西田宗千佳のRandomTracking

SCEに聞く「今のPS4」と「これからのプラットフォーム」

サマーレッスン騒動から見えるMorpheus/VRの可能性

 毎年東京ゲームショウ(TGS)に合わせてお送りしている、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)・エグゼクティブへのインタビューをお届けする。

 今年ご登場いただいたのは、SCE・ワールドワイドスタジオ(WWS)プレジデントの吉田修平氏と、SCEジャパンアジア(SCEJA)プレジデントの盛田厚氏だ。吉田氏はワールドワイドで、SCEブランドで発売するゲームソフトウエアの戦略を見る責任者であり、盛田氏は日本とアジアの販売戦略の責任者である。それぞれの立場は異なる。お二人には個別に単独インタビューをしたが、それぞれに、同じような質問をさせていただいている。その上で、お互いがどのようなことを語ったのか、同一の点と相違点を見ることで、SCEの戦略全体がよりはっきり見えてくるはずだ。

PS4の新色グレイシャー・ホワイトモデルを手にするSCE ワールドワイドスタジオ(WWS)プレジデントの吉田修平氏

日本で起きた初動での出遅れ、ようやく欧米に追いつく

 吉田氏とはE3以来3カ月ぶりの、盛田氏とは初めてのインタビューとなるが、まず最初に聞いたのは、「ビジネスの現場分析」だ。

吉田氏(以下敬称略):やっぱり、E3・Gamescomまでと、TGS/プレTGSのSCEJAによるプレスカンファレンスとの大きな違いが、PS4に日本の大手メーカーさんが、普通に来られるようになったな、ということです。それまでは、タイトルを選んで「やってみようか」という感じでした。何度かお伝えしているように、取り組み自身も、欧米のメーカーさんに比べると遅れていた、という話がありました。去年(2013年)のニューヨークでのPS4発表会の時の後、「ああ、PS4ってアリなんだ」と気付いていただけた人が多かった。その頃欧米のパブリシャーさんは、「すぐに、早く出せ」という状況。PS4が出るまでから、次世代機へ早く移行したい、というプレッシャーは受けていたので、環境が全然違いましたよね。

東京ゲームショーのPlayStationブース

 日本での初動の遅れについては、何度も記事で触れてきた。その点を、盛田氏も認める。

盛田:PS4をワールドワイドで出し、1,000万台の実売への到達が、これまでのプラットフォームに比べ、ものすごく早い期間で到達できた中で、日本はまだ2月22日に発売し、初期需要は我々が想定していたより、好調だったと思っているんですね。ただ、初期需要、出たらとにかく買いたい、と思っていた方々の需要が一巡した後、欧米はわりと勢いが持続しているんですけれど、日本の場合はそこが一段落したあと、伸びが欧米と比較すると小さい。ここは今、「これじゃだめだよね」と思っているところです。

SCEジャパンアジア(SCEJA)プレジデントの盛田厚氏

 アジアについては、長い間PlayStationをアジアで売ってきていて、どうしてもパイラシー(海賊版)の問題だとか、ハードは売れてもソフトは売れないとか、ビジネスとして見ると効率の良くないところがありました。そこを地道に、着実にやってきて、今は我々のビジネスインフラはとても整っています。世代がVitaだとかPS4になって、パイラシーが入りにくい環境になってきたので、アジアでもソフトがこれまで以上に売れるようになってきています。なので、そこに向けて我々もできるだけローカライズをするよう、働きかけ・お願いをしているんです。やはりローカライズしたものを出すと、それがすごく跳ねるんですね。ということで、アジアはかなりいい環境・ポジションになってきました。色々な国があるので国毎に見極めながらだとは思いますが、拡大していく時期に来ている、と思います。

 じゃあ日本をどうするかというと……。もっとがんばるべきだ、というのはその通りなんですが、まだポテンシャルがあると思っているのは、初期需要が一段落した段階で、本来は日本のタイトルが揃っているべきだったんです。それがあるべきステップだったのですが、ちょっと間が空いてしまった。結果、待っていた人が「じゃあもう少し待って次の機会に買おうか」となってしまった。

 それがあったので、9月1日のカンファレンスでは「これくらいタイトルが揃いました」、「みなさんがお待ちのタイトルはこれです」という風にご説明できた、と思っています。今年の年末から年度末についてはタイトルが揃ってくるので、ぜひこの年末にPS4を買ってください……というオファーをし、そこで一つの山が作れるのではないか、と思います。

 前任である河野がデベロッパーに高く評価していただけているのはありがたいことです。もちろん河野だけでなく、我々がPlayStationのビジネスを始めた時から、ハードだけではビジネスはできませんから、デベロッパーさんとの関係は大事なものだと思っていますし、それは変えてはいけないのだと考えています。私が河野ほど(デベロッパーを)回った、と評価されるかどうかは、後になってご評価いただくしかないのですが(笑)

 日本での初動の遅れは、盛田氏も認める通りだ。ソフトの準備という点で、吉田氏は次のように状況を整理してくれた。

吉田:日本市場って色んな意味で独特です。日本のお客様が日本のパブリッシャー・デベロッパーのコンテンツを好むということもありますが、むしろ、最先端の技術だけを追い求めるより、コンテンツ中心です。それはゲームの大事なところであり、コンテンツのあるところにユーザーさんが集まるのはあたりまえのことです。

 そこで、独自の市場ができている。欧米と同じペースで進まなきゃいけないかというと、全然そんなことはないと思うんですよ。他の例で見ても、Vitaを発売後、VitaとPSPの両方で展開して、そのうち両方出してもVita版の方が売り上げが多くなったので、Vitaだけにしていく……みたいなことがありましたよね。パブリシャーさんは時間をかけて確認しながらされます。ユーザーさんも時間をかけて徐々に移っていく。PS3からPS4への移行もそういう道筋をたどるのだろうな、という想定の下に、どのあたりでPS4であたりまえに新作が出るだろう、ということは考えました。そこで安心して「母艦」を移してもらえれば、仮にコンテンツがまったく同じであったとしても、PS4の方が全然遊びやすく快適ですし、それを感じていただけるのではないか……、ということを期待しています。

 それが9月1日のプレスカンファレンスでは、非常に多くの日本のパブリシャーの方々のタイトルが発表されました。この時期には「PS3とPS4」、いわゆる「縦マルチ」ばかりかな、と思ったのですが、PS4とVitaもしくは、PS4世代に集中したタイトルが中心になりました。これは私にとってもうれしい誤算で、「これはいい動きが今後出てくるのではないかな」という感想を持ちました。

 こうした分析を背景として、WWSでは新たな戦略が準備されている。

吉田:うち(WWS)はプラットフォームホルダですから、新しいプラットフォームに集中していますし、縦マルチはほとんどやりません。「Bloodbone」が来年2月に発売になりますが、これは相当面白いです。日本のタイトルではありませんが、期待しているのが、やはり来年2月発売の「The Order: 1886」。アメリカで作っているタイトルですが、19世紀イギリスを題材にしたあのテイストは、日本の方もいけるんじゃないか、違和感が少ないんじゃないか、という感触を持っています。2月のこの2タイトルにはすごく期待しています。

 その後、この後発表した「みんゴル」(みんなのゴルフシリーズ)があります。この前の発表で伝わったか不安なんですが、リニアな進化から、ちょっと広がった世界を作りたいんです。「みんゴルでオープンワールド、ってどういう意味だろう」という感じですよね、みなさん。あんまりまだ詳しくは言えないんですが、お見せしたステージなんかも、わりと、ちょっと上から俯瞰したような、広い感じを意識していただければな、と思います。PS4はソーシャルなつながり、他のデバイスとの関連など「つながり」を大事にしてますので、そこから生まれる新しいゲームの楽しみ方、をみんゴルユーザーの方々に体験していただきたい、と考えているんです。

 そんな風に、Bloodboneのように世界中を狙うタイトルもあれば、「みんゴル」のように日本を中心とするものもある。Japan Studioの使命というのは、どっちを手がけるにしても日本人の方に喜んでいただけるコンテンツを作る、ということです。日本人が中心に作っているので、結局そういうものになるのですが。WWSは世界中にスタジオを持っていますが、日本のスタジオの重要性、特別に課せられた使命というのは、そこにあると思います。

Vitaで分かれる戦略、モバイルデバイスの「コンパニオン性」を拡大

TGSで発表されたPlayStation Vitaの新カラー「ライトピンク/ホワイト」

 その上で気になるのは、「Vita」の扱いだ。日本は携帯ゲーム機が強い、特異な市場だ。だが世界的には、携帯ゲーム機は急速に市場がしぼんでおり、スマートフォン/タブレットに浸食されている。いまだ「ゲームのメインはスマートフォンなどの市場であり、据え置き型ゲーム機の市場性はもう薄い」と言われることが多い。その点はどう見ているのだろうか?

盛田:PS3も、出だしは、ワールドワイドでタイトルがなかなか揃わず、伸び悩んだ、ということがあります。価格の高さもあったとは思うのですが。しかし最終的に言うと、日本を含め、PS3は大きなインストールベースを実現できました。

 まず一つは、ゲームが本当に好きだ、という人達が、日本にもかなり多くの数いる、ということがあります。

 他方で、おっしゃる通りだとは思うのです。昔はコンソールゲームで遊んでいたけれど、今はスマホで遊んでいる、という方が多いのも事実だと思います。しかし、逆にゲームをやっている人は増えていて、いままでゲームをやらなかった女性が電車の中でスマホでゲームをやっていたりする。まずはゲームの裾野、規模は小さくなるというより、大きくなっていると思います。

 ということは、ユーザーの方々の多様性が広がっていると思うので、そういう意味からすれば、悪いことではない。PS4というのは、いままでのように「コンソールとゲームを買ってきて遊んでください」ということだけではないです。我々が思っていたよりも受け入れられたので驚いているわけですが、シェア機能によって「自分のプレイをみんなにシェアする」、「人のプレイを見て楽しむ、自分が勉強する」という、ネットワークにつながって楽しむ部分が広がっています。PlayStation PlusやPlayStation Storeでデジタル配信もやっていますが、それもデジタルで買っていただくことだけでなく、Free to Playで遊んでいただいたり、ディスクで買ったゲームのコンテンツをダウンロードで買うだとか、遊び方の多様性が広がっています。

 逆にスマホが持っているような楽しさを、PS4でもVitaでも、より高いクオリティで楽しめます。PS4・Vitaがあるからできることと、リモートプレイもありますね。ここにボーダーはあんまりない、と考えているんです。スマホはスマホ、ポータブルはポータブル、コンソールはコンソールではなく、むしろ、広がったところを「こちらにも来ていただく」、ゲームをやっているんだからもっと濃いものをやってみよう、というようなポテンシャルはあると思います。

 その中で、PlayStation PlusやPlayStation Networkを含めた「PlayStation」というプラットフォーム全体を遊んでいただける人を増やしたい、ユーザーベースをふやしたいんです。それをゲーム業界の人々全体でやっていきたいんです。日本のゲーム業界全体が盛り上がり、ひいてはアジアのゲームエンターテインメントがリードしていける、という状況にしていくために、PlayStationがそれをひっぱっていける状態になっていけば、と思います。

 日本では、ハードウエアもVitaの「PCH-2000」を昨年発売して以降、特に売り上げ規模が一段変わりましたし、堅調に今も売れています。ハードウエアよりも、ソフトウエアが着実に、ある一定規模売れるようになってきていて、パブリシャーの方々も、そうした部分の可能性を感じていただけています。そこは非常に大事に思っていますし、年末もしっかり売っていきます。これが続くよう、議論も続けていきます。

 ただ、そこだけじゃないですよね。VitaがPS4のコンパニオンデバイスである、ということは、悪い話ではないですよね。PlayStationのプラットフォームの中で、リモートプレイも含めてポータブルのデバイスがあることは、とても重要なことです。Vitaならではのゲームに加え、リモートプレイというPS4と一体になって楽しめる部分はオファーすべきだと思っています。ですから日本は、両方あって、今はいい状況だと考えています。

 では、WWSとしての取り組みはどうなのだろうか?吉田氏は「あんまり突っ込んだ話はしづらいところですが」と前置きした上で、現状を説明した。

吉田:日本のスタジオ・市場でいうと、Vitaはいい感じでサードパーティーさんにも出していただいていますし、売り上げをみても、PS3とVitaで同じタイトルが出た場合、売り上げはほとんど変わらない状況です。インストールベースでいえば、PS3ユーザーの方がずっと多いにもかかわらず、Vitaユーザーにたくさんタイトルを買っていただけている。確かな手応えがあります。

 その中で、全世界で好調なPS4をいかに立ち上げていくか、ということを考えた時に、PlayStationのエクスクルーシブタイトルを手がける我々、Japan Studioとして軸足をかけるか、どちらに力を入れていかなくてはいけないか、という意味では、プラットフォーム戦略の考え方としては、ご想像いただけるような状況になりつつある、かと思います。

 世界でのビジネス状況を見てゲームを作るWWSと、日本での足下のビジネスを見るSCEJAとでは、当然視線が異なる。WWSとしてVitaへの積極性が薄れたように見える一方、SCEJAがVitaのビジネスを大切にするのも当然だ。他方で、PS4という軸で見ると、スマートフォンやタブレットのようなモバイルデバイスの価値は上昇する傾向にあり、ゲーム業界全体が併存の形を模索している。

TGSに出展された、PS4のコントローラ「DUALSHOCK 4」とXperia Z3を別売のアダプタで連結させたデモ

吉田:モバイルデバイスは、もう誰もが当たり前にお持ちで、大型のタッチパネルであるとか高速なモバイルデータ通信であるとか、他にない特徴も備えています。入力機器として使ったり、ゲームを離れてコミュニケーションに使ったりであるとか、そうしたことを実現するためのコンパニオンデバイスとしては非常に便利なんです。PS4のタイトルに対してモバイルのコンパニオンアプリを作る例は、サードパーティーのタイトルも含め、非常に増えています。それはやはり「便利」だからです。今回10月に出す「DRIVECLUB」は、ソーシャルレーシングゲーム、という特徴もあり、アプリ対応をすごくがんばってやっています。

 「ナック」でも、パズルゲームを遊ぶとアイテムが手に入って、PS4での要素がアンロックできる、という仕組みでした。そういうトライは今後も続けていく予定です。この間、「Little Big Planet」を題材にしたエンドレスランナー(筆者注:スマホ向けゲームの1ジャンル。強制スクロールで走り続けるキャラクターを、タップだけで操作するシンプルなゲーム)、「Run Sackboy Run」というものを発表しました。これはモバイルとVitaの両方に出るのですが、これを遊んでいただくと、今後出る「Little Big Planet 3」で使えるアイテムが手に入る、という仕組みになっています。

 すなわち、このようなモバイルデバイスをコンパニオンとして使う仕組みが、「ゲーム機の前でゲームをしていない時」や、「ゲームをしながらパッド以外で遊びたいとき」に価値を持ってくることになる。

シェア機能やストリーミングに向け、日本の環境を「業界ぐるみで改善」へ

 PS4の新しい要素として、シェア機能の効果が注目されている。盛田氏もその部分を強調する。今後、システムソフトウエア「2.0」がやってくると、友人同士で遠隔で「1本のソフトで協力プレイ」を実現する「シェアプレイ」も可能になる。そうした部分から、新しいビジネスモデルにチャレンジして広げていくのが、これからのビジネスの可能性を広げるには大切だ。

 一方で、そうした新しい価値へのチャレンジは、どうしても欧米メーカーの方が積極的である。日本メーカーは、権利などの問題もあってか、シェア機能の利用を一部に制限したり、音楽などが流れなかったりといったこともある。そうした保守性を、どう考えているだろうか?

盛田:こういうことは、日本の慣習だとか規制もあるので、すべてがクリアーできるものではない、とは思います。簡単に「やろう」といってそれだけでできるものではないです。

 しかし、PS4というよりも、PlayStationというプラットフォーム全体としてサービスを準備し、我々が実現できるものがあれば考えていきたいし、業界が一緒になって盛り上げていく、ということが必要です。

 弊社は幸いなことに、グループ内にソニーミュージックもいますし、コンテンツもゲームだけじゃなく、色々持っています。その中で、PlayStationあるいはソニーが業界全体を盛り上げていければ、と思います。あんまり、我々だけ、SCEだけで、という感じではなく「業界全体で」という姿勢でいることが大切だと考えます。

 海外との差、という意味では、映像配信やストリーミングへの取り組み、という点もある。特にアメリカが先行しており、日本は遅れ気味だ。そうした部分についてはどうだろうか?

盛田:色々な可能性があると思っています。ただ「色々なことができます」と言い過ぎるとみなさんが混乱すると思うので、まずはこの年末商戦に向けては、「タイトルが揃いました」「みなさんがプレイしたいゲームがあります」ということ、ゲームを楽しむために買ってください、ということをちゃんと伝えなくてはいけない、と考えています。

 その次のステップとしては、せっかくPS4という可能性のあるプラットフォームですから、お客様に我々が説明したり、説得したりしなくてはいけないと、と思っています。

 ただそれには「環境」もありますよね。我々が作る環境と、今の環境にどう対応するか、という2つの側面があります。アメリカというのは、本当に、ネットを通じてビデオを楽しんだり、ストリーミングでビデオを楽しんだりする、という環境・慣習が出来上がっていますから、ちゃんとそういうオファーをしていきます。日本については、環境が整っていない中でそこを闇雲に推してもうまくいかないと思っているので、環境を整えるにはどうしたらいいか、というところも含め考えていきたいです。

 逆にtorneなどは、日本ならではのものだと思ったので日本に出しました。アメリカなどはCATVが普及していてtorneが受け入れられる環境にないので、向こうでは出していないとか、市場環境にあわせての部分があります。

 ですからそうした部分も、市場環境にあわせてできるだけやっていこうと思っています。が、待っていてもなにもできない、というのも事実なので、我々が働きかけることで、最初は量が少ないかもしれませんが、ちゃんとサービスをやっていけるようにします。うちの中でもビデオサービスをやっていますが、それと同じように、着実にはやっていきたいです。

インディーへのサポートは「昔の自分たち」への還元

 一方、新しい潮流でありながら、日本国内でも盛り上がりつつあるのが「インディー」への支援だ。今回TGSでも、インディーゲームブースが大きく作られ、多数のデベロッパーが集まっていた。このブースはSCEがスポンサードし、「PlayStation」の冠がついている。だが出展するタイトルは別にPlayStation向けに限定、というわけではなく、スマートデバイスやPC向けも多かった。

TGSの「インディーゲームエリア」。PlayStationが冠スポンサーになっているが、PS向けに限らず、インディーデベロッパーの作ったゲームが広く出展され、盛況だった

盛田:実は、TGSでの取り組みというのは、我々がインディーズコーナーを作ろうとしたわけではなく、CESAがインディーズコーナーを作ろうとしたことを、我々がサポートした、という形です。あんまりそこに「PlayStationじゃなきゃ」というようなことを考えていたわけではないです。

 インディのデベロッパーの方達って、「こういうゲームが作りたいから、やりたい」という方々です。そういう方々のクリエイティビティ、情熱ってものすごいものがあるので、その中から面白いものって、きっと出来てくると思うんですよ。

 もとを正すと、我々、久夛良木さんが始めた時代からそうです。その頃は「本当にPlayStationなんて売れるのか」と、内部でも言われていました。今大手と言われるパブリシャーの方々だって、自分達でなにかゲームを作りたくて始めたらすごく売れて、会社が大きくなって……という形だったはずです。

 今度はやっぱり私たちが、「昔の自分たち」にちゃんとサポートをしてあげる、ということをやらなければいけないと思っています。そうすることで、我々が考えつかないようなことって、彼らが考えつくと思っているんです。だから「PlayStationのために出てこい」ではなく、この場を提供しますのでみんなで……、こういうところ(TGS)でみなさんに見せる機会を作るのが、ひとつ大事だと思います。

 我々のサービス、ネットワークサービスがすすんできて、色々な方がゲームのパブリッシュをしやすくなっています。環境は整ったし、いい時期になってきたと思います。

広がるVR、「サマーレッスン」騒動から見える本質とは

TGSでのProject Morpheusのデモ

 現在、SCEが将来への布石として開発を続けているのが、VR用HMDの「Project Morpheus」だ。これまでは開発者やメディアにのみ公開されてきたが、TGSでははじめて、一般に体験の機会が設けられた。ただ、当日は相当に混雑し、希望した人々すべてが体験できた、というわけではなかった。SCEJA、そしてWWSにとって、Morpheusはどのような意味を持っているのだろうか?

盛田:一つは、PlayStationのゲームを遊ぶという意味でいえば、どこまでゲームに入って、どこまで「プレイしている」と思えるかということ。これはPlayStationが目指してきたことだと思っていますので、Project Morpheusは、より一層没入感というか、ゲームの中に自分がいる、ということを体感できる一つの可能性です。PlayStationの未来の一つの可能性であり、元々目指していたものである、という意味で、一つの方向性です。

 もう一つは、インディの話と同じなんですが……。Morpheusはまだ商品化できる段階にありませんが、それも世に出して、色んな試みをクリエイターの方々にしていただいている理由は、色んなことを試していただきたいんです。我々の思いつかないような使い方・楽しみ方を見つけていただけるだろう、ということで、いくつか出展しているんです。それはクリエイターの方々にまず作っていただく、ということもあるのですが、使っていただいた方々のフィードバックをうけて、「どういう形が一番いいのか」だとか、「こんな形もあるんだな」ということを見つけたいんです。広く可能性を探っていき、一番いい形に落ち着く過程なのでしょう。

吉田:CEDEC(筆者注:9月2日から4日まで横浜で開かれた、ゲーム開発者向けカンファレンス)も色んなところでVRの話や展示があって、私もすごくうれしかったんですよ。今回のCEDECなんだった? って聞くと、VRだ、という意見は多かったようですね。

 CEDECでは国内ではじめて、ゲーム開発者さん向けではありますが、Morpheusを8台置いて、色々なコンテンツを試していただいたのですが、すごく反響が良かったんです。私も講演・スピーチをやりました。来た方に、「OculusやMorpheusのデモを体験したことがある方は、どのくらいですか?」と聞いたんです。私は、ほとんどいらっしゃらないのかな、と思ったんですが、すごくたくさんの手が挙がった。日本のゲーム開発者のみなさんも、色々試しておられるのだな、と、いい意味で驚きました。そうした人達がMorpheusをはじめて体験してくれて、Twitterなどでいいコメントをつぶやいてただけていたので、我々としてもかなり手応えを感じています。

 そこで話題になったのが、バンダイナムコゲームスの開発したVRデモ「サマーレッスン」だ。サマーレッスンは、9月1日のSCEJAプレスカンファレンスで公表されたもので、女子高生と部屋の中で過ごす、というものだ。そのモチーフの爆発力もあり、発表以降、良くも悪くも大きな話題となった。本来TGSに展示予定だったのだが、あまりの話題の過熱ぶりに、急遽出展が中止された経緯がある。

SCEJAプレスカンファレンスで公表された「サマーレッスン」

盛田:「サマーレッスン」もそうですが、Morpheusについては、9月1日にデモさせていただいて以降、反響がものすごく大きかったんですね。TGSブースでも、皆さんにお待ちいただいている状況で、なかなか試していただけていません。

 それがわかってきたので「サマーレッスン」を出すことで、いよいよ遊べなくなってしまうのでは……というのが、我々運営する立場として危惧したことです。見通しが甘い、と言われてしまえばそれまでなのですが、確かにお客様が来すぎると運営に支障を来す、ということで、バンダイナムコさんには誠に申し訳なかったのですが、見合わせた、というのが今回の話です。

 まだテストの段階ですので、人がついて、我々のブースの中で体験する、ということが、我々が守っていこうとしていることなので、TGSのブースのような場所がふさわしい、ということです。今後についてはまたしかるべきタイミングで出させていただくつもりです。今の時点では決めていませんし、お話しできる段階ではないのですが……。

 「サマーレッスン」の持つ意味を、吉田氏は熱っぽく説明する。そこにあるのは、「かわいい女の子の持つ爆発力」だけではない、VRコンテンツそのものの持つ可能性についての議論だ。

吉田:「サマーレッスン」は、すばらしいコンテンツですよ。VRの中で、デジタルのキャラクターの存在感がすごく高まるんです。ほんとうに「そこにいる」という感じで。

 今回、TGSではできなかったんですが、別の形でバンダイナムコさんと相談しています。もちろんゲームファンの方にもやっていただきたいのですが。あれをゲーム開発者の方に体験してもらいたいんです。原田さん(筆者注:バンダイナムコゲームズ・鉄拳シリーズプロデューサーの原田勝弘氏。サマーレッスンの開発にもかかわっている)とも話しているのですが、バンダイナムコ内部で色々な開発者の人が話していて、内部でいろんなアイデアが浮かんでくるんだそうですよ。「こんな感じならこういうこともできる」と。

 私も今年のGDCでMorpheusの発表をするまで、その辺はあんまり気がついていなかったんですよ、自分でも。発表した後に色々見たり、話したり、考えたりすると、バーチャルリアリティって、実は日本にむちゃくちゃ向いている。デジタルのキャラクターとコミュニケーションを取ったりとか、好きじゃないですか。日本のユーザーは。マンガ・アニメの文化もありますし。そういったアイドル的なものも含め、たくさんコンテンツもあり、そういうものを作るのが得意な会社さんもある。マンガ・アニメもそうですが、輸出されていくコンテンツですよね。バーチャルリアリティが乗っかってくると、日本のIPをお持ちの開発者の方、会社の方のノウハウとか資産が、すごく高められるんじゃないかな、と期待感があります。

 この意見には、筆者も同意する。「サマーレッスン」は、モチーフからくるインパクトが強すぎるのだが、そこにある本質は、「キャラクターが自分の目線を意識している」、「キャラクターの目線を自分が意識する」ことによる「実在感」にある。そうした部分は、これまでのゲームでは再現しづらかった要素だ。

吉田:「サマーレッスン」をビデオのトレーラーで流すと、なんとなく相手を覗いているように見えてしまいます。でも、実際に体験してみるとそうじゃないんですよ。

 デジタルのキャラクターが「自分のことも分かっている」状態で、しかも自分も相手のことが分かる。すごくお互いを尊重しているというか、意識している状態になるんです。それは「勝手に相手を覗いている」状態とは全然違っていて、「ここにいる相手」に対してどう振る舞うか、ということ。見られているので、とても緊張するんですよ。そういう特質は、やはり体験していただくのが一番です。ビデオで出すのではなく、パン、と体験できるようにするのが良かったし、体験した人の言葉で語っていただくのが良かったかな、と今は思っているのですが……。

 今回、TGSでも色々なコンテンツを展示しますが、例えば「キャッスル」(筆者注:中世の城で、騎士になる体験をするMorpheus用デモタイトル)は、敵というかキャラクターがいるわけです。その近さ、臨場感を感じていただけると思うのです。体験したユーザーさんやメディアの方々、開発者の方々には、そういうところから想像力を働かせていただいて、VRで出来ることを感じていただければいいと思います。

 VRというとアトラクション性が重視されるし、それがもっともわかりやすい要素ではある。だが、一つの本質として、立体空間内での「キャラクターとのインタラクション」という部分がある。それを実現するには、独自のノウハウとともに、ある程度高度な演算力を持つハードウエアと、精度の高いポジショントラッキングが必要になる。他方で、スマホを使ったシンプルなVRデバイス、例えば、Googleの公開している簡易VRキット「Cardboard」や、サムスン電子のGALAXY Note向け周辺機器「GALAXY Gear VR」のように、簡易的にVRを体験できるものも増えている。それらとの関係はどうなるのだろうか?

吉田:もちろん、スマホのものはまったく否定するつもりはないんですよ。Cardboard用のコンテンツで、美術館だったかお城の中を見て回れる、というものがありました。これはすごくいい。ストリートビューなども相性がいいでしょう。そういった形のコンテンツにはあれで十分かと思います。

 しかし、ちゃんとポジショナルトラッキングをやってユーザーさんが「その場にいる」という環境を作ってインタラクションをデザインしていくと、やっぱり本格的な、PS4でのMorpheusですとか、PCでのOclulusなどが向いています。出来ることが全然多いわけですから。

 いま色んなデバイスでゲームが作られ、それぞれ違ったコンテンツが遊ばれているように、VRも技術ですから、色々なデバイスで実現され、それにあったコンテンツが作られていく、ということかと思います。

 OclulusはDK2で、フレームレートを上げたり解像度を上げたり、レイテンシーを下げたりしていますよね。わりと直線的な改善です。噂では、コントローラーを開発されている、とかいう話もありますが……。彼らが言っている以上のことはわかりませんが。

 私もCEDECのスピーチでお話したのは、色々な要素が全部まとまった、総合的なVR体験を作る上で重要なのはビジュアル面ですね。ディスプレイだとかレンズだとか、本体のパフォーマンスも含め、そこの性能が大切です。

 Morpheusの試作機を開発用に提供していますが、まだまだよくできるところはあります。レイテンシーであるとかパーシステンシー、要は、液晶を使っているのでブラーがかかってしまうところの改善ですとか。そういう部分はまだ技術的に改善できるのがわかっています。

 また、3Dオーディオは非常に大事なんです。音がステレオなままでは、興ざめなんです。3Dのポジションをもったオーディオは大事で、それは、いまのMorpheusの試作機でも実現できます。そうしたところをさらに良くします。

 あとはトラッキング。それもソフトとハードの組み合わせです。特にソフトは時間をかければ改善できます。技術はどんどん進みますから、そうしたところを総合的に見ながら、「今年の技術だったらこれができる」、「来年ならこれだけできる」ということを見ながら、ある程度目標があって、その目標に到達したら「コンシューマ向けに出せるかな」ということになります。その想定は、もちろんあります。

 では、発売まで、まだ時間はかかりそうなのだろうか?吉田氏は日時を示さないものの、そう遠いわけでもないようである。

吉田:けっこういい線まで来ているかな……、みなさんが「製品版はこうなんだ」というものを体験できるのは、ものすごい先の話ではない、と思います。

 ただ、もうひとつ大事なのはコンテンツです。VRのコンテンツを作るのは独特のものがあります。作り出すとすぐわかります。ゲームをずっと何十年と作っている人々でも、新たに学ばねばいけないものが多くあります。そこのノウハウをシェアしながら、「これすごいぞ」と、原田さんの話じゃないですけど、色々なデモを、できるだけ多くの人にやっていただき、気づきを得て欲しいと思います。例えば、ホラー系だったらめちゃめちゃ怖いだろう……と。本当に怖いんですけど(笑)。

 体験した結果、色々なデベロッパーさん、ソフトのパブリシャーさんが「うちもVRやらないと」、「いいよ、やっても」となるようにしたいです。

 現場はすごく盛り上がるんですよ。でも経営層は、「でもハードがまだ出ていないし」、「発表もされていないのにお金を使うのか」ということは、大手さんでもあると思うんです。でも「ちょっとやってみな」という風に、徐々に盛り上がっていって、製品を発表したらコンテンツも揃っていて……ということになるかな、と思います。

 経営層の理解も出てきていますね。ほんと、ちょっとずつですけれど。やっぱり実際体験してみないとわからないです。体験して「これは! 」という感じですね。

 私自身もそうだったんですよ。何年も色々な機材を触っている中で、「ハッとする瞬間」があるんです。経営者の方もやってみた、回りのスタッフの方々がやってみたとかで、「これはすごい」という声がこれから上がってくると思います。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41