鳥居一豊の「良作×良品

最新BDレコーダで「グラン・ブルー完全版」の青を堪能

BDZ-AX2700TでTV放送/BDの画質を追い込む


 特定の映画タイトルで製品を視聴するこの連載。実際は映画に限っているわけではなく、テレビ番組でもアニメでもゲームでも「良作」であれば、どんどん取り上げたいと思っている。どんな作品を選ぶかはこれから巡り会う作品しだいだが、新旧さえ問わず幅広く良作を紹介していきたい。もちろん良品も。

 今回の本題に入る前に、前回の補足を少しだけ。TH-P42ST3の画質調整項目を掲載しているが、この値を参考にする場合に注意してほしいことがある。特にテレビの画質調整の場合に重要だが、画質調整は視聴する環境もふくめてセットで行なわれるということ。つまり、部屋の明るさと照明の種類(色温度)に合わせて、明るさとコントラスト、カラーバランスを整えるのが、画質調整の基本となるからだ(前回は暗室に近い環境で視聴しているので、近い環境に合わせることもできる)。今後も調整した場合の部屋の環境などは詳しく紹介するようにするが、画質調整などを参考にする場合は以上の点を覚えておいてほしい。


■映画のコレクションには、BDレコーダが欠かせない

BDZ-AX2700T

 今回取り上げるのは、BDレコーダーのソニー「BDZ-AX2700T」(実売価格16万円前後)だ。昨年の登場以来その画質と音質に惚れ込んで年末に手に入れてしまった。僕はBDレコーダーを選ぶ場合に、画質と音質を一番重要視する。この理由は使用しているディスプレイがパイオニアのKRP-500Mのため、テレビチューナとしても使用するからだ。毎年BDレコーダを買い換えるわけにいかないので、当分の間BDだけでなくテレビ放送においての事実上のリファレンスになるため、機器の選定はかなりシビアだ。そのため、予算的には無理をしてハイエンドモデルを選ぶことが多くなる。

 僕がよく録画する番組は、映画とアニメが8割を占める。これが何を意味するかというと、「いずれBD化される可能性が高い」コンテンツということになる。BDレコーダでヘビーに録画する人には、いろいろな考え方があって、特に映画は録り逃してもBDで見ればいいと、あまり優先的な録画対象にしない人が少なくない。むしろ、BD化の機会が少ない音楽番組やライブコンサートこそ、最優先で録るべきだと。これはこれで正しい考え方だ。ところが、BS放送でオンエアされる映画には、案外BD化されていないタイトルが数多い。当然ハイビジョン画質での放送だ。この理由は、CS放送や有料の動画配信のために多くの映画会社が所有するコンテンツをHD化してアーカイブしているため。BDで発売しても利益は期待しにくいが、動画配信ならば十分にビジネスになるのだろう。ここには、誰もが知る大ヒット作ではなく、知名度の低い秀作やカルト的な人気を持つ作品が数多く含まれており、マニアックな意味で見逃せない作品がかなり多いのだ。ある作品にハマるとその監督の作品をすべてチェックしたくなる習性のある僕にとって、監督シリーズや俳優シリーズなどでBD化されていない作品まで網羅して放送してくれるテレビの映画番組はやはり欠かせない録画対象だ。

 ふだんから、そういう風にBDレコーダを使っている僕だけに、BDレコーダを取り上げるならば、テレビ放送された作品を題材にしたいと考えた。そこで、NHKのBSプレミアムやWOWOWの映画放送を調べてみると、ちょうどよく1月20日にBSプレミアムで「グラン・ブルー完全版 デジタル・レストアバージョン」(以下、「グラン・ブルー」)の放送予定を発見し、さっそく録画予約したわけだ。

【グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン-】
グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン- Blu-ray
発売日:2010年9月24日
価格:2,625円
品番:DAXA-1138

 監督は、リュック・ベッソン。リュック・ベッソンというと、最近は「TAXI」シリーズや「トランスポーター」シリーズなど、エンターテイメント色の強い作品に関わっていることが多いが、ハードボイルド・アクションの傑作「レオン」や「ニキータ」、歴史活劇の「ジャンヌ・ダルク」など、激しいアクションと強いメッセージ性が融合した作品を自ら監督していることでも知られる。「グラン・ブルー」はそんな彼の名を世界に知らしめた出世作。実在するダイバーのジャック・マイヨールをモチーフとし、フリーダイビングの世界記録に挑む2人の姿を描いたドラマだ。

 オリジナル版は1988年の公開で、アメリカ公開版や無編集版の「完全版」など、さまざまなバージョンがある。放送された「デジタル・レストア・バージョン」は2010年に日本でも公開されたもので、BD版「グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン- Blu-ray(DAXA-1138:2010年9月24日発売)」も発売されている。筆者も所有しているので、本稿でも主に画質の違いなどについて触れていきたい。



■放送される映画を網羅するための機能が豊富な「BDZ-AX2700T」

 「BDZ-AX2700T」に限らず、現行のソニー製BDレコーダは、番組探しに役立つ機能が充実している。ユーザーがよく見る番組を学習して、自動で番組を録画する「おまかせ・まる録」がその代表だが、そのほかにも、好みのジャンルやキーワードなどを登録しておくことで、見たい番組だけをまとめて番組リストを作成してくれる「My番組表」が便利だ。

 僕の基本的な使い方としては、「おまかせ・まる録」で、3D放送とアニメの新番組を登録、映画は「My番組表」に登録して定期的に放送予定を確認するようにしている。こうした使い方は、ソニーの現行モデルすべてで行なえる。

洋画を登録した「My番組表」。タイトルや簡単な解説のほか、放送予定日を大きく表示してくれるので、録画番組探しがしやすい「My番組表」の設定画面。番組ジャンルは、EPGのジャンルとサブジャンルで指定できる。このほか、俳優の名前などをキーワードで登録して設定することも可能

 そして、BDZ-AX2700Tの特長は、3チューナ内蔵で3つの番組まで同時に録画できることだ。3チューナの威力は絶大で、毎週40~60程度の番組を録画予約している僕は、2チューナ機時代は2台のレコーダを使わないと番組重複で録れないことが多々あったが、3チューナのAX2700Tを導入したらサブ機の出番がすっかりなくなってしまったほどだ。レコーダ 2台分の役割が1台で済んでしまうのだから、電気代の節約という観点でも3チューナ機は有利だと言える。

BSデジタル放送の番組表。ジャンル別色分け表示が可能で、チャンネル別表示もできるので1週間の放送予定の確認もしやすい。番組予約も同じ時間に3つも登録できる

 しかし、BDZ-AX2700Tの最大の魅力は、高画質・高音質だ。まずは、BDレコーダを画質・音質優先で運用するためのちょっとした設定を紹介しよう。ひとつは「HDMI AV独立ピュア出力」。これは2系統装備しているHDMI出力を使い、一方は映像のみ、一方は音声のみを出力させて相互の悪影響をなくして高画質・高音質を実現するもの。僕の家ではすべてのAV機器はAVアンプに接続し、そこからディスプレイに接続しているので、入力の切り替えなどはAVアンプ側で行なっている。「HDMI AV独立ピュア出力」を使うと、AVアンプ側の入力切り替えに加えて、ディスプレイ側でも入力切り替えが必要になり、操作は煩雑になる。しかし、その手間を差し引いても、画質、特に音質の向上が著しく、一度試したらもう「HDMI AV独立ピュア出力」でしか使えないと確信してしまった。こうしたHDMI出力の映像/音声のセパレート出力は他社でも採用しており、いずれも音質向上の大きな効果が得られる。同様の機能を持ったBDレコーダなどを所有している人はぜひ試してみてほしい。

 もうひとつは、「BD-ROM専用画質モード」を「入」にする。これは、後述する膨大な量の画質調整をBDソフト再生用と、テレビ放送などのそれ以外と独立してメモリーしておくことができるもの。本機を使う醍醐味はこの膨大な画質調整をいじり倒すことにあると言ってもいいが、BDソフト用と放送用に個別にカスタムできるのは実に便利。しかも、BD用と放送用の画質モードは自動で切り替わるので、こちらがいちいち切り替えをしなくても済むのも快適だ。

HDMI AV独立ピュア出力の設定画面。「使用する」を選ぶと、HDMI1からは映像のみ、HDMI2からは音声のみが出力されるようになるBD-ROM専用画質モードの選択項目。「切」にすると、BD放送でもテレビ放送でも同様の画質設定が反映されるようになる

■「グラン・ブルー」の美味しいところは、やはり「青」

 いよいよ「グラン・ブルー」の視聴を始めよう。この映画の魅力はたくさんあるが、なんと言っても「青」の再現だ。主人公であるジャックとエンゾの2人の幼少時代をモノクロ映像で描いた冒頭シーンは、タイトルやスタッフ名だけ青字で重ねるといった印象的な演出も行なっている。モノクロのグレーが赤や緑に寄らず、品位の高いモノクロ映像を見ていると、不思議と海の青さが伝わってくるように感じる。やがて物語は1988年のシチリアへ移り(BD版のチャプター3)、映像もカラーになる。その色は、最近のデジタル映像の鮮やかなカラーに見慣れていると、少し色が浅いような、穏やかな質感に感じられる。パキッとした鮮やかな原色よりも、中間色が豊かに再現されている印象で、フィルムらしい柔らかい色調とも言える。とはいえ、ペンキで塗られた家の壁や看板などはいかにもペンキといった派手な発色が再現されており、デジタルレストアによる修復の効果もはっきりと感じられた。色再現についてはまったく不満がなく、海の青さの再現も期待できそうだ。

 気になったのは、フィルムグレイン(フィルム撮影作品特有の粒子感)がやや目立ち、ノイジーに感じやすいこと。BSデジタル放送は転送レートも24Mbpsと多めの情報量で放送されるが、MPEG-2エンコードであることが原因だろう。このあたりは調整でなんとかしていきたい。

 精細感については、制作年代が古いこともあり、もともと高解像度な映像ではないし、被写界深度を浅めにした撮影をしているようで、ジャックとエンゾが2人で会話するバストショットの映像でさえ、フォーカスが合うのは会話しているジャックだけになるといった具合だ。こういう映像の場合、無理に精細感を高めようとしてしまうと、美しくぼけた背景に強調感が出て自然な遠近感が無くなってしまう。調整ではこのあたりがポイントになるだろう。

 「グラン・ブルー」が公開時以来、僕の中での大事な作品の上位に居座っているのは、美しい映像はもちろんだが、幼少期に父を失ったジャックをライバルとして親友として気にかけているエンゾの友情、「どちらかというと魚に近い」などと言われるジャックの純粋さ、木訥さをユーモラスに描いているストーリーの豊かさだ。ジャックの天真爛漫な笑顔、エンゾの誇らしげな表情など、表情や動作をとても丁寧に捉えており、飾り気のない演技とあいまって、深く染みてくるような奥深い味わいがある。本作を高画質で楽しむ場合、映像にも現れるこうした柔らかいトーンをしっかりと引き出してくれることが大事だ。

 それがよくわかるのが、ジャックとエンゾの2人がフリーダイビング競技の開催を祝うホテルのパーティで、潜りっこ比べをするためにスーツのままプールに飛び込む場面。プール内の水中を映した映像は比較的鮮やかなブルーで、奥行き方向の見通しもいい。水中でワインを注ぎ合っている2人は当然青かぶりしているが、ジャックの濃茶のスーツ、エンゾの白いスーツの色合いや質感もしっかりと再現される。

 BDZ-AX2700Tの色再現は、新たに色解像度の向上が図られたこともあり、鮮やかな色もきちんと描くが、それ以上に気に入っているのは、中間色や微妙な色の変化をきめ細かく描き分けることだ。そのため、全体に青系のトーンになる水中シーンでも、カラフルな印象になる。海中シーンが多い本作ではここが大事だ。

 そして、いよいよフリーダイビング競技が始まる(チャプター14)。ここが本作の大きな見せ場だ。ブルーのウェットスーツを着たジャックが潜水を行なう場所へ向かうシーンでは、ジャックの視点と思われる映像が差し挟まれるが、なにか現実感のない茫洋とした映像に感じられる。音もエリック・セラの音楽のみで会話などはほとんどない。競技直前の集中状態とも思えるが、家族を紹介するようにイルカの写真を見せたり、ジョアンナとのデートでもイルカのいるプールへ出掛けたりしてしまうほど、海とイルカが大好きなジャックにしてみれば、今居る海上が自分の居る場所ではないと思っているようにも感じる。

 潜水開始。海はシアン系のブルーで映像も明るい。ゆらゆらと波打つ水面の輝きが柔らかく美しい。潜って行くにつれ、シアンからネイビーブルーへと滑らかに変化していく。水中の映像もことさらに綺麗に見せようとしない自然な映し方で、プランクトンやさまざまなチリのようなものが浮遊する海中は思ったほど見通しがよくない。先ほどのプールのブルーの方が綺麗だが、比べてみると明らかに人工的な水中であったことがわかる。

 カットが変わり、かなり深度が深くなった海の中では、海は一気に真っ暗になる。照明がさした部分が淡いブルーの輪郭を帯びて白く光り、ジャックやダイバーを照らしているだけで、あとは真っ暗だ。暗部再現はテレビ側の実力が問われる部分でもあるが、実はBDレコーダの実力に左右される部分も大きい。暗いシーンというのは、音でいうならば小音量の微小信号領域なので、ノイズの影響を受けやすい。そのため、画質・音質にあまりコストをかけられない普及モデルなどでは、暗部のノイズが目立つことを嫌って黒く潰してしまうような画作りが行なわれることがある。こうなってしまうと、暗い部分が見づらくなってしまうし、深い海中での暗闇の広がりがべったりとした暗幕になってしまう。


■ AX2700Tの膨大な画質調整で、さらに上質な映像を追求

 ここで、BDZ-AX2700Tの画質調整をいじってみよう。画質調整項目はかなり多岐に渡っており、いわゆる標準的な画質調整を行なうための明るさやコントラストといった項目もある。これらを作品を見るごとにいちいち調整するのは大変なので、ソニー推奨の設定値がプリセットで用意されている。これの場合、モニター種類と、画質モードを組み合わせるだけで良い。液晶テレビだけでなく、プロジェクターやプラズマテレビなどのプリセットを用意しているのがありがたい。このほか、自由に設定を行なえるカスタムを選択すると、おすすめカスタム値が現れ、見るソースやディスプレイに合わせたメニューが選択できるようになる(両者は排他関係にあり、どちらか一方だけが選べる)。

画質設定項目で、おまかせメニューを選択したところ。こちらではカスタムのように詳細な調整を行なうことはできないモニター種類の選択項目。液晶テレビのほか、プラズマテレビや有機ELテレビなどの項目もある画質モードの選択項目。リビングおまかせ(明るい部屋)、シアターおまかせ(暗い部屋)などがある。ここでカスタムを選ぶと詳細な調整が可能

 詳細な調整は画質モードでカスタムを選ぶ。BDZ-AX2700Tの場合、カスタムは2つ用意されている。これと合わせて先ほどのBDソフト用モードを合わせると、合計で4つのカスタム値をメモリーしておけることになる。詳細に調整をいじるタイプの人でも、これらを使い分ければソフトごとにいちいち調整することなく、比較的快適に使えるだろう。ちなみに僕の場合は、BDソフト用、テレビ放送用ともに、カスタム1は映画やテレビ全般の実写映像用、カスタム2は画質傾向がまるで違うアニメ用に調整値を作っている。

 「グラン・ブルー」での調整では、主に精細感の再現性を重視して調整を行なった。ポイントは、本機の大きな特長であり、新機能の「精細感調整(中域)」。これはいわゆるシャープネス調整に近いものだが、従来からある「精細感調整」と2つになることで、それぞれの働きもチューニングが加わっている。もともと映像が甘めで、MPEG-2由来のノイズも目立ったため、「精細感調整」はほどほどの2としている。「精細感調整(中域)」はもと低い周波数の、つまりより大きなディテールの変化に影響するもの。ここは少し持ち上げてみてもノイズ感が増えるようなことがなかったので、「3」にした。

 映像のエッジの再現を調整する「輪郭調整(中域)」は、輪郭の強調感を抑えるもの。中域の方が太めの輪郭に影響する。この使い方がユニークで、どちらかというと弱める方向で使うことを想定している。輪郭が甘くなってしまうかというとそんなことはなく、むしろ輪郭がすっきりとし見通しのよい映像になる。ソニーによれば、映画のいくつかにはBDソフト化のエンコードなどの過程で輪郭強調されてしまったものがあり、これを取り除いてやると映像の不自然さがなくなることを発見し、機能として盛り込んだのだそうだ。ここでは「-1」とすることで、髪の毛の細かいエッジ感がわずかに抑まりすっきりとした印象になった。

 こうした調整を行なう場合、まずは大胆に動かしてみることがポイントだ。極端に言えば、最小と最大を見比べて調整するのがマイナス方向かプラス方向かを見極める。動かす方向がきまったら、「0」位置と最大または最小値をすばやく移動させながら、映像がどのように変化するかを見ていく。動かしていくと、なんとなく好ましい調整値がわかってくるので、そのあたりに仮決めしてから、+1や-1といった微調整を行なう。こうした機能に慣れていないと、+1や-1程度の微調整で恐る恐る触ってしまいがちだが、これでは画質への変化が識別できない。違いがはっきりわからないと、調整作業が無意味に感じられてしまうし、すぐ飽きてしまう。まずはその調整でどのような変化が起きるかを把握することが重要だ。このほか、「フィルムグレイン調整」で粒子感を少し弱め、ノイズ感を目立たなくしている。「フィルムグレイン調整」は従来からある機能だが、けっこうユニークな機能で、+方向に調整するとビデオ撮影ソースでもフィルムグレインを付加できる。これは映画っぽい映像で楽しむこともできるが、モスキートノイズのような細部のもやもや感を相殺して見やすい映像にするという効果もある。僕はフィルムグレインはザラザラと見苦しくなければそのまま見るのが好みだが、テレビ放送で録画した映画の場合は上記のような理由でわりと活用している。

画質モード「カスタム1」を使った調整結果その1。3D映像用の「3Dエンハンス」などはいじらない調整結果その2。輪郭調整および精細感調整が並んだ項目。ノイズが目立たない程度に精細感を持ち上げると、ディテールなどがよりはっきりと再現される
調整結果その3。フィルムグレインのノイズ感が少し目立ったので、「フィルムグレイン調整」を-1とした。各種ノイズリダクションも「入」として、ノイズ感を抑制調整結果その4。こちらは標準的な画質調整項目。クリアブラックはテレビの暗部再現に合わせた結果なので、こちらは視聴するテレビの階調表現と合わせて調整しよう

 この調整を行なうことで、フィルムの柔らかい質感はそのままに、肌の質感などがよく浮かぶ映像になり、ジャックやエンゾの表情もより生き生きしたものに感じられるようになった。リュック・ベッソン作品では、案外主役級の白人女性が日本人的な感覚でいうとシミやソバカスが多い女優を使うことが多いが、これも明瞭に再現された。初見ではいつもノーメイクに近い素肌の印象だったが、シチリア島のふだんのシーンとは別に、パーティやニューヨークでの出勤シーンではきちんとメイクをし、シミなどが目立たなくなっていることに気付く。

 海中シーンも、海面付近の曇ったような海水の雰囲気や、真っ暗になり逆にライトで照らされたダイバーの姿が鮮明に浮かび上がる海の深さによる映像の見え方の違いがいっそうはっきりとした。場面は一気に飛んで(チャプター23)。ジャックが120mという大記録を打ち立てる潜水シーンでは、海面付近では波間から差し込んだ光がカーテンのように広がり、リアルな映像のはずななのに幻想的とさえ感じるロマンチックな海中の映像を堪能できた。


■本作に欠かせないエリック・セラの音楽は豊かに再現できるか

 本作を支えるもうひとつの魅力であるエリック・セラの音楽。ここの再現も映画を堪能するには重要だ。最初に説明しておくと、劇場版自体が音声はステレオで、BD版でも音声は英語と仏語をリニアPCM 2chで収録している。テレビ放送版も、音声はAACによる2chだったので、「BDだったらサラウンドなのに!」というような落差もなく、基本的には大きな差はなかった。というか、AAC音声が案外捨てたものではないなと感じた。

 BDZ-AX2700Tは、32bitD/Aコンバーター搭載や電源部の強化など、音質面でもかなり力を注いでおり、「HDMI AV独立ピュア出力」と相まって、ニュアンスが豊かで余計な演出のないストレートできめ細やかな音が楽しめた。面白い発見だったのは、冒頭のBGMからしてエコーを多用した録音になっているが、特に潜水シーンで使われるビートが強めの音楽は低音の量感もかなり膨らんでいること。エフェクトとして、イルカの鳴き声に似た音を音楽に採り入れていることも含め、もしかすると、海中で音楽を聴いたときの感触を意識しているのかもしれない。正直なところ、BD版を購入した当時は5.1ch化してくれてもいいかと不満に感じていたが、2チャンネルの音声をしっかりと再現できるようになると、そんなものはむしろ無用だという気持ちになる。

 BD版と比較すると、印象的に使われるエコー感は、BD版のほうが明瞭になっていることがわかるし、量感多めの低音楽器も膨らみだけでなく最低域の伸びもしっかりとしているため、あまりぼやけた印象にならないように工夫されていることまで気付くなど、情報量には差がある。とは言うものの、AAC音声としては十分な実力で、BD版を持っていないなら、無理にわざわざ購入する必要はないと感じた。

 こういった、派手さはなくてもニュアンスたっぷりの音楽や、飾り気のないストレートなジャックやエンゾの声の再現など、質感をしっかりと出す音の傾向も、BDZ-AX2700Tの美点だと思う。


■BD版では映像はこう変わる。BD版の画質調整も紹介

 最後にBD版で見た印象も付け加えておこう。圧倒的な差はないものの、情報量に余裕があるためか、フィルムグレインの粒子感はきめ細かく、ノイジーに感じることはなかった。また、テレビ視聴時はほとんど気にならなかったが、BD版と見比べると、テレビ版は複雑に揺らめく海面やイルカがジャンプする場面の波しぶきなどでは、MPEGノイズが多少発生していた。このあたりが少々差がつく部分だが、肝心要の色再現、複雑玄妙に変化する海のブルーの美しさについては差はほとんどなく、十分に満足できるものだった。

 画質調整は、テレビ版のものと大きくは変わらなかったが、ノイズ除去処理をほとんどオフとしたほか、精細感調整なども少々バランスが変わっていた。ふだんは自動で切り替わるため、調整値をテレビ用とBD用で比較する機会はないのだが、今回調整画面を撮影してみて、案外調整値にも違いが出るものだなと、改めて思った。基本的にはテレビ放送はノイズが目立ちやすいので、ノイズ抑制を重視し破綻のない見やすい方向とするし、BDではノイズの心配が少ないため、そのぶん解像感をより引きだそうという気持ちがあるが、そのあたりが調整値にも現れているようだ。

BDソフト用の調整項目その1。こちらもテレビ版と同様にカスタム1を使って調整しているBDソフト用の調整項目その2。精細感調整はノイズの影響が少ないこともあり、やや持ち上げている。逆に精細感調整(中域)は持ち上げすぎない方が見通しが良かった
BDソフト用の調整項目その3。ノイズ除去関連はすべて「切」としている。ノイズリダクションは多用すると精細感にも影響が出るので多用は禁物BDソフト用の調整項目その4。こちらはテレビ用とまったく同じ。標準的な画質調整はディスプレー側で行なっているので、こちらではいじらない

■ テレビには貴重なソースがいっぱい。高画質・高音質で録れば宝物になる

 この作品は実在の人物とその自伝をモデルとしてはいるが、作品の結末を含めてファンタジックな要素が加わっている。海やイルカに魅了されたダイバーというのは、あまり泳ぎが達者でない僕でも憧れる存在だ。海には、子供の頃から不思議と憧れと恐れが同居している(夜の海は特に怖い)。それが本作を見るといつも思い出される。

 「グラン・ブルー」で描かれるリアルなのに幻想的に感じる海というのがその象徴で、それはつまり、生命の生まれた場所であると同時に、人が生きていられない所だからだ。そこに魅了されてしまったジャックの悲劇は本作の重要なテーマだ。海上にいるときは、変人のように見られがちなジャックが、海中ではまさに水を得た魚のようにいきいきとし、競技もそっちのけで海中を見回し、楽しそうにはしゃいでいる。そのおかしさが、ユーモラスではあるが少し哀しい。エリック・セラの音楽も懐かしさや優しさを感じる一方で、どこなく切なさがにじんでおり、決してたどり着くことのない永遠の憧れとでもいうべき存在「海」とそこに関わろうとする「人」をリアルに表現している。

 WOWOWが昨年末から3チャンネルになって、映画枠も大幅に拡大され、BSプレミアムも国内外の貴重な名作のオンエアが多い。このようにテレビ放送でも高品質で映画を楽しめる機会は多い。BDレコーダがあれば、それらを高画質・高音質で保存できるのだから、ありがたいところだ。「グラン・ブルー」のテレビ版もコレクションするには十分な品質だ。

 国内でのBDソフトの発売が思ったよりも少ないのは残念で、BD化されていないが、すでにハイビジョン放送されたものには「アラビアのロレンス完全版」(当時のBS-hiで放送)など、貴重なものも多い。また、画質的な差やCMが入ることで軽視されがちな地上波での映画放送も、最近は「バイオハザード3」で過去作を振り返るシーンを加えた特別編集となっていたり、「AVP」と「AVP2」を映画1本分にまとめた特別編集版がオンエアされたりと、地上波ならではの試みもあって見逃せないところだ。

 映画好きな人ならばBDレコーダを手に入れるのはごく自然なところだろうが、どうせならばもう少し背伸びして、より高画質・高音質にこだわったBDレコーダを選ぶようにすれば、きっとさらに幸せになれると思う。

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(2012年 1月 24日)


= 鳥居一豊 = 1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダーからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。現在は、アパートの6畳間に50型のプラズマテレビと5.1chシステムを構築。仕事を超えて趣味の映画やアニメを鑑賞している。BDレコーダは常時2台稼動しており、週に40~60本程度の番組を録画。映画、アニメともにSF/ファンタジー系が大好物。最近はハイビジョン収録による高精細なドキュメント作品も愛好する。ゲームも大好きで3Dゲームのために3Dテレビを追加購入したほど。

[Reported by 鳥居一豊]