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第130回:地道な改善で映像のポテンシャルを引き出す

SXRD中位機の新世代。ソニー「VPL-VW85」



VPL-VW85

 ソニーはホームシアター向けのSXRDプロジェクタの上級機「VPL-VW80」の後継機として「VPL-VW85」を今冬発売した。

 末尾型番に“5”という、控えめな値が与えられていることからも分かるように、実質的にマイナーチェンジモデルに相当する。価格はVW80の75万6,000円に対し、今回のVW85は63万円となっている。今回の大画面☆マニアでは"+5"型番に、どの程度の進化幅があるのかを意識しつつVPL-VW85をチェックした。


 


■ 設置性チェック 〜外観デザインや設置性に変更は無し

 筐体デザインには変更なく、外形寸法470×482.4×179.2mm(幅×奥行き×高さ)というマッチョなボディはそのままだ。重量も約12kgとそれなりに重く、上級機種の風格がある。外見上、一見した限りでは横長にも見えるが、寸法上はわずかに縦長。底面脚部の前後距離は約25cm。

 ボディデザインに変更がないことから、天吊り設置金具は、角度調整ヒンジ機構付きの「PSS-H10」(80,850円)と、天井からの吊し位置が15cm〜30cmの範囲で可変な「PSS-610」(52,500円)が引き続き利用できる。この二つの取り付け金具は歴代VPLシリーズに通して対応してきたものであるため、VPLオーナーはボルトオンでVW85に置き換えができる。

天板はピアノ調の光沢塗装が施され、インテリアとしてもシックな見栄えがある 角度調整ヒンジ機構付きの天吊り金具「PSS-H10」

 投射レンズにスペック上の変更はなく、1.6倍ズームレンズ(f18.5−29.6mm/F2.50〜3.40)を採用。もちろん、近年のVPL-VWシリーズがそうであったように電動ズーム/フォーカス/シフトに対応している。

 また、電源オンとオフに連動して、投射レンズをホコリや塵から守る電動開閉シャッター機構も搭載。電源オン時、「ジー」という音と共に投射レンズが現れるブートアップシーンはなかなか勇ましく見え、ユーザーの満足度向上に貢献するはず。

電動開閉のレンズシャッター

 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.0m(3,072mm)、最長投射距離は約4.6m(4,664mm)で、最近のホームシアター機としては平均的な焦点距離スペックといったところ。ただ、競合と比較すれば、最長投射距離が短いので、やや短焦点寄りな設計ではある。

 レンズシフト範囲は上下±65%、左右±25%で、先代と同じ。ただ、これは歴代SXRD機と比較するとシフト範囲が大きめで、設置自由度はかなり高い(現在生産継続中の現行トップエンド機VPL-VW200のシフト量は上+65%まで、左右は±1mmのレンズ移動に対応するのみ)。

電動ズーム/フォーカス/レンズシフト対応 レンズシフト範囲は上下±65%、左右±25%

 エアフローも背面吸気の前面排気のデザインを踏襲。設置時の背面側のクリアランスにはそれほど神経質にならなくても良さそうだ(説明書の表記では要30cmとある)。

 前面排気となると気になるのは、本体を視聴位置よりも後方に設置したときの、視聴位置での排気ノイズの大きさだが、騒音レベルは公称約20dBを達成しているとあり、なかなか優秀だ。ちなみに、この20dBという値はランプが低輝度モード時のもの。今回の評価では主に高輝度モードを使ったが、騒音量は低輝度モード時に対してあまり上がらず非常に静かで、1mも離れれば稼働音はあまり聞こえなくなっていた。VPL-VWシリーズは伝統的に静粛性能に優れているが、VW85もこの部分の優秀性は相変わらずだ。

背面吸気、前面排気のエアフローデザイン
光源ランプは先代VW80と同じ「LMP-H201」(36,750円)

 光源ランプは超高圧水銀ランプで、先代VW80と同一仕様の出力200Wの「LMP-H201」(36,750円)。下位モデルのVPL-HW15(および先代のVPL-HW10)とも兼用となっている。最近の超高圧水銀ランプは色特性や出力特性がよくなっているため、エントリー機と同じ光源ランプを採用しても問題がないと言うことなのだろう。また、部材の共用によりコストを抑えられるというメリットもあるのかもしれない。

 最大消費電力は320Wで、競合機と比較すると若干高め。200Wの高出力ランプを採用している関係もあってこのあたりは仕方のない部分なのかもしれない。ちなみに、400Wキセノンランプ採用のトップエンド機VPL-VW200は最大消費電力が650Wもあるので、VPL-VW85は上級機の部類としてみれば省電力といえなくもない。


 


■ 接続性チェック〜2系統HDMI端子装備、2系統のトリガ端子も健在

側面 接続端子部

 接続端子パネルは本体正面向かって左側に配置されている。結論から言うと端子ラインナップはVW80と同一で、HDMI入力は2系統。DeepColorおよびx.v.Colorの双方だけでなく、HDMI機器との相互連携が図れるHDMI-CECにも対応する。もちろんHDMI-CECのメーカー専用機能といえるソニー ブラビアリンクにも当然対応がなされている。

 アナログビデオ入力については、コンポジットビデオ入力、Sビデオ入力、コンポーネントビデオ(RCA)入力の各端子が1系統ずつあるのみ。

 PC入力端子としてはアナログRGB入力に対応したD-Sub15ピン端子を1系統持つ。こちらはVPL-VWシリーズを通して「INPUT-A入力」と命名された兼用端子となっており、専用の別売り変換ケーブルでもう一系統のコンポーネントビデオ入力端子としても利用できる。

 PC向けデジタルRGB入力のDVI端子はないが、市販のDVI-HDMI変換アダプタ等を用いることでPCとのデジタルRGB接続は可能だ。筆者の実験でも、NVIDIA GeForce GTX280搭載カードで1,920×1,080ドットの解像度でのドットバイドット表示を確認した。

 VW80の評価の時、PCとDVI-HDMI変換接続したときにPC用の階調(0-255)ではなく、ビデオ用の階調(16-235)と誤認されてしまうHDMI階調の誤認現象について報告したが、VW85ではこの問題がついに解消された。VW85では正しくPC接続時に0-255階調を自動選択してくれるようになったのだ。ただ、他機種にあるようなHDMI階調のマニュアル設定の項目は設けられておらず、VPL-VWシリーズとしてはHDMI階調は自動認識設定をするというスタンスのようだ。

 ちなみにPS3とVPL-VW85を接続した際に、PS3側の「RGBフルレンジ(HDMI)」を「フル」(0-255階調)設定時は正しい階調が得られず、「リミテッド」設定の16-235階調設定にしないと正しい階調表現にならなかった。やはり次期モデルでは、HDMI階調を手動設定できるようにして欲しい。

 トリガ端子は2系統配備。「TRIGGER1」は本体稼働中にDC12Vを出力するもので、電動シャッターや電動開閉スクリーンと連動させるために利用することになる。もう一つの「TRIGGER2」は、投射アスペクトモードを「アナモーフィックズーム」と設定したときにDC12Vを出力するもので、市販のアナモーフィックレンズ電動着脱システムを利用する際に活用することになる。この2系統トリガ端子は、地味ながらVW85の特徴の1つとなっている。

 なお、PCからのリモート制御およびユーザー独自のガンマカーブを作成するための通信端子RS-232Cインターフェース(DSub9ピン)端子はVW85でも健在だ。

 


■ 操作性チェック〜ガンマモードとカラースペースの設定が変更

 VPL-VW85のリモコンは基本的にはVW80と同一のデザインだが、1点だけ仕様変更された箇所がある。それは画調モードの切り替えボタン周り。

リモコンの基本デザインはVW80と同じ。違いは画調モード切り替えボタンの並び

 VW80ではユーザー画調モードが3つあり、その“直”切り替えボタンが[USER1][USER2][USER3]と3つあったのが、VW85ではユーザー画調モードが1つに削減されたことに伴い、“直”切り替えボタンが番号の取れた[USER]の1個だけになったのだ。

 その代わりプリセット画調モードのCINEMAモードが新たに二つ追加され、VW80で[CINEMA]ボタンだった箇所が[CINEMA1]に、[USER1][USER2]ボタンだったところが[CINEMA2][CINEMA3]ボタンとなった。[CINEMA1]が右上、[CINEMA2][CINEMA3]が改行して左下に位置する不揃い感は、美的センスを重んじるはずのソニーデザインとしては違和感がある。ここは右上に規模縮小された[USER]を持っていき、下段に[CINEMA1][CINEMA2][CINEMA3]を並べるべきだったと思うのだがどうだろうか。細かいことだが、リモコンを眺めていて、ここは美しくないと感じた。

[LIGHT]ボタンを押すことで青くライトアップされる

 とはいえ、[LIGHT]ボタンで、全ボタンが青色にライトアップされるイルミネーション機能は相変わらず美しい。

 また、十字キーのサイズ、突起の位置、中央の[ENTER]ボタンのクリック感は好感触で、操作がしやすく、よくできていると感じる。

 リモコン上、画調モード切り替えボタンと十字キーの間に鎮座する黒地のボタン群は、ブラビアリンクおよびHDMI-CEC機能活用のためのもの。Blu-ray機器やビデオカメラなどの各種再生制御を行なう際にはこのボタンを活用することになる。

 十字キーより下側には、メニュー階層を潜ることなく、比較的調整頻度の高い各画調パラメータの調整を直接行なうための操作ボタンが並ぶ。

本体正面向かって左側、接続端子パネル上側に非常用の操作ボタンがフタ下に隠れている。リモコンが見当たらないときには、ここを押すことで本体操作が可能

 メニュー構造は従来機とほぼ同一。操作レスポンスはまずまずの早さ。メニュー操作において、一階層戻るための操作キーがほとんどの設定項目で[←]ボタンが使えるが、設定値を[←][→]ボタンを用いて左右スライダーで設定する項目に関してはこの操作が使えない。競合他機種のようにリモコン上に[BACK]ボタンは欲しい。

 電源オン操作をしてから、HDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約59秒。このタイムは最近の機種としてはかなり遅い部類だ。

 入力切り替えは[INPUT]ボタンを押すことで入力端子切り替えメニューが起動し、表示されている入力系統名を十字キーの上下操作で選択して切り換える方式。[INPUT]ボタンを連続で押すことで順送りすることも可能。切り替え所要時間はHDMI1→HDMI2で約3.5秒(実測)、HDMI→入力Aで約3.5秒で、若干前モデルよりも高速化されたようだ。

 アスペクトモードの切り替えは[WIDE MODE]ボタンで順送り式に行なう方式。切り替え所要時間は約1.5秒。一瞬画面表示が消えるのでやや待たされている感がある。用意されているアスペクトモードは以下の5モードだ。

ワイドズーム アスペクト比4:3映像の疑似16:9化
ノーマル アスペクト比4:3映像のアスペクト比維持表示
フル アスペクト比16:9映像向けのモードで入力映像をパネル全域に表示
ズーム 4:3映像にレターボックス記録された16:9映像を切り出してパネル全域に表示
アナモーフィックズーム シネスコ2.35:1記録された映像を、アスペクト比を無視してパネル解像度でフル表示する

 アナモーフィックズームモードは前述したように、シネスコ2.35:1(2.40:1)記録されているコンテンツをアナモーフィックレンズキットを使用してフル解像度で視聴する際に利用する特別なモード。VPL-VW85においても純正品としてのアナモーフィックレンズは設定されておらず、PANAMORPH製などの市販品を利用することになる。

「画質設定」メニュー 「画質詳細設定」メニュー 「スクリーン設定」メニュー 「初期設定」メニュー 「機能設定」メニュー

 なお、メニュー項目のラインナップは、過去のVPLシリーズから変更がないので、基本的な設定項目の詳細については本連載VPL-VW200の回VPL-HW10の回VPL-VW80の回を参照して欲しい。

 本稿では変更のあったパラメータについてのみ触れることにする。

 VPL-VW85ではガンマ補正のプリセットガンマモードがVW80の6種類から、10種類へと増加している(ガンマ補正オフ設定を除く)。モード名は「ガンマ」に数値の1〜10が付けられているだけで、VW80の同一番号モードとの互換性はなく、いささかユーザーを突き放した感じの機能設計となっている。

「ガンマ補正」選択メニュー 「ガンマ補正」調整メニュー

 ガンマ1が最も明るさ重視のモードで最暗部もかなり持ち上げた画調となっており、ガンマ2→3、4、5となるにつれて暗部が締まっていき、明部のピーク輝度も下がっていく。これらのガンマモードはプリセット画調モードでは使われていないため、あえて設定しない限りは日の目を見ることがない。

 ガンマ6はプリセット画調モードの「CINEMA2」で採用されているモードで、若干暗部階調を持ち上げたマット系スクリーンに適したモードのようだ。おそらくはVW80のガンマ5に近いモードだと思われる。

 ガンマ7はプリセット画調モードの「STANDARD」に採用されているモードで、若干暗部を沈め、明部を持ち上げてコントラストを強調したモードになる。

 ガンマ8はプリセット画調モードの「DYNAMIC」に採用されているモードで、暗部の沈みこませと明部の持ち上げをガンマ7よりもさらに強くした感じになっている。

 ガンマ9は標準ガンマ(ガンマ補正オフ)よりも明部を強調し、ハイライトのダイナミックレンジを強調したチューニングとなっている。「フィルムコンテンツ鑑賞に適したモードである」という説明がなされており、実際、プリセット画調モードの「CINEMA1」に採用されている。

 ガンマ10はガンマ9をベースにしているが、暗部を少し持ち上げたチューニングだ。

 ガンマ補正オフは標準的な階調モードに相当するもので、マスターモニター的な用途を想定したプリセット画調モードの「CINEMA3」に採用されている。

ガンマ補正=ガンマ1 ガンマ補正=ガンマ2 ガンマ補正=ガンマ3
ガンマ補正=ガンマ4 ガンマ補正=ガンマ5 ガンマ補正=ガンマ6
ガンマ補正=ガンマ7 ガンマ補正=ガンマ8 ガンマ補正=ガンマ9
ガンマ補正=ガンマ10 ガンマ補正=切

 もう一つ、VPL-VW80との相違点として挙げられるのは、広色域モードの設定に相当する「カラースペース」の設定バリエーションの追加だ。VW80ではsRGB準拠の「ノーマル」と光源ランプのポテンシャルを生かし切る「ワイド」の2種類しかなかったが、VW85ではワイドに3つのバリエーションが設定された。

「エキスパート設定」メニュー

 「ワイド1」はフィルムコンテンツ向けの色調を想定したチューニングがなされているとのこと。傾向としては赤が鋭くなり、人肌に暖かみが生まれるような印象。プリセット画調モードの「CINEMA1」はこのモードを採用している。

 「ワイド2」はデジタルコンテンツ向けの色調を想定したチューニングがなされているとのこと。ワイド1よりも全色の色調が豊かになるが、若干人肌に黄味が乗るきらいがある。プリセット画調モードの「CINEMA2」はこのモードを採用しており、今回の評価ではブルーレイコンテンツとの相性は一番よいと感じた。

 「ワイド3」は、VW80の「ワイド」に相当するモードで、光源ランプのポテンシャルを生かし切った最大色域表現を行う。より発色が記憶色に近い感じになり派手さが増す。なお、プリセット画調モードの「STANDARD」と「DYNAMIC」はこのモードを採用する。

 「ノーマル」は、sRGB準拠の色域に従ったモード。マスターモニター的な活用を想定した「CINEMA3」はこのモードを採用している。

カラースペース=ノーマル カラースペース=ワイド1
カラースペース=ワイド2 カラースペース=ワイド3

 


■ 画質チェック〜フォーカス性能の向上と色収差低減が図られ、光学的アプローチの高画質性能を身につけた

 VPL-VW85の映像コアはソニーが誇る反射型液晶パネル「SXRD」(Sony Crystal Reflective Display)を採用している。採用SXRDパネルの公開素性は0.61型のフルHD、1920×1080ドットタイプで、製造プロセスは0.25μm。

 VW85のパネルも従来モデルから改善を加えたものという。ただし、製造プロセスは同じで、解像度とパネルサイズも同じなので開口率に大きな変化はないと思われる。また画素応答速度も倍速駆動応答に対応した2.0msで先代から変更がない。従って、今回のパネルの改良点は、おそらくパネル成形精度の向上などにあると思われる。プロジェクタ用の映像パネルは、成形精度を上げることでその画素セルの厚さの均一化と平坦化が推し進められ、これがひいては理想的な光出力特性へと結びつく。光出力特性が向上すれば、当然画質は向上するはずだ。VPL-VW85はマイナーチェンジモデルではあるが年次改良としては十分な進化を遂げたと言えそうだ。

 公称最大輝度は800ルーメンで先代VPL-VW80と変わらず。フルHD機でも、バリュークラスは軒並み1,000ルーメンを超えてくる中にあって、この値はいささか低く見えるかも知れないが、黒表現にこだわった上級機では800ルーメンあたりにあえて抑えるのが最近モデルのトレンドであるため、これはマイナスポイントにはならない。とはいうものの、実際には画調モードを最も明るい「CINEMA2」あたりに設定すれば、蛍光灯照明下でもデータプロジェクタ的に使えてしまうほど明るい。

ランプコントロール=高。800ルーメンモード ランプコントロール=低。低輝度モードでは色に渋みが出る

 公称コントラスト比は12万:1を謳う。これは動的絞り機構の「アドバンスド・アイリス」を有効にさせた状態、いわゆるダイナミックコントラスト値になるが、同条件の先代VW80の6万:1の二倍の値に相当する。ピーク輝度は800ルーメンと、先代から変わらないのにダイナミックコントラスト値を向上させられたのは、動的絞り機構が改良されたため。先代の「アドバンスド・アイリス"2"」から「アドバンスド・アイリス"3"」となったVW85の動的絞り機構では、先代機以上の的確な絞り駆動が行なえるようになった、という説明がソニーよりなされているが詳細は不明。おそらくは、動的絞り機構のレスポンス向上や、映像エンジン側の表示映像の分析精度の向上などが行なわれたと思われる。

 実際に表示映像を見てみると、ピーク輝度が先代と同じ800ルーメンでありながら、視覚上、ハイライト表現のハイダイナミックレンジ感が強い印象を受ける。

「シネマブラックプロ」メニュー 「アドバンスドアイリス」メニュー 「アドバンスドアイリス」-「応答性」設定メニュー

 アドバンスド・アイリスが効く「CINEMA1」などの画調モードで全黒映像を表示したときのスクリーン状の表示はかなり暗く、この状態の投射レンズを覗き込んでも全く眩しくない(が、真似はしないでほしい)。黒表現はきわめて部屋の暗さに近くなっている。

 アドバンスド・アイリスをオフにした「CINEMA2」では、気持ち明るくなるが、投射レンズを覗き込んでも全く眩しくない点は変わらない。つまり、動的絞り機構に頼らず、SXRDパネルの制御だけでも十分な黒画素表現が行なえていると言うことだ。

 階調表現は先代の完成度をそのまま継承した印象。最暗部はかなり暗く、漆黒からなだらかに立ち上がり、最明部はまばゆいばかりの明るさを持っている。最暗部の色味表現も優秀で、黒浮きが少ないことから最暗部の色がグレーに埋もれずにちゃんと発色してくれている。特に広色域モード(カラースペースがノーマル設定以外)では、暗いシーンを見ていても色情報量の多さと黒の奥行き感に、投写型映像機器を見ていることを忘れることがあったほど。

アドバンスドアイリス=オート1 アドバンスドアイリス=オート2 アドバンスドアイリス=切

 発色は、今回もまたキセノンランプライクな色調を実現しており、水銀系ランプの光源で作っている色とは思えないほどナチュラルだ。純度の高い原色表現は今期のプロジェクタ製品ではトップレベルだろう。青の深みと緑のみずみずしさはいうまでもなく、CINEMA1モードの赤は特に鋭く見えており、VPL-VW85ならではの個性になっていると思う。

 人肌表現も、水銀系ランプの黄味感は最低限で、肌表現のハイライト付近、白に近い肌色の透明感は特筆に値する。特にCINEMA1やCINEMA3の肌色の完成度はトップエンドのVW200をも脅かすほど高い。

 色深度も良好で、二色混合のグラデーションなどを表示させてみても非常になだらかな混ざり具合を見せる。

 ここまでの色表現が出来てしまうと、今やキセノンランプの優位性というのは、VPL-VW200登場時と比較すると、かなり薄まったという気がする。おそらく、1対1で比較すれば、キセノンランプの色特性が優れていることは分かるのだろうが、それでもVPL-VW85の光源ランプの3倍の値段の価値があるかどうか……という問いに対しては、答えに詰まってしまう。VW85の色表現はそうした域にまで達していると言うことだ。

「色温度」メニュー 「カスタム色温度」メニュー
色温度「高」(9300K)設定 色温度「中」(8000K)設定
色温度「低1」(6500K)設定 色温度「低2」(6000K)設定

 また、今回の評価で、特に素晴らしかったのは、投射レンズ性能。スペック的には先代VPL-VW80と変わらないはずなのだが、投射映像を見る限りは、明らかに良くなっているのが分かる。

 画面中央で合わせれば画面外周までしっかりと合う、フォーカスの一様性が向上しており、まさにARC-F(オール・レンジ・クリスプ・フォース)の名を体現した性能となっている。

 VW80の評価の際に指摘した、画面全域にわたって出ていた色収差も、VPL-VW85では改善を見ている。昨年試用したVW80では画像処理で色収差を擬似的に吸収する「パネルシフトアライメント」の機能を活用しなければ、1ピクセル単位の高周波表現の解像感劣化が否めないという弱点があったが、VW85はこの機能のお世話にならずとも理想的なフルカラーピクセル表現が出来ている。

レンズシフトを活用し、画面の左下で撮影。フォーカス感は向上し、色収差は低減された

 今回の評価では洋画ブルーレイソフト「サブウェイ123・激突」を視聴したが、このフォーカス性能のさらなる向上と色収差改善のためだろうか、筆者はソフト側のフルHD解像度を超えたような高精細感を感じた。オーバーな表現ではなく、まるで視力がよくなったような、あえていうならば超解像処理が介入したかのようなクリア感がVPL-VW85の映像からは感じられたのだ。

 さて、VPL-VW85が、VW80のリファイン版とすれば、期待してしまうのはソニーの残像低減技術「モーションフロー」のパフォーマンスだ。


「Motionflow」メニュー

 モーションフローとは、ソニーの液晶テレビ「ブラビア」シリーズの倍速駆動技術をSXRDプロジェクタに応用したものだ。映像エンジンはVW80のものと同世代「ブラビアエンジン2」であり、駆動倍数も同じ2倍速となっている。

 VPL-VW85のモーションフローは、VW80同様、表示フレームと表示フレームの間の中間フレームを算術合成する「モーションエンハンサー」と、映像表示をブラウン管ライクに疑似インパルス表示する「フィルムプロジェクション」機能の2つから成り立っている。

 まずは倍速駆動技術の根幹技術でもある補間フレーム技術「モーションエンハンサー」についてだが、VW80の評価時、筆者はブレーレイソフトの「ダークナイト」の冒頭のビル群のフライバイシーンでビルのディテール表現に激しい振動とブレが出ること、同じく冒頭の悪党がケーブルを伝ってスライドするシーンで人物周辺に強いモヤノイズが現れることを報告した。結論から言えば、残念ながら、VW85でも全く同一のアーティファクトが確認された。これは倍速駆動時にモーションエンハンサーが生成する補間フレームのエラーが引き起こす現象だ。前者の振動現象は画面内の類似(反復)パターンが移動したことで動きベクトル計算を誤ることから生まれるもの、前者のモヤは動体と背景物の境界付近に挿入した補間ピクセルと実フレーム側のピクセルとの誤差の多さが引き起こすノイズだ。

 どうやら、今回のVPL-VW85の開発では、ここの改善までは手が回らなかったようだ。

 また、VW80評価時に「モーションエンハンサーはあまり積極活用したいと思わない」と記したが、なんとVW85に追加された3つのCINEMA画調モードでは、いずれもプリセット状態でモーションエンハンサーが「切」設定となってしまった。ウリの機能であるはずのモーションエンハンサー機能をオフにしてしまっているのは、メーカー側としてもこの問題を大きく捉えているからだろうか。

 後者、フィルムプロジェクションは、黒フレーム挿入の長短でモード1、2、3が選択可能となっており、モード1が"明"フレーム表示期間が短く黒挿入期間が長い"暗い"モード、モード3が“明”フレーム表示期間が長くて黒挿入期間が短い"明るい"モードになる。モード2はその中間的な位置づけ。

 VW80の評価の時にも「映写機的な雰囲気が味わえるが、明滅が煩わしく感じるかも」と記したが、VW85でも見た目としての代わり映えはなく、常用したいとは思わない。実際、この機能は、全プリセット画調モードにおいて「切」設定となっており、こちらもやや隠し気味な扱いとなっている。

 


■プリセット画調モードのインプレッション

●ダイナミック

 モード名の割には色や階調の破綻は少なく、しかも、ランプモードは「高」設定ではあるが、画調を過度に輝度方向に振っていないため、意外にも実用性は高い。

 VW80の同名モードではアドバンスド・アイリスを「切」設定にしていたが、VW85ではこれを「オート1」設定にしており、暗いシーンても黒浮きは最低限に抑えられている。

 色温度が「高」(9300K)なので、青みの強い、いうなれば、ちょうどPC用液晶ディスプレイのようなホワイトバランスになっている。カラースペースは「ワイド3」で、VPL-VW85の最大色域を選択しているせいで記憶色再現に振られているが、肌などの発色は、他機種同名モードと比べれば破綻は少ない。

 ガンマ補正は「ガンマ8」を選択しており、最もハイコントラストな映像が得られる階調特性になっているが、黒はちゃんと漆黒から始まっている。明部になればなるほど多くの輝度エネルギーを割り当てている階調特性だが、中明部は意外にも「スタンダード」よりも暗い。照明をやや付けた状態での視聴は、むしろ「スタンダード」の方が明るく見えることも多い。

 「ダイナミック」は、あくまで「ダイナミックレンジ重視の画調モード」というコンセプトのようで、モード名に臆することなく、ゲーム、アニメ、CG映画などを視聴する際には普通に使ってみてほしい。

●スタンダード

 ランプモードは「高」、アドバンスドアイリスも「オート1」、カラースペースも「ワイド3」なので、前出の「ダイナミック」によく似た傾向の画調だが、色温度を「中」(8000K)としていることから、「ダイナミック」よりも発色の傾向やホワイトバランスがナチュラルな感じになる。ガンマ補正は「ガンマ7」としており、「ダイナミック」で利用していた「ガンマ8」よりもコントラスト感を抑え気味としている。裏を返すと、「ダイナミック」よりも、暗部階調描写に輝度パワーをやや多めに割いていることになる。

 全体的な画調としてはブラウン管テレビっぽく、万能性が高いと感じる。こちらもダイナミック」同様に、ゲーム、アニメ、CG映画などを視聴する際に試してみて欲しい画調モードだ。

●シネマ1

 ランプモード「高」、アドバンスド・アイリス「オート1」は「スタンダード」「ダイナミック」と同じで、ガンマ補正は「ガンマ9」で中明部以上の階調レベルに多くの輝度パワーを割り当てているため、「シネマ1」という名前から連想されるイメージとは逆にとても明るい画調モードとなっている。室内が明るい状態で視聴する際には、全画調モード中、最も映像が映える。

 色温度は「低1」(6500K)モード、カラースペースは、フィルム映画向けに色域を拡張した「ワイド1」を採択している関係で、「スタンダード」よりは落ち着いた発色傾向になる。

 十分な輝度パワーがあり、コントラスト感のバランスも良好、暗部の情報量も必要十分であることから、VW85のポテンシャルを推し量るには最も適した画調だ。

 筆者個人としては、この「シネマ1」がVW85の標準画調モードであると感じる。とりあえず迷ったら、この画調モードだ。

●シネマ2

 シネマ系画調でありながら、ランプモードを「高」設定、アドバンスド・アイリスを「切」設定、ガンマ補正も暗部階調をやや持ち上げた「ガンマ6」を選択していることから、「シネマ1」のように明るい画調となっている。アドバンスド・アイリスを活用しないため、最暗部の沈み込みは「シネマ1」には及ばないが、暗部情報量は「シネマ1」よりも多い。

 色温度は「低2」(6000K)で「シネマ1」よりもさらに赤味の強いホワイトバランスとなり、カラースペースはデジタルシネマ向けの色域拡張を行なったという「ワイド2」で、発色はそれなりに鮮やかめ。

 ブルーレイの映画ソフトとの相性はよく、VPL-VW85の広色域感と高い輝度ダイナミックレンジ感を味わうのには最も適した画調モードだと思う。トーンの暗い映画ならば「シネマ1」、一般的なアクション映画ならば「シネマ2」がお勧め。

●シネマ3

 VPL-VWシリーズには今までありそうでなかった「マスターモニター的な画調」で、ガンマ補正は「切」設定、カラースペースもsRGB準拠の「ノーマル」設定とし、「何も足さない、何も引かない」を信条に作り込まれている。

 色温度は「シネマ2」と同じ「低2」(6000K)で、赤味が強めのホワイトバランスで、この部分にシネマ系画調を感じ取れるが、発色の傾向としては徹底した"自然志向"が貫かれていて、よい意味で「無個性」だ。

 人肌の発色は全モード中、「シネマ3」がベストと感じる。「シネマ3」以外の他の全ての画調モードはカラースペースをワイド系設定にしているため、肌色に黄味や赤味が乗りがちなのだが、「シネマ3」の肌色にはこれがない。

 なお、アドバンスド・アイリスは「切」設定なので、最暗部の沈み込みは「シネマ1」に及ばず。

 悪く言えば、全体的に地味な画調だが、コンテンツの素の状態を楽しむためには最も適した画調モードだといえる。VW85のもう一つの標準画調とも言え、他のソニー画調に満腹を覚えたときには、ここに立ち帰るとよいだろう。


■ まとめ〜極められた映像機器としてのポテンシャル。残された課題は?

 VPL-VW85は、型番からもそうと分かるVPL-VW80のリファイン版だが、光学系やパネルの改善などの相乗効果もあり、前モデルから大幅に進化させたバージョンと言える。

 特に光学性能の高さは特筆モノで、昨年のVW80のピクセル描画とは完全に別物だ。それと、前回のVW80の時にも使った表現だが、トップエンド機のVPL-VW200を含めて、どの歴代のVPL-VWシリーズよりもコントラスト感が高いと感じた。ただ黒の沈み込み幅が拡大しただけでなく、ハイライト表現のダイナミックレンジも拡大されたことが、この圧倒的なコントラスト感を実現しているのだと思う。

 映像コアと光学系が劇的に改善され、映像機器としての素性はこの上なくよくなったVW85だが、他に改善の余地があるとすればやはり映像エンジンだろうか。

 特にモーションエンハンサー(補間フレーム)の精度には大きなブレ(失敗時と成功時の落差)があり、すでにプリセット画調でも使用を控えているという現状は少々自虐が過ぎる。この部分には次回、大きなテコ入れが入ることを期待したい。

 それと、筆者はじめとした大画面マニア達は、プロジェクタ機器にウリ機能として搭載される倍速駆動機能をあえて使わないというユーザーも多い。VW85の光学性能、コントラスト性能、画調性能を受け継ぐも、倍速駆動を省略した、一昨年のVPL-VW60の後継となるようなミッドレンジ機の登場も期待したい。

(2010年 2月 26日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。