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PS VRが目指す「新しいゲームの時代」。SCEハウス社長に聞く成功への道筋

 PlayStation VR(PS VR)が10月に、44,980円で発売されることが明らかになった。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)はどのような戦略を描いているのだろうか? トップであるアンドリュー・ハウス社長との記者ラウンドテーブルから、気になる部分を探ってみよう。

SCE アンドリュー・ハウスCEO

ハードは「黒字」、ソフトは「意外なヒット」に期待

−まず、PS VRのビジネスモデル上の位置付けを伺いたいのですが。単体で利益を得るのか、PS4までミックスしてのものとなっているのか。

ハウス社長(以下敬称略):一言で言えば両方、です。我々の計画では、(PS VRの)ハードウェア単体でも粗利益としては黒字になる形にはなっています。PS4以降、弊社の過去のビジネスモデルとは異なり、できるだけハードウェアについては、時期によってはごく薄い時もありますが、ハード単体でも常に利益を得られる構造で、かつ、他の収入もエコシステムから得られる、健全なビジネスモデルを志向しています。PS VRも全く同じです。

PlayStation VRは44,980円

−ということは、比較的短期で収益に貢献することを目標としているわけですね。

ハウス:はい。そうです。

−当初の想定ユーザーはゲームの熱心なファン、ということですか? それとも、最初からより広い層を狙うのでしょうか。

PlayStation VR

ハウス:時期により変化するとは思いますが、まずはすでにPS4を購入していただいたファンが最優先になるでしょう。なおかつ、これはまったく新しいゲームのプレイスタイルです。やはり、熱心なファンが一番購入しやすい形かと思います。

 とは言いつつ、あまりゲームの操作が得意でない人にも楽しんでもらいやすい、という部分もあります。「Head Master」という、ヘディングゲームが良い例なのですが。非常にコンパクトでシンプルなものですが、「ヘディングする」という行為は誰にでも楽しめます。ですからできるだけ、あらゆるジャンルのユーザーを目指したいとは思います。

−コンテンツの売り方としては、パッケージが主体なのか、デジタル配信が主体なのか。どうなりますか。

ハウス:PS4と同じです。ハイブリッドに、物理メディアも使えますしダウンロードも使えます。幅広いジャンルに対応することを考えられますから、AAAタイトルからコンパクトなものまでできます。AAAタイトルはPS4と同じ、60ドルくらいでしょうが、コンパクトでデジタル配信はもっと安くできる。まあ、価格は我々が決めるべきものではないですが、どんな場合にも適切な価格設定で展開します。フレキシビリティの高さが、PlayStationエコシステムの良さだと思います。デジタル配信であるからこそ、どんな小さなデベロッパーでも、コストをかけずに低いリスクでビジネスができます。

対応タイトル開発企業

−地域によって、販売数量やヒットの仕方に違いは出そうですか?

ハウス:地域性は、どちらかというとコンテンツ種別の方に関わるかな、と思います。

 ただ、共通の要素として考えているのは、決まった「プレイエリア」の中で体験する、ということです。私が見るに、このプレイエリアの広さならば、アジアでも日本でもアメリカでも、問題なく同じようにプレイしていただけるのではないか、と思います。

−すなわち、アメリカのように広い家でないと楽しめない、という風には作っていない、と。

ハウス:はい。あと、あくまで我々の「おすすめ」として、座ってプレイしていただくのが一番安全です。ですから、広いエリアが必須、ということではないです。

−ヒットするのは、AAAタイトルか小粒なものか、どちらになりそうですか?

ハウス:いやあ、それをいま予測するのは難しいですね。でも、意外なところがヒットにつながるのではないか、と思っています。事前に予想したジャンルとは違うところがヒットするものですよ。

10月発売

VRは「皆で立ち上げる産業」

−販売はPS4と同じく欧米が中心になるのか、それともワールドワイドか、いかがですか? 日本でも同じように売れていくと思いますか?

ハウス:均等に売れていく、と思います。なぜなら、日本のクリエイターさん達が非常に熱心なんです。日本国内では通常の据え置き型コンソールはやや元気のない市場ですが、今までのゲーム体験とまったく違うものになりますので、日本でも状況を変えられるのではないか、と期待しています。

 とは言いつつ、ファクトベースで言えば、まずPS4を購入したユーザーが中心でしょうから、PS4が多く売れている欧米での数が多くなるでしょう。

−競合の状況はどう分析していますか? PC向けにはOculusやViveがあり、スマートフォン向けのGearVRもある。PS VRはその中でどういう位置を占めますか?

ハウス:今はまだ市場が小さいので、競合というより、皆が協力して新カテゴリーを立ち上げている最中です。競合よりそこが大事な部分です。VRはどういうもので、VRはなぜ楽しいのか。皆共通のチャレンジがあります。

 その上で、ということではありますが、我々に有利な点があるとすれば、価格は他より安いです。他社はかなりハイエンドな製品で、高性能なPCを購入した上で使うものです。我々はすでに3,600万台のPS4を普及させていますから、オーディエンスがかなり出来上がっている状況です。

 差異化する上で重要なのは「ソーシャルスクリーン」機能です。VRの体験だけでなく、周りのユーザーからも体験が見えます。そうすると、完全に閉じこもった感じではなくなります。

 変な話ですが、VRをやっていて私が一番楽しいのは、他人のリアクションを見ることなんですね。うちの役員に、一人ものすごくリアクションが大きい人間がいまして(笑)。これももう一つのVRの楽しみじゃないか、と思っています。

−PS4を持っていないユーザーへのセット販売も考えていますか?

ハウス:地域ごとでのセット販売の有無は現在検討中です。

−ちょっとTwitterでアンケートをとってみましたが、答えた方のうち多くが「まあまあの価格」と評価しています。価格設定の根拠はなんですか?

編注:西田氏によるTwitterアンケートの結果。[まあまあ]63%、[安い]20%、[高い]17%

ハウス:いつも新ハードウェアを出す時には、できるだけ上手いバランスを取れるように考えています。なかなかに難しいんですが。あまりにも安くすると利益・売上高にも直結します。我々は製品の出来に自信を持っていて「プレミアム」を目指そうとしています。批判するわけではないですが、GearVRやGoogle Cardboardのようなスマートフォン向けとは違うものです。その差がプレムアム感として反映されるような価格設定を考えています。ユーザーが付加価値を感じて、なおかつ購入しやすい価格ということを同時に考えています。

−ということは、周辺機器ではありますが、PS3やPS4のようなハードウェアの価格設定と同じようなロジック、ということでしょうか。

ハウス:どちらかといえば、周辺機器と新しいプラットフォームの間くらいのような感覚ですね。

VR映画にもこの先チャレンジ、まずは「体験」が重要

−10月の発売時期には、ゲーム以外のコンテンツも用意されるのでしょうか?

ハウス:時期は別途になりますが。PS4での経験より「まずはゲーム」というところにフォーカスしています。本当にいいゲーム体験を届けることを考えます。その上で、動画など、さらなる楽しみ方を広げていく予定です。

 もちろん内部では考えていますが、また違う時期に。

 しかし(PS4の画面をそのままPS VR内に大スクリーン感覚で表示する)「シネマティックモード」と「メディアプレイヤー」の新しいバージョンの存在は大きいかと思います。すでに多くの方が360度カメラで写真撮影を楽しんでいますが、それをPS VRで体験できます。

シネマティックモードで、通常のPS4映像/ゲームも大スクリーン表示

 実は、同僚のソニーピクチャーズ・テレビジョンの人々と密に話し合っています。例えば「ブレイキング・バッド」の製作者にもPS VRは体験してもらっています。共通のコメントとして、作り手は皆「これでなにかを作りたい!」と思っているんです。しかし、全く新しいメディアなので、作り方のワークフローができていない。プロ用の360度カメラや制作ツールの連携も存在していません。そういうものが出てこないと、PS VR用のドラマシリーズだとかは、まだ出てこないかな……と思います。

メディアプレイヤーのVRモードで、通常の動画もVR化

 なお、PSVRについて、SCEから追加情報が確認できたのでお伝えしておきたい。シネマティックモードでBlu-ray 3Dを表示した場合には、3Dの映像にはならず「2D表示になる」という。Blu-ray 3Dには非対応ということだ。また、PSVR向けにアップデートされるメディアプレイヤーでは、左右ステレオペアによる3D写真や動画には対応しない。つまり、「シネマティックモードは2Dで巨大なスクリーン体験をするもの」で、PSVRでの個人作成データの表示は「360撮影系に特化している」ということになる。

−何年後くらいになりますか?

ハウス:うーん、それは弊社のプロ向け事業部に聞いてみていただきたいところですね(笑)。これはニワトリと卵の関係なので。

−まだ一般に広まっていないジャンルなので、プロモーションが非常に大事になります。周知の戦略はどうなっていますか?

ハウス:一つはもちろん「体験」。幅広いユーザーが体験できる場を作ることが、我々にとってのチャレンジです。それが店頭なのか、自社開催のイベントなのか。それは色々ですが、かなりの努力が必要かと思います。

 先ほどもある映画プロデューサーと話していたんですが、彼も私と同じ意見でした。外部からVRを眺めていると非常に懐疑的になります。しかし、体験した後だと全く意見が変わる。なるべくそういうチャンスを増やしたいです。

 もう一つ期待しているのは、購入したコアユーザーからのPSN、もしくはソーシャルメディアでの「口コミ」。これは今の時代、大きいと思います。

−ということは、販促費は今までのプラットフォームより大きくなりそう、ということですか?

ハウス:いえ、完全に新しいコンソールを立ち上げる時ほどは必要ない、と思っています。なぜなら、PS4をすでに買っている方が買うだろう、という製品なので、すでに我々が持つメディアの中でコミュニケーションが取れていますから。そうした経路をできるだけ効率良く使おうと思っています。

−PS VR向けゲームのレーティングなどはどうなりますか?

ハウス:内容については、これまでのゲームと同じで、通常のレーティング制度に従うものと思います。ハードウェアを使う上では、12歳以上の方に使っていただくことをお勧めします。

 なぜ12歳かというと、専門家の話を聞くと、もっと小さい子供でも大丈夫だそうです。7歳とか。理由は、7歳で顔の形や目の間の距離が決まるからなのですが。しかし我々は、もう少しコンサバティブなスタンスを取って、12歳から、としました。

 また当然のことながら、親の方のガイダンスも大事になると思います。通常のゲームもそこは同じですが。ここまで没入感のあるコンテンツを子供にどこまでやらせていいかは、親と一緒にジャッジしていきたいです。

PS4の延命ではなく「より濃い体験」を目指す

−B2B、教育や医療などの分野に興味はありますか?

ハウス:ソニー全体で、PS VRやVRをカテゴリーとして扱うことには興味を持っています。十分議論した上で提供する可能性はあります。が、現在具体的な予定はないですし、予定ができた時にも、きっちり話し合ってからの提供になるでしょう。

−その場合、PS4以外につなぐこともありえますか?

ハウス:はい、そうですね。ただ、それを判断するのはまだ早いです。コンテンツ制作側のアプリケーションができあがってから、ということになるでしょう。

−もう社内で話し合いは進んでいるんですか?

ハウス:はい。映像や音楽などの制作部隊とは、正式な話し合いをしています。特に密に話しているのは音楽事業で、コンサートやPVがVRでどう変わるかを考えるため、部門間の対話は始まっています。

 プロ用映像機材の開発を行う部隊ともディスカッションを行なっています。具体的に言えば、ソニー副社長の鈴木智行さん(筆者注:デバイスソリューションとR&D、共通ソフトウエア担当)の協力を得ており、彼が統括するプロ向け機材などの部隊とは、会話をしています。

−過去にはソニー本社もHMDをやっていましたが、これからはソニーグループ全体でPS VRに一本化するのですか?

ハウス:それは私が話せる部分ではないですね。

−SCEとしては、PS VRのような本格VR以外、例えばモバイルVRなどを手がける可能性はありますか?

ハウス:今のところ、具体的な話はないです。

−(Microsoftの)HoloLensのようなARグラスを手がける予定もないわけですか?

ハウス:はい。ただし、技術開発としては以前からやっています。今の段階で製品計画などはないです。

−PS VRが市場に出る頃には、PS4が市場に出て3年が経過していることになります。PS VRは、PS4の製品ライフサイクルを伸ばす役割を果たすことになるのでしょうか。

ハウス:「伸ばす」ことはあまり考えていません。ゲームの面白さを「深く」することが目的です。

 VRは通常のゲームとは全く作り方が異なるので、ある意味、今までよりも幅広く参入できる場になると思います。実は、シンプルだけど没入感があって面白いゲームは、低コストかつ小さなチームからうまれています。必ずしも、すごい制作コストのすごく大きなチームが必要ではない、そうでないと面白いものが作れない、というルールではない、ということが、PS VRのもう一つの醍醐味かと思います。

−ここまでゲームデベロッパーがVRに熱狂し始めた理由はなんだと分析していますか?

ハウス:非常に単純な理由です。VRの世界に面白さ、魅力を感じているからです。我々としても、ハードウェアエンジニアは2010年くらいから「なにかを作りたい」という話はありました。しかし、急速に盛り上がったのは、コンテンツクリエイターの影響です。「ぜひVRゲームを作りたい」「VRの映像を作って公開したい」という。そういう要求からいいハードウェアが出てくるのは、健全な形かと思います。

−今までのSCEのプラットフォームで、PS VRにいちばん似ている部分はどこですか? やっぱりPS1ですか?

ハウス:いや、PS4そのものが、私も含め、初期の段階のPlayStationの精神に戻りたい、というものがありました。僕、伊藤(雅康氏、PSプロダクト事業部長・ソフトウェア設計部門長)やマーク(サーニー氏。PS4のリード・システムアーキテクト)が、デベロッパーのみなさんの要望をとにかく聞いて、取り込んだプラットフォームになっています。メインメモリーをGDDR5・8GBに変えたエピソードもその一つですね。コストは本当に苦しかったのですが。同じようなムーブメントをぜひもう一度起こしたいです。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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