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マーク・サーニーが明かす「PS4 Pro」の秘密。「解像感の高い4K」のための工夫

 PlayStation 4 Pro(PS4 Pro)は、「4K世代」に向け、PS4をアップデートしたハードウエアである。9月の発表以来、ハードウェアスペックは語られてきたが、デモを見たわけではないユーザーの立場から見ると、「実際にどう違うのか」分かりづらい部分があったと思う。エンターテインメントとしての「ゲームのビジュアル」がどこまで進化するのか、半信半疑な部分もあろうかと思う。

 今回は、PS4のリード・システムアーキテクトであるマーク・サーニー氏に、「PS4 Proの設計思想と秘密のテクニック」について聞いた。

PS4のリード・システムアーキテクトで、ゲームクリエイターのマーク・サーニー氏

 なお、今回の取材は、ソニーの4K・HDR対応のテレビである「BRAVIA Z9D」とPS4 Proのセットでデモンストレーションを受けながら行なった。その機材や素材の撮影は許可が下りなかったので、様子を直接お伝えできないことをご了承いただきたい。

PS4 Pro。PS4を2層から「3層」にしたようなデザイン。発売から3年が経過したPS4を「世代を変えずにパワフルに」した

4K+HDRの効果は絶大! 視力が上がったと感じるほどの解像感

 取材はまず、PS4 Proで映像がどう変わるかを説明するところからスタートした。デモの模様は写真などでお伝えできない。だが、仮に、筆者が撮影した拙い写真をPCやスマホの上で見ても、“あの違い”がきちんと伝わるか、不安である。

「差がない」のではない。

 差は、一見して誰もがわかるくらいにある。ゲームによっては、4K+HDR+PS4 Proの映像は、同じゲーム機とは思えないくらいの差になる。ただしそれは、縮小された画面写真では伝わりづらい。ディテールがはっきりし、色域が豊かになり、陰影がより自然なものになる。4Kテレビの映像と2Kテレビの映像を見比べると「目が良くなったように感じる」時がある。SDTVからHDTVへの移行でも感じたはずだ。同様の効果が、PS4とPS4 Proでも感じられる。

 SIEから、PS4 Pro向けに最適化されたタイトルのスクリーンショットをご提供いただいたので、それを見ていただこう。これは、宣伝のための作られた高解像レンダリングではなく、PS4 Pro実機から得られたデータである。

PS4 Pro対応対応の一つ「Days Gone」(発売日未定)。ディテールはもちろんだが、HDRらしい明暗と色の豊さに注目
「inFAMOUS First Light」は、2014年9月に発売された、PS4向けとしては比較的初期のタイトルだ。だが、「PS4 Pro最適化パッチ」によって画質は大きく向上する

 PS4向けに作られたゲームは、1,920×1,080ドット(2K、1080p)のディスプレイに合わせて作られていた。PS3世代から、画質はさらに進化していたが、それでも、遠景にはちらつきがあり、電線にはジャギーが走り、葉のエッジはつぶれてしまっていた。

 だがPS4 Proにおいては、それらが劇的に改善される。その結果が前掲のスクリーンショットである。

 色域はHDTV標準のITU-R BT.709から、BT.2020に拡大される。だが、サーニー氏によれば、「今のタイトルは、BT.2020の色域を使えるものの、BT.709に近い領域だけを使っている。2020を活かすのは、まだまだこれからのタイトルでしょう」という。それでも、PS4 ProでのHDRの効果はめざましく、オリジナルPS4から出力される映像が文字通り「色あせて」感じられるほどだ。

 こうした効果は、4K+HDRの、最高のテレビでだけ現れるものではない。2Kのテレビでもはっきりわかる違いが出る。遠景のちらつきやジャギー、モアレの軽減効果が高く、ディテール豊かな映像になる。4K+HDRに比べるともちろんインパクトは落ちるので、ゲームの映像にこだわりがない人にはそこまで強い印象を与えないかも知れない。だが、PS4 Proに興味を持つようなゲーマーならば、誰もが「おお」と感じられると思う。

 すなわち、PS4 Proによるビジュアルの進化とは、単に4Kになってレンダリング解像度が上がった、という変化ではなく、「ゲームの映像の中で解像感を下げる要素」を改善し、トータルでのクオリティを上げるものなのだ。そしてその効果は、4K+HDRのディスプレイで見た時に、もっとも大きなものとして感じられる。

 PS4 Proに向けた最適化は、多くのタイトルで行なわれることになる。サーニー氏はその中でも「HORIZON ZERO DAWN」(2017年3月2日、SIEより発売。開発はGuerrilla Games)での体験を強く推す。筆者もデモを見たが、解像感と色の豊かさの産む効果は絶大で、PS4 Proを買った人ならば、ぜひ体験して欲しいタイトルだと感じた。

2017年3月2日に発売が予定されている「HORIZON ZERO DAWN」。PS4 Proに完全対応。HDRの品質も解像感も高く、サーニー氏もお勧め

PS4 Proは「PS4」。性能が上がっても互換性は「100%」

 ゲームのビジュアルの変化、というと、「ゲーム機としての世代があがる」、というイメージが強い。PS3からPS4はもちろんだが、過去、ゲームコンソールのハードウエア「世代」がジャンプする時は、ビジュアルの変化が人々を引きつけてきた。

 サーニー氏は「それはグラフィックだけのことでありません」と切り出した。すなわち、PS4 Proは「次世代」ではない、ということだ。

サーニー氏(以下敬称略):ゲーム機の世代が進化するごとに、新しくできることが増えていきました。CPU・GPUの違いに加え、コントローラーやディスプレイデバイスのサポートも変わりました。世代間にはそれぞれ明確な変化があります。新しい能力が新しいタイプのゲーム開発を可能にします。(PS4を含む)現在のゲーム機は「第八世代」にあたります。そうした変化は「良い種類の混乱」ではありますが、代償もあります。

 初代PlayStationは特にチャレンジングなものでした。3Dでのゲーム作りや、CD-ROMという数百メガバイトのメディア……いまとなってはかわいい感じですが(笑)、の使い方を考える必要がありました。横スクロールからFPS/TPSのようなゲームへの変化を産みださなければならなかったからです。結果として、4分の1のゲームクリエイターが、PS1世代で脱落しました。PS2は表現がリッチになりましたが、特異なアーキテクチャを採用していたため、3角形一つを表示するにも、色々な学習が必要になりましたし、PS3では、CELLプロセッサーの使いこなしに苦労しました。

 PS4は前世代に比べかなりシンプルなアーキテクチャを採用しています。しかし、GPUは大きく進化し、私がゲームデベロッパーのみなさんにPS4のGPUについて説明する資料は434ページにわたるものになってしまっています(笑)

 我々は、ゲーム機の世代進化がなくなるとは思っていません。それがゲーム業界にとっては健全な考え方だからです。

 しかし、PS4 Pro開発の目的は「新世代を始める」こととはかなり違うんです。

 ひとつは、4K+HDRのような新しいディスプレイデバイスが出来たから、それを使えるゲーム機が必要、ということです。もうひとつ、コンシューマは他の家電製品、例えばスマートフォンやPCで「もっと回転の速い」ものに慣れてきています。

 そうしたことを、デベロッパーコミュニティがどう考えるのか考慮し、より高いモチベーションをもたらすにはどうすべきかを考えた結果生まれたのがPS4 Pro、ということです。

 PS4 Proは、PS4に比べ、SoCの能力が大幅に向上している。GPUの演算を司るコンピューティングユニット(CU)の数が「18から36」に倍増し、動作クロックも「14%上げた911MHz」にすることで「1.84 TFLOPSから4.20 TFLOPS、2.28倍にパワーアップ」している。メインメモリーであるGDDR5の動作クロックも「24%上げて、帯域が218GB/Sec」に向上した。(以上、括弧内はすべてサーニー氏のコメント)

 この性能をグラフックの向上に活かしたのがPS4 Pro、ということになる。

 サーニー氏は、また別の表現で、PS4 Proを説明してもいる。

サーニー:PS4 Proにおいて「2160p(筆者注:3,840×2,160ドット)で動かす」ということは、PS4において「全タイトルを1080pで動かす」ことと同じ意味合いになるようにしたかったのです。

 とはいえ、デベロッパーが能力を解像度優先で使うか、他の部分優先に使うかは、ルールを定めてはいません。自由な判断で使えます。我々の技術を自由に使っていただける環境を整えることが、ゲームデベロッパー・コミュニティによい影響を与えると信じています。

 もうひとつ重要な点がある。PS4 Proは「PS4のバリエーション」であり、完全な互換性を備えている、ということだ。

サーニー:これまで開発されてきた700あまりのタイトルについて、デベロッパーが開発時のコードに戻って修正してください……とお願いはできません。「そのまますべて」ゲームが動かなくてはいけません。

 PCと違い、ゲームタイトルごとに動作の最適化を計るコンソールゲーム機では、「CPU性能・クロックが上がったらその分性能が上がった」と単純に喜ぶことはできない。タイミングが変化するため、そこで「スタンダード版では出なかった不具合が発覚する」可能性があるからだ。

 そのためPS4 Proでは、スタンダード版PS4のゲームを「まったくそのまま」動かす場合には、スペックが「スタンダード版PS4と同じ」になる。CPUなどのクロックをスタンダード版に合わせた上で、GPUについてもスタンダード版と同じ量のCUしか使わない。PS4 ProのGPUは「蝶が羽根を広げるように」(サーニー氏)、スタンダード版PS4と同じ構成のものが並んで配置されている。その半分だけを使うわけだ。とはいえこれはGPUが2つ搭載された、ということではなく、あくまで1つのGPUとして構成されている。CPUのコアアーキテクチャを「Jaguar」世代のままとしたのも、互換性を維持するためだ。

 逆にいえば、ゲーム側で「パワーアップ版」としての価値をきちんと活かすには、PS4 Pro向けの対応が必須だ。PS4 Pro向けの最適化を施した「PS4 Proモード」を持たないゲームは、すべてスタンダード版PS4とまったく同じ画質になる。

「1%の作業量」でPS4 Pro対応を! ハード構成もそこに特化

 PS4 Proが「次世代ではなくパワーアップ版である」ということは、アンドリュー・ハウス氏のインタビューなどでも出てきたことであり、もう理解されていることだろう。では、その技術選定については、どういう発想で行なわれていたのだろうか? そこにPS4 Proのユニークな点がある。

サーニー:世代の途中のコンソールということですから、なによりもデベロッパーの労力が最小限でなくてはなりません。

 9月8日にニューヨークで開かれたカンファレンスで、PS4 Proに対応したタイトルのデモンストレーションを公開しましたが、あの開発には「たった1人」のプログラマーしか関わっていません。我々の目標は、PS4 Pro対応に関わる開発工数を、ゲーム全体の開発工数の「1%以下」に抑えることでした。そのターゲットは十分達成できているのではないか……と思います。

 この目標設定は強烈だ。得られた結果を見ると、たったそれだけの作業で行なえているとは思えない。「Days Gone」のPS4 Pro対応の作業も「2人月」(サーニー氏)しかかかっていない。基本的な部分は「1人が3週間程度で終わった」ともいう。しかもこれは、後述する新しいテクノロジーの導入と検証を含めて、である。ということは、同じゲームエンジンを使って開発する場合、以降はそのノウハウを使い、より工期の短縮も可能になる。別途品質保証などの工数も必要にはなるが、想像以上のハードルの低さだ。

 すでに述べたように、PS4 Proを「パワーアップ版」として活かすには、対応作業が必須になる。それが重いものであると、ゲームデベロッパーもそこには及び腰になるだろう。だが、ごくシンプルな作業で済むなら話は別だ。4K+HDRへのフル対応でなく、フレームレートの安定化程度であれば、サーニー氏のいう作業量よりもさらに楽だ。

 もちろん、これにはいくつもの秘密がある。

 もっとも大きいのは「4K世代ではあるが、4Kでストレートに描画することを想定しない」ということだ。

 と聞くと、「なんだアップコンバート的なものか」と思われそうだが、言葉から受ける印象と、画質から受ける印象はまったく違う。冒頭で述べたように、PS4 Proの「4K対応」には目覚ましい効果がある。2K以下でレンダリングし、最終的な表示を4Kに拡大したものとは大きく異なる。周到な計算のもとに「コストエフェクティブ」な技術を多く導入することで、見た目には「明らかに4K世代」になるよう、工夫しているのである。

サーニー:GPUについてはスマートな使い方を狙いました。全体的な能力を伸ばすいくつかの機能を追加しています。PS4が出た時のように、「434ページのパワーポイント資料を必要としない」もので、ですが(笑)

 我々のGPUはカスタムGPUです。AMDのロードマップからどういう機能を追加し、またどのようなカスタム機能を追加するかを選択して構成しています。

 そうすることで、画質を「ネイティブ4K」に非常に近いものにすることができました。

 これは、PS4 Proが「PS4世代」である、ということと大きく関係している。
 SDTV向けのゲームがHDTV向け(PS2世代からPS3世代)になった時、ゲームの中で使うモデルやテクスチャーなど(アセットという)は、HD世代に変わった。PS4世代になって、1080pが当然になった時も、画質を上げるためにアセットが変わった。なら、4K世代ではまたアセットが変わり、PS4 Pro向けには「4K向けアセットの追加」が行なわれる、と思いがちだ。

 だが、PS4 Proでは、4K向けにアセットを追加することをしない。少なくともそれは前提ではないし、「私が知る限り、デベロッパーの中で、アセットの追加を考えているところはない」とサーニー氏は言う。

サーニー:でも、ご覧いただいた通り、全然問題ないでしょう? 細部もきちんと「4Kらしい」画質になります。アセットを作り直して追加することになると、工数は1%以下どころか、数億円もの投資をお願いすることにもなりかねません。

 アセットの追加を前提としない理由は、PS4 Proのメモリーが8GBから変化していないからでもあります。メモリーが増え、アセットが増えると、それをロードし、処理する時間が必要になります。光ディスクの容量を使い切っていたら、ディスク枚数を増やすことになりますが、そんなことはできない。かといって、新しいディスク規格を作るのも……。ハードディスクにすべてをインストールする前提でも、速度の問題はあります。

 ゲーム機が「新世代」になればもっと多くのメモリーが搭載されるようになるでしょう。しかし、その時はI/Oも変化し、それにふさわしい帯域を持っていなくてはなりません。そこまですべてを変えれば、より多くのメモリーを搭載することも考えられますが、そうすることは、私たちの目的とは違います。

 とはいえ、2Kから4Kになると、画素数の総量は8倍になり、描画のためのメモリーがより必要になるのは事実だ。そのために「少しだけ、1割程度、数百MBのメモリー空間が必要になるとサーニー氏はいう。

 そこで、PS4 Proにはちょっとした仕掛けが用意された。

サーニー:PS4 Proは「PS4世代」ですから、まったく異なるアプローチを採りました。実は、メモリーを1GB追加しています。これはGDDR5のメインメモリーではないです。サウスブリッジ側に、スピードの遅いDDR3のメモリーを用意しました。元々256MBのメモリーを搭載していたのですが、これを1GBにしたわけです。

 PS4では、Netflixなどのアプリケーションが、ゲームが動作している際にもメインメモリーの中に常駐していました。そうすることで、素早く両者を切り換えられるようにしていたのです。

 PS4 Proでは、コントローラーのPSボタンが押された瞬間に、Netflixなどを「増設したメモリー」の方に移動します。こうすることで、メインメモリーを1GB空けることが出来ます。このうち、512MBをゲームに割り当てます。すなわち、従来の「5GB」ではなく、「5.5GB」分使えるわけです。残りはほとんどが、4K化された、PS4のシステムメニューなどに使います。

 これで、アセットはまったく同じままで、高解像度・高画質な映像を実現できます。

 PS4には「セカンダリープロセッサー」と呼ばれるサウスブリッジがあり、省電力化などに活用されてきた。そこのメモリーを増設し、「ゲームに関わらないアプリケーションの退避先」として使うというのは、確かに賢く、コスト追加も小さいやり方ではある。サーニー氏はNetflixの例を挙げたが、PS4の場合、NetflixやHuluなどの動画アプリ、トルネ、メディアプレーヤーなどがこれにあたる。ゲームと同時に動き、素早くスワップできることで快適な操作性を実現していたわけだが、そうしたアプリケーションは、ゲームほど高速なメモリーを「常時」必要としているわけではないから、理に適っている。

独自技術と「2つのレンダリング」でリーズナブルな4Kゲーミングを実現

 では、PS4 ProのGPUがどうスマートに「4Kらしいレンダリング結果」を生み出しているのか? その内容は、ここまでの説明以上に専門的になるので、ある程度かいつまんで説明させていただく。

サーニー:PS4 Proでは、AMDのPolarisアーキテクチャから必要なものを採り入れ、また、一部はPolaris以降で採用されるものを採り入れています。Polarisでのテッセレーション(GPU側で粗めのポリゴンを自動分割し、ディテールを向上する技術。データ転送量削減に効果が高い)技術の改善に加え、たくさんの小さなオブジェクトの描画を加速するような技術も搭載しています。

 Polarisとは、AMDの最新のGPUアーキテクチャのことである。PS4をPolarisベースにすると互換性の維持が難しくなるので、効率化のために必要な要素を組み込んで、より効率的に性能アップを図った、ということになる。

 PS4 Proの画質向上にはエッジをなめらかに描画する「アンチエイリアシングの技術」と「レンダリングの技術」が効いている。

 PS4 Proに搭載された、SIEオリジナルの技術としては「ID Buffer」を使ったアンチエイリアシング手法がある。三角形を描く場合、エッジをなめらかにするには、エッジが含まれる部分のドットの「どれだけが領域の外で、どれだけか内側か」を判定する必要がある。

 これまでは、エッジの検出にコントラストや「奥行き情報(Zバッファ)」を用いていたものの、コントラスや奥行きの「差が小さい」時には正確な検出ができなかった。とはいえ、フレーム毎に正確なエッジ検出を行なうことは、GPUに過大な負荷をかける。

 しかしID Bufferでは、ハードウエアが自動的に各三角形にIDを振ることで、GPUの負荷を抑えた上で、正確なエッジ検出を行ない、アンチエイリアシングの精度を高めることができる。

 4Kレンダリングのためには、よりシンプルな「ジオメトリレンダリング」と、「チェッカーボードレンダリング」の2つが主に使われる。4Kの全画素で色と深度の情報を演算すると負荷が大きいので、それを効果的に減らすことを目的としている。

 ジオメトリレンダリングでは、4つの画素に1つの色と4つの深度情報を持つ。レンダリングするターゲット解像度を1080pとし、従来の1080p描画と同じ量にしつつ、しかし、深度情報は4Kと同じ800万画素分ある。さきほど説明した「ID Buffer」と組み合わせると、「どのオブジェクトがどこにあるか」を正確に把握できるので、深度情報を使い、アンチエイリアシングが正確にできる。後処理にもID Bufferを使い、色情報を伝搬させると、「1080pの演算資源・メモリーをうまく使い、4Kに近い結果」を得られるわけだ。これだと「パフォーマンスにほとんど影響なく、2160pの描画が得られる」とサーニー氏は説明する。

 冒頭の説明で、「目が良くなったように感じるほど解像感がある」としたのは、ポリゴンのエッジとテクスチャーの鮮鋭度、光沢の解像感できわめて良好な結果が得られるためである。ジオメトリレンダリングは特にそうした部分の高品質化に向いている。この場合、PS4 Proのパフォーマンスはまだ「十分に余る」(サーニー氏)ので、それを他の部分に振り分けて、クオリティアップを図ることができる。また、元々1080pに満たない「900p」の映像を、2160pに持ち上げることも可能だという。元々のレンダリングターゲットは1080pなので完璧にネイティブ4Kと同じ……とはいかないが、実装の手間も非常に小さく、リーズナブルな方法である。

 チェッカーボードレンダリングは、その名の通り、レンダリングを「格子状」に行ない、解像度を減らす方法だ。具体的には、横解像度が半分である「1920×2016ドット」分のレンダリングで4Kに近づける。横半分、ということは、格子状でなく1ライン飛ばしの「くし状」の方を思い浮かべるが、映像を補完した場合、くじ状に描くよりもきれいに補完できる。チェッカーボードレンダリングは、今年のGDCにて、Ubi Softの「Tom Clancy's Rainbow Six Siege」開発チームが成果として発表し注目を集めたのだが、以下はそのプレゼンテーションから抜粋したものだ。「くし状(左)」と「格子状(右)」でまったく品質が異なることをご確認いただきたい。もちろん、チェッカーボードレンダリングでもID Bufferを合わせて活用し、より精度の高いアンチエイリアシングを行なうことで、PS4 Proの「4K化」のクオリティは上がる。

チームが発表した内容より。右上の2つのうち、左側がくし状から、右側が格子状(チェッカーボード)から補完した例だ。詳しくは以下のURLからダウンロードできるPDFを参照

 ここまで4Kを軸に説明してきたが、こうしたテクニックはVRでも役に立つ。PSVRの解像度は960×1,080×両眼分で固定だが、負荷軽減によってよりリッチな表現が可能になるし、より高い解像度でレンダリングした上でスーパーサンプリングを行い、密度の高い描画を実現することもできるからだ。

 サーニー氏は、「こうした工夫があるから、4.2TFLOSのGPUで4Kが実現できている」とも話す。PS4 ProのSoCは、16nm FinFETプロセスが採用され、3年間の技術進化を反映したものになっている。しかも、スタンダード版(薄型)PS4に比べ、GPU規模は倍になっているわけで、SoCのサイズも大きなものになった。FinFETの導入で発熱が抑えられたとはいえ、PS4 Proを「冷やす」にはより大きなボディが必要になっている。

PS4 Pro実機。初代PS4に比べ、体積は19%増えた。主な理由は「放熱」だ

 それでも、PS4 Proは価格を44,980円に抑えている。PS4 Proが「ゲーム機」であり、しかも「付加価値を求める人のオプション」である以上、これを大幅に超える価格をつけるのは難しいし、より巨大なボディが必要になる。倍以上のパフォーマンスアップであるにも関わらず、初代デザインのPS4に比べ、体積では19%しか増えていない(CUH-1200と比較した場合)という。

 今年発売できる「4Kといえる画質でゲームが楽しめる機器」としては、このパフォーマンスがベスト、という判断なのだ。

「4Kでネイティブにレンダリングするなら、個人的な試算ですが、最低でも8TFLOPSは必要になるでしょう」とサーニー氏は言う。それは少なくとも、今年リーズナブルな価格で使える技術ではない。「一目で違いがわかるパワーアップ版PS4」とするために、PS4 Proは、非常に多くの工夫の元に作られているのだ。

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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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