第116回:独自技術で際立った個性を放つ新フルHD機

~新パネルなどで画質向上。パナソニック「TH-AE3000」~


 2008年末の液晶プロジェクタでは、10万円台の入門機から50万円超の中級機まで、幅広い製品が発表された。従来は高価なイメージのあった反射型液晶(LCOS)モデルも低価格化してきて、透過型と直接競合するようになったのもトピックだ。

 透過型液晶でもエプソン、三洋、パナソニックなどが新製品を投入。倍速駆動などの新機能に加え、LCOS機に迫る高コントラスト化を果たしている。今回は、パナソニックの新モデル「TH-AE3000」を取り上げる。実売価格は30万円台中ごろ~40万円強と、透過型ではやや高価な部類に入るが、光学系の改善や新映像処理の導入などで、画質改善が図られている。


■ 設置性チェック~基本デザインを継承。新発想のレンズメモリー機能搭載

TH-AE3000。筐体デザインはTH-AE1000/AE2000を継承している

 生真面目なイメージの直線基調デザインの横長ボディは今回も継承された。外形寸法は460×300×130mm(幅×奥行き×高さ)と、前モデルのTH-AE2000と同一だ。このボディデザインは2006年のTH-AE1000から3世代変わっていないことになるが、機能美を感じさせるシンプルな面持ちのためか古くささを感じさせない。

 奥行きが300mmに抑えられているだけでなく、後脚部と前脚部との距離は約23cm。これならば、本棚などへのオンシェルフ設置もたやすく行なえる。なお、ネジ式の高さ調整機構がついているのは、2つある前部脚部のみ。後部脚部は1つしかなく、こちらは固定式となる。

 重量はTH-AE2000から100g増加した7.3kgだが、今期フルHDモデルの中では依然として最軽量クラスだ。常設できない場合には、この軽量/コンパクトは強い訴求力になりそうだ。

 天吊り設置のための純正オプションの取り付け金具は、ボディ形状が先々代から同じなので、引き続き低天井用「TY-PKE1000S」(47,250円)と高天井用「TY-PKE2000」(47,250円)が利用できる。投射レンズのスペックも同一なので、H-AE1000/AE2000からの置き換えが可能だ。

 投射レンズもTH-AE2000/AE1000から基本設計に変更はなく、光学2.0倍電動ズーム、電動フォーカス(F=1.9-3.2、f=22.4mm-44.8mm)を採用している。

投射レンズはTH-AE2000から変更無し。レンズシフトのみ手動式操作となる前面脚部のみネジ式高さ調整機構付き

 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.0m、最長投射距離は約6.0mで、小さめな部屋から大きめな部屋まで、希望の画面サイズに柔軟に投射できる高い設置性能を持つ。

 レンズシフトは上下±100%、上下±40%とかなりシフト範囲が広い。ただ、シフト調整は本体上面に備え付けられたダイヤルで手動で行なわなければならない。LCOS機では、ソニーが2007年のVPL-VW60から、ビクターも今期のDLA-HD350/HD750からは、フォーカス、ズーム、シフトの全てがリモコンによる電動調整になっているので、AE3000でも電動シフトに対応して欲しかった。ただ、シフト調整用ダイアルはとても軽いタッチで、調整そのものはやりやすい。

 投射レンズ周りにはホットトピックが1つある。それは業界初の「レンズメモリー」が搭載されたことだ。これは、調整したフォーカス/ズーム状態を3つあるユーザーメモリに記録できるもの。筆者も待ち望んでいた機能だけにこの機能の搭載は高く評価している。

 巻き上げ式のスクリーンでは視聴する映像ソースに応じてスクリーンの引き出し量を調整することで「2.35:1」(シネマスコープ)、「16:9」(ワイド)、「4:3」の画面が作り出せる。このスクリーンに対してフル投影しようとするとズーム率を変えなければならず、ズーム率を変えればフォーカスも再調整しなければならない。視聴する映像のアスペクト比が変わるたびにズームとフォーカスを調整するのは、いくら電動リモコン調整とは言え面倒だ。

 TH-AE3000のレンズメモリー機能では、この調整状態を3つまで記録することができ、呼び出せば、自動的にそのレンズ調整状態になってくれるのだ。レンズメモリーは3つあるので、まさに2.35:1、16:9、4:3の状態を記録しておくことができる。ただ、残念なのは、レンズシフトは手動式なので、シフト状態をレンズメモリーに記録できないこと。

 高さ調整が出来ない備え付けのスクリーンに投射する場合、ズーム率を上げると映像は上にも下にも広がるため、スクリーン内に収めて投射するためにはどうしても上下位置のシフト調整が必要になってしまうのだ。これが出来ないのは非常にもったいない。

フォーカス、ズーム、調整画面

 ボディデザインと投射レンズを流用したがゆえの制約という感じだが、機能としては着眼点がいいので、次期モデルではシフトも電動制御に対応し、シフト状態もメモリー出来るようにして欲しい。さらにいうならば、せっかくレンズの調整状態をパラメータ化して記録するのだからフォーカス、ズーム、シフトのそれぞれの状態値(パラメータ)を可視化して欲しい。特にフォーカス調整はリモコンの1クリック、2クリックがシビアで、プラス調整とマイナス調整を行ったり来たり繰り返すので、是非とも欲しい。

 光源ランプは165Wの超高圧水銀系のUHMランプでTH-AE2000から変更はなし。交換ランプ自体も変更なく「ET-LAE1000」だ。価格はかなり安価な26,250円。総消費電力も約240Wで今期フルHDモデルの中では低め。TH-AE3000はランニングコストの面でライバルよりも優秀だ。

 吸排気のレイアウトは背面吸気の前面排気を採用する。背面には接続端子パネルがあるので、壁に寄せて設置したとしても、必然的に背面には適度なクリアランスが取られることだろう。前面の排気口からは本体内部の光が若干見えるが「光漏れ」というほどの漏れはない。また排気は斜め前方に排気されるので投射映像前を埃が横切ることも少ないはず。

背面側のスリットが吸気口前面側のスリットが排気口

 公称騒音レベルはランプ輝度「エコ」(低輝度)モードで22dB。「ノーマル」(高輝度)モードの公称値はないが、それほど大きくなるわけでもない。「エコ」モードでは1mも離れると稼働しているかどうか分かる程度のファンノイズが聞こえるだけで、なかなか優秀だ。


■ 接続性チェック ~HDMI端子3系統、コンポーネント2系統実装

背面に各入力端子を備えている

 背面に配されている接続端子パネルは、結論から言ってしまえば先代のTH-AE2000と全く同仕様だ。接続端子パネルにケーブルが差し込まれている様子を隠すためのケーブルカバー「TY-PCE2000」(5,230円)は今回も用意されている。メンテナンス性は下がるが設置時の美観を重視したいユーザーは取り付けるといいだろう。

 デジタル端子としてはHDMI入力を3系統を実装。DeepColor、x.v.Colorの両方に対応している。

 アナログビデオ系入力端子としては、コンポジットビデオ入力端子、Sビデオ入力端子を1系統ずつ備え、コンポーネントビデオ入力端子(RCA)を2系統備えている。D端子はないが、コンポーネントを2系統備えているのは最近の機種としては珍しい。コンポーネント入力は、Wiiなどのゲーム機、ちょっと前のAV機器を接続するのに未だに重宝するのでありがたい。

 PC入力端子としてはアナログRGB入力に対応したD-Sub15ピン端子を1系統を実装。DVI端子はないが、DVI-HDMI変換端子などを用いることでPCとのデジタルRGB接続は可能だ。今回の評価でもNVIDIA GeForce GTX280を用いてのドットバイドット表示を確認した。なお、3つあるHDMI端子の間隔はそれなりに空いているのでやや大きめの変換ケーブル/アダプタを利用しても問題ないはず。

階調レベルをビデオ用かPC用かを明示指定できる。PCユーザーやゲーム機ユーザーにはとても重要

 ドットバイドット表示のためには、「画面位置の調整」メニューにて「オーバースキャン」項目を「0」設定にする必要がある。PCとDVI-HDMI変換アダプタ経由で接続した場合、階調レベルを誤認されることが多いが、TH-AE3000では、この問題に際してちゃんと対策を用意している。ビデオ階調(16-235)と誤認されて黒つぶれが起こっている場合は、「その他の設定」メニューにて「HDMI信号レベル」をビデオ向けの「通常」(16-235)から「拡張」(0-255)と設定すればよい。

 TH-AE3000には、PCユーザーやゲームユーザーに嬉しい機能「表示遅延低減」モードも搭載されている。「その他の設定」メニュー下の「フレームレスポンス」で、デフォルトの「通常」設定から「高速」設定とすると、高画質回路がバイパスされて表示遅延が低減される。アクションゲームなどをプレイする際には是非とも活用したい機能だ。


ゲームプレイに適した表示遅延低減モードも備えているオーバースキャン設定も明示的に調整可能。0がオーバースキャンキャンセル

 最近の機種では採用例が増えつつあるアナモーフィックレンズやスクリーンなどの外部機器連動用のトリガ端子は、今回も実装されていない。しかし、PCからリモート制御するためのRS-232C端子は実装されている。


■ 操作性チェック ~リモコンはコンパクトに。波形モニター機能なども搭載

リモコンは一新してシンプルにライトアップボタンが無いが、いずれかのボタンを押すとボタン部が自照式に点灯

 ボディと光学デザインは従来から大きな変化がないものの、リモコンは新しいものが付属する。TH-AE1000/2000までは液晶画面付きの豪華な学習リモコンだったが、TH-AE3000では手のひらサイズのコンパクトな簡略リモコンとなってしまった。液晶画面もボタン数も、そして学習リモコン機能もカットされてしまい、ここには賛否がありそうだ。VIERA Linkにも対応していない。

 コンパクトにはなったが、ボタンは非常に大きく、また、ボタン上の文字サイズも大きく、暗闇でも視認性が高いことは評価できる。

 ただ、不思議なのは、全ボタンがオレンジ色に自照式に点灯する発光機能を持っていながらも、発光させるためのライトアップボタンがない。発光させるためには、何かのボタンを押さなければならないのだ。リモコン上のボタンを押すと、通常はそのボタンの機能が直接作動してしまうのでやっかいだ。ただし、[標準]ボタンは単体で押しただけでは機能的に意味をなさないので、プロジェクタ側の設定に影響を与えずリモコン上のボタンをライトアップできる。裏技的だがユーザーは覚えておくといいだろう。

 電源オンからHDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約16.0秒。最近の機種の中でも早い部類に属する。なお、この値はメニューにて「スタートアップロゴ」の表示設定をオフにしたときのもの。オンにしたときは「PANASONIC」ロゴが表示されてから映像表示に移行するため、映像表示までにかかる待ち時間は10秒ほど長くなってしまう。ロゴ表示にこだわりがなければ、オフ設定にしたほうが起動は早くなる。

本体側面には基本操作が行なえるよう、操作パネルが設けられている
[入力切換]ボタンを押すと接続端子パネルのイラストか現れ、切換先端子をカーソルで選択できる。これは分かりやすい。

 入力切換操作は[入力切換]ボタンを用いての順送り方式。ただ、普通の順送り式とは違う。[入力切換]ボタンを押した瞬間に接続端子パネルのイラストが表示され、[入力切換]ボタンをさらに押すと選択端子が次に移るが、リモコン上の十字ボタンの左右を押すことで任意の接続端子を選べるのだ。普通の順送り式操作では順番に切り換えていかなければならないが、この方式であれば任意の接続端子に一気にジャンプできる。切り替え所要時間はHDMI1→HDMI2で約2.0秒であった。

 アスペクト比切換も[アスペクト]ボタンを押すことで順送り式に切り換える方式。こちらは十字ボタンで選ぶ方式ではなく、[アスペクト]ボタンを押すたびに次のアスペクトモードへ切り替わるオーソドックスな順送り式だ。切り替え所要時間はほぼゼロ秒で操作した瞬間に切り替わるほど高速だ。

4:3アスペクト比4:3の映像をアスペクト比を維持して表示
16:9パネル全域に表示。アスペクト比16:9向けのモード
S16:9アスペクト比16:9の映像をレターボックス状態にして上下に未表示部分を設けて表示
ジャスト映像外周を伸張して疑似ワイド化して表示するモード
ズーム4:3映像に16:9映像をはめ込んでレターボックス収録された
映像を切り出してパネル全域に最大表示
Hフィット入力映像を左右にのみ拡大伸張してパネル全域に表示
Vフィット入力映像を上下にのみ拡大伸張してパネル全域に表示

 ほぼTH-AE2000と同じだが、S16:9モードが新しい。これは、投射する映像が4:3主体のユーザーで4:3スクリーンに合わせてズーム調整をした投射環境において、スクリーンからはみ出さずに16:9映像を投射するために用意された珍しいモードだ。

 プリセット画調モードの切り替えも[映像モード]ボタンを押しての順送り切換操作だ。切り替え所要時間はほぼゼロ秒で、操作した瞬間に切り替わる。用意されているプリセット画調モードの種類は「ノーマル」、「ダイナミック」、「シネマ1」、「シネマ2」、「シネマ3」、「カラー1」、「カラー2」の全7種と多い。それぞれのモードの解説とインプレッションは後述する。

映像の調整画面位置の調整レンズコントロールファンクションボタンその他の設定アドバンスドメニュー

 調整可能な画調パラメータは「ピクチャー(コントラスト)」「黒レベル(ブライトネス)」「色の濃さ」、「色あい」、「シャープネス」、「色温度設定」など。色温度は、TH-AE1000から引き続き、ケルビン(K)指定でもなく、低-中-高でもなく、基準値からの±で調整する方式となっている。

 より高度な調整は「アドバンスドメニュー」階層下にまとめられている。

 アドバンスドメニューでは、ガンマは高中低の階調レベルごとに個別の傾きを変更できる。いわば3バンドのイコライジングが可能と言うことだ。また、アドバンスドメニュー階層下のコントラスト(主に白側の色温度調整)、ブライト(主に黒側の色温度調整)では、RGB個別に出力ゲインを調整できるようになっている。

 この他、ランダムノイズ低減用の「ノイズリダクション」、「MPEGノイズリダクション」、倍速駆動技術の度合い調整「フレームクリエーション」、「カラーマネージメント」、「x.v.Color」、輪郭強調の「ディテールクラリティ」、24fps映像の表示モード設定の「シネマリアリティ」といった映像エンジン側の動作パラメータの設定までが行なえる。

 「カラーマネージメント」はアドバンスドメニューからだけでなく、リモコン上の[カラーマネージメント]ボタンを押すことで直接調整メニューを呼び出す事ができる。これは、その時点で表示している映像から、任意のピクセルをピックアップして、そのピクセルと同系統色を「彩度(派手さ)」、「色相(色の傾向)」、「明度(輝度)」のパラメータで調整していける、こだわり派向けの調整機能になる。

カラーマネージメントカーソルでピックアップしたピクセルと同系色を彩度、色相、明度で調整していける

 競合機の同種機能では6色程度の純色から選択するインターフェイスを採用していたが、TH-AE3000では、調整したい映像の中から対象色を選べるのが特徴だ。また、親切なことに調整前と調整後の色を横並びにして比較できるので、調整中に元の色を忘れてしまうことがない。さらに、カラーマネージメントにおける調整は対象色の同系統色にだけ影響するデジタル処理になるため、人肌の肌色、植物の緑、海や空の青という具合に、映像中の特定の材質表現色を好みの色に追い込んでいくことが可能となっている。

 カラーマネージメントの調整結果はマネージメント専用のユーザー1~3の3つのプロファイルに記憶させることができる。1プロファイルに付き調整ポイントは8個まで記録させることが可能(つまり8色分の調整が記憶可能ということ)。なお、この3つのプロファイルは全入力系統で共有されている点には留意したい。

 TH-AE3000の調整機能はとても強力だが、さらに他機種では見られないユニークかつ強力な調整支援機能が2つ搭載されている。

 1つ目が「2画面調整」機能だ。

表示中映像の任意の960×960ドット範囲を切り出し、これに対して調整を行なえる。左には調整前の映像を、右側には調整結果を反映した映像が表示されるカーソルでピックアップしたピクセルと同系色を彩度、色相、明度で調整していける

 「映像の調整」メニューの「2画面調整」を選択し「エリア選択」を実行して映像中の任意の960×960ドット領域を切り出すと、この切り出した映像は左右に並べて表示される。このあとは調整を行なっていくと、調整結果が右側の映像に反映されていき、調整前の映像は左側に表示され続ける。そう、映像の調整前と調整後を同時に見比べられるのだ。なお、調整対象の領域が左右並べた映像で離れてしまっている場合には、調整前映像に対して反転した映像(左右反転)を並べて表示することも出来る。まさに、至れり尽くせりの調整機能といったところ。

 2つ目は「波形モニター」機能だ。これは、任意の水平走査線の輝度値、または全走査線の輝度値の合計値をグラフ表示することができる機能だ。そして、この表示結果を見ながら階調表現範囲を自動調整する機能までが搭載されている。

横軸に画面のX座標。Y軸にその映像のX座標における輝度分布を表示するモード。RGBごとに個別に表示するモードもある任意の走査線を選択し、その輝度を表示するモード。RGBごとに個別に表示するモードもある
ユーザーメモリに対して名前を付けることが可能になった。これは便利

 THX対応映像タイトルなどでは、専用の階調テストパターンを有している物があるが、そうしたソフトでテストパターンを表示してやり、この波形モニターの自動調整機能を利用することで、そのソフトの最低階調レベルと最高階調レベルをTH-AE3000のダイナミックレンジ一杯一杯に適切な形で割り当てられるようになる。「その他の設定」メニュー階層下の「HDMI信号レベル」設定にて「通常」と「拡張」どちらに設定しても白飛び、黒浮き、黒つぶれが直らないときは、この波形モニターの自動調整機能を利用するといい。

 ここまでで述べた通常の画調パラメータ、アドバンスドメニュー階層下の映像エンジンパラメータの全ての調整結果は、全入力系統で共有される16個のユーザーメモリに保存ができる。

 保存したユーザーメモリの呼出はプリセット画調切換用の[映像モード]ボタンではなく、ユーザーメモリ選択専用メニューを[メモリ呼出]ボタンで開いてから希望のユーザーメモリを上下カーソルで選ぶ2段階操作系となっている。TH-AE3000はプリセット画調モードが多いので理にかなった操作系だといえよう。

ファンクションボタンをどんな機能に割り当てるかはユーザー次第。あと2、3個このボタンが欲しい

 最後に、リモコン上にある[ファンクション]ボタンの解説を簡単にしておこう。これは、ユーザーがよく使う任意の機能メニューを呼び出すためのショートカットキーに割り当てられたボタンだ。映像の表示アスペクトに応じてよくレンズのズーム率やフォーカスを変える人は「レンズメモリー呼出」メニューを割り当てるのがいいだろうし、使用頻度の高い接続端子があるのならば、その入力へ直接切り換えるための操作系に割り当てるのでもいいだろう。

 ボタンの数を闇雲に増やしてボタン上の文字を小さくするくらいならば、この方法はクレバーだ。あまりファンクションボタンが多くても困るが、こういうユーザー割り当てが可能なボタンは数個あると便利だと感じた。ぜひ他機種でも見習って搭載して欲しい機能だと思う。



■ 画質チェック ~圧倒的なコントラスト感。倍速駆動のチューニングも良好
 発色は水銀系ランプの特性を多く残す

 基本デザインだけでなく、映像処理系もTH-AE2000がベースとなっている。映像パネルはエプソンのD7世代「C2FINE」透過型液晶パネルだが、AE3000では倍速駆動技術「フレームクリエーション」に対応した「倍速駆動対応新D7パネル」に置き換わった。これはD7パネルの応答速度リファイン版で、基本がD7なので画素開口率についての変更はない。

「ダイナミック・コントラスト・プレート」の概念図

 映像コア関連でAE2000に対して大きく進化した部分もある。それは液晶パネルの出口側に「ダイナミック・コントラスト・プレート」(DCP)を配したところだ。DCPは、いわゆる光学補償板に相当する物になる。

 液晶パネルでは、液晶画素が「明」表示のときほど、光は透過段階で位相を回転させられ、逆に「暗」表示のときほど、光は入り口の偏光板の位相のまま液晶画素を通り過ぎ、出口の偏光板へ向かう。暗表示の画素の光は出口の偏光板で理想的には、その「暗」度合いに応じてシャットアウトされるべきなのだが、液晶画素を通過する段階で液晶分子の影響を受けて若干だが位相が楕円偏光してしまい、出口の偏光板を通り抜けてきてしまう。これが迷光の要因の一つであり、黒が薄明るくなってしまうことにつながる。DCPは暗部の楕円偏光を補償して出口の偏光板で理想的に光がシャットアウトされるように支援する役割を果たす。これにより暗部がさらに引き締まり、コントラスト向上に貢献するというわけだ。

 AE3000では、このDCP採用に合わせて偏光板も最適化を施し、光利用率を向上。この部分の改良により、プロジェクタとしての基本スペックを向上させている。

 まず、公称コントラストは動的絞り機構「ダイナミックアイリス」使用時で60,000:1となった。動的絞り機構を使用しての値なので、絶対的なコントラスト値はあくまで数字競争の産物でしかないが、先代と比較しての相対的な向上率としては約4倍(TH-AE2000は16,000:1)で、これはかなり凄い。

 実際に、全黒映像を投射してみると、その黒さはもはや従来の透過型液晶の黒とは別世界に なっていることが確認できる。従来モデルの4倍かはともかくとして、TH-AE2000の黒よりもたしかに黒い。ただ、ここ最近、本連載で紹介してきたLCOS機と比較すると、LCOS機の方がさらに黒い。昨年あたりは透過型とLCOSで黒表現が拮抗してきたと感じたが、今期になってまた若干LCOS機がリードしている。この激しい戦いは今後も続くのだろう。

 公称最大輝度は1,600ルーメン。TH-AE2000は1,500ルーメンだったので、若干輝度が向上したことになる。その前モデルのAE1000から光源ランプの変更がないのに輝度が向上しているわけだが、これこそが前述の改良型偏光板の効果と言うことだ。

 シアター機では1,600ルーメンは明るすぎるという声もあるが、ホームユースを考えればこの輝度性能は武器になる。遮光せず多少の陽光が差し込んだ状態の部屋でも、あるいは蛍光灯照明下でも、カジュアルにゲームを楽しんだり、インターネットを閲覧したり、ニュース番組を視聴できるほど明るいのだ。

ランプモード=エコランプモード=ノーマル

 前モデルで気になったフォーカスむらは、多少は改善しているようだ。画面中央でフォーカスさせると画面外周では多少フォーカスがずれるが、AE2000ほどではない。ただ、画面端でフォーカスを合わせると全体的にぼけるので、「どこか一点で完全に合焦させるよりは全体的に適度に合焦するようにフォーカスを合わせる」というようなコツはいる。先週のDLA-HD750のように「画面のどこかでが合えば全部合う」というようにはなっていない。

 色収差も多少改善しているようで、色収差が全体的にでているのは変わらないが、そのズレ幅は小さい。TH-AE3000の発表に際しては、特にレンズ周りの改変があったことは謳われていないが、リファインがあったのかも知れない。

ぼけた感じになっているのはスムーススクリーンの効果とフォーカスが若干甘いため。クリア感よりもしっとり感を重視した画質傾向にある

 TH-AE3000でも、透過型液晶パネルの開口率の低さを改善する「スムーススクリーン」機能が搭載されている。これは液晶パネルに貼り合わせた微細光学フィルタにより、透過光に対し画素単位で複屈折を起こして出力光を拡大させるTH-AEシリーズ伝統かつパナソニック独自技術だ。今期も同じD7世代パネルを採用した製品の中ではTH-AE3000だけの機能となっている。

 1画素の内部が"田"の字のサブピクセルに分割されたような、独特な画素形状はスムーススクリーン採用の証。このサブピクセルが拡大して表示されることで、画素と画素とを仕切る筋をかき消すことになり150インチ程度にまで拡大しても透過型液晶パネル採用機ながら粒状感はほとんど感じさせない。

 今回の視聴ではブルーレイの「ゲットスマート」を用いた。再生はHDMI接続したPLAYSTATION 3。PS3側はRGBフルレンジ・オン、スーパーホワイト・オン。ブルーレイ再生時はHDMI信号レベルは「通常」で適合したが、メニュー画面は黒潰れが確認されたので「拡張」設定にする必要があったことを報告しておく。PS3と組み合わせるときはユーザーは留意した方がいい。

 発色は、ランプ高輝度モード(ノーマル)だと、プリセット画調モード「ノーマル」でも水銀系ランプの黄色感を感じる。最初、画調が「ダイナミック」になっているのかと思ったほどで、この部分は、正直、世代の古さを感じる。今期のLCOS機は全て水銀系ランプだったわけだが、LCOS機の水銀系ランプの色はもう少し先に進んでいる。ここは次期モデルではがんばって欲しいところ。

 特に緑と赤が黄に寄っているため、緑が黄緑に、赤が朱色に近い印象を持つ。肌色も黄が乗ってしまっている。この傾向が特に強いのがプリセット画調モード「ノーマル」と「ダイナミック」だ。

 詳しいインプレッションは後述するがプリセット画調モードを「カラー2」「シネマ1」あたりにすると、この水銀系ランプの色特性はだいぶ隠蔽されて印象がよくなる。

 ちなみに、「ノーマル」と「ダイナミック」を選択時は色純度を高める「シネマフィルタープロ」が外されてしまう。前述の黄味はこれが主たる原因と思われるが、いずれにせよ、次期モデルではランプのモディファイか、あるいは色チューニングは見直すべきだ。「ダイナミック」はともかく、「ノーマル」で、このチューニングはいただけない。

 なお、どのプリセット画調モードでも色深度は良好であった。二色混合グラデーションの表現も非常になめらかだ。

「ディテール・クラリティ・プロセッサII」の概念図

 階調表現も素晴らしい。最暗部の黒はとても暗く、ここからの暗部階調の立ち上がりもなめらか。この卓越したグラデーション表現、階調表現も、ガンマ演算、階調演算をフル16ビット処理しているTH-AEシリーズならではのものだ。

 また、暗部の色表現も秀逸で、ちゃんとその「暗い色」が出せている。迷光を原因とする灰色混じりがない。よって暗い映像の細かい描写や、あるいは暗色を中心としたディテール表現が、明部のディテール表現に見劣りしないレベルで再現されている。このためか、映像の情報量は非常に多く見える。暗部の沈み込みによるコントラスト感だけでなく、暗部の色表現のクオリティもTH-AE2000から進化していると感じる。

 ところで、TH-AE3000には、AE2000に搭載されていた映像エンジンから一世代新しくなった「ディテール・クラリティ・プロセッサII」が搭載されている。これは映像の周波数分析を行ない、ディテール度に応じてシャープネスをコントロールするものだ。実際に映像をオンとオフで見比べてみたが、グラデーション表現にほとんど影響を出さず、肌の肌理、石壁の微細凹凸、髪の毛の線状感、布の繊維感の解像感を引き上げてくれるため効果は高いと感じた。嫌らしい効き方がないので映像鑑賞時には積極的に常用したい。

ディテール・クラリティ=オフディテール・クラリティ=オン

 動的絞り機構の「ダイナミックアイリス」の挙動は、先代と同様、不自然さはない。もはやこの部分は各社完成の域に達しているようだ。なお、絞り形状もTH-AE2000から変更して、暗部のリニアリティ向上のために最適化したとのこと。この効果として、前述した「暗部情報量向上の実感」があったのかも知れない。

ダイナミック・アイリス=オフダイナミック・アイリス=オン
「フレームクリエーション」の動作概念図

 TH-AE3000に搭載された倍速駆動技術「フレームクリエーション」のインプレッションも語っておこう。

 液晶テレビや液晶プロジェクタのようなホールド型表示の映像機器に起こる残像低減技術として台頭してきた倍速駆動技術だが、その効果と表示品質は、事実上、算術的に合成した補間フレームの正確性に依存する。この部分はまだ技術的には発展途上であり、各社独自の発想で実現しているため、同一映像を見比べても、その違いが如実に出てくる部分だ。

 「フレームクリエーション」は、パナソニック独自の時間方向、映像内空間方向に配慮した高品位な動きベクトル分析を行なって実現される技術だが、TH-AE3000には通常の倍速モードである「モード1」と、映画などの24fps映像に対して多めに補間フレームを挿入して96fpsないしは120fpsに変換する「モード2」が用意されている。

 「ダークナイト」のブルーレイのオープニングのフライバイシーンで確認したが、「モード2」では迫り来るビル群の縦縞のモールドに強い振動が起こり、また、ビルからビルへロープを伝い渡るシーンでは移動する動く人物の周辺にざわつきが起こる。うまくハマると綺麗だが、はまらなかった時との落差が大きく、あまり常用したくない。

 一方「モード1」はバランスが取れており完成度が高い。前述のビル群の縦縞モールドの振動はなく、「オフ」時よりもディテール感が向上する。伝い渡るシーンでもざわつきがない。効いているときと効いていないときの差が分かりにくいため、見ていて不自然さがない。常用するならばこちらだ。

 倍速駆動技術は今シーズンのトレンドといえるが、まだ、うまくいったと時と、いかなかった時の落差が大きい。このため、しばらく面白半分で積極的に使った後は、効いているのか効いていないのか分からない程度の「弱」設定 に落ち着くことになるはず。この機能の有無だけで、機種選びをするのではなく、悩んだときの「加点要素」程度で捉えておけばいいだろう。

【プリセットの画調モード】
 1,920×1,080ドットのJPEG画像をPLAYSTATION 3からHDMI出力して表示した。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用。レンズはSIGMA 18-200mm F3.5-6.3 DC。撮影後、表示画像の部分を800×450ドットにリサイズした。
 
●ノーマル

 「ノーマル」では、シネマフィルタープロが取り除かれるため、色調は水銀系ランプの黄味が強く現れる。赤は朱色により、緑は黄緑により、肌色も黄色っぽい。

 階調は暗部から明部までたっぷりとダイナミックレンジを取ったチューニングでコントラスト感と階調のなめらかさのバランスは取れている。

 ただ、あまりにも発色にクセがあるため、常用には向かない。

 
●ダイナミック

 こちらもシネマフィルタープロが取り外された画調モードになる。

 「ノーマル」の画調に対して、さらに水銀系ランプの特性がむき出しになったようなモード。いわゆる輝度最優先の典型的な「ダイナミック」モードだ。

 階調は暗部付近はあまり「ノーマル」と変わらないが、明部に行くにつれて輝度を多く割り当てるようなチューニングで、全体的にコントラスト重視の描画になる。 明るい部屋での投射専用モードといった風情。

 
●カラー1

 「カラー1」は、HDTV色域(ITU-R BT.709,sRGBと同じ)に準拠した画調モード。色温度は6,500K。

 このモード以降はシネマフィルタープロが装着されるため水銀系ランプ特有の色調が改善される。ただ、緑が淡く、赤にも鋭さがない。肌色は不自然な黄味が消えて、美しい。

 階調表現は「ノーマル」によく似た特性で、暗部から明部までリニアにつながり、階調表現力とコントラスト感のバランスは良好。

 
●カラー2

 DCDM(Digital Cinema Distribution Master,SMPTE431-2)色域に準拠した画調モード。色温度は6,300Kへと設定され「カラー1」よりもさらに白が赤みを帯びるが、色純度は「カラー1」よりも優れる。

 「カラー1」では淡かった緑も鋭くなり、赤の朱色感も低減される。人肌は色味が濃くなりやや黄味が出てくる。

 階調表現は「カラー1」に近いが最暗部からの立ち上がりは遅めで若干コントラストに振ったチューニング。映画との相性はいい。映画視聴時は「カラー2」を基軸にして好みの画調を選ぶといい。

 
●シネマ1

 カラリストのデビッド・バーンスタインとパナソニックが共同開発した別名「バーンスタイン」モード。色温度は「カラー1」や「カラー2」よりも高い印象。

 人肌の再現が素晴らしく、「カラー2」の黄味は消え、血の気の赤味と透明感の白味のバランスが絶妙。純色の色調は「カラー2」に近いが、赤のパンチが弱くなる。

 ピーク輝度が若干控えめとなり、映像としてはやや暗くなる。これと同時に色ダイナミックレンジも狭くなる印象がある。階調表現は全体的にリニアだが、最明部付近はやや飛ばし気味。 暗めな人物主体の映画向きといった印象。

 
●シネマ2

 色温度的には「シネマ1」に近く、全体的な印象も「シネマ1」とよく似た画調だが、よりコントラストが高く出るように暗部の立ち上がりをゆっくりにした調整になっている。 発色は「カラー2」に近く色純度は高くなる。

 こちらもピーク輝度が暗めで色ダイナミックレンジも狭め。 悪いところはないが、使い道が思いつかない。

 実用性は高いと思うが、色の豊かさで汎用性においては「ナチュラル」の方が上か。

 
●シネマ3

 色温度的には「シネマ2」よりもさらに高く、白が純白に近くなる。発色の傾向は「シネマ2」に近いが、白が純白に近くなったぶん、全体的に涼しげな色調となる。人肌の黄味もない。

 階調特性的には「シネマ1」のような暗部からのトーンカーブを穏やかにしているためコントラスト感は強め。色温度が高めなのでCG映画やアニメ向きか。

 
 

■ まとめ

 今期のフルHDプロジェクタ選びでは、価格が拮抗してきたため、透過型機かLCOS機かといった部分で悩む人も多いだろう。画質レベルで見ると、今や、かなりの部分で拮抗している。

 ただ、そうはいっても、設計思想や映像パネルの特性から、未だに得意、不得意は双方にそれぞれある。大ざっぱなガイドラインを示すと、暗さを取ればLCOS系、明るさを取れば透過型になる。

 黒の締まり、暗部階調の美しさは、やはり未だLCOS機の方が上だ。透過型機はこの部分に対して驚くようなハイペースで対策を講じてきたが、まだ、一歩、LCOS機の方がこの点は先を行く。

 しかし、明るさを取るならば透過型液晶機だ。光利用効率がよいこともあり、今期は1,600ルーメンあたりが透過型機の輝度スペックの目安となった。対するLCOS機は1,000ルーメンかそれ未満。透過型機はあえて高輝度に振ったエプソンのEH-TW3000(1,800ルーメン)なども出てきており、輝度性能に関してはLCOS機を寄せ付けない。明るい部屋でもそれなりに使いたい、という専用シアタールームを用意できない一般家庭への導入であれば透過型機の明るさは強力な武器となる。

 そして「絶対的な黒の暗さ」はLCOS機に及ばないとは言ったが、最大輝度に関してはLCOS機の1.5倍明るいため、明部と暗部がそれなりにバランスの取れた映像であれば、明るさの方でコントラストを稼いでくれるため、視覚上のコントラストでLCOS機に負けていない。差が出るのは暗い映像のときだけで、ここに妥協できれば透過型機に見劣りする部分はない。

 TH-AE3000に関して言えば、透過型液晶機の魅力を全て持った上で、「スムーススクリーン」がLCOS機にも、透過型液晶機の競合機にもない魅力を依然と与えてくれている。やや甘めなフォーカス力も、このスムーススクリーン機能との相性はいいようで、LCOS機のパリっとした画素描画とは違う、独特な“しっとり”とした画素描画を実現している。固定画素系のクリスピー画質が苦手な人にとっては、こうしたアナログ感のある画質は歓迎されることだろう。こここそが「TH-AE3000ならではの個性」といえる。

(2009年 3月 19日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。