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なぜテレビにFirefox OS? をパナソニックに聞く

VODの波がTVを変える。スマホファースト時代のVIERA

 テレビメーカーが、開発プラットフォームのOSを置き換えつつあるのは、ご存じの通りである。先日は、Android TVを採用したソニーへの取材をお伝えしたが、今回は「Firefox OS」を採用するパナソニックを採り上げる。世界ではじめてFirefox OSを採用したテレビである「VIERA CX800/CX700シリーズ」は、すでに5月末から発売が始まっており、モダンOS搭載テレビとしては先陣を切る形になっている。

 パナソニックはなぜOSを置き換えたのだろうか。そして、Firefox OSを選んだ理由はどこにあるのだろうか? パナソニック・アプライアンス社 テレビ事業部 事業開発部 部長の池田浩幸氏に話を聞いた。

パナソニック・アプライアンス社 テレビ事業部 事業開発部 部長の池田浩幸氏。テレビへのFirefox OS搭載を担当した

「ビデオオンデマンド」の波がテレビを変える

 テレビの高度化・IT化については、各メーカーが、すでに何年にもわたって取り組んできた道のりだ。パナソニックもそこにはこだわりがあり、積極的なメーカーだった。2008年には「VIERA Cast」、2011年には「VIERA Connect」という形で機器への組み込みを行なってきた。これまでの実績として、115カ国に、テレビとBDプレイヤー合わせて3,000万台が出荷されている。対応アプリも400を越えている。

 実は池田氏も、本連載にご登場いただくのははじめてではない。2011年のCESで「VIERA Connect」を発表した際に取材し、記事にしている

 ただし、こうした時期の「テレビのスマート化」と現在とでは、大きく様相が変わってきている、と池田氏はいう。

池田氏(以下敬称略):2011年の頃とは、明らかに潮目が変わってきています。

 当社におけるテレビのネット接続率は、2013年度の調査で、アメリカが8割、イギリスが6割、日本が3割といったところでした。しかし日本でも、今年は50%を越えるだろう、と予想しています。

 アプリはたくさんあるのですが、アプリの起動回数という観点で見ると、大手ビデオオンデマンド(VOD)系がほとんど。日本はYouTubeが圧倒的で、アメリカだとNetflixがほとんどです。イギリスだと「iPlayer」(筆者注:BBCが提供している、ネット経由でのラジオ・テレビ視聴サービス)が中心です。

 購入後にもアプリが追加できる仕組みは大切で必須なのですが、使われるアプリはVODに偏っており、数だけが重要、という世界ではありません。

 2010年から12年頃、ネット機能を取り込んだテレビが「スマートテレビ」と呼ばれた頃は、特に韓国の2社がリードする形で「アプリが動くテレビ」という方向性に注目が集まった。しかし、そこでテレビをネット接続し、アプリを使うモチベーションとなったのは、スマホのように「多彩なアプリを使い分ける」ことではなく、VODへの対応だった。とすると、テレビの進化はVODへの対応を強化することが軸となり、アプリについては「VODに加え、それぞれのユーザーが必要とする機能を付け加えるための余地」として用意する……というイメージになっているわけだ。

池田:現時点ですでに、グローバルに見ると、放送によるテレビ視聴は一日に4〜5時間。それに対してVODが1時間くらいにまで育ってきているんです。Netflixのようなサービスが普及した国では、放送局の1チャンネルかそれ以上の重きを持つものになっています。そこを放送と同じように扱うのは、テレビとして当然になっており、オマケではありません。

 どんどんVODの側は進化しています。4Kなども先に進んでいます。そこまで高度になってくると、テレビの仕様は放送だけでなく、IPサービスが決める、という側面も出てきています。いかにIPサービス、VODを快適に使えるようにするかが重要です。

「テレビファースト」「テレビ単独」時代のテレビとは

 他方で、テレビが置かれた状況も変化している。池田氏は「スマホファーストの動きは大きい」と話す。

池田:IoTの動きなどを考えても、スマホファースト、もっと言えば「スマホオンリー」という流れがあります。各種機器連携を考えても、テレビが主導するのではなくスマホが主導する、ということになります。

 そういう時にテレビはどうなるかといえば、スマホと同じ技術が使えるようになってきています。そうすれば、スマホの上に乗っているものはすぐにテレビでも使えるようになります。

 弊社としては、テレビの環境を次のように分析しています。

 まず、映像については、放送からのものとネット配信、例えば見逃し視聴のようなものが増えます。その中で、視聴するスクリーンも、テレビからスマートフォンまで、なんでも使うようになっていきます。また、ハイブリッド型の視聴も増えていくでしょう。

 そして、この部分は日本が先行していますが「宅外視聴」。きちんとルールもできて、色々な機器で対応が進んでいます。

 さらに、スマホからキック(注:操作指示)してテレビに映像を表示するという、Chromecast型の利用。そういうものも増えるでしょう。

 端末を作る我々にとって重要なのは、サーバー側を作るサービス提供者は「1つのサーバーでマルチなデバイスにサービスをする」ということです。そうなると、テレビだけが独自、というのは通用しません。スマートフォンが20億台あり、そこにさらにスマートテレビが1億台、という世界になります。その中にさらにパナソニックがある、という構図です。

 弊社が最初にテレビでYouTubeに対応した時には、テレビ側に性能の制約が大きかったので、独自にJavaScriptだけで実装していました。そういうユニークな実装をして、YouTubeもパナソニックのみに対応していただいていたんです。

 しかし、もうそういうわけにはいきません。テレビだけではNG、パナソニックだけでもNG。1社でやっても、継続的に進化させていくことはできないのです。

「一社でのメンテナンスは厳しい」という指摘は、ソニーがAndroid TVを採用した時と同じ理由である。だが、そこでパナソニックはAndroidではなくFirefoxを選んだ。選択の理由はなんなのだろうか?

池田:これからは色々なコンテンツを表示しなくてはいけなくなります。今はAV機器が中心ですが、白物家電なども対象になります。もうずっと言われ続けていることですが(笑)、色々な機器とコミュニケーションせねばならず、スマホともコミュニケーションできなければいけない。

 そういう中で、選択肢は限られています。Androidはご存じの通り、Googleのエコシステムの中です。それは、我々の目指すところではないだろう、ということです。メーカーを越えて、機器・サービスが自由に使える「アプリマーケットを越えた世界」を目指したい。

 そのための実現手段としては、オープンソースに目をむけなくてはいけません。候補はいくつかありますが、非オープンソース系は明らかに「他社にライセンスしない」ものがあります。LG電子のwebOSは「ライセンスしない」と言ってはいませんが、実質LG独自です。Tizenもオープンで始まったのですが、いまやほぼサムスンのプラットフォームです。となると、AndroidかFirefox OSか、ということになるのですが、先ほど述べたような理由から、やはりAndroidではなくFirefox、ということになります。機器をまたぐものを、というミッションについても、Firefox OSの方がいいだろう、という結論になったのです。技術的に、Firefox OSはAndroidにひけをとりませんし、むしろ、Javaなどの中間的なものを使っていないので、よりシンプルにできる、という技術的なメリットもあります。

 パナソニックは今後、4K製品すべてにFirefox OSを採用する予定である。発売済みの製品も、もちろん4K対応だ。2Kについては「除外するつもりはないが、経営資源を4Kにつぎ込む、という関係上」(池田氏)、4Kの製品のみの採用となっている。

 あくまで内部的なことだが、Android TVとの違いは、テレビ系の機能は「Firefox OSの上で1から再実装」したのではなく、過去にパナソニックが開発したものを生かし、それとFirefox OS TVを連携させているような形になる。だからこそ「第一号」であるにもかかわらず、開発での手戻りが少なくなっている。プロセッサー的にも、テレビ系を制御する、従来から使われているパナソニックオリジナルのソフトウェアに、ネット系機能をコントロールするSoCをセットにして使っている、という形だという。ユーザーがそうした部分を気にする必要はないが、ソニーとはまったく方向性が異なる。

メニューを大幅刷新、連携APIも整備

 Firefox OSを搭載したパナソニックのテレビの特徴は、メニュー構成がとにかくシンプルになったことだ。起動して最初に見えるのは、写真のような丸いメニュー。昨年モデルまで採用していた「Life+Screen」とはまったく異なるものだ。このシンプルメニューは、女性や主婦層からもきわめて評判が良いという。

VIERA CX800のメイン画面。メニュー構成は恐ろしくシンプルなものに変わり、操作もわかりやすくなった

池田:VIERAでは、2つの見せ方をしています。一つは、Firefox OSのホームスクリーン。そして、テレビの画面に実装したオリジナルの「インフォメーションバー」です。こちらも、Firefox OSの機能を使いつつ、パナソニックが独自に実装したものです。

 コンセプトは「フラットにして見たいところにすぐに行ける」ということです。

 フラットに見せている、というのは、シンプルな丸いメニューのことを指す。ここでは、「テレビ」(すなわち、放送の表示だ)とYouTubeと並列であり、さらには外部入力であるHDMIとも並列だ。さらにここには、特定の「よく見るチャンネル」をピン止めしていくこともできる。HDMI以外の接続先、例えばUSBハードディスクへの録画や、DLNAによるレコーダー視聴(パナソニックは「お部屋ジャンプリンク」と呼称している)なども、自分がよく使うものを選んでピン止めする。

BSのチャンネルを「ピン止め」。こうすれば、好きなチャンネルだけをすぐに見られる
入力切り換えなども一覧から選ぶ。必要なものだけを「ピン止め」できるようになっている

 すなわち、階層構造をできるだけシンプルにし、自分が使うものだけ前面に持ってくる構造としたわけだ。

 全体の構造として、ボトムに「テレビ」があり、その上に各種機能が乗っているものの、それぞれの機能の切り替えはFirefox OSがHTML5ベースで行なっている、という形になっている。だからこそ、テレビの上で動く部分は「シンプルかつ高速」に動くことを旨として開発されている。

池田:大胆に刈り込んだのは、Firefox OSを開発するMozillaという「外の人々」と徹底的にディスカッションしたことが、大きく影響しています。Mozillaのメンバーは最初、テレビのことは全く知らなかったんですが、我々とディスカッションしながら彼らも吸収して、その結果できたものが基本になっています。我々の中でもあっさりと「ではそれで行きましょうか」と、最後には決まりました。もちろん、色々議論はあったんですが、シンプルな形にすることにしました。このUIは今後、他社がFirefox OSでテレビを作る場合にも基本になるはずです。

 テレビを視聴中の機能として軸になるのは「インフォメーションバー」だ。こちらには、天気などのネットから取得する情報が表示できる。いわゆるガジェット的なものだ。Firefox向けに開発したものや、他のスマホプラットフォーム向けに作られたものでも、結局はHTML5ベースなので、移行はさほど難しいものではない。ただし、追加についてはパナソニック側が管理し、パナソニック側がVIERA内に用意するストア内から行う形となる。他のアプリも同様だ。

インフォメーションバー。テレビ視聴中にチェックしたい情報を、テレビと一緒に見せる。中身は、Firefox OSの「ガジェット」をTV向けに仕様調整したものだ

 視聴体験の面でポイントになるのは「検索」だろう。パナソニックはずっと、独自の実装による「音声検索」をテレビで活用してきた。Firefox OSベースのテレビにおいても、その機能は健在だ。現在番組はもちろん、この先の「未来番組」、さらにはYouTubeや録画番組、アクトビラまでをくし刺し検索するようになっている。番組表から「この先に放送される番組」を見つけた場合には、これまで同様、VIERAのUIを使って録画予約を行なう、という形になっている。どれを検索対象とするか、どれを優先表示するかは自分で決められる。

機能のひとつの軸となる「検索」。見たい番組を音声で簡単に検索できる
検索結果のうちどれを先に出すか・どれを表示しないかは、自分で決めておける。

池田:検索結果からテレビのAPIを使ってチューナーを操作する、といったことも、HTML5ベースですべてできます。ただし、そのAPIは公開せず、内部利用に留めています。公開する場合にはMozillaの元でルールを決めてから、ということになります。ただ、弊社でも第一号機が動き始めたところなので、少し時間はかかります。放送局などとの関係も考慮した上で考えなければいけませんが、パナソニックとしては公開には前向きです。

 日本版とは異なり、イギリス版では面白い実装がなされている。イギリスにある無料の衛星放送サービス「FreeSat」では、欧州のIPTV仕様であるHbbTVに基づいたサービスもある。今年中には、地上波を含めた「FreeView」もサービスを開始する。VIERAは2014年以降対応しているのだが、Firefox OS TVではその対応が強化される。

 例えば、「放送」を見ている最中、番組表を見るとしよう。従来、番組表といえば「今と将来の番組」を確認するものだった。だがイギリスでFreeSat・FreeViewと連動した場合、「過去」の番組表も見られる。見逃し配信が行なわれているので、過去番組表と連動、そちらに飛ぶようになっているのだ。放送とIPTVが完全に融合した導線になっているのだが、これも、テレビ用のAPIが整備され、連動可能になっているからできることである。さらには、そうやって見ているものをスマホへと転送してネット経由でVODを見たり、といったことも可能になっている。

 ただし、日本で「見逃し視聴」が始まった場合に同じ事がすぐできるか、というと、そうではないようだ。日本でスタートが予定されている見逃し視聴サービスは、「IPTVフォーラム」で仕様が決まっており、パナソニックがFirefox OS VIERAで実装したものとは異なる。

 また特に、Android TVと違うのは、音声検索の分析をのぞき、検索の情報が基本的に本体内で処理され、クラウドでは処理しない、ということだ。

池田:個人の利用を考えると、検索して欲しいのは「テレビの中になにがあるか」だと思います。ですので、DIGAの中の録画番組も含め、ローカルにあるものをまず検索するようにしています。そういう部分はクラウドベースのGoogleからは少し遠い世界だと思います。

 パナソニックのFirefox OS VIERAを使う場合、ネットサービスへのアカウント登録は必須ではない。Android TVのように「アプリストアや検索を活用する」ためにGoogleのアカウントが事実上必須、という存在とは少々異なる。

 クラウドを活用することには、もちろん相応の良さがあるのだが、パナソニックが「テレビで目指すところ」は違うのだろう。

 IPTV・VODを軸に高度化するけれど、出来る限りシンプルにして、「テレビ」の軸をぶらさない。

 それが、パナソニックがMozillaと共に作り上げたFirefox OSテレビの狙いのようだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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