第527回:ティアックのDSD対応DAC「UD-501」開発の背景

~ASIO 2.1/DoP対応。「DSD再生の環境が整った」 ~


 ここ最近、DSDに対応したハードウェアが続々と登場してきている。先週もコルグのUSB DAC「DS-DAC-10」を取り上げたばかりだが、ティアックからも「UD-501」というUSB DACが発表され、間もなく発売される。標準価格が115,500円と、DS-DAC-10と比較すると倍程度になっているが、機能的には豊富で、PCMも32bit/384kHzにまで対応。形状も2回り程度大きいA4サイズで4.0kgあるガッシリとした機材となっている。

 先日行なわれた「オーディオ・ホームシアター展 2012」や「秋のヘッドフォン祭2012」などでも展示されていたので、すでにご覧になった方もいると思うが、音質的な良さはもちろん、見た目にもなかなかカッコいいデザインとなっている。このUD-501はどのような背景から誕生したのか、またなぜこの時期、多くのメーカーから揃ってDSD対応のUSB DACが登場してくるのか? ティアックのマーケティング担当で、UD-501の製品企画にも携わった音響機器事業部マーケティング部マーケティング課の課長、小泉貴裕氏に話をうかがった(以下、敬称略)。

「UD-501」。上がブラック、下がシルバーティアックの小泉貴裕氏


■ DSD再生の環境がようやく整った

――今日の取材ではDSDに対応したUSB DAC、UD-501についてお伺いしたいのですが、先日、ティアックではピュアオーディオシステム「Reference 501シリーズ」として、このUD-501のほかに、192kHz USB入力対応のプリメインアンプ、AI-501DA、DSD/PCMディスク再生対応のCDプレーヤー、PD-501HRと計3機種を発表されました。この501シリーズというものが開発された背景について、まず教えてもらえますか?

小泉:10月に発表したのが3機種ですが9月にヘッドフォンアンプのHA-501というものを出しているので、501シリーズは計4機種となります。当社では、まずTEACというオーディオブランドで、さまざまな製品を展開しておりますが、現在5万円以下の製品が中心となってしまっています。一方で、高級オーディオブランドのESOTERICも展開していますが、こちらは30万円以上が中心。そのため、その間に位置するレンジの商品を提案できないかと、だいぶ以前から議論をしていました。今回の501シリーズは、まさにそこを狙った製品なのです。その一方で、オーディオ機器のサイズというものの議論もずっとしていました。そう、現在のオーディオ機器は、どのメーカーもフルサイズとシューボックスの2種類しかないのが実情。それ以下はいきなりコンパクトなミニコンポとなってしまいます。

――確かにフルサイズのアンプを、今のリビングルームや書斎に置くというのは、大きすぎてなかなか難しいですね。

側面にハンドルを装備。電源はトグルスイッチ

小泉:そこで、改めて今のインテリアに気兼ねなく合わせられるスタイルを突き詰めていった結果、このA4サイズになったのです。これならリビングにも置きやすいし、PCとセットとしておいてもしっくりくる。この取っ手の部分も含め、レコーディング機器のTASCAMブランドっぽいデザインで、どちらかというと、いかつい感じでのカッコよさを追求したものとなっています。スイッチやツマミなどにもかなりこだわっています。電源スイッチにはトグルスイッチを採用しましたが、当社機材でトグルスイッチを使ったのは何年ぶりだろう…という感じです。

 サイズ的には、これ以上、小さくはしないというのも、今回のシリーズにおけるコンセプトのひとつでした。やはりオーディオって一種の憧れの機械であって欲しい、というものがあると思うのです。給料を貯めて買うわけですから、それなりの存在感、高級感は必要だろう、と。大きさや重量感、またネジが六角になっているなど“モノ作り”の点では、いろいろとこだわっていますよ。

――とはいえ、突然501シリーズが生まれたわけではないですよね?

小泉:はい、USB DACでは、前機種としてUD-H01というものがありました。非常に好評だった製品ですが、やはりデジタルオーディオの世界は変遷が早いので、それに対応していくのも重要なことです。e-onkyo musicなどの配信サイトも整ってきて、DSDファイルを含むハイレゾ音源がかなり充実してきました。さらに、今年に入ってからデバイスの環境が整ってきたというのもUD-501を開発できた大きな要因ではあります。

――デバイスの環境が整ってきたとは?

小泉:前モデルであるUD-H01では、TENORのTE8802というUSBオーディオのコントローラチップを使っていました。これは24bit/192kHzまで扱えるチップで、当時としては最高性能を出せるチップだったのです。ところが今年にはいって、さらに高性能で、かつDSDも扱えるチップが登場したんです。ちょうど501シリーズを企画していた時期で、これを使えば一気に最先端に行けるのでは…と考えたのです。

――それもTENORのチップなんですか?

小泉:いいえ、違います。今年、この時期に入って、他社からもDSD対応の機材がいろいろと登場してきていますが、おそらく同じチップを使っているのではないかな、と…。

――なんで急にDSD対応のUSB DACが続々と登場しているのか不思議だったんですが、そこに理由があったわけですね。ちなみにDACチップのほうも刷新しているのですか?

小泉:DACはUD-H01ではBurrBrownの「PCM1795」を使っており、非常に評判がよかったので、改めて試聴評価をした上で、UD-501でもこれを採用しています。やはりTEACブランドでの音作りにマッチするというのも大きなところです。とはいえ、DACが同じでもUD-H01とUD-501ではシャーシも違うし、電源も違い、内部の回路も違うため、音的にはワンランク上の音になっているのは間違いありません。もっとも今回DSDに対応させたのは、単にチップがDSD対応だったから…というような理由ではありません。当社ではDV-RA1000HD、その前にはDV-RA1000といったDSD機材を出してきたという経緯もあり、DSD製品を出したいという思いは強く、ずっとリサーチしていました。それに合致する技術がようやく出てきたというところなのです。

――TASCAMのDV-RA1000は2005年に、DV-RA1000HDは2007年にこのDigital Audio Laboratoryでも取り上げました。その後、いつ後継機やDSD製品が出るのか…と心待ちにしていましたが、ずいぶん長くかかりましたね。DSDの本家であるソニーは撤退してしまうし、コルグだけが細々と続けている状況で、DSDが消えてしまうのでは……ととても心配していました。

小泉:お待たせしてしまいましたが、技術面だけでなく、ようやくさまざまな環境が整ってきたというのも、いまリリースした背景にはあります。やはり6、7年前とはDSDとPCを取り巻く環境が大きく変わりました。たとえばHDDの容量を考えても当時とは1桁、2桁上がっています。以前はDSDを扱うには、HDDのかなりの容量を消費してしまうもので、普通の人が扱うにはかなり勇気にいるものでした。しかし、1TB、2TBのHDD容量が当たり前になった今なら、気軽に扱えます。またPCの処理速度も高速化していますから、その点も大きいですね。

 さらにe-onkyo musicやOTOTOYのようなDSD配信サイトでのコンテンツが充実してきたのも大きな点です。iPhoneで持ち歩くことはできませんが、PCでなら、気軽にDSDが楽しめる時代になりました。ぜひ、多くの方にDSDの音の良さを、UD-501を使って実感していただきたいですね。たとえば、同じ曲をMP3とDSDで聴き比べてみてください。「こんなに音が変わるのか! 」って発見があるはずです。この発見するというのはとても楽しいことなんですよね。テレビのアナログ放送がデジタル放送になったのと同じくらいの衝撃があるはずですよ。

――今回のUD-501はTEACブランドのオーディオ機器、再生のための機器だったわけですが、個人的にはDV-RA1000HDの続きというか、TASCAMブランドでのDSDレコーダが出るのか、というのも気になるところです。

小泉:はい、ご要望にお応えできるよう尽力しますので、ご期待ください。



■ 再生ソフトはASIO 2.1/DoP対応

――では、次にUD-501のPCとの接続やソフトウェア周りについてうかがいます。先日、コルグに話を聞いた際、DS-DAC-10はASIO 2.1対応のドライバで、DoPは非対応。またソフトはAudioGateの新バージョンで再生するとのことでしたが、UD-501の場合はどうなるのですか?

小泉:まずUD-501用にはWindows、Mac対応のTEAC HR Audio Playerという専用の再生ソフトをリリースします(11月2日にベータ版を公開)。これは製品にバンドルするのではなく、当社サイトから無償でダウンロードしてもらう形をとりますが、見てのとおり、非常にシンプルな画面になっています。これを使うことで、WAV、FLAC、MP3に加え、DSF、さらにはDFF(Dsdiff)を再生できるようになっています。PCMは最高で384kHzまで、DSDは5.6MHzにまで対応しています。またドライバについては設定画面を見てもらうとわかると思います。

TEAC Media Playerの画面ドライバなどの設定画面

――これを見るとASIO対応ということなんですよね? でもDoPも対応?

小泉:どう名前をつけるべきかを迷ったのですが…。まず、ドライバはASIOを使います。Deviceの項目で、「TEAC ASIO USB DRIVER」を選択するだけです。一方、Decode modeに「DSD over PCM」と「DSD Native」の2種類があり、前者を選ぶとDoPでデータがストリーミングされる形になります。一方、後者のDSD Nativeを選ぶとASIO 2.1の規格にあった方式でのDSDが流れる形になるのです。ただし、Macの場合はASIO 2.1の規格が存在しないため標準ドライバであるCoreAudioを通じて、DoPのみのサポートとなります。

 いずれにせよ、このソフトをインストールすれば、すぐに音が出せるというのが大きなポイントです。海外製のDSD対応ソフトウェアもいくつか出ていましたが、設定が非常に難しく、ユーザーに困難を強いるものでしたが、UD-501の場合、誰でも簡単にDSDのネイティブ再生が可能になります。

――一番下にあるAudio Data Handlingという項目は?

小泉:これはHDDからストリーミングで音を出すか、いったんメモリーに展開してから音を出すかを選択するものです。「Expand to RAM」を選ぶと、FLACなどもいったんWAVに解凍してRAMに置いて再生するため、再生時には負荷も軽く、高音質での再生が可能になるというのがポイントです。

――今度ぜひ、他社製品とドライバの互換性などをチェックしてみたいと思っているのですが、このソフトをコルグのDS-DAC-10で使えたりしますかね(笑)?

小泉:残念ながら、それはできません。このソフトは、UD-501がドングルとして働くため、これが接続されていないと機能しないのです。

――では、反対にfoober2000やHQPlayerなどでUD-501を利用することは可能ですか?

小泉:公式な動作保証はできませんが、動作すると思いますよ。



■ 501シリーズのヘッドフォンアンプやプリメイン、CDプレーヤーも

――質問の順番が前後してしまったような気もしますが、UD-501のハードウェアとしての機能や設定項目について教えてください。

本体背面

小泉:これまで紹介してきたUSB DACとして以外にオプティカル入力を2系統、コアキシャル入力を2系統持ったDACとなっているので、現在あるほとんどのデジタル機器のDACとして利用できるようになっています。また、内部のアナログ回路は右チャンネルと左チャンネルを完全にセパレートしているのも大きな特徴です。これによって左右チャンネルの干渉をなくしており、MUSES8920というオペアンプを、アンバランス出力のリニアリティを向上させるためにパラレルバッファー方式という方法を採用し合計4基搭載しています。また、そうした回路構成としたために、RCAの出力かXLRの出力かを選択する形になります。リアを見るとわかるとおり、RCA出力の場所が離れているため、ぶっといRCAケーブルでも問題なく接続できますよ(笑)。

――設定メニューのほうはどうなっているのでしょうか?

小泉:主にフィルターの設定です。PCMのデジタルフィルターを3種類用意しており、OFF、SHARP、SLOWから選べます。音質のトーンコントロールに近い感じですね。またDSDにも4つのフィルターを用意しています。これはローパスフィルターなのですが、カットオフ周波数の違いとなっています。またサンプリング周波数のアップコンバートのオン/オフの設定などもできるようにしてあります。そのほか、使っていない回路をオフにする機能や、DIMMERという項目ではディスプレイの明るさを調整でき、OFFにすると完全に消えるようになっています。


DSD用に4つのフィルターを用意サンプリング周波数のアップコンバートのオン/オフ設定

――最後に、501シリーズのほかのモデルについて簡単に紹介していただけますか?

小泉:最初に出したHA-501はヘッドフォンアンプ。ヘッドフォンってスピーカーと違いインピーダンスがバラバラで、アンプ側を正しくマッチさせるのが難しい状況です。当初はインピーダンスセレクターを搭載して、インピーダンスマッチングをさせようとしたのですが、逆に音が悪くなってしまったので、別の方法をとったのが、このHA-501です。具体的にはダンピンブファクターセレクターという機能を搭載したものであり、これによってあらゆるヘッドフォンで楽しめるアンプとなっています。

 AI-501DAは、192kHzでUSB入力に対応したプリメインアンプです。これが一番幅広い人たちに喜んでいただける機材だろうと考えています。コンセプト的には昨年出したA-H01を踏襲するもので、それをさらに高音質化、大きな出力にしたものと考えていただければと思います。普通にiTunesなどを使って音楽を楽しんでいる方が、これを接続すればすぐに高音質で楽しめるというものです。

 そしてもうひとつが、CDプレーヤーのPD-501HRです。これは純粋に音のいいCDプレーヤーを目指したものですが、大きな特徴はDSDディスクの再生を可能にしています。UD-501の場合、DSDの再生にはPCが必要ですが、もっと手軽にDSDを高音質に楽しむのに便利です。

――なるほど、PD-501HRでもDSD再生ができるわけですね。これまでDSDディスクが再生できる機材ってあまり存在しませんでした。ソニーやパイオニアがSACDとDSDディスクの再生を可能にするプレーヤーを出していましたが、それ以外だとPS3くらいでしたから……。これはSACDには非対応なのが面白いですね。

小泉:CDが今でも健在である理由のひとつは、CD-Rで手軽に焼けることにあると思います。DSDもネット配信の時代になり、DSDディスクが大きな意味を持ってくるはずだと考えました。そのDSDディスクをできる限り高音質に、かつ簡単に再生できるようにしたのがPD-501HRなのです。ぜひ、UD-501とともに活用していただけたらと思います。

――ありがとうございました。

 

ヘッドフォンアンプ「HA-501」プリメインアンプ「AI-501DA」CDプレーヤー「PD-051HR」

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(2012年 11月 5日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]