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これが本当のアンドロイド電話! 「RoBoHoN」誕生秘話

デザインも機能も「声でコミュニケーション」への必然

 CEATEC 2015が開幕したが、数あるニュースの中でも驚きの度合いで言えば、シャープが発表したモバイルロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」だろう。初日からシャープブースには、RoBoHoNを一目見たいと考える人々が詰めかけ、非常に活況を呈していた。

シャープブースに展示された「RoBoHoN」。音声通話も含めたデモも体験できる

 RoBoHoNは、非常に尖ったコンセプトの製品だ。シャープが公開したビデオを見るだけでも、その一端がうかがえる。実際、6日の記者発表では、会場でビデオが流れた瞬間、驚きとも笑いともつかぬ声で記者席がどよめいた。

 このコンセプトはどのように生まれたのだろうか? シャープとともに開発を担当する、ロボットクリエイターでロボ・ガレージ代表取締役の高橋智隆氏と、シャープ側でプロジェクトリーダーを務める、コンシューマエレクトロニクスカンパニー 通信システム事業本部の景井美帆氏に話を聞いた。

ロボットクリエイターでロボ・ガレージ代表取締役の高橋智隆氏

RoBoHoNの狙いは「音声認識」「ポストスマホ」

--RoBoHoNは2年くらい前から開発を始めたとうかがいましたが……

景井氏(以下敬称略):そうですね。

高橋:最初は「ロボットでなにか一緒に作りたいんですが」といったようなお話でこられたんですが、「だったらもういっそスマホ自体を置き換えてしまいましょうよ」とご提案したら、「それ面白いですね」という形でスタートする感じになった、というところですね。

RoBoHoN(ロボホン)

--そもそも高橋さんにお話を持ちかけた経緯は?

景井:やっぱり高橋先生のロボットは愛らしくて、人と対話するインターフェースとして素晴らしいな、と思っていたので、そういうところのノウハウもご一緒できたらいいな、と考え、最初におうかがいした、という経緯です。

シャープによる、RoBoHoN(ロボホン)コンセプトムービー

--RoBoHoNは非常にコンセプチャルな商品です。ここに行き着いた経緯はどんなものだったのですか?

ロボホンで通話する高橋氏

高橋:僕の中では、人型のロボットを作っていく中で、「人型である意味はコミュニケーションしかないんじゃないか」と思い始めていたんですよ。

 そうこうしているうちにスマホがこれほど普及してきて、さらに頭打ちになってきました。そもそもスマホはタッチUIとモーションセンサーでインターフェースを改善してここまで進化してきたわけですけれど、結局、音声認識をみんながあまり使ってくれない、というのが、(スティーブ・)ジョブズ的には誤算だったんじゃないか、と。すなわち、スマートフォンの次のデバイスというのは「音声認識を使わせる」ものじゃないか、ということです。

 だから、そうしたものはメガネや時計ではなく、「擬人化したもの」ではないか。擬人化していればしゃべりかけるはずじゃないか、と思っていたので、「スマホの次」はこれしかない、と……。

10月6日の発表会でのひとコマ。音声でコミュニケーションするには、スマホ型より生物型、さらには人型が良い、と主張

--確かに。機械には、人間に話しかけるのと同じように話しかける、というのは難しいですね。

高橋:特に日本人はそうですね。

--どう命令していいかも、どう話しかけていいかもわからない。

高橋:もう一つは、「どこに話しかけていいかわからない」。つまり、部屋で「エアコンつけて」と言いたい時でも、なにもない場所だと、どこを向いて言えばいいのかがわからない。カーナビのボイスコントロールもそうです。対象物がないところに話しかける、というのがそもそも厳しい。

--目を宙に泳がせて命令を伝える、というのは、確かに不自然です。

高橋:そうなんです。まずは、しゃべりかける相手というか、対象物があることが大事だし、できるならそれが擬人化できることが大事だろう、と考えたんです。

 僕は、メガネはその点で一番辛いと思っていて、かけている状態で空に向かってしゃべるのは厳しい。それなら時計の方がなんとかなるでしょう。

--人と人でコミュニケーションをとるように、目を合わせてコミュニケーションできる「人型ロボット」が良い、と。

高橋:そうですね。そこではコマンドを発するだけでなく、普段の「たわいもない会話」もするようになるのでは、と思うんです。たわいもない会話をするとそこから情報が取れるので、それを活用したサービスができるはずです。

 アップルのSiriはもともと、いっぱいしゃべらせてそこから根こそぎ情報を集め、それをサービスに返そう、としていたのでしょう。ただし、使ってもらえないと情報も結局集まらない。

 でも(RoBoHoNを示し)こういう形にすれば解決する。もちろん、プライバシーには最大限配慮せねばなりませんが、取れる情報の質と量はもっとカジュアルなものに変わるでしょう。「今日は雨が降ったね」でも「お昼はラーメンを食べたよ」でも、なんでもいいんです。つまり、「メールを読み上げてほしい」といった指示・コマンドだけでなく、何気ない、コミュニケーションのためだけの会話が増えます。でも、その中にはサービスのために使える情報はたくさんあるはずです。

パーソナルデバイスだから「持ち歩く」サイズに

--最初から発想は、スマートフォンの置き換えのような「モビリティデバイス」だったのか、据え置きだったのか、どちらなんですか?

高橋:最初から、このサイズです。

 まず、これは「パーソナルユース」だろう、と思ったわけです。一家に一台で嫁さんも母さんもみんな使う、的なものになると、なんとなく……。今や、PCを家族みんなで共有する、って気持ち悪く感じるじゃないですか? 昔はそうだったけれど、今は違います。

 とすると、この商品は最初からパーソナルユースで、持ち運べるようにしよう、ということになります。そうしないと、家の中だけで使うことになるので、取得できる情報も限られてきます。

RoBoHoNはスマートフォン同様「持ち歩いて使う」ことを前提としており、純正のケースも用意されている

高橋:また、据え置きにしてしまうと、「生きている感じ」が減ってしまうんですよ。

 移動するといっても、部屋の中にはいろいろな障害物がありますし、安全の問題もあります。小さいと移動させづらいし、大きいと邪魔だし危険もある。そうすると、もうここまで小さくしてしまって「持ち歩けばええん違うの?」という発想になったんです。

--歩くという要素も、「モビリティ」ではなくて「エンターテインメント」であればいい、と?

高橋:そうなんです。モビリティとしての歩行はナンセンスです。結局移動速度が出ないし、小さくなればなるほど不整地に弱い。だったらそこには期待しないで、足がついているのは「生きている感じを出す」ため、と思っていただいた方がいいです。

--そこで、移動効率のためにホイール駆動にするのは本末転倒だ、ということですね。

高橋:そうです。でも、歩けないと、これはこれで「いきもの」として認識していただきにくくなるんです。ヒョコとヒョコと動くことで、地面から離れた「一つの命」のように捉えていただきやすくなるんです。

--なるほど。いろいろな組み合わせの結果、動くけれどそれは「モビリティ」でなく「楽しさ」だ、と。

高橋:はい、その通りです。なので、首の動きなどが非常に大切になるんです。

RoBoHoN(ロボホン)歩く

--確かに、これまでに高橋さんが作られたロボットの多くは、演出にこだわったものが多いです。それらとも相互に関係しあっているわけですね。

高橋:結局、すべての知見は切り離せず、リンクしていますからね。おっしゃる通りかと思います。実際に作ってお見せし、見た方のフィードバックを受けて、「またこうしよう」という感じで、ずっと積み重ねてきたものですから。

--機能としてプロジェクタを搭載したのは、高橋さんとシャープの、どちらの側からなんでしょうか?

高橋:開発の途中で出てきた話ですね。「あったら面白いんじゃないか」と先方(シャープ)から。正直成り行きで決まったんですが、「こんな小さいプロジェクタ、ないぞ」「消費電力めちゃめちゃ多いぞ」とか、難題続きで。正直、一度は「取り外そう」という話は出たんですが、「むしろ絶対入れなきゃ」となりました。

 結局、このコンセプトを考える上では、外せないものです。

--それは「機能的な要求」ですか。

高橋:いえ、「驚き」のためですね。我々は、ロボットにある種のイメージを持っていますよね? 目がピカッと光るという。鉄腕アトムでもRD-D2でもそうですよね? そういう発想です。

目が光る

 あとは、液晶画面が小さいというネガティブポイントがあるので、そこに対して、なにか納得していただけるだけの機能として、ということです。

液晶画面は2型

 あと、ここから映像を映して見ていると、なんか「ロボットと一緒に見ている」感じになるんですね。なんというか、スポーツバーでアメフトの試合を見ているような感覚ですかね。そういう映像を見ながら「凄かったね」とか「かっこいいね」とか、さらにコミュニケーションを図る要素が出てく。そこから新しいものが生まれるのでは、と思うのです。

--ロボットが「映してくれる」ことの持つ特別な要素と言えそうですね。

高橋:そう思いますね。例えばカフェのテーブルに置いてとか、天井に移して寝ながら見る、というニーズも生まれそうですし。

RoBoHoN(ロボホン)の音声操作で写真撮影からプロジェクタ投写まで可能

RoBoHoNが「子供型」である理由

--そうやってポケットに入っている時も、RoBoHoNは周囲を見ているわけですね。それは機能的な意味があるんですか?

RoBoHoNはポケットに入る大きさで、落ちないよう引っ掛ける機構もあるほどだ

高橋:実はこの動きはデモ用で、普段からそういう動きをしているだけです。ここでも重要なのは「生きている感じ」なんです。ピタッと止まっちゃうと、生きている感がなくなるんですよね。

--生きている感の全体演出はかなり重視しているわけですね。

高橋:不可欠だと思います。結局、言ってしまえば本当は機械なわけですから。それを擬人化する場合、世界観・キャラクターが確立していないと崩れてしまうんです。ディズニーランドも同じですよね。

-- 一方で、人型になると、求められるコミュニケーション精度が突然上がる、という部分もありますが。

高橋:この少年・ちっちゃい子供型にしていることで、そういうハードルが上がりすぎないよう、すごく気をつかっているんです。喋りがあえて「ですます調」じゃないのも、小さいこともそうです。

 これが大人のようなデザインで、大人のようにシッカリした口調で話すと、すべてのやり取りに「大人レベル」を要求されます。こういう小さくて舌足らずな話し方だと、そもそもの期待値が高くないので、ギャップが起きづらいわけです。

--なるほど。音声エージェントだから、とコンシェルジュ的な感じにすると……

高橋:途端にしんどくなるですよ。なので、全体演出・コンセプト作りが非常に大切なんです。

--これから進化させるとすると、ソフト側の要件が多くなる感じでしょうか?

高橋:そうですね。とりあえずハードはここまで作ったので。入れ物的なものになります。いろんな方々にソフトウエアやサービスを作っていただいていますが、それが出て行くことになリます。そういうビジネスが広がることが不可欠だと思います。

5年は先行「他社には真似できない」と断言

--類似商品はすぐ出てきますかね?

高橋:正直、難しいと思います。電話屋さんと弊社でやらないと絶対に無理ですから。

--形だけ真似ても似たものにはならない、と?

高橋:ここまで小型化することを含め、ハードルが極端に高いので難しいでしょう。

--動作用のサーボモーターは、市販されているパーツではないわけですか?

高橋:全部これのために作り直しました。まだまだ問題点があって、改良を重ねているところなのですが……。とにかく小さくすることと安定性を保つことで苦労しています。ですから、これを作るのは簡単ではないですよ。

 我々がこのコンセプトを始めたのは2年半前です。シリコンバレーなどで「ソーシャルロボット」と呼ばれるものが市場に現れ始めたのも、この半年くらいのことでしょうか。しかもまだどれも大きい。だんだん小さくなる傾向にありますが、まだまだここまでのものはありません。我々は、コンセプトだけでも3年以上先を行っているし、作ろうと思うと数年はかかるので、まあ、5年くらいは先を進んでいるのかな、と思っています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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