鳥居一豊の「良作×良品

最安プラズマで「SUPER 8」の黒は再現できるか?

-42型で約6万のVIERA廉価機「TH-P42ST3」の実力


 各社から次々に発売される新製品を見るのが好きだ。実際に買うかどうかはともかく、新製品のニュースを目にすると胸が躍る。そんな動機でこの仕事をしているわけだが、実のところ肝心なのはソフトだ。個人的に言えば、「この新製品で『2001年宇宙の旅』を見るとどんな画と音に出会えるのだろう」と連想して胸が躍るのだ。

 そこで、この新連載では、紹介するのはハードだけでなくソフトも一緒に紹介しようと考えた。言わばソフトありきのハード紹介。というわけで、ソフトによって変わる製品選びのポイントや使いこなしを中心に、その魅力を伝えていきたいと思う。


■ 最近増えている「黒」が多い映画は、やはりプラズマで堪能したい

【SUPER 8】
SUPER 8/スーパーエイト ブルーレイ&DVDセット
発売日:2011年12月2日
価格:4,935円
品番:PPCB-120759

 今回取り上げるソフトは、J.J.エイブラムズ監督、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮による「SUPER 8」。趣味の映画製作に没頭する少年たちの青春ドラマであり、撮影中に遭遇した列車事故が、やがて宇宙人を核とした大事件に発展する物語でもある。「2001年宇宙の旅」と同じ年に生まれた僕は、誰かと約束したかのように「未知との遭遇」や「E.T.」、「スターウォーズ」といったSF作品に出会い、傾倒し、今に至っている。そんな僕にとっては見逃すことができない作品だ。

 映画館で、懐かしさを感じながら見て、BDソフトも購入して視聴したが、ストーリーとは別に「暗い映画」だという印象を感じた。全体に夜のシーンが多いし、しかもその暗闇に宇宙人が溶け込んでいて、正体不明の怪物ぶりを強調する演出も多い。「これは液晶テレビいじめのような映像だなぁ」と感じた。

 余談だが、「ハリー・ポッターと死の秘宝PART2」も暗い映画だ。こうした映画がBDソフトでも黒側の階調を持ち上げるような調整をほとんどせず、そのまま発売されるのは、昨今の薄型テレビの暗部階調が進歩していることの証明でもあるだろう。それにしても、かなり暗いと感じるが。


 暗い映画を暗部の階調まできちんと見るならば、単純に言えばテレビの画質調整で「明るさ」をあげてやればいい。こうすることで黒く潰れてしまった暗部を持ち上げ、埋もれがちな情報をきちんと見ることができる。だが、そうすると今度は真っ黒であるはずの黒が明るく浮かび上がってしまう。いわゆる「黒浮き」だ。黒浮きが生じてしまうと、映像の締まりがなくなるし、映画的な質感も失われてしまう。

最安クラスの42型プラズマVIERA「TH-P42ST3」

 黒は黒のまま、それでいて限りなく黒に近いグレーはきちんと再現するには、テレビにおいて重要な画質性能である「コントラスト」が重要になる。この点において言えば、現在の主流である液晶テレビよりも、プラズマテレビの方が優秀だ。

 液晶テレビも、トップエンドの製品となると、LEDバックライトを部分的に点灯制御することでコントラスト感を高める技術が採用され、プラズマに匹敵するコントラスト性能を実現したモデルもあるが、価格は高めになる。

 ところがプラズマテレビならば、安価な価格のモデルでも十分に優秀なコントラスト性能を実現しているから、おすすめしやすい。そんなわけで、今回は、プラズマテレビでも最も安価なパナソニックの「TH-P42ST3」を選んだ。42型で実売はなんと65,000円前後と驚くほど安い。消費電力では液晶に比べてやや劣るものの、映画など黒の重要なソフトを楽しむならば、やはりプラズマが有利だ。



■ 使用するプラズマパネルこそ異なるが、コントラスト性能などは同等のTH-P42ST3

 まずは、TH-P42ST3の概要を紹介しよう。使用するプラズマパネルは、同社の上位モデルとは多少の差があり、パネルの前面にガラスを備えるタイプで外光の影響を少々受けやすい。このため、直射日光が差し込む明るい部屋で使うとコントラスト感が低下してしまいがちだ。大きな差はこれくらいで、3D再生にも対応し、残光の短い蛍光体を使用し、動画応答性も向上されている。

 また、USB HDDやSDメモリーカードへのテレビ録画、充実したネットワーク機能などについてはまったく同等でほとんど見劣りはない。これが6万円ちょっとの値段で手に入るというのはかなりお得だ。

 とはいえ、今回肝心なのは画質だ。実際のところ、画質についてはVT3シリーズなどの上位機と比べればそれなりの差がある。まずは、チェックディスクを使用して出荷時状態の画質をチェックしてみた。まず気になったのは、若干色合いが緑に寄る傾向があること。輪郭のくっきりとしたメリハリの効いた画質ではあるのだが、細部の表現もやや甘めに感じた。

画質モード「シネマ」の調整値。もともと色乗りの良い画質傾向もあり、色の濃さが抑えられている

 そして、画質モードによっては映像が暗すぎる。これは消費電力を削減するためもあるだろう。「スタンダード」は明らかに暗く、元気のない映像になってしまう。逆に「ダイナミック」は明るすぎ、少々ギラついた印象になる。出来が良かったのは「リビング」で、明るい部屋で使うならばこれがいいだろう。「シネマ」は明るい部屋では暗い印象になってしまうが、暗部の階調性も出たしっとりとした画質で、なかなか素性が良い。今回は暗い映画を見ることがテーマなので、室内の環境も照明を落とした暗室に近い環境とし、基本となる画質モードは「シネマ」を選んだ。

 さっそく画質調整を行なってみよう。画質調整は好みに合わせて自由にいじっていいものだが、普段画質調整をしていない人にとっては逆にどう使っていいかわからない。そこで、基本としてチェックディスクで標準的な画質調整を行なうことにする。チェックディスクには明るさや色合いなどを調整するためのテストチャートなどが用意されているので、それらを見ながら画質を調整していく。

 この調整は映画製作やテレビ局などで使われるモニターディスプレイでも行なわれるもの。いわゆる標準的な画質がどんなものかを知る意味でも、一度試してみるといいだろう。ここでは、「シネマ」モードの調整値をベースに「ユーザー」モードで調整を行なった。


画質調整を行った調整値。大きく変わっているのは、色あいを赤寄りにしたことと、シャープネスを絞り気味にしていること画質調整の画面その2。基本的には「シネマ」モードの調整値そのままとしている。ややノイズ感が気になったので、HDオプティマイザーを「弱」にしている

 続いて、もう少し専門的な部分も追い込んでいく。パナソニックの場合は画質調整の最後にある「テクニカル」を「入」にすると、いわゆる詳細設定が行なえるようになる。ここも基本的には「シネマモード」のまま。ガンマ補正が映画に合わせた「2.2」になっているのも同様だ。ここでの調整は主にカラーバランス。色の濃さや色合いの調整では青いフィルムを通して画像を見ながら調整を行なうが、さらに追い込む場合は赤いフィルムを使って赤や黄色のバランスを調整する。詳細調整などでカラーバランスを独立して調整できるテレビでこれが行なえる。

詳細調整にある明度補正。基本色となる6色の明るさを独立して調整できる。これらを調整することで、各色のバランスをさらに細かく揃えられる

 こうした調整を一通り済ませると、明るさやコントラスト、色合いなどが標準的なバランスに整ったことになる。今回は基本的にこの状態で視聴を行なうが、実際にはこれを基準として色乗りや明るさなどを好みに合わせて微調整する。基本的なバランスが揃っているので、好みに合わせていじっても、大きくバランスが崩れてしまうようなことがないのだ。なお、この調整値はBDレコーダ/プレーヤーの画質によっても変化するので、機器を変えたときには再度調整が必要になるので注意しよう。テレビ局などの場合はプレーヤーなどの画質の影響がないようにシグナルジェネレターという専用の機器を使っている。

 調整前は、ややメリハリ重視の映像のように感じたが、基本的には素直な画質で好みに合わせた調整で印象はかなり変わった。やや派手めのテレビ向きの画質にも、忠実志向に振った今回のような映画画質にも対応できるなど、基本的な実力はかなり高い。

いわゆるカラーチャートと呼ばれるテスト信号。青のフィルムを使うと色の濃さ、色合いの調整ができる。さらに赤のフィルムを使って白と黄色、マゼンタと赤の調整を行なう調整後のチャートを青のフィルムを透過して撮影。色の濃さは白と青の部分の明るさが同じに、色合いはシアンとマゼンタの明るさを同じに調整する。テレビによっては完全に同じ明るさにはならないので、あまり神経質になる必要はない同様に赤のフィルムを透過して撮影。白と黄色の部分が同じになるように、赤とマゼンタが同じ明るさになるように調整する。こちらも完全に同じ明るさにならないこともある

■ いよいよ視聴開始! 大迫力の列車事故のシーンの迫力が存分に味わえるか?

 画質調整が済んだら視聴開始だ。調整後の画質で見ていくと、TH-P42ST3の画質傾向がよりはっきりとわかるようになる。例えば、暗部の再現性はなかなか優秀で期待できそうなのだが、若干ざわざわとしたノイズが目立ちやすく感じた。これは少々不満な点だ。シャープネスをかなり絞っているのは輪郭の周りの白い縁取り(オーバーシュート)を抑えたためだが、映像はやや甘くなってしまうので、ここは好みによって増減していいだろう。細部のディテールなどはもともと甘い感じだったが、シャープネスを高めてもディテール感に大きな差はなかった。このあたりは多少物足りないところだ。

 「SUPER 8」は、ソニーのウォークマン1号機が新製品として登場していることから、1979年頃のアメリカを舞台としているようだ。同年3月に起きたスリーマイル島の原子力発電所の事故の続報もニュースで報道されている。とはいえ、映像的には解像感の高い現代的な映像で、いわゆるセピア色の懐かしさを感じさせる色調といった演出はいっさいない。動画も写真もデジタルが当たり前となった現代では、フィルムの退色による劣化などは起きないので、若い人にとってはもはやセピア色の思い出風景的な演出は古臭いだけと感じるのかもしれないなぁと、本筋とはあまり関係のないことを感じたりもした。

 そんな鮮やかな色彩は、比較的忠実感のある再現になっていて、カラーバランスさえ整えれば素性はなかなか良い。調整前はやや青白かった白人の肌も調整後は適正なものとなった。細かい色の変化もしっかりと出ているので、肌の質感もしっかりと再現されるし、解像感の不足もあまり気にならない。映画を見るためのテレビとしての実力は十分だ。

 いよいよチャプター2からの列車事故のシーンだ。深く沈んだ夜空に街灯や照明のためのライトが眩しく輝くコントラストの高い映像の場面だが、さすがにコントラスト感は優秀で、明暗が広さをしっかりと描いた。しかも、案外黒潰れしてしまいがちな暗く沈んだ雲まできちんと見える。これが潰れてしまうと背景の夜空がべったりと単調な黒になってしまい、その場面の広さが感じにくくなってしまう。

 リハーサル中に遠くから列車が近づくのを見て、映画の監督を務めるチャールズが「クオリティーが上がるぞ」と言って、慌てて本番の準備を始めるのだが、実際に列車が駅を通過するまでには案外時間がある。これは、アメリカの平原がどえらく広大であるため、この広さを感じるために、さきほどの夜空の深みや広がりが重要な役割を果たしているのだ。

 このチャールズ少年は主人公以上にお気に入りのキャラクターで、典型的な映画少年ぶりが見ていて愛着がわく。大物監督をきどった言動も可愛らしいし、時折見せる少年らしい表情や最後に見せる頼もしいリーダーらしさも好きだ。

 列車の事故は、迫力たっぷりの映像でまさにパニック映画のようだ。場面としてはかなり暗いなかで、あちこちで爆発炎上が起こるため、脱線して目の前に迫ってくる車両などは黒い塊のような感じだ。ここでも、暗部の再現が苦手だと黒つぶれを起こして映像が単調になってしまうし、逆に明るすぎても列車の巨大さや重量感が損なわれて興ざめだ。

 このシーンの迫力はさすがに見事なもので、目の前で起こった列車事故の迫力を存分に味わえる。42型のサイズも十分な大きさで、見応えがある。こういうシーンを見ると、やはり画面サイズは予算の許す限り大きなサイズを選びたいと思う。


■ 姿の見えない恐怖。町に起こる怪事件の恐怖は伝わるか

 列車の事故から一夜明けると、列車の事故処理のために軍隊がやってくる。それと同時に原因不明の停電や車のエンジンがまとめて盗まれるなどの怪事件が町で続発する。このあたり(チャプター7)で、初見では終盤になってようやく姿を見せたと記憶していた宇宙人がほんのわずかなカットながらも鮮明に写っていることがわかる。例えばガソリンスタンドで保安官が襲われるシーンでは、地面にこぼれたガソリンにその顔がはっきりと映っている。このチラっと見える1カットで恐怖感が一層高まる。暗部が厳しいとこのあたりのシーンはただただ見づらい映像になってしまうので、非常に再現は難しい。

 一方、そんななかでも少年たちは映画製作に没頭していく。主人公であるジョーと、チャールズが抜擢したヒロイン役であるアリスの距離も次第に近くなっていく。個人的に印象に残っているシーンが、チャプター10にあるジョーの家での夜の密会シーン。ジョーに対する後ろめたい気持ちを打ち明けようとするアリスのうるんだ瞳の輝きは、テレビの実力の見せどころだろう。ここが表現できるかどうかで、シーンの印象は大きく変わってしまうはず。

 そして、チャプター11では、アリスが宇宙人にさらわれてしまうが、暗い町中が本当に暗い。それでもきちんとアリスの背後に迫る宇宙人の姿が再現されるかが大事だ。TH-P42ST3が暗いシーンでも見通しが良いと感じるのは、明暗のコントラストだけでなく、暗部でも色が抜けにくいこともある。路面の黒、夜空の黒の微妙な違いが質感だけのモノクロ的に再現されるのではなく、色の違いを残している。この暗色の再現はさすがプラズマと言えるものだ。

 少年たちがアリス奪還のために、避難場所から町へと戻るチャプター14以降は、まさにクライマックスと言える冒険の連続となる。戦車などが勝手に動き始め、まさに混乱した戦場となってしまった町を移動する場面などは演出過剰な気もするが、迫力はたっぷり。暗闇でしかも薄汚れてしまった少年たちの表情もきちんと再現できているから、シーンの緊迫感やひ弱な印象もあったジョーが勇気を振り絞って宇宙人に立ち向かう姿に感動できる。

 そして最後は、宇宙人の乗る宇宙船の発射シーン。「未知との遭遇」などを経験している僕にとっては、もうちょっと壮大で印象的なシーンに仕上げて欲しかった気もするが、そのあたりは、映像的にはリアル志向なJ.J.エイブラムズの趣味かもしれない。ここも真っ暗な夜空に眩しい光を放ちながら宇宙船が飛び去っていくが、案外空には雲や星が浮かんでおり、その存在が空の彼方にある宇宙の広さと深さを感じさせる。このシーンの印象は見終わった後のカタルシスへの影響大。暗闇に宇宙船が映っていただけだと、案外あっさりと帰っちゃったなと尻すぼみに感じてしまうかも。

 このほか、ジョーと見つめ合った宇宙人が最後の最後に二つめのまぶたを開き、くりくりとした瞳を露出させるが、この表情がキュートに感じられるかどうかも大事なポイント。この瞳の艶やハイライト感は表現がなかなか難しい。気持ち悪かったり、恐ろしかったりしても、どことなくキュートな宇宙人というのは「E.T.」以来の伝統でもある。


■ プラズマの魅力は今でも色褪せない! 映画好きなら、積極的に選びたい

 価格的にも少々不安があったものの、TH-P42ST3の画質はなかなかの実力だった。暗部の再現ではノイズ感が目立ってしまったのは少々物足りないし、最新の解像感の高い映像を存分に味わうならばディテール感も欲しくなるが、実売6万円台で手に入る薄型テレビとしては、十分以上と言っていいだろう。

 特に液晶テレビの場合、コントラスト感を高めるために光沢パネルの採用が主流だが、今回のような暗い映画を見ると、暗部で自分が映りこむのが気になる。プラズマも同様の問題はあるが、映り込みに関してはプラズマの方が少ない。しかも、映り込みを嫌い、または暗部の再現を高めるために部屋を暗くすると、液晶では高価なトップエンドモデルを除いてどうしても画面の黒浮きが目立ち始め、映画に没入しにくくなる。この点を考えても映画はプラズマと言いたくなる。

 プラズマユーザーでもある僕としても寂しい限りだが、プラズマの将来については不安が多い。でも、この画質が身近な価格でも手に入ることを考えると、その魅力はまったく色褪せていないと思う。特に僕のような宇宙を舞台にしたSF作品が大好きな人にとって、プラズマの黒は欠かせないもの。「2001年宇宙の旅」の原作小説でボーマン船長が言った台詞「すごい! 星がいっぱいだ」を体感できるかどうかは今でもテレビ画質の評価基準と言っていい。

 自分の好きな特定の映画を存分に楽しむという視点でのソフト&ハードのレビューはいかがだっただろうか。テレビを選ぶポイントは他にもたくさんあるが、大事なポイントはやはり自分の宝物である作品を思う存分に楽しめるかどうか。そこを主眼に置いて、これからも読者諸兄の宝物になりそうな良作をピックアップし、それを存分に楽しめる良品を吟味してレビューしていきたいと思う。

Amazonで購入
SUPER 8
VIERA TH-P42ST3

(2011年 12月 27日)


= 鳥居一豊 = 1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダーからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。現在は、アパートの6畳間に50型のプラズマテレビと5.1chシステムを構築。仕事を超えて趣味の映画やアニメを鑑賞している。BDレコーダは常時2台稼動しており、週に40~60本程度の番組を録画。映画、アニメともにSF/ファンタジー系が大好物。最近はハイビジョン収録による高精細なドキュメント作品も愛好する。ゲームも大好きで3Dゲームのために3Dテレビを追加購入したほど。

[Reported by 鳥居一豊]