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「Xperia Z1」の秘密とこれからの「スマート」戦略

ソニーモバイル・商品企画担当役員インタビュー

ソニーモバイル UX デザイン・商品企画部門 田嶋知一部門長

 平井社長に続き、ソニーモバイルの商品企画担当役員である、UX デザイン・商品企画部門 部門長・田嶋知一氏ラウンドテーブル取材の模様をお伝えする。

 今回、ソニーが「Xperia Z1」に並々ならぬエネルギーをかけており、主軸中の主軸として位置づけているのはよくわかる。では、その製品はどうやって生まれてきたのだろうか? 前モデルの「Xperia Z」や大型モデル「Xperia Z Ultra」との関係、そして、今後のプラットフォーム戦略はどうなるのだろうか?

 技術開発ポリシーから、「スマートウォッチ」まで、他では出てこなかった「濃い」話題が多数飛び出した。スマートフォンの今後を占う意味でも、「通信が必要な家電」の現在を知る意味でも、貴重なインタビューとなっている。

「半年毎のワンツー・パンチ」でライバルと戦う

Xperia Z1

 Xperia Zは今年の1月に「ソニー本気のスマホ」として登場した。他方、このIFAでは、Xperia Z1がやはり、フラッグシップモデルとして登場する。

 アップルやサムスン電子など、スマートフォンのライバルは、ハイエンド商品については「1年に一度」のモデルチェンジが一般的だ。だが、Xperiaは違うようだ。この辺の狙いはどこにあるのだろうか。

田嶋:まさにその通り。狙ってやっています。

 主要2社は、年に1回アップデートをします。我々は、「ソニーの最新のデザインにすること」「ソニーの最新の技術にすること」「最新のチップにすること」を併せ持って、かつ、彼らに対してどう戦うことを考えた結果、このタイミングでは「6カ月でフラッグシップを進化させる」ということをやる、としました。

 Qualcommさんとも話し、そして、ソニー中に散らばっているネタを春と秋に入れられるように見て、6カ月でやることにしたんです。

 そのメリットとしては、進化が小刻みにできたことです。それに、ヘビー級の他社に対し「ワンツー・パンチ」でかぶせていくという、機動力を生かしたやり方で戦った、ということなんですよ。これは、設計を回すのは相当に大変でした。

 ただし、デザイン・ランゲージであるとかユーザー・エクスペリエンスの一貫性は守っていきます。

 このような話になると、こうも思う。「Zでは、要は小出しにされたのではないか」と。しかし、田嶋氏はすぐに否定する。

田嶋:スマートフォンの業界は「手加減して勝てる」業界ではないです。むしろ毎回、そのタイミングで、最新・最高、そこでソニーがつぎ込めるものはすべて、惜しみなくつぎ込んまないといけない状態。手加減なしですし、出し惜しみも一切なし、です。

 春はワールド・モバイル・コングレス、秋はIFAと、ほとんどの世界で2回商戦の山があります。また、アジアを中心に、お客様がハイエンドに飽きるタイミング、時期がどんどん縮まってきている、ということもあるんです。

 それを避けるためには、サムスンさんのように、ある時点でぐっと値段を下げて延命するしかない、というのが実情です。

 ですから、高サイクルにすることでマージンを高くした状態でいく、ということです。平均売価を下げるとしても、半年で下げられる範囲で終えるように、ということ。1年ひっぱると、それがずーっと下まで下がってしまいますので。こうしたモデル戦略は、価格戦略にも大きな影響を与えます。

 なお現状、今後も確実に「半年更新が続くかはわからない」とソニーモバイル広報はコメントしている。他方で、ここまでの「ソニーモバイルとしてのハイエンド」戦略が、半年サイクルを強く意識したものであったことは間違いない。

 ワールドワイドでのハイエンドを見ると、ソニーモバイルは、「Xperia Z」を出し、「Xperia Tablet Z」を出し、その後にファブレットの「Xperia Z Ultra」を出し、そして今回「Xperia Z1」と、きれいにラインナップがつながっている、と感じる。

Xperia Z1。3色のバリエーション展開

 ところで、今回登場するXperia Z1の「1」は、どういう意味があるのだろうか。ソニーモバイルの「Z」という意味ならば、本来は「Z2」であり、Xperia Zが「Z1」のような気がする。しかし、その辺りには驚きの逸話が隠れていた。

田嶋:「1」には色々な意味を込めています。

 まず、「Z」については、始まり・序章という意味でつけていました。Zを仕込みし始めたのは、ソニーエリクソンがソニーモバイルになって、100%子会社になる前(筆者注:エリクソンからの株式取得の合意発表は、2011年10月。完全子会社化は2012年2月)のことでした。最終的には、カメラやディスプレイの画質調整にたくさんのエンジニアがソニーからやってきていただけて、いい商品になったのですが、次回にやりたかったのは「(ソニーの総力を)デバイスから仕込む」ことを、十分なリードタイムをもってやることでした。

 で、今回、Z1では、1年半かけて、カメラデバイスから仕込んでやりました。100%子会社になってから、十分なリードタイムをかけて作ることができたんです。ソニーの100%子会社になり、フルスイングしたのがZ1です。そして、Z1ありきでその序章として「Z」があるんです。

 ですから本当は、Xperia Zは「Xperia Z0(ゼロ)」だったんですよ。

 で、次を「Z2」にするのか「Z10」にするのか「Z100」にするのかは、悩ませてください(笑)

 ただし、「Z」をフラッグシップにすることだけは決まっています。

 現在、「ZR」や「ZL」シリーズもあり、少々複雑になっていますが、今後、フラッグシップ系は同じプラットフォームに同じソフトウェアの塊で作ることになりますので、そのフラッグシップにはある名前をつけて、そこにバリエーションをつける形にします。例えば、大きければ「Ultra」、小さければ「mini」、タブレットについては「Tablet」と付けたり、というようにです。

Xperia Z1のカメラレンズ構成

 Z1のカメラについては、ソニーから「一個師団」単位でエンジニアを派遣してもらって、ソニーモバイルのカメラチームと一緒にしてやっています。一個師団入れても、そこだけで作ってもらってはノウハウの継承ができないので、一個師団にウチの新兵を入れて鍛えてもらって……というサイクルを繰り替えしています。

 カメラ・オーディオ・ディスプレイ、すべてについて同じようにやっていますが、これはソニー100%資本になったために、人事的な回しがやりやすくなったから実現できたことです。

ソニーのスマホは「アンテナ」から設計、アルミ削り出しもアンテナありき

 Zは、本体周囲のフレームが樹脂製だった。だが、Z1はアルミの削り出しだ。ガラスの角の仕上げもかなり違う。そのため、若干重くなったものの、非常に高級感あるデザインになっている。これも「デザイン先行」のように見えて、実は技術的な裏付けがあった。

田嶋:最終的には、「Xperia Z」を始めた時から、このユーザーエクスペリエンスが続く限りは、最終ゴールは「インタラクションする一枚の板を作りたい」というものでした。限りなく「一枚のインターフェースの板」を作りたかったんです。

 Zのタイミングでは、あの作り方が一番良い方法でした。6面のパネルを貼った、一番シンプルな「板」を作ったんです。

 そのタイミングで技術から「リングでアンテナができるぞ」という話が入ってきたんです。

 商品を作る時には、いつもまずアンテナをどうするかから始めます。例えば2012年には、実は「透明アンテナ」というのにトライしたんです。ですから「フローティングタッチ」をベースにデザインを組み上げたんです。

 今回はリングアンテナをベースに考えました。Zから「一枚の板にする」というコンセプトをキープして、リングアンテナでどういうデザインができるか……を考えると、もうこれしかないんです。

 これ、周囲には継ぎ目がないんです。リングのアンテナですから。アップルさんは、継ぎ目をつけてアンテナを分割していますが、これはありません。昔のテレビの上にあったループアンテナと同じ考え方です。金属アンテナにしてそれをデザインに生かし、一枚の板にする。そして角をそぎ落とす。これ、Xperia Zでやっていた「6面の板を張っている」部分を再現しているんですよ。丸いリングの角を4つそぎ落とすと、あのデザインに近づきます。そして、ガラスの板を二枚貼りました。

 「Z」の段階で決まっていたのは、「一枚の板」というコンセプトだけです。あのタイミングでもアンテナを探したんですが、Z開発の段階では、リングアンテナはまだ決まっていなかったんです。アンテナは、特性をひたすら計測してやっと使えるようになります。Zの段階では、これを使うリードタイムはなかったんですよ。このアンテナは、金属部を手で握っても感度は落ちませんよ。

 ですから、Z1のアルミフレームは、デザインありきではないです。どうしてもリングアンテナが使いたい。だから継ぎ目のないフレームが欲しい。となると、真ん中はもったいないけれど、アルミ板の真ん中を全部くりぬいてしまえ……。という流れです。そういう順番なんです。

 もう一つこだわったのは「ガラス」です。最終的には「ガラスの透明な一枚の、インターフェースの板」にしたい。ですから、他社のように背面を金属にするようなことは、あんまり考えていません。常に「ガラスの板になにかをつける」という形をキープしたいと思っています。

 でも、ちょっと重いですよね? 重さについては内部でも大議論がありまして……。

 ただ重さって、見た目と持った時の感触に差がなければ、そんなに問題ではないのですよ。「見た目軽いのに、重い」とすごく満足度が下がりますし、「見た目金属で重そうなのに軽い」と、逆に170gあっても軽く感じます。Z1については「金属を使っていて重そう」と思って持っていただけるので、そこまで問題ではないです。

 しかしもちろん、軽量化はやっていかなくては、と思います。まだまだ進化の余地はあります。

フラッグシップは「Z」、ブランド戦略はシンプルに再整理

Xperia A SO-04E

 日本では夏に「Xperia A」が出て大ヒットした。AはZに比べ、スペック面では劣るし、デザインも異なる。AはAで良い商品なのだが、どうもちぐはぐにも見える。実はこの点を、田嶋氏もある程度認める。

田嶋:「Xperia A」というのは、ポジションとしては「非常に普及度の高い市場」で、「裾野を担うフォロワーユーザー」の方向けに扱いやすい、という視点で商品企画したものです。フラッグシップとは、ちょっと意味合いが違います。

 そうしたフォロワーの層にあわせて、オペレーター(筆者注:この場合にはNTTドコモ)とがっつり組んで作った商品、ということになります。

 ただし、Xperia ZとAで、ブランドとしてのメッセージをきれいに整理した形にしていきたい、とは考えています。たくさんのお客様に買っていただく製品も、フラッグシップとは別に用意する必要があります。ただし、コンセプトの整合性は、今回よりもピッタリとしたものを用意したいです。

 Aはちょっとイレギュラーなものになっていますが、今後は徐々に整理します。フラッグシップと、それ以外のナンバリングを、ということです。

 この言葉がなにを意味するかは、色々深読みしがいがある。「Z」のデザイン・ランゲージは「一枚の板」。そこに合わせた普及モデルが出るのか、それとも、また別のメッセージがあるのか……。

田嶋:ユーザーエクスペリエンスやアプリケーションの整合性、テイストは合わせる必要があります。

 あとはスクリーンサイズですね。筐体の持ちやすさは、お客様によって好みが異なりますし。

 スクリーンサイズのスイートスポットについては、全世界で探りを入れている状態ですね。そこについての網羅性はとっていこうと思います。

 その中で、アップルは(今秋の新製品では増えるとの噂もあるものの)あえて少品種展開をしている。サムスンは多めだ。

田嶋:サムスンに比べては、SKU(筆者注:Stock Keeping Unit、在庫管理用の製品種別のことで、製品バリエーション数に準ずるもの)は非常にシンプルになっています。

 SKUは違っても、ソフトウェアやプラットフォームは共通で、スクリーンサイズだけのバリエーションを増やしている形です。SKUを広げるというよりは、スクリーンサイズとしての「バリアント」(変種)というところでしょうか。

 開発プラットフォームとしては、ハイエンド向けが1種類、ミドル・ローエンド向けが1種類です。ミドル・ローエンドについては、1本で済むのか2つ必要なのか、考えなければいけません。特にこの層は、4Gと3Gが混ざっていたり、まだ過渡期的な部分がありますので。結果的にいくつかプラットフォームは必要かな、と思っています。そうして世界中をカバーできる、開発のポートフォリオ作りが必要です。

6.4型ディスプレイの「Xperia Z Ultra」

 そうして設計効率はキープし、でもお客様の多様なニーズには応えられるようにしています。やはり、世界中に様々ななお客様がいらっしゃいますからね。スイートスポットも違います。「Xperia Z Ultra」一つにしても、世界中で受け止められ方は違うんですよ。そこで正しい期待値を設定し、正しい導入をしないといけません。

 しかし、繰り返しになりますが、ユーザー・エクスペリエンスやアプリケーションは同じでなくてはならない。サイズによって特徴のあるアプリを乗せたりしますが、特徴性と特異性のバランスには気をつかっています。

 そこを押さえた上で、設計効率のいいやり方をやっている、ということです。

 ハイエンド向けについて気になるのは、ハイクオリティな映像・音楽などの処理を行なう部分を、ハードとソフト、どちらで実装するのか、ということだ。ハードで実装すれば、これまでの家電のノウハウをある程度生かしやすい。しかし、追加コストはかなり大きなものになるし、そもそも、スマートフォンの標準的なプラットフォームにない機構を組み込むことになり、開発工数も汎用性も落ちる。

 しかしソフト処理では、ことAVクオリティについては、平井一夫社長の言う「五感を刺激する」ようなクオリティの製品を作るためのハードルが高くなりやすい。

 「Zの系譜」では、どのようなアプローチを考えているのだろうか。

田嶋:どうするかはソリューションの問題ですね。

 やりたいことがあって、そのためにどのようなユーザーエクスペリエンスを提供するのか、そのためのソリューションにはハードとソフトの両面があって、組み合わせでできるものもある。中には自分達でできるものもあれば、プラットフォームベンダーさんに協力をお願いしないといけない部分もあります。OSベンダーとの協力も必要です。

 そうした部分の「仕分け」はとても大切ですね。戦略的にやるしかありません。このソリューション、と決めてしまう段階ではないでしょう。

 しかし基本としては、現在は専用チップがあり、それをだんだんソフトにしていって、次にはQualcommのプラットフォームにゾーンを作り、そこに組み込んでいく……という形になると思います。専用ハードからソフト化、というのは正統的なやり方ですが、そこに則ります。

 これからスマートフォンは、新興国を中心とした「低価格マーケット」の伸びが重要になる。そこでは数を追うことが必要となるが、率直にいって中国系メーカーの独壇場で、日本メーカーには厳しい。ソニーモバイルはどうするのだろうか?

田嶋:今年は4,000万台の販売を予定しています。世界で戦っていくためには、それを順調に伸ばし、さらに一桁上の世界に行かなくてはなりません。そこでの低価格機が、200ユーロで止まるのか50ユーロまでいくのかはあるでしょう。

 ただし、他社が100ユーロで売っているのであれば、我々は120ユーロで、50ユーロで売っているならば我々は70ユーロで売っていけるようになることが重要です。

 特に現在は、LTEの関係もあり、低価格な市場にも、ソニーのようなAブランドに商品を供給してもらいたい……というオペレータや消費者がいるのは事実です。そうしたところに入っていくことを「低価格で数を追う」というならその通りです。しかし、低価格な市場に入らないということではなく、そこでもプレミアムをとっていきたい、ということです。

Androidに「ソニーの価値」を入れて差別化

 Z1や周辺機器を含めた価値は、ソニーの「ハードウェア技術」から来る差異化ポイントが多い。それはそれで貴重なものだ。

 だが、それは「今のソニーの価値」を最大化したものだ。今後は体験ベースの、新しい価値を提供するようなものも重要になるし、そのためには、OS側の仕掛けも必要になる。そういった複合条件を、ソニーモバイル側としてはどう考えているのだろうか。

田嶋:今は「Best of Sony」ということで、ソニーの最高の価値を、スマートフォンというプラットフォームの上に「スパイスとして乗せて」商品にしています。

 こういう部分をすべて取り込んだ後は、スマートフォン発の「Best of Sony」を作らなきゃいけません。コミュニケーション機能を持つスマートフォンならではの便利さやエンターテインメントを、「スマートフォン発」で作らなきゃいけません。それが目指していくユーザー・エクスペリメンスのロードマップです。

 そのためにはソフトウェアのソリューションが必要。Androidの上でアプリを作り、コンテンツサービスとつないでいく、というアーキテクチャになっています。

 しかし、HTML5を契機に、ソフトウェアの多くがクラウド側に移り、アプリ・OSから切り離されていくことになります。アプリもWeb Hostedな世界になっていき、AndroidでもWindowsでもFirefoxでもかかるようなアーキテクチャに移行していきたいと思っています。そうすることで、OS・クライアントから来る制約からはできる限り離れていきたいんです。

 一方で、過渡期はまだOSとのすりあわせが大切ですから、OSメーカーとはみっちりと話し合います。そして、我々のユニークな部分が入るアーキテクチャにしてもらおうと思っています。今から自分達で独自のOSをドライブする……ということはないでしょう。

 チャンスであるのは、iOSもWindowsも、各メーカーの独自性を発揮する余地がない方向性であるのに対し、Androidはそうした部分をきっちり出せる余地がある、ということが大事だと思っています。

 アンディ・ルービンの後任になったサンダル・ピチャイもそういう方針です。彼はChromeから来たので、オープンなアーキテクチャをすごく指向してくれています。つい先々週も日本に来て、色々話をしていただいてます。メーカーによって差異をつくれる余地をしっかり残してくれる、という手応えを感じています。

 一方で彼は、サムスンがAndroidをすごく垂直統合的に作り込んでいくことに対する、カウンターパートとしてソニーを使いたい……という意図もあるようです。ですから、差異化の話などはいちばんしやすい状況にあります。

スマートウォッチの戦いはまだ序盤、本当の戦いは「次のステージ」

レンズカメラ「DSC-QX100」

 特に今回、Z1において顕著なのは「周辺機器の充実」だ。レンズカメラ「DSC-QX10/QX100」はその代表例だ。これはXperia専用の周辺機器ではないが、NFC連携も含め、「最新のXperiaなら一番簡単」であるよう配慮されている。

 また今年は、サムスンがスマートウォッチ「Galaxy Gear」を発表したこともあって、特に「スマートフォンの周辺でできる価値」に注目が集まっている。

 そうした製品の企画・開発には、どのようなポリシーで臨んでいるのだろうか。

田嶋:基本的に、スマートフォンはなんでもできる機器ですが、ソニーブランドの特徴を作るという意味では、「Listen」「Watch」「Create」「Play」という、4つのユーザー・エクスペリエンスにフォーカスし、ユニークなアプリケーションと、それをさらに生かせるようなハードウェアの「エンハンサー」を作る、ということを常に心がけています。(QX100を持って)こういう風な感じで、ですね。

 (SmartWatchを持って)こういうものについては、最終的にはもっと(スマートフォンを指さして)こっち側に進化させたい、という思いはあります。先々には、スマートフォンからスマートプロダクト、スマート・ウェアラブルに進化させるためのとっかかりの商品なので、なんでもできる商品を指向していますが、それ以外は、エクスペリエンスの領域を意識したやり方になります。

Samsungが発表したGalaxy Gear
ソニーモバイルが発売中のSmartWatch

 Galaxy Gearについて田嶋氏は、「非常に良く我々の動きを分析して作られた製品だと思う」と語る。ソニーモバイルが出したこれまでのSmart Watchを分析し、それをきっちりとエンハンスする形の製品になっていたからだ。だが、怖い製品だとは思っていないようだ。

田嶋:正直、もっとジャンプした製品をやってくると思っていて、そうなると怖かったです。それが来たらやられてしまうな……と。

 通信機能も入っていて、さらにスマートフォンのほとんどの機能を持っている……という製品を、サムスンさんを含む他社は考えているのではないか、と思っていたからです。

 でも、この範囲ならば問題ありません。SmartWatchで蓄積したものや、コミュニケーションのエコシステムで戦える範囲です。

 ただし。本当の戦いは次のステージになるでしょうね。そこに向けて他社がなにをやってくるのか。Googleと一緒になにができるのか。真剣にこれ(SmartWatch)の次を考えていかなくてはいけないと思っています。

 今のSmartWatchのフェーズは、あくまでスマートフォンの体験を拡張するものです。スマートフォンのエンハンサーです。我々の最終ゴールは、スマートフォンでできることもカバーしつつ、腕に着けているからこそできる、新しいエクスペリエンスを持つものです。行動履歴や生活情報が正しくとれて、それを生かせるところに、新しいなにかがあります。

 しかし、現在はスマートフォンの5インチディスプレイを越える操作性のスキームが、ウェアラブルでは出来ていません。ですから、技術のイノベーションがもうひとつ必要だと思っています。それができるまでは、スマホのサポート機器ですね。

「Z」の成功が「IFAのOne Sony」を生んだ?!

 こうした「積極的な周辺機器開発と製品供給」というアプローチは、スマートフォン自身の製品サイクルともマッチした動きである、という。

田嶋:実は周辺機器についても、スマートフォンのフラッグシップが「春と秋に出る」というロードマップとリンクしています。

 ソニーの各カテゴリー・ビジネスユニットの皆さんは、そうしたロードマップにあわせ、各商品の開発がしやすくなります。そうした様々な商品企画のサイクルが、いままさに出来つつある、という形なんです。

 今回、(QX100をもって)この非常にユニークなカメラと、Z1の発表を、できる限り一つにして見せようとしているんですけれども、そうすることで、ソニーが提供できるマックスの世界観を、一つの製品でなく、全体で見せることができるようになっています。それが出来はじめている……と言う状況です。

 昨日の平井の発表も、できるだけ全体像を見せるようなものになっていました。その全体像の中には、こうしたアクセサリー商品・アプリケーション・コンテンツサービス、この3つを全部見せたい、ということを考えています。

 面白いもので、映画なども、制作のリードタイムはハードウェア開発と同じで、だいたい12カ月から18カ月なんですね。ロードマップを共有すると、そういうところまで、けっこうシンクロできるんですね。キャンペーンでのバンドルだとか。

 そこまでやれば、なにか他社とは違う、ソニーブランドならではの価値提供ができるのではないか、と思います。

 Z1では、Music Unlimiedにゲーム、写真のサービスなど、「4つのエクスペリエンス」の領域を体験していただくパックをつけて、そこから気に入っていただいたら最終的に使っていただく……という形を採っています。スマートフォンから生まれる価値創造、みたいなことができないか、皆で考えながらやっているところです。

 しかしこれまで、ソニーは何年も「全社のリソースを使った価値を」「Sony United」などと謳いつつ、そうした連携がとれてこなかった。「これまではブチブチと切れていた」と田嶋氏も認める。

 今回、まだ道半ばとはいえ、そういった連携が可能になりつつあるのは、社内のなにが変わったからなのだろうか?

田嶋:人々の生活の中で、24時間のほとんどを、スマートフォンを使いながら生活するようになっています。お客様の側からも、インターフェースとなるデバイスが、スマートプロダクトに絞れてきたわけです。そこでスマートフォンがあるので、そこにターゲットを絞ります。

 そして、弊社(ソニーモバイル)が、ソニーの100%子会社になりました。そうなったことで、ソニー社内のリソースをすべてつぎ込むことに、皆躊躇しなくなった、ということがあります。

 業界のスマートフォンへのコンバージェンスと、社内的な体制の整備が同時に起きたがゆえに、うまく回り始めたのだと思っています。どちらかだけでは、回らなかったでしょう。

 大きかったのは、「Xperia Z」が非常によい勢いで市場に受け入れられたことです。周囲の事業部の方も、コンテンツサービスの方々も、「ソニーのスマホに価値を乗せれば、きちんとお客様に届く」ということがわかってきたんです。スマホがあるけれど、それが成功しないと誰も乗ってきてくれなかったでしょう。ちょうどポジティブスパイラルが回り始めたことが、大きかったと思います。

 田嶋氏は、こうも言う。

「たった3%のシェアでもこれだけ商品が動くのだから、ということが分かれば、その先どうするかも、みんな考え始めますよね」

 3%というのは、ソニーモバイルの、春の段階での世界シェアである。そこに刺激的な製品が出れば、シェアの数字では小さくても、総体の量が大きく、単価も高いのでビジネスインパクトは大きい。それが「Xperia Zでソニーに起きた変化」の一つであり、スマートフォンから見た「One Sony」ということでもある。今回のIFAの状況は、Xperia Zが生み出したものだったのだ。

タブレットの潮目は7インチにあり?!

 ソニーは、スマートフォンではある程度の地位を築きつつある。

 しかし問題はタブレットだ。世界的にみても日本を見ても、アップルとASUS/グーグル、アマゾンなどの占める部分が大きく、ソニーはまだ入り込んでいけていない。Xperia Zは商品力で攻めていけたが、Xperia Tablet Zは、商品力はあるのに攻め込めていない。「スマートフォンより上のサイズ」をどう見ているのだろうか?

田嶋:5インチから上の世界といっても、スマートフォンの延長線上でカバーできる部分と、10インチ・7インチから攻めるものとでは違います。

 これは主にビジネスモデルの話なのですが、10インチ・7インチのタブレットの領域は、アマゾンやグーグルの初期のアプローチによって、ビジネスモデルが「サブシディ(補填)でドライブされる」形になっています。ハードウェアの価値というよりは、コンテンツから得られるコストで決まる世界になってしまっています。そうした領域では、ハードウェアの価値を訴求しにくい。要は「違うマーケット」になってしまったんです。

Xperia Tablet Z

 その中でも我々の「Xperia Tablet Z」は、ハードウェアに価値を求めるお客様に、それなりに売れています。全世界の200万人・300万人にはご支持いただけました。しかし、圧倒的多数の数千万人の方々には、コンテンツビュワーとしての価値しかみていただけない。店頭でもタダだし、下手すればキャッシュバックがもらえる、といったものとしかみていただけていない。なので、最初の出だしは狂ってしまいました。

 我々としては、できるだけスマートフォンと同じビジネスモデルでカバーできるところまで上に伸ばしていきます。その一方で、コンテンツによるサブシディ(補填型)モデルとは違うビジネスモデルで戦えるようなものを、ソニーとしても組めないか、ということを考えていきたいです。2モデル、平行して考えていきます。

 正直、ハードはいくらでも作れます。商品もいくらでも作れます。あとはビジネスモデルをどっちに、どういう風に持って行くかです。

 ここで気になるのは、サブシディ・モデルによるタブレットを、ソニーがどう手がけるのか、ということだ。ソニーのコンテンツサービスでサブシダイズすることを前提にするのだろうか。

田嶋:収益の元をコンテンツに求めるのか、他に求めるのか、ということが、まずは最初です。それを決めて、それをするために、既存のAndroidやチップでできないのであれば、その開発もやらなくてはいけません。今のプラットフォームでいけるなら、効率よくやっていけると思います。

 アジアの勢いを見ると、スマートフォンの方から攻めるビジネスモデルも、7インチくらいまではスマホの売り方でいけるところがあります。その境目もジリジリあがっていっています。また我々のポジションを考えても、まだまだマーケットシェアをとれる余地はあります。

 特に7インチ近辺は、ちょうど潮目があるんです。10インチ・7インチからくる流れと、スマートフォンからくる流れがぶつかっています。どちらで行くのがエンドユーザー様に価値が高いのか……。そういうところですね。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41