別にレベル設定できるという点でも同じ。ただ、オーディオ入力はラインもマイクも装備されていないので、注意が必要だ。ユニークなのはMIDI IN、MIDI OUTの端子が1つずつ用意されているほか、FOOTSWITCHと書かれた標準ジャックが用意されていること。これはTS=2接点でスイッチ1つのフットスイッチでも、TRS=3接点のスイッチ2つのフットスイッチでも接続可能というもので、ペダルを踏むと、コントロールチェンジ信号を発生してPCへ送る仕掛けになっている。具体的にはMIDIのチャンネル1へCC #14およびCC #15の信号を送るので、これで感知できるわけだ。

 このControl HubもLightning-USBカメラアダプタを介すことでiOSデバイスと接続することができ、MIDI入出力もオーディオ出力も可能になるので、iPadやiPhoneで手軽にコンパクトなDTM環境を構築したいというときには便利なデバイスとして扱えそうだ。

Lightning-USBカメラアダプタを介してiPad/iPhoneと接続可能
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iO HUB
Control HUB

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto