藤本健のDigital Audio Laboratory
第645回:Windows 10のオーディオ機能をチェック。DAWの「MMCSS」対応に注意
第645回:Windows 10のオーディオ機能をチェック。DAWの「MMCSS」対応に注意
(2015/8/3 13:09)
すでに、いろいろなところで報道されている通り、7月29日にWindows 10がリリースされた。Windows 7ユーザーおよびWindows 8/8.1ユーザーは基本的に無料でアップグレードできるということで、即日Windows 10をインストールした、という人も少なくないだろう。3日遅れで筆者もようやくWindows 10 Proをインストールした。
せっかくなのでWindows 8.1の影響を受けないようアップグレードインストールではなく、クリーンインストールを行なってみた。今年2月にもWindows 10のTechnical Previewを使って試したことがあったが、そのときと比べて改善されている点はあるのか、現行のUSB DACやオーディオインターフェイスは問題なく動くのかなど試してみたので、その結果をレポートする。
無償でクリーンインストール。USB Audio ClassやWASAPIは……
Windows 8.1ユーザーがWindows 10を無償で入手するとともに、クリーンインストールするには、どうすればいいんだろう……と思ったが、調べてみると多少面倒ながら方法が用意されていた。まずは、普通にWindows 8.1の環境を引き継ぐ形でWindows 10へアップグレードしてオンラインでアクティベートを行なう。
その後、MicrosoftサイトからWindows Creation Toolというものを入手し、これを用いてインストーラのISOファイルをダウンロードするか、ブート可能なインストーラが入ったUSBメモリを作成する。その後、このインストーラを用いて、クリーンインストールを行なうのだ。本来、そのインストール過程においてプロダクトキーが必要となるが、プロダクトキーを入力せずインストールを完了させる。これによって、Windows 10が起動するとオンラインでのチェックが行なわれ、これが事前にアクティベートしたマシンであることが認識されれば、アクティベートも無事完了となるのだ。システム情報を見ても問題なく動いているようだ。
そのWindows 10がどんなOSであるのかについては、PC Watchの記事などにいろいろあるので、そちらに譲るが、オーディオ機能についてはどうなっているのだろうか? Windows 8.1と比較して何か進化点はあるのだろうか? とくにTechnical Previewのときに要望として挙げていた2点が実装されたのかどうかが気になるところだ。その2点とは以下のもの。
・USB Audio Class 2.0対応ドライバの実装
これに対応することで、現在する大半のUSB DACが利用可能になると同時に24bit/192kHzでの再生も可能になる
・WASAPI対応の音楽プレーヤーの標準搭載
現在のWindows Media Player、ミュージックに機能追加する形でもいいし、新たなプレーヤーソフトの搭載でもいいので、WASAPIに対応したプレーヤーを搭載してもらいたい
どちらも、やろうと思えば、難しいことではなさそうなので、もしかしたら実装されているのでは……なんて期待していたが、結論からいうと、どちらも未対応のままだ。試しに、USB Audio Class 2.0対応のオーディオインターフェイスであるTASCAMのUS-4x4を接続したところ、デバイスマネジャーでアラートが表示されてしまい、ドライバをインストールしないことにはまったく認識されない。
では、音楽プレーヤーのほうはWASAPIに対応しただろうか? Windows 10には従来のものとまったく同じWindows Media Playerが搭載されているほか、Grooveミュージックというプレーヤーが搭載されている。もしかして! と期待したが、これはWindows 8/8.1にあったModern UIのミュージックアプリがWindows 10に最適化したものであって、システム的には何ら変わっていない。結局、従来と同様、オーディオエンジン(旧カーネルミキサー)を経由して音が出るため、音質は劣化してしまうわけだ。
結局Windowsユーザーがいい音で聴くためには標準のプレーヤーソフトは諦め、foobar2000などASIOやWASAPIに対応したプレーヤーを利用するしかないようだ。ただし、以前の記事でもレポートした通り、FLACおよびApple Lossless(ALAC)のデコード機能を標準で装備してくれたのはWindows 10のひとつの進化点。オーディオエンジンで音質劣化することに目をつぶれば、とりあえず標準の環境でFLAC、ALACのハイレゾ音源も再生できるようになったわけだ。
オーディオインターフェイスやUSB DACでの動作は?
がっかりしていたところで、見つけたのがSteinbergサイトにあった「Windows 10 対応状況について」というもの。7月24日に掲載され、7月30日に内容がアップデートされたようだが、これを見るといろいろと不具合が出ているようなのだ。具体的にいうと、DAWであるCubaseシリーズにみんな「×」印がついているほか、人気のオーディオインターフェイス、URシリーズもみんな「×」印となっているのだ。注意事項の部分を読んでみると、CubaseがダメなのはWindows 10の新しいMMCSSに関連する問題であり、オーディオのドロップアウトが起きたり、MIDIのタイミング問題が起きるとのこと。MMCSSとはMultimedia Class Scheduler Serviceの略でCPUの使用優先度を宣言するもの。ここに不具合があるとしたら、Cubaseに限らずさまざまなソフトで問題が起きそうだ。また、それとは別にAppleのQuickTimeがインストールできないため、動画が扱えないと記載されているのだ。
そこで、まずは問題を切り分けるためにも、本当にうまく動かないのかハードウェア側を試してみた。Windows 10用ドライバというものはないので、Windows 8.1用に出たURの最新ドライバをインストールして、UR22をUSBで接続。ここまではとくにトラブルはなくインストールでき、とりあえず、これをfoobar2000を使いASIOドライバ経由で鳴らしてみると、まったく問題なく再生することができる。ところが、WASAPIに切り替えてみると、エラーが表示され音が出ないのだ。試しに、Windowsのサウンド設定で出力先をUR22に切り替えてみたところ、そもそもMMEドライバとしてうまく動いていないのか、音を出すことができなかった。これはUR22固有の問題なのか、それともWindows 10全体の問題なのだろうか……。それを調べるため、Cubaseの動作チェックについて一旦後にして、別のオーディオインターフェイスも見てみることにしよう。
毎回、新OSリリースと同時に数多くのドライバをアップデートさせているローランドは今回もいち早く情報を公開し、多くの機器を対応させている。その中で、ちょっと驚いたのは、筆者が普段からよく使っているQUAD-CAPTUREの対応について。これ自体、Windows 10に正式対応したのだが、なんとドライバインストールの作業が不要になったのだ。接続すれば自動的に認識されて、ドライバや設定ユーティリティがインストールされる。とはいえ、ドライバのバージョン番号を見る限り、1.52となっていて、従来と同じ。機能的には変わらないけれどWindows 10で安定的に動くということなのだろう。UR22でうまく動かなかったWASAPIのドライバやMMEのドライバを試してみたが、こちらはしっかり動いてくれた。ただし、問題がゼロだったわけではない。WASAPIを使った場合、UR22と同じメッセージで演奏できないケースがあったのだ。サンプリングレートが合っていないとのことだから、ユーティリティで96kHzに設定してみたところ、うまく鳴らすことができた。つまりWASAPIではサンプリングレートの自動切り替えができない、ということなのだろう。試しにUR22でも同様のことをしてみたが、やっぱりダメだった。
次に試してみたのは先ほどドライバなしではうまく動かなかったTASCAMのUS-4x4。現時点では、TASCAMとしてWindows 10対応については検証中ということで、正式なアナウンスはないが、従来のWindows 8.1用の64bitドライバをインストールして使ってみた。実際に使ってみたところ、とりあえず普通に動くし、ASIOドライバとしてはもちろん、WASAPIドライバでもMMEドライバでもしっかり動く。ただ、気になった点がないわけではない。44.1kHzから96kHzに変更のようにサンプリングレートを変えると、それから10秒程度、音が歪んだり、ノイズが混じってしまう状況になるのだ。サンプリングレート変更後、少し時間を空ければいいだけの話ではあるが、ちょっと気になる現象だった。
続いて試してみたのはUSB DAC。手元にあるTEACのUD-301およびKORGのDS-DAC-100をそれぞれドライバをインストールするとともに、プレーヤーソフトであるTEAC HR Audio Player、AudioGate 3もそれぞれインストールして鳴らしてみたのだ。いずれもASIOドライバで動かすわけだが、まったく問題なく、快適に再生することができた。いずれもWAV、FLAC、MP3などのPCM音源の再生、DSF形式のDSD音源のネイティブ再生を、確認した。
Cubaseの動作をチェック。アップグレードするかどうかは慎重に
ここで一旦、先ほどのSteinbergの情報に戻り、ソフトウェア側についてチェックしてみたい。前述の通り、Windows 10の新しいMMCSSに関連する問題で、オーディオのドロップアウトが起きたり、MIDIのタイミング問題が起きるというのだが、確認できるだろうか? ここではUR22にバンドルされているCubase AI 8を使ってチェックしてみた。Windows 10が出るタイミングでリリースされたアップデータを提供し、バージョンは8.0.20というものを使っている。
まずは、96kHz/24bitのFLACデータをオーディオトラックに読み込ませて再生して、ドロップアウトするか……という点。オーディオインターフェイスにはUR22のほか、QUAD-CAPTUREやUS-4x4もASIOドライバを切り替えながら使ってみたが、聴いたみたところ、止まってしまったり、ノイズが発生するという現象はまったく起らなかった。続いて、MIDIトラック(ソフトウェア音源を鳴らしているもの)、オーディオトラックが混在しているプロジェクトファイルを読み込み再生してみたが、こちらもまったく問題なし。タイミングがよれるといったことも起らなかった。
ただし、付属のインストゥルメントであるHALion Sonic SE 2で音色選択をしていたところ、まさにサイトでの情報と同じ文言の「Windows 10の新しいMMCSSに関する問題であり、オーディオのドロップアウトが起きたり、MIDIのタイミング問題が起きる」というメッセージが表示された。ただ、このとき再生はストップしていたし、実際に音色選択は問題なくでき、その後もドロップアウトなどは生じなかったので、あまり気にしなくてもいいのかもしれない。とはいえ、業務でCubaseを使うという場合は、Steinberg側が正式サポートを表明するまでは、Windows 10にアップグレードするのは待っておいたほうが無難なのは間違いない。
以上、簡単ではあるがWindows 10のオーディオ回りをチェックしてみた。機器によってはドライバがWindows 10対応していないものもあるが、おおむね問題なく動作するし、そもそもWindows 8.1と実質的に変わっておらず進化もしていないようではあった。とはいえ、Steinbergが言うようにMMCSSに何らかの問題が潜んでいるとすると、何かの条件が揃うとトラブルが起きる可能性も否定はできないし、そうなるとCubaseだけの問題ではなくなる可能性もあるので、しばらくこの関連情報はチェックしておくとよさそうだ。